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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十五章 迎撃準備
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助っ人海賊

 ログインしました。今日も今日とてアルマーデルクス様の下で鍛錬に励んで…いなかった。というのも、海路から『ノックス』を狙う王国の船の数が増えつつあり、全く手が足りなくなったからだ。


「意外と快適なんだな」


 現在、私は海中を泳ぐ小型移動拠点の中にいる。ここの元になったのは私が地上にいた例のアレを絶滅させた小島だそうだ。


 だが、その内部は元が小島だとは思えない状態だ。床も壁も木材で内装を整えられていて、まるで普通の地下室のようにも思えた。


 ただし、定期的に部屋全体が軋む音が聞こえるし一種の浮遊感を覚えることもある。何よりも定期的に外へ出る『蒼鱗海賊団』のメンバーが戻ってくると、例外なく海水まみれになっているのでここは間違いなく海中であった。


「海賊するのって始めて!」

「その言葉はどうなんだ?」


 海賊を動詞のように使っているのは『ザ☆動物王国』のタマだった。彼もまた援軍として呼ばれている。マイペースなタマだが、魔王国を見捨てて去るつもりは毛頭ないようだ。


 襲撃のプランはこうだ。まず最初に海賊団が甲板側から襲撃する。上に目が向いている間に船底から突撃して穴を空けて沈めるのだ。


 この方法で既に何隻もの戦艦を沈めているらしい。最も効率良く船を沈められる戦法として確立されているのだ。ちなみに船の回収については一切考慮にいれていない。王国から来る船が多すぎるせいで、海巨人(オケアス)が持ち込む船の共食い整備すら間に合わないペースなのだ。


 なお、私の役割は【付与術】による事前の強化と船底から船内への侵入である。タマ達が船員相手に暴れている間に、私は事前の物資回収を行って終わり次第援護する…という流れだ。


「おっと。王様、そろそろ標的の船の索敵範囲内に入りますぜ」

「そうか。気を付けろよ」

「ウッス!」

「任せてくれよ!」


 標的にしている船に優れた船員がいたと仮定した場合、察知されるギリギリの距離にまで近付いたらしい。海賊達は次々と私達がいる部屋から出ていった。


 隣の部屋は拠点内から外に出るための場所だ。内部に一度注水し、その後に扉を開けて海中へ出る。そして拠点に並んで泳いでいるそれぞれの乗騎と共に突撃していくのだ。


「排水完了っと。王様、タマの兄さん。こっちは少し潜ってから急浮上しますぜ」

「わかった。何か気を付けることはあるか?」

「あ、シートベルトはキッチリ着けといて下せぇ。結構揺れると思うんで」

「わかった」

「え?ちょっ待っ!?」


 座席に座っていた私はシートベルトを装着するだけで良いものの、タマは今の今まで床に寝そべっていた。慌てて座席に座ろうとしたようだが、数秒遅かったらしい。タマは部屋の中を転がり回ることになった。


 団員が言っていた通り、移動拠点は一気に潜航してから今度は急浮上していた。シートベルトを着けていた私であっても切り替わっていく拠点の姿勢に翻弄されているのだ。タマはずっと悲鳴を上げていた。


「ぬぅっ!」

「ギャッ!?」


 そして浮上していた状態から船底に突っ込んだことで強い衝撃が私達を襲う。例のごとくシートベルトに守られていなかったタマは壁に打ち付けられて悶絶していた。


 ただ、このジェットコースターのような体験をするのが目的ではない。むしろ本番はここからなのだ。私は素早くシートベルトを外すと、タマを起こしてから二人で船内に突入した。


「酷い目にあった……」

「ご愁傷様だ。さて、私はアイテムを回収しておく」

「じゃ、こっちは適当に暴れとくよ〜」


 船底は船倉になっていて、ここには船旅に必要な物資などが大量に保存されている。船底に穴を空けるという関係上、放置していては物資も海底に沈むことになる。もったいないので、私達がありがたく使わせてもらおう。


 私は目に付くアイテムを片っ端からインベントリに放り込んでいく。広い船倉の半分ほどを略奪したところで、船倉のすぐ外から凄まじい音が聞こえてきた。反射的に音のした方向を振り向くと、船倉の出入り口の扉を破壊しながらタマが吹き飛ばされているではんしか。


「無事か?」

「余裕!でも気を付けて。プレイヤーがいるよ」


 牙を剥いて唸るタマの視線の先には二人の戦士がいる。片方は円形の盾に片手用の戦鎚を、もう片方は短剣を片手に一本ずつ持っている。エイジと兎路を彷彿とさせるコンビであった。


 ほほう?船主が雇ったプレイヤーがいるのか。船団の数が少ないという情報だったので容易いかと思ったが、護衛にはきちんと金を掛けていたようだ。


 そして現状だが、ハッキリ言って私達の方が不利だった。これが地上であればタマは同格相手だろうが翻弄出来るポテンシャルがある。しかしここは船内という閉所だ。彼の全力を出すのに最も向かない場所なのである。


「船旅してるだけで金が貰えるって話だったのに…」

「コイツら何なんだ?まあ、どっちにしても倒すんだけどな」


 二人のプレイヤーは既に勝ったかのような口ぶりでこちらに向かって歩みを進める。どうやらタマのことを私の従魔か何かだと勘違いしているようだ。


 魔術師と従魔が閉所で戦士二人に勝てる道理はない。そんなことを考えているのだろう。確かに魔術を放つ前に容易く接近出来る間合いなのは事実だ。しかし、やりようはあるぞ?


