助力を請いに
新章が始まります。
ログインしました。私達は早速、魔王国防衛のために動き出した。国内の軍備増強はアイリス達生産職に任せている。大まかな方針に関しては話し合って決めたのだ。ならば後は専門家に任せる方が良い。口出ししても良い結果にならないのは目に見えているからだ。
では、私達が何をしているのか?それは外交である。魔王国の使者としてこれまでの経験で繋がりが出来た勢力に接触し、来るリヒテスブルク王国による侵攻に対して何らかの協力を求めようと試みているのだ。
「お久しぶりでございます、アルマーデルクス様」
「久しぶりって言うにゃ早い再会だろ。元気なようで何よりだ…って不死だから死んでたか!アッハッハ!」
多方面に協力を要請する中で、私が向かったのはヴェトゥス浮遊島の『龍の聖域』だ。そして今、謁見しているのは全ての龍の始祖である龍神、アルマーデルクス様だった。
相変わらず美少年のような姿になっているが、その本性は女神を除けば世界最強の生命体だ。同時にシラツキを我々に与え、カルに加護を授けてくれた存在でもある。畏怖と感謝から敬意を払わずにはいられない相手であった。
ちなみに細君である『闇と快楽の女神』マリア様はここに居られない。どうやら常に聖域にいるという訳ではなさそうだ。
「魔王にまで至ったんだな。王の風格も出てきたんじゃないか?」
「アルマーデルクス様の覇気には遠く及びません」
「そりゃ当たり前だ。世辞にもなりゃしねぇよ」
…とか言いつつアルマーデルクス様は若干嬉しそうにしている。褒められて嫌な気分になる人はそういない。しかも私はお世辞のつもりはなく、本心で言っているのだから嘘臭くないのも大きいだろう。
いや、身体の大きさなんて関係ない。アバターで対面しているだけなのに強い圧を感じるのだ。取引先の社長やら会長やらを相手にするよりも強い。やはり強者である龍の頂点に立ち続けていた風格は別格なのだ。
「あの坊やも立派になったじゃねぇか。今は高位龍ってとこか?他の同格の連中よりもデケェし、力も強そうだ。ゴリゴリに鍛えてんな」
「ご慧眼恐れ入ります」
「もう片方もいい感じに育ってる。ありゃ強くなるぜ」
『龍の聖域』を訪れるにあたって、当然ながら私はカルとリンを連れて来た。今頃は聖域でのんびりとしているのだろうが、そんな二頭をアルマーデルクス様が褒めて下さった。それが私は我がことのように嬉しかった。
「いい。いいな。次世代が強くなるのは見ていて気持ちが良い。もっと鍛えてやれ。死ぬギリギリまで…なんなら格上と戦わせてでも経験を積ませろ。死んだらそこまでだったってだけだ」
おいおい、無茶をおっしゃる。私達とは違ってカルは死んだらそれきりなんだ。カルとリンが強くなるのは嬉しいが、死なせるようなことをするつもりは毛頭なかった。
しかしながら、私の考えなどお見通しだったらしい。アルマーデルクス様は目を細めて私の顔をじっと見つめる。感じる圧が強くなったこともあり、私は平服するより他になかった。
「勘違いすんなよ。俺達は龍。誇り高き最強の種族だ。強くなるために鍛える?良いことだ。組手で技量を磨く?良いことだ。でもな、生命を賭して挑むことを忘れちゃならねぇ。必ず一度死にそうな目にあわせろ。それが龍の宿命だ」
「…ははっ!」
有無を言わせない、というのはこのことだろう。私は平服したまま言う通りにするより他になかった。やれやれ、言葉だけでこの体たらく…新米魔王と唯一無二の龍神にはこれほど大きな隔たりがあるようだ。
私が従ったからか、アルマーデルクス様から放たれる圧力は一気に緩くなる。自然と私の頭もあがり、最初の時と同じ姿勢にまで戻っていた。
「ガキ共に関しちゃこれでいいだろ。それで、何か用があるんじゃねぇのか?別に用事がなくてもお前らなら大歓迎なんだが」
「迫る危機を乗り越えた暁には、我らの同胞を連れて赴きましょう」
「危機ねぇ…聞かせてみな」
私は古代兵器『傲慢』を人類の王国が手に入れたこと、その起動に成功したこと、そして近い内に私達の国に侵略してくるだろうこと。多少話を盛ったかもしれないが、嘘だけは言っていない。嘘をついて騙そうとしたら、その瞬間に殺されて縁を切られそうだ。
アルマーデルクス様は顎に手を当てて私の話を聞いていた。話し終えた後も黙ったまま真剣な表情で虚空を見つめている。何か思うところがあるようだ。
「最初に言っておく。俺は関与出来ねぇ。フェルの野郎もそう言ったんじゃねぇか?」
