海賊行為発覚の影響
ログインしました。私達による王国船舶への襲撃は、やはりプレイヤー間で共有される形になっていた。私達が排除した二人の他にもプレイヤーは存在しており、死に戻りした彼らが掲示板に書き込んだのである。
「明らかに出港する船が減った。貴族に限らず、住民って結構プレイヤーの情報もチェックしてるんだよ」
「もう出港してる船には関係ないけど、ここからはプレイヤーの護衛が増えるのは確実だねぇ」
その結果、出港する頻度が目に見えて減少したと証言したのはコンラートである。彼は全ての大陸に拠点となる商館を置いているので、あらゆる大陸の情報が入ってくるのだ。
こちらを目指す船が減るのは残念ではある。戦力を小出しにさせて消耗を強いることが難しくなったのだから。略奪によって得られる物資が減少するだろうし、そうなると海巨人達は臨時収入が減ったと文句を言いそうだ。
既に洋上に浮かぶ船はこれまで通りに攻略出来るだろう。しかし、この状況でも出港する船は海賊の襲撃を返り討ちに出来るだけの自信があるということ。それが実力に裏打ちされているのか、はたまた過信でしかないのかは不明である。しかし、こちらとしても手練れが何人も乗り込んでいると思った方が良さそうだ。
「広まったのがあくまでも海賊の狩り場になっている、という情報だったのは不幸中の幸いか」
「まさかプレイヤーが築いた国家がバックにいるとは誰も思わないさ」
ただし、あくまでもプレイヤーの海賊が狩り場にしていることしかバレてはいない。確かに、海賊行為をした者達に魔物が混ざっていたことは掲示板で報告されている。私は普段とは異なる仮面で顔を隠していたが、タマのように隠しようのない者もいたのだから隠せるものではなかった。
ただし、これについては魔物プレイヤーを仲間に引き込んだだけだと解釈されている。それだけで魔物プレイヤーによるそこそこ大きな組織がバックにいるなどと飛躍した結論に達することはなかったのだ。
つまり、まだ防衛計画は続けられる。敵船の戦力が飛躍的に向上するのだろうが、それだけならこちらも戦力を投入するまでのこと。アルマーデルクス様式ブートキャンプを私はまだ続けているが、これからは海賊行為に出張ることも増えるだろう。
このことは海巨人達にも教えておかなければ思わぬ反撃を受けることになりかねない。教えずに彼らからの信用を失うのは痛すぎる損失だからだ。
きっとプレイヤーが乗っている船を襲撃することになるだろうから、海巨人の存在もじきに知れ渡る。驚愕するだろうな。少なくとも海路からティンブリカ大陸を目指そうとする者が激減するのは間違いない。いや、海路による先行調査そのものを諦めるかもしれないぞ。
「むしろ突破されたらどうすんだい?そりゃ、アタシ達もそう簡単に抜かせるつもりはないけどさ」
「そのための防衛兵器だ。配備は順調に進んでいるぞ」
アンに油断はなく、自身を過大評価もしていない。仮に自分達が突破されてしまったら。その時のことを心配するのは当然のことであろう。
だが、ここで大活躍しているのがアルマーデルクス様からいただいた兵器群である。そのほとんどは陸戦用の兵器だったのだが、中には海で使える兵器も存在していた。
「最優先で配備しているのが魔導ソナーだね。『エビタイ』近辺ならステルス船であっても捉えられるよ」
コンラートの言う魔導ソナーこそ、最優先で配備した兵器だった。以前、私達は犯罪組織が保有していたステルス船を鹵獲して持って帰ったことがある。この魔導ソナーはこのステルス船を見破ることが可能なのだ。
ソナーの性能は折り紙付きで、ルビー達のような斥候職プレイヤーですら欺くことは出来ない。巨大な船であればなおさらだ。仮に『蒼鱗海賊団』と海巨人達が見逃したとしても、このソナーから逃れることは出来ないだろう。
基本的に全ての兵器を共食い整備で間に合わせてもらっているが、本当はソナーに限らず研究区画の者達は完品を分解して調べたかったらしい。今が非常時でなければ許可したことだろう。
だが、戦後のことを考えるほどの余裕があるはずもない。防衛が成功した後、壊れていない兵器があれば自由に分解してもらう。今はとにかく防衛力の強化にのみ注力するのだ。
「こちらの戦力は着実に増している。油断は出来んがな。向こうはどうだ?」
「酷いものだよ。海軍に大打撃を受けたから王国の海上戦力はガタガタ。お陰で王国近海は海賊だらけ。王国との取引は馬鹿みたいにコストがかかるようになって物価も上がってるよ」
「海賊ってのは鼻が利くからね」
風が吹いたら桶屋が儲かるという言葉にもあるように、ティンブリカ大陸の調査のために王国の海上戦力が一気に減少したことが別の方面にも影響を与えている。ダイレクトに影響を受けたのが海上の治安であった。
