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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十五章 迎撃準備
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全力ジゴロウVS人型アルマーデルクス

 ログインしました。現在、私はアルマーデルクス様の下でご厄介になっている。既に古代兵器群は『ノックス』に全て輸送済みであり、今はガッツリと修行をして自己強化に励んでいたのだ。


「シャアアッ!」

「いいねぇ!楽しませてくれるぜ!」


 ただ、今の私は休憩中だ。ずっと動き続けるというのも集中力が保たないからである。適度に休憩を取ることは重要であろう。


 そうして生まれた暇な時間だが、私は他の者たちと共に見逃せない一戦を観戦していた。その対戦カードとは…ジゴロウ対アルマーデルクス様だった。


「そいっ!」

「グッ…そのナリでフザけたパワーだなァ、オイ!」


 もちろん、アルマーデルクス様は全く本気ではない。何と言っても少年の姿に化けたままだからだ。本気の場合、魔王国の総力を挙げても蹂躙されるので当然のことである。


 ただ、化けた状態でも龍神としての武力は健在であるらしい。素手でジゴロウと殴り合っている訳だが、動きのキレは見事なもので一流と言って遜色ない。さらにステータスの面では制限されているようだが、それでもあらゆる面でジゴロウを上回っていた。


「オラァ!」

「おぉっ!?ははっ!当てて来るなぁ!久々に本気で滾ってくるぜ!」


 ステータスの差をジゴロウは技術で埋める。防ぎ、弾き、躱しながら一瞬の好機を逃さずに拳を叩き込む。一発でも貰えば大ダメージを負うジゴロウと、どれだけ殴られても痛撃とは言えないアルマーデルクス様。力の差があるのに戦いの体を成しているのは驚愕に値した。


 それはプレイヤーだけでなく、ここに住む者達にとっても同じことらしい。半龍人(ドラゴニュート)達もいつの間にか集まって観戦している。最強に食らいつくジゴロウの勇姿に感動すら覚えているようだった。


「よっとォ!」

「おぉっ!?」


 誰の目にもジゴロウが凌いでいるように見えていたのだが、ここでジゴロウが思いもよらぬ動きを見せる。アルマーデルクス様の拳を捌いたかと思いきや、手首を掴んで肘を極めつつ地面に叩き付けたのである。


 ジゴロウはこれまで拳と蹴りによる打撃しか行っていなかった。本人も打撃を得意としているのだが、別に投げ技が苦手な訳でもない。この瞬間のために温存していたのだ。


「チッ!」

「本当に凄いぞ。地面に叩き付けられるなんて、生まれてすぐの弱かった頃以来だぞ」


 ただし、アルマーデルクス様の腕力の前では地面に拘束することなど不可能であったらしい。強引に振り解かれ、ジゴロウは地面を何度か転がってから素早く立ち上がった。


 地面に叩き付けられたら流石に怒るかと思ったが、アルマーデルクス様はむしろジゴロウを手放しに称賛していた。妙なプライドなどない御方だし当然か。半龍人(ドラゴニュート)達は啞然としているがね。


「褒美をやらんとなぁ。何が欲しいよ?」

「ヘッ!今はド突き合いに集中しなァ!片手間にボコれるほど、俺ァ弱くねェだろォ?」

「くくっ、確かに。その通りだ。なら、俺からの本気の一撃をもって褒美としよう…死ぬなよ?」

「上等ォ!」


 笑いながらアルマーデルクス様は拳を引いた。死ぬなとアドバイスしているし、即死級の大技を使う気なのは明らかだ。


 しかし、ジゴロウはわかっていて前へ飛び出した。そうすると思っていたぞ。龍神の大技であろうと、挑まれて引くことなどあり得ない。そうだよな、兄弟?


「ぬん!」

「ッ!?」


 ジゴロウが踏み出した瞬間、アルマーデルクス様に異変が起きる。振り被った腕の周囲が揺らいだかと思えば、右腕だけが巨大な(ドラゴン)のそれに変わった…いや、()()()のだ。


 何のことはない。アルマーデルクス様は最初からおっしゃったではないか。本気の一撃をくれてやる、と。本来の腕による全力の通常攻撃。それが褒美の正体だったのだ。


 腕だけでも数メートルはあるだろう。黄金の鱗と爪に眼が行きがちだが、普段から(ドラゴン)を見慣れている私にはわかる。腕の筋肉が桁違いに発達しているのだ。


 同じサイズに置き換えたとしても、カルの腕よりも二周りは太いだろう。カルは肉弾戦を好む歴戦の(ドラゴン)であり、その肉体はかなり筋肉質だ。だが、アルマーデルクス様には及ばない。格闘技で言えばヘビー級とライト級程には差があるように思われた。


 しかもこれはサイズを同じにして、という前書きがある。圧倒的に大きいことを考慮すれば、その一撃は通常攻撃であろうが即死級であることは間違いなかった。


「ふん!」

「ガアアアアアッ!」


 そんな巨腕をアルマーデルクス様は容赦なく振るった。大きい分動きが遅くなるかと思いきや、全くそんなことはない。私であれば何もわからぬままハエのように叩き潰されたことだろう。


