登山開始!
私達は全員がログインした所で、早速出発する事にした。そう、本来の目的である山登りのためである。
進化した私の姿を見て源十郎とルビーは軽く引いていたが、やはりアイリスだけは誉めてくれた。ありがとう!
「骨の龍様方、あの家はもう貴殿方のものです。何時でも使ってくだされ」
「ありがとう。是非、また寄らせて貰うよ」
と言うか、ここがリスポーン地点なので死んだらここに戻るんだがな。それを言うのは野暮ってもんさ。
「ではな」
「また来ます!」
「じゃあな!」
「またね!」
「達者での」
蜥蜴人の激励の声を背に受けながら、我々は冒険に出発した。
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戦闘に勝利しました。
フィールドボス、大毒蛙を撃破しました。
報酬と3SPが贈られます。
次回からフィールドボスと戦闘するかを任意で選択出来ます。
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いや、もう蛙はお腹一杯だから。それに、ボスのレベルも22と我々の誰よりも低い。全く相手にならなかった。能力のレベルが上がらなかったボス戦って、初めてじゃないのか?
ただ、報酬であるボスの素材は有用だった。何せ、ボスが使っていた毒があったからな。【錬金術】で弄れば強力な毒になるだろう。
道中もたまに蛙人を見掛けたが、我々を見た瞬間に血相を変えて逃げ出した。あれだけの同族を殺した上に、王子まで手に掛けた訳だしな。あの反応も頷ける。
ジゴロウなんかは「仇を討つってガッツがある奴ァいねェのかよ」と言って残念そうにしていた。向かってくるなら嬉々として迎撃するだろうし、逃げたのは賢明な判断だったと思うよ?
とにもかくにも、これで湖のエリアも終わりだ。ボスエリアから山へと続く獣道を我々は登り始めた。
「イザーム、ここにはどんな魔物が出るの?」
山登りの開始して早々に、ルビーが聞いてくる。敵が何なのかを知っていれば心の準備も出来るだろうからな。それは気になるわな。しかし、私は生憎とその答えを持ち合わせていなかった。
「すまんが、情報は無い。攻略組は攻略版へ積極的に書き込んでいるが、それは攻略が終った後らしいからな」
全部オープンにしていては、折角自分たちで一から情報を集めたりしたのに、ボスの初回攻略等を他人に奪われることになりかねんからな。隠して当然だろう。
「それに、今は第二陣がやって来る直前だ。攻略組もファースで勧誘の準備を初めているらしい。こんな来るのも帰るのも面倒な所には誰も来ないさ」
「ふーん…そっか。あ!第二陣と言えば、ボクの部活の友達がくるんだ!悪い子じゃないから、仲間に入れて欲しいんだよね。いいかな?」
ほう、ルビーのリアフレか。それは歓迎したいな。しかし…
「種族は魔物系にするって言ってたよ!」
我々のパーティー名は『夜行』。魔物系以外は名前の雰囲気に合わないのだ。逆に言えば、それさえ満たしていて仲間が人格を保証するなら問題は無いな。
「ならば問題ないだろう。なぁ?」
「おぅ」
「新しい仲間ですね!」
「ふむ、あの元気な娘さんじゃな?良い娘じゃぞ」
源十郎は孫の友人を知っているのか。彼も太鼓判を押すなら、問題は本当に無いな。
「それで、その友達は何の種族にしたいんだ?」
「それは…っ!敵!上から!」
おっと、雑談は切り上げるか。私はルビーの警告に従って上を見上げる。そこにはこちらへと猛スピードで飛び掛かってくる一羽の大きな鳥がいた!【鑑定】だ!