本来であればティンブリカ大陸に向かい、ざっと調査をしてから帰って来るはずだった。本腰を入れるのなら、開拓拠点を築いてから帰還する予定だったのかもしれない。
その後、ピストン輸送で開拓していくつもりだったのだろう。だが送った船は一隻たりとも帰って来ていない。当然、乗っていた水夫も帰って来ない。高額とは言え船は買えばどうにかなるが、熟練の水夫や海兵は簡単に補充が出来ない。その抜けた穴が海賊の跳梁を許していた。
そして治安の悪化は輸送コストの上昇に繋がる。輸送コストが上昇すれば商品の値段も上げざるを得ない。ただでさえティンブリカ大陸探索のために食糧やポーション類などが高騰していたのだ。王国の物価はさらに上昇しているようだった。
「インフレに関してはプレイヤーも敏感だよ。王国を拠点にしてたプレイヤーがどんどん別の大陸に移動してる。何かしら理由がなければ残ろうって気になれないみたいだね」
物価の高騰はプレイヤーにも影響する。同じ品質の同じアイテムなら、少しでも安く手に入る方を選ぶのは当然のこと。しかも移動しようと思えば簡単に移れるのだから、高価な物件を購入しているのでもなければ誰でも拠点を移すのは道理である。
まあ、それでもティンブリカ大陸開拓関連でプレイヤーを募るのならとんぼ返りするのだとは思う。未知の魔物などを討伐する露払いは割りの良い仕事であるからだ。
つまり、浮遊要塞を用いて侵略して来るのなら大勢のプレイヤーとも戦うことが想定される。戦力がいくらあっても足りないと思うのはこういう事情もあるからだ。
「勧誘はどうなってんだい?そっちについてアタシ達はノータッチなんだけど」
「各自の交友関係から手を付けている。それなりに集まるだろうが、どう足掻いても数的有利を取るのは不可能だ」
私達は少数派であり、いくら顔が広くとも限界がある。それにティンブリカ大陸や魔王国についての詳細を話せる相手も少ないのだ。そこから情報が漏れるリスクを考えれば仕方がないことである。
こちらについては地道に続けるしかない。一発逆転の一手に心当たりがない以上、地道に敵の力を削ぎつつ戦力を蓄えるしかないのだ。
「いずれにせよ、海の上で敵と遭遇することは減るだろう。海巨人までいるとバレたら海路を諦めて、『傲慢』で一気に飛び越える方針に舵を切るかもしれない」
「そうなったらアタシはどうしようもないね。ワンチャンに賭けて船を送る馬鹿がそう多いとは思えないし。精々、海路での補給を断つくらいか」
「戦力を削るっていうのは難しくなっちゃうねぇ」
『傲慢』が動き始める前に海路から来る者たちを迎撃する。この方法が難しくなることが予想されるが、ギリギリまで敵の力を削ぎ落としたい。何か出来ることはないだろうか……。
「失礼します。モツ有るよ様がお見えになっております」
「モッさんが?」
これまで私、コンラート、アンの三人でコンラートの屋敷の一室にて報告会を行っていた。それ自体は誰にも隠していなかったのだが、そこに誰かが乗り込んで来るのは予想外の展開だ。
ただ、モッさんの性格を知っていると突発的な行動に出るというのがとても珍しく感じる。元々締め出すつもりなどなかったので、室内に入ってもらった。
「どうしたんだい?」
「鼻息が荒いじゃないか」
「鼻息も荒くなるようなことがあったのですよ。イザーム、私がどこへ行っていたかはご存知でしょう?」
「ああ。悪魔達の所だったな」
モッさんは進化によって悪魔となり、その本拠地に招かれたこともある。それから時折悪魔専用のクエストをこなしていて、今回はそちらへ戦力を派遣するための交渉に向かっていた。
「期待薄と言っていたはずだが、意外と乗り気だったのか?」
「あ、いえ。そっちはやっぱり無理でした。正確には法外な対価を求められたので取り下げましたよ」
「じゃあ何があったのかな?」
「代わりに悪魔らしい方法を伝授してもらいました。コンラート、私達を王国に送ってくれませんか?」
おいおい、いきなりとんでもないことを言い出したぞ?私達三人は顔を見合わせる。私の表情はわからないかもしれないが、他の二人と同じく私も困惑していた。
「それは良いけど……メチャクチャ目立つよ?」
「ミツヒ子に連絡してみるか。『ノンフィクション』が使っている隠れ家を紹介してもらえれば何とかなるだろう」
「お願いします。必ず成果を挙げてみせますよ」
モッさんはかなり自信があるらしい。ならやりたいようにやってもらうのも良いだろう。私達は彼らが王国へ行くための準備を手伝うのだった。
次回は4月10日に投稿予定です。