 しかしながら、ジゴロウは抗って見せた。無造作に振るわれた、しかし回避困難な上に即死級の一撃。これをジゴロウは全身全霊をもって受け流す。姿勢を低くして両腕を揃えて盾のように待ち構え、激突の瞬間に合わせて身体ごと腕を跳ね上げて軌道を逸らしたのだ。


 見入っていた私は集中していたからか、その動きをハッキリと捉えていた。アルマーデルクス様の一撃を防いだのは称賛に値するだろう。ただし、その代償はあまりにも重い。ジゴロウの右腕は千切れ、左腕もグシャグシャに潰れてしまったのだ。


「シャアアアアアッ!」

「ふははっ!」


 痛みを感じないとは言え、腕を失えばバランスがとりにくくなるのは必然。だが、そんなことは知ったことかと言わんばかりにジゴロウは踏み込んだ。そしてあえて折れた左腕でアルマーデルクス様に殴りかかった。


 横薙ぎに振るった腕を弾かれたことが嬉しかったのか、アルマーデルクス様は顔に喜色を浮かべながら今度は上から下へ腕を振り下ろした。今度こそ潰される。そう誰もが思ったことだろう。


「ほらよォ!」

「おぉっ!?」


 そこでジゴロウはアルマーデルクス様に向かって何かを投げる。顔面に当たる前に左手で払ったのは、千切れたはずのジゴロウの右腕であった。


 どうやら折れた左腕ではなく、自在に動かせる髪で回収していたらしい。そして今の今まで髪の中に隠していたのだ。


「ガアアッ!」

「ごほっ!?」


 自らの腕で一瞬だけ視界を塞いだことで、一秒にも満たない時間だけアルマーデルクス様の動きが止まった。その一瞬に距離を詰めたジゴロウは前蹴りをアルマーデルクス様の喉に叩き込む。兄弟はほんの一瞬だけのチャンスを掴み取ったのだ。


 前蹴りの際、足の爪先を伸ばしていたこともあって足は槍のように突き刺さった。流石のアルマーデルクス様も苦しかったのか、悶絶しながら体勢を崩していた。


「シャアアッ…!?」

「いやぁ、ビビったわ。避けられるかもとは思ってたけどよ、まさか逆に一撃入れられるとは思わなかった」


 流れるようにさらに踏み込んだジゴロウが踵落としをアルマーデルクス様の脳天に振り下ろした…のだが、モロに受けながらも全く痛痒を感じさせない。負傷しているとしてもジゴロウの踵落としだぞ?私なら二回は死にそうだ。


 そんな打撃を受けながらも平然としているアルマーデルクス様は右腕を少年のそれに戻した。どうやらこれで手合わせは終わりということらしい。


「この勝負、お前の勝ちだ。またやろうぜ」

「ヘッ、そんな余裕を見せられながら言われても嫌味にしか聞こえねェよ」


 アルマーデルクス様はこの勝負はジゴロウの勝利だと認めた。だが、ジゴロウは勝利を譲られたようにしか思えないらしい。


 いやいや、倒すのが無理な相手に負けを認めさせるというのは偉業と言っても過言ではないぞ。素直に受け取ればよいものを…強情なヤツめ。


「そうか?でも、俺の負けに変わりはねぇよ。ほれ」

「あァ?称号(タイトル)だァ?勝手なことしやがってよォ…」


 どうやらアルマーデルクス様はジゴロウに称号(タイトル)を贈ったらしい。勝っていないのに強引に報酬を渡されたのが不服なのか、見たことがないほどの渋面になっていた。


 いや、それよりも早く治療しなければ。私は兄弟の隣まで飛行すると、【魂術】を使って治療しようとする。だが、その前にアルマーデルクス様が指をパチンと鳴らした。


 その瞬間、ジゴロウの傷は瞬く間に治っていく。失った腕も断面から生えて元通りになっていた。ジゴロウは驚いてはいるようだが、同時に新たな腕を動かして違和感がないか確かめている。適応早いな?


「そう言うなって。納得出来ねぇってんなら、リベンジは受け付けるぜ?ま、ゴタゴタが終わってからになるがな」

「ふふふ。負けられん理由が一つ増えたな」

「おうよ。次はボッコボコにしてやるぜェ」


 ゴタゴタが終わってからここを訪れるには、魔王国が存続していないと難しい。それがわかっているからこそ、リベンジマッチのためには魔王国を守り抜かなければならない。戦いを見ていた者達の士気は明らかに上がっている。


 アルマーデルクス様の狙いはこの激励だったのかもしれない。私が尋ねる前に彼は全員の新たな対戦相手を作り出す。休憩は終わりということだ。私達は腕を磨くべく戦うのだった。

 次回は4月18日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 流石はジゴロウ、本気には程遠いとはいえ龍神に一撃いれるか。だが称号を渡されたジゴロウは渋面w
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