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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十四章 王国の蠢動
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エリとリアの新薬治験

「うひゃ~!メッチャ速いで!」

「安定感ヤバい!やっぱり脚が増えると全然ちゃうわ!」


 しいたけ達が作り出した新薬、シュゾク・カ・エール。これを最初に試したエリとリアは、四脚人(ケンタウロス)に変貌した状態でフィールドを心底楽しげに駆け回っていた。


 二人も言っているが、その速度と安定感は半端ではないらしい。エリは剣と盾を装備する戦士で、リアは弓矢を携えた弓使いなのだが、それぞれが一瞬で軽騎兵と弓騎兵に変貌したのだ。


 四本の脚は機動力の向上だけでなく、二本脚よりも踏ん張りが利く。速度に乗せずとも剣を振るえばその威力は増しているし、駆けながらだと言うのに試し打ちのための標的を正確に射抜いていた。


 やはり獣人(ビーストマン)よりも四脚人(ケンタウロス)の方が戦闘力は抜群に向上するらしい。ただ、一つ問題があるとすれば下半身の装備は専用に拵える必要があることか。必要なアイテムも多くなるし、そもそも作るノウハウを持っているのは魔王国だけだろう。


 なお、二人の装備は住民から借りている。いくらアバターとは言え、下半身の下着を露出させるというのを嫌がったからだ。うら若き乙女が下半身を露出することを許容する方が珍しいので当然だった。


「どうだ?四脚人(ケンタウロス)になった感想は?」

「慣れるまで大変やろうけど、こっちの方が絶対強いで」

「ただ、狭い所やと身動きが取れへんかもしれんな。洞窟内とかやと足手まといになるんちゃうか?」


 ついさっきまで獣人(ビーストマン)だったからこそ、その差が誰よりもよく分かるのだろう。私は大きく頷いた。しいたけも違和感がないことを確かめている。会心の出来だとばかりに胸を張って…そのまま転んでしまった。


 しいたけの醜態はさておき、二人が気に入ってくれたのは間違いない。ただし、これを常飲しようとするとシュゾク・カ・エールを定期的に購入する必要がある。そのためには結構な金額が必要になるのだが…二人に捻出出来るのだろうか?


「この薬、いくらくらいなん?ストックを何本か持っときたいねん」

「せやな。必要な時に使うんがええわ」


 なるほど。常に広いフィールドで戦えるとは限らない。何も考えずにいつも飲むのではなく、状況に応じて切り替えた方が良いのならストックを保有しておく方が良いのだろう。


「なら、効果時間はもっと短くて良いんじゃないか?」

「効果時間を短くするなら薄めるだけでいいから簡単だよ。その方が良いかい?」

「それがええわ」

「薄まるなら安く買えそうや」


 今回ばかりは真面目な雰囲気で尋ねるしいたけに、エリは普通に尋ねられたからかきちんと答えていた。そしてしれっと薬の単価が安上がりになることをリアは喜んでいる。


 ただし、その推測は甘いと言わざるを得ない。研究区画の者達の望みは自由気ままに研究に没頭すること。そのためには資金が必要であり、それを調達するべく値段に妥協はないのだ。


 おそらく短時間に薄めたポーションを売り出す場合、元の濃度の原液に比べて当然ながら値段は安くなる。だが、十倍に薄めたからと言って値段も十分の一にするかと問われれば怪しいところだ。


 まあ、私には直接関係ないことだ。余りにも暴利を貪るようなら諫めるだろうが、研究区画の者達は普段から適正価格から逸脱しない範囲で最大の儲けを得られるようにしているし大丈夫だろう。