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種族:空襲鷲 Lv21
職業:なし
能力:【爪】
【嘴】
【突撃】
【筋力強化】
【敏捷強化】
【飛行】
【捕獲】
【奇襲】
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「キィィィィ!」
うおおっ、デカイのに速いぞ!?敵は空襲鷲か。一見すると、保有する能力の種類は少ないので弱く見える。しかし、油断は出来ない。これは空からの【奇襲】に特化した結果の、最適化された能力構成なのだろう。
私達は最初の急降下による【突撃】をなんとか躱したが、奴はすぐに空へと舞い上がって再度【突撃】を仕掛けてくる。
「アイリス!源十郎!」
「はいっ!」
「うむ…カァッ!」
「キキッ!?」
だが、我々相手にそれは悪手だ。こっちには触手による【捕獲】を持つアイリスと、実は幼虫時代と同じく口から糸を吐ける源十郎がいるのだから。【奇襲】が失敗した時点で諦めるべきだったな。
「とうっ!」
触手で左の翼を、糸で右の翼を拘束されてそのまま落ちてきた空襲鷲をルビーが斬り裂く。体力そのものは余り高くないのか、そのまま死体となった。
「出番が無かったぜ…」
「私もな。何、次は私達で相手をすればいいさ」
私は落ち込むジゴロウにそう言って慰める。っと、ルビーがまたしても警戒態勢に入っている。早速、次が来たようだ。敵はさっきと同じ空襲鷲だな。
「私が拘束するから、止めは任せる」
「任せろ!」
「よし。さて、では試運転と行くか」
私は左の腰に吊り下げた新しいブックホルダーの結び目を解き、収まっている本、即ち『暗黒の書』に左手で触れる。すると『暗黒の書』は私の左側、その胸の高さ辺りに浮かんだ。おおー、いい演出だ!
「双魔陣遠隔起動、暗黒糸!」
「ギッ!?」
空中に浮かび上がった二つの魔法陣から一本ずつ暗黒糸が伸び、空襲鷲を拘束する。上手く糸が絡まったらしく、空襲鷲は羽を撒き散らしながら落ちてきた。
「おらよ!」
それに対し、ジゴロウはなんとサッカーボールキックを食らわせた!しかも私の暗黒糸が千切れる力でだ!え、えげつなさすぎないか!?
ジゴロウに蹴られた空襲鷲は錐揉み回転しながらその辺の木にぶつかった。どう考えても死んでいるのだが、私の予想では木にぶつかる前には死んでいたように思う。怖っ!
「イザーム、こんなんが剥ぎ取れたよ」
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空襲鷲の羽 品質:可 レア度:C
空襲鷲の羽。
装飾品や矢羽に使われる。
空襲鷲の爪 品質:良 レア度:R
空襲鷲の爪。鋭く、急降下の衝撃に耐える固さを持つ。
装飾品や矢尻に使われる。
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羽と爪か。似たような組み合わせが洞窟の蝙蝠でもあったよな?飛行するタイプの魔物は羽をほぼ確実に落とす、と考えてもいいのかね?いや、結論を下すには早計か。
「矢の材料か…。これもアイリスの能力上げに使うだけで死蔵品になりそうだな」
「弓を使う人、居ませんもんね」
矢の作成は【木工】と【細工】のレベル上げに最適らしく、アイリスは誰も使わないのに矢を沢山作って保存している。これも同じ運命を辿るのだろう。
「あ、待って!」
ここで待ったを掛けたのはルビーだった。え?まさか、自分が弓を使うとか言い出すのか?