「フェル…?ええ。フェルフェニール様も自分に被害が出ない限り、直接的に手を下すことはないと」
「おう。俺達は強過ぎるからこそ、余程のことがねぇと直接的に動くことはねぇ。俺は野郎よりも強いからよ、俺も動くことはねぇんだ。女神共との殺し合いになる。サシならともかく、袋叩きにされると流石に勝ち目がねぇ」
「そうですか…」
駄目で元々というつもりで訪問したのは事実だが、ハッキリと拒絶されてしまった。それにしても一対一なら女神様に勝てるのか…凄すぎるだろ、この龍神様。
もしかしたら、という気持ちがあったからこそ落胆は大きい。肩を落とさないように振る舞うのはとても難しかった。だが、私が落ち込んでいることは隠しきれなかったらしい。アルマーデルクス様はクックッと喉を鳴らして笑っていた。
「そう項垂れることでもねぇぞ。俺は直接的に動くことはねぇって言ったんだ。わかるだろ?」
「もしや間接的に協力してくれると?」
私の問いにアルマーデルクス様は満足げに頷いた。助力が得られないのが大前提だと思っていたからこそ、多少なりとも援助して貰えるとなれば喜びもひとしおであった。
玉座から飛び降りたアルマーデルクス様は私の大腿骨をペシリと叩いてついて来るように促す。私は感謝しつつアルマーデルクス様についていった。
「ここは…倉庫ですか」
私が連れて来られたのはコンテナが詰められた倉庫であった。大型輸送船に積み込まれているようなコンテナが山のように積み上げられている。中身はわからないが、古代の遺産であることは間違いない。これをいくつか分けてくれるということだろうか?
フェルフェニール様からもコンテナを貰ったことがあるが、一つであっても当時の魔王国のプレイヤーに行き渡るだけの武装が手に入った。戦力の大幅な増強が見込めるだろう。戦士の絶対数で劣っている分、質で勝らなければどうにもならない。この援助は非常に助かるのだ。
「察しの通り、ここは兵器庫だ。構わねぇから全部持っていけ」
「ぜ、全部ですか!?」
う、嘘だろう?この山のように積み重なったコンテナを、全て持って帰って良いと?中身が何かはわからないが、兵器庫と言うからには古代の兵器が詰まっているはず。それをこんなに?ほ、本当に良いのか!?
「よろしいのですか…?」
「持ってけ持ってけ!俺はケチじゃねぇんだ。それに俺達はこんなモン使えねぇからな。空いたスペースを有効活用出来るってモンだ」
…冷静に考えればここはアルマーデルクス様を除き、ほとんどが龍の子供と世話をする半龍人だ。アルマーデルクス様は美少年に変化しているが、本気で戦うのなら龍神の本性をさらすことになるのである。
そうなった時、アルマーデルクス様は単騎で全滅させることも容易いだろう。そもそも古代の兵器を使う必要がない以上、ここにおいてこのコンテナ群は無用の長物でしかないのだ。
「流石に一度で運ぶことは出来ません。何度か通うことになると思われますが…」
「好きにしな。空にしてくれた方が助かるぜ」
一応、インベントリに制限はない。だが、持ち帰ったアイテムを仕分けするのには時間がかかる。分割して持ち帰り、そのまま使える武器は配布。大型の兵器であれば設置して…いや、研究区画に譲渡する必要もあるか。魔改造してくれそうだし。
いやあ、門前払いされることも覚悟していたのだが、想像以上の大成果となった。期せずしてこれほどの軍備増強が叶うとは。守りきって勝つだけなら勝算は十分にあると考えていたが、その勝算が一気に大きくなったと思えた。
「ああ、そうだ。ここのモノを持ってくのに二つ条件を付けよう」
「条件ですか」
「一つはガキ共のために土産だ。そっちにいる魔物の肉でも持って来い」
「可能な限りお持ちしましょう」
アルマーデルクス様は口こそ悪いものの、同族のことを慈しむ気持ちはとても大きいらしい。子供達のオヤツを要求してきたのだから。
このくらいならお安い御用である。何ならコンテナに収納されているであろう古代の武具を供与する条件として魔物の肉を提供することにしても良い。きっと大量の肉が集まるはずだ。
「それともう一つ。絶対に勝て。国を守り抜け。いいな?」
「必ずや!」
そしてもう一つの条件は、条件という建前の私へ贈る激励の言葉であった。これほど目をかけてもらっておきながら無様に負けることは許されない。私は感謝と歓喜に震えるのだった。
次回は3月17日に投稿予定です。