「さて、これで実験は終了した訳だが…二人に聞いておきたいことがある」

「何や、改まって?」

「二人のレベルだ。職業(ジョブ)能力(スキル)は聞かないから、それだけは教えてくれ」

「え?32やけど…」


 やはりそうか。地獄で聞いていたが、二人はプレイし始めてからそう時間が経っていないという。ならば私達に及ぶことは決してないと思っていたが、それにしたって…


「…ちょっと低過ぎないかい?そもそも、どうやってここまでたどり着いたのかな?」

「転移トラップで地獄に落とされたらしい。ちなみに、出現したのは地獄の空中だった」

「えぇ?殺意高くね?」

「トラップだしな」

「えーと、ひょっとしてここってヤバい場所なんやろか?」


 私としいたけで成り立つ会話をしていると、どこか嫌な予感を覚えたらしいエリが私に尋ねる。返答を待つ二人に嘘を言う訳にもいかず、私は真実を述べた。


「この大陸の魔物は最低でもレベルが70くらいだ。場所によってはもっと弱い魔物もいるが、大体はもっと強い魔物だらけだと思ってくれて良いぞ」

「な、70やて!?」

「絶対勝たれへんやん!」


 エリとリアは思わず絶叫してしまう。そう、ここは二人にとって超が付くほど高難易度エリアなのだ。二人の実力ではここの雑魚ですら倒すのに四苦八苦することだろう。


 これをどうにかするには地道にレベルを上げるしかない。私達がパーティーを組み、共に魔物を倒して得られる経験値で強引にレベルを上昇させる…いわゆるパワーレベリングと呼ばれる行為を行うのが手っ取り早いだろう。


「でもパワーレベリングは嫌やな」

「せやね。ズルしてるみたやもん」


 だが、二人はパワーレベリングに否定的であるらしい。ふむ、そういう性根であるならば断られることはないだろう。二人のやり取りを眺めていた私は、二人に二つの提案をしてみることにした。


「少し良いか?パワーレベリングは嫌と言ったことだし、二人に合った強さの魔物ばかりが現れる場所を紹介しよう」

「どこなん?」

「大陸から沖に出た場所にある小島などだな。連れて行ってくれる者も紹介出来るぞ」


 一つ目の提案は彼女達にちょうど良い狩り場を提供することだ。洋上に浮かぶ小島には弱い魔物しかいない場所も多い。そしてそんな島を生きる海中拠点として『蒼鱗海賊団』は利用しようとしている。二人に魔物の駆除を任せれば『蒼鱗海賊団』は楽を出来るし、二人は経験値が得られるのだ。


 お互いに利がある話なのだが、アンにはくれぐれも普通の島を紹介するように頼んでおく必要がある。私が性能試験を行った時のように、例のアレが小島の地表を埋め尽くしているような場所など二人が卒倒してしまうだろうからな。


「それ、ええやん!助かるわ!」

「そしてもう一つ助言がある。二人共、道場に通ってみる気はないか?」

「道場?まさか、変なカルトとちゃうやろな?」

「そんなはずがないだろう。戦闘技能を磨く道場だ。道場主の腕前は保証するぞ」


 二つ目の提案とは戦闘技能を磨くために道場へ向かうことだった。源十郎は誰にでも門戸を開いており、戦闘における立ち回りや能力(スキル)を最大限に活かす戦術、逆に能力(スキル)に頼り過ぎない戦術などを日々磨いている。


 そこでならきっと得られるモノがあるはずだ。間違っても妙な団体へ被害者を斡旋している訳ではないのだ、と二人に説明した。


「はぇ〜、熱心やなぁ」

「行って損はないと思うで、お姉ちゃん」

「ああ。別に対人戦をガチでやるつもりがないとしても、参考になる指摘をいくつも貰えると思うぞ」


 私も別に対人戦に重きを置いていないが、それでも参考になることはいくつもあった。きっと二人得るモノが必ずあるはずだ。


 幸いにも二人は乗り気になっている。これで技術面での成長も見込めるだろう。ここまでお膳立てしたのだ。ここでもう一度念押ししておこうか。


「しつこく感じるかも知れないが、ここのことは絶対に言いふらさないでくれ。古代兵器の噂は聞いているだろう?」

「ああ、有名やもんな」

「その兵器を起動させたのは魔物嫌いをこじらせたリヒテスブルク王国だ。もしここの情報が漏れたら…どうなるか予想は付くだろう?」


 エリとリアは最悪の状況を想像したのか、顔色を青くして何度も頷いている。自分が漏らした情報のせいで、つい先程可愛がっていた四脚人(ケンタウロス)の子供達まで戦火に巻き込まれる可能性に思い至ったようだ。


 これだけ言って漏らすようなら、私の目が節穴だっただけだろう。ともあれ、こうして地獄で出会った二人を心から歓迎する準備が整ったのである。

 次回は3月5日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 四本足になっても多少慣れが必要なだけで大丈夫なのか。 レベル30台で最低レベル70のエリアとか地獄かな?w >アンにはくれぐれも普通の島を紹介するように頼んでおく必要がある。 まぁ、Gの…
[一言] せっかく地獄から来たんだから トラ獣人に変身して。 「地獄から甦る、タイガーマスクの白い牙♪」 とかやりたい。
[一言] そういや人類プレイヤー側には未だ過去の歴史やその元凶が光の女神や王国の祖先だって知れてない? まあ知ってたら今回の古代兵器関連でもっと否定的な意見が席捲するから辿りついてないっぽいか。
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