「さっきの友達だけど、弓を使いたいんだって。だから、空襲鷲を見付けたら狩って行きたいんだ!」
ほほう?ルビーの友人は弓兵志望なのか。
「そう言えば聞きそびれたが、その友人は何という種族にするつもりなんだ?」
「ええっと、鳥人だよ!」
鳥人…確かシルエットは翼のある人間だが、頭部と手足が鳥のそれであり、更に全身を羽毛が隙間なく埋めている種族だった筈だ。公式ホームページのプレイヤーが成れる種族一覧には目を通しているから知っているぞ。
それにしても、鳥人で弓兵とはガチ構成な気がするな。鳥人なんだから飛べるだろうし、空中から敵を鴨撃ちにすることも出来るだろう。
「VRSが大好きでプロレベルな子だから、きっと強いよ!」
「そ、そうなのか」
VRS…没入型VRが発表される前はFPSと呼ばれていたジャンルだ。没入型VRでシューティングをすると、必然的に一人称視点になるから呼び名が変わったんだったか。
その人気は今でも世界的に根強く、現在ではメジャーとなったeスポーツ界隈でも屈指のプレイ人口を誇っている。プロチームも沢山あって、その稼ぎは映画スターも真っ青なほどと聞く。
それのプロレベルな女の子が空中から弓を撃ちまくるようになるのか…。敵からすれば悪夢だな。
「今の私達からすれば大した敵ではないのは確かだ。そういう事なら構わないが、索敵はしっかり頼むぞ?」
「任せてよ!」
では、狩り尽くす勢いで行くか。【奇襲】さえされなければ怖い相手ではないしな。だからこそ、確実な索敵を行おう。今からは私も【虚無魔術】の魔力探知を小まめに使うとするか。
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種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【杖】レベルが上昇しました。
【杖】の武技、集魔陣を修得しました。
【鎌術】レベルが上昇しました。
【鎌術】の武技、大斬撃を修得しました。
【知力強化】レベルが上昇しました。
【精神強化】レベルが上昇しました。
【体力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魔力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【神聖魔術】レベルが上昇しました。
【暗黒魔術】レベルが上昇しました。
【時空魔術】レベルが上昇しました。
【虚無魔術】レベルが上昇しました。
【魔法陣】レベルが上昇しました。
【呪術】レベルが上昇しました。
【邪術】レベルが上昇しました。
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うん、ここは鳥の領域みたいだ。空襲鷲以外の敵も全て鳥だったからな。こんな奴等だ。
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種族:森梟 Lv20~23
職業:なし
能力:【爪】
【嘴】
【睡眠】
【筋力強化】
【敏捷強化】
【飛行】
【暗視】
【隠密】
【奇襲】
種族:鉄啄木鳥 Lv22~25
職業:なし
能力:【嘴】
【掘削】
【刺突】
【筋力強化】
【敏捷強化】
【飛行】
【奇襲】
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両方とも空襲鷲とは別の意味でかなり厄介だった。森梟は【隠密】のせいでルビーでも発見が難しかった。一度は発見出来ず、私が【奇襲】で体力の半分を持っていかれたこともあったぞ。
その時は初の死亡を覚悟したね。まあ、アイリスとジゴロウの素早い援護に救われたんだが。
鉄啄木鳥は嘴が鉄の様に硬く、攻撃力がかなり高かった。擦っただけで源十郎の外骨格が砕かれたからな。
空からの奇襲に隠密付きの奇襲、さらに防御が困難を極める攻撃での奇襲。奇襲のオンパレードだ。おかげでルビーは【気配察知】のレベルが凄まじく上がったらしい。良い経験にはなった…のか?
因みに色々試した結果、鳥系の魔物に最も効果的なのは【呪術】だと判明した。敏捷低下の呪いを掛ければ速度が維持出来ずに墜落するし、鈍化で感覚を鈍らせれば飛べなくなってこちらも墜ちる。楽でいいや。
次点で【邪術】だ。即死すればもっと楽だし、そうでなくとも幻を掛ければふらつくからな。
そしてこの二種の鳥からはそれぞれの羽はいつも通りだが、それとは別に面白い物がドロップした。こんな物だ。
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森梟の眼球 品質:可 レア度:R
眠りの力を持った森梟の眼球。
然るべき方法で加工すれば、睡眠に関する装備が作成出来るだろう。
鉄啄木鳥の嘴 品質:良 レア度:R
鋼鉄並みの強度を持った鉄啄木鳥の嘴。
優れた刺突武器の素材として知られる。
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矢に使う物ではないアイテムだな。『森梟の眼球』は【錬金術】なら敵を眠らせるアイテムを作れるし、アクセサリーにすれば睡眠耐性のアイテムになるみたいだ。
『鉄啄木鳥の嘴』は槍の穂先か刺突に特化した短剣にするのが良いだろう。因みに、源十郎がイベントで余ったSPを使って【槍術】を取得したらしいので、この内の一つは槍になる予定だ。
私のレベルが上がるまで狩ったので、素材が山のように溜まったな。それと同時に我々の消耗も激しい。目算で八合目まで登ったが、一度休憩をとるべきだろう。
アイリスが作ってくれたテントを使う良い機会だ。今回も交代しつつ休憩するとしよう。