「十秒だけ稼いでくれ」

「りょ。グルオオオオッ!」


 タマは怒りのこもった咆哮と共に突撃する。狭いこともあって前に出ることしか出来ないので、戦士二人は余裕を持って対処出来ると思っていることだろう。


 ただ、タマは咆哮に籠められた怒りとは裏腹に冷静さを保っていた。彼は突撃すると見せかけて急停止し、折りたたんでいた翼を広げて羽根をマシンガンのように乱射し始めたのだ。


「なっ!?」

「ウゼェんだよ!」


 カウンターで斬るつもりだったらしい二人は予想外の遠距離攻撃に驚いている。だが、それは一瞬のこと。盾持ちの重戦士が盾を前に構えて防ぎ、その陰から双剣使いが飛び出してタマ……ではなく私に飛び掛かった。


 先に防御力に乏しい魔術師を潰す。どんな魔術を使って来るかわからない魔術師の脅威を正しく認識している者の判断だ。対人戦に慣れているようだな。


「ガルルルッ!」

「チッ!視野が広ぇ!」


 ただし、タマも対人戦は得意なのだ。私を襲うことなど想定の範囲内でしかない。彼は羽根の射出を中断すると、その場で回転して爪で斬り裂く武技を使用した。


 タマの方が体格が大きい上に、双剣使いは軽装で防御力は高くは見えない。実際にその通りであったらしく、引っ掻かれることを嫌って双剣使いは素早く後方へ退避する。追い払われつつも攻撃自体は受けていない辺り、やはり手練れであるのは間違いなかった。


「星魔陣起動、死を想え(メメント・モリ)

「何だぁ!?」

「あっ、不死(アンデッド)だと!?」


 そうしている内に私の準備が整った。私は【召喚術】と【降霊術】の呪文を組み合わせたオリジナル魔術を浮遊して船倉の天井に背中を押し付けながら発動する。このオリジナル魔術は大量の不死(アンデッド)を召喚して敵を物量で押し潰すのをコンセプトにしていた。


 ほとんどは私ですら杖で小突くだけで倒せる雑魚でしかない。だが、数の暴力とは凄まじい。しかも中には強い個体や物理攻撃が効きにくい幽霊(ゴースト)系まで混ざっている。戦士二人には荷が重いのではないかな?


 また、私は可能な限り高い位置から魔術を発動している。つまり、不死(アンデッド)の集団は上から降ってくるのだ。なるべく広範囲に広がるようにしていて、落下した不死(アンデッド)達が二人を完全に包囲するように一工夫していた。


 二人はそれなりに善戦したと言える。迫る不死(アンデッド)達を次々と斬り伏せ、叩き潰していたのだから。ただ、包囲されたことと幽霊(ゴースト)という相性が悪い相手がいたのが致命的だったらしい。二人は物量によって予定通り押し潰された。


 対策のアイテムも持っていたようだが、タマが使う暇を与えるはずもない。押し潰された二人が態勢を立て直す前に急所に噛み付いたタマによって二人は討ち取られる。閉所という利点を活かした私達の勝利であった。


「お疲れ〜い」

「ああ。ただ、来る時が来たな」


 勝ったことは普通に嬉しい。だが、ついに護衛としてプレイヤーが来るようになったのは想定内とは言え厄介であった。彼らは死後、別の場所でリスポーンする。その時に拡散するだろう。海賊に襲撃された、と。


 これまでティンブリカ大陸に接近する王国の船は全て例外なく沈めて来た。それ故に情報を持ち帰らせることはなかった。全員が漏れなく討ち取っているのだから当然である。


 だが、プレイヤーによって海賊の襲撃にあったという情報が伝わってしまった。これで襲撃は警戒され、船に乗る戦力が増すだろう。いや、そもそも船を小出しに派遣すること自体がなくなる可能性もある。浮遊要塞と共に船団が押し寄せる、というように。


「この分だと上にもプレイヤーがいるかもしれんな」

「そうだねぇ。ま、ちゃっちゃと沈めちゃおうよ。そうすれば海賊達も離脱が楽になるでしょ?」


 タマの言うことはもっともである。私は適当な魔術を乱射して船倉を穴だらけにして浸水を一気に加速させる。それを確認した後、移動拠点に戻ってから残っていた海賊に離脱を指示するのだった。

 次回は4月6日投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 死を想えメメント・モリ カッコいいw [一言] 助っ人海賊…なんか新しいな。 遂にプレイヤーが来たかぁ。本命が来る前に防衛準備万端にしときたいところ。
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