表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十四章 王国の蠢動
608/688

地獄での出会い

 ログインしました。浮遊戦艦の対価であるが、案の定金属が足りていなかった。『コントラ商会』に立て替えてもらう他に方法はなかったものの、無事に納品することが出来た。


「だからこそ、今日は採掘に出かけている訳だが」


 同じ量の金属を集めて返済するつもりだったのだが、ここでコンラートから一つの提案があった。それは地獄の鉱石を集めてくれれば、少なめの量でも高額で買い取るというモノだ。


 どうやらコロンブスが言っていた地獄産の素材を独占している連中が関わってくるらしい。連中が流通量を絞っているお陰で『コントラ商会』が割高で販売しても飛ぶように売れるのだとか。


 ヘイトを独占している連中に向かわせつつ、ボロ儲けをすることが目的であるらしい。こうして考えると半端な武力を持つ者よりも商人の方がよほど恐ろしいと思わされるな。


「こっちよ〜」

「二人が地獄を駆け回ってくれていて助かった」

「こっちも広いし、何より刺激的だからね」


 そんなこんなで私は邯那と羅雅亜の二人と共に地獄を訪れていた。この二人に同行を願った理由はウチのクランで最も地獄に詳しいからだ。


 何でも地獄の過酷な環境を駆けることにハマっているらしいのだ。駆け回っている時に採掘ポイントをいくつも見つけていて、そこまで案内してもらうのである。


「やはり強いな、二人は…前よりも随分腕を上げたんじゃないか?」

「まあね。でも、ここまで軽々と獄獣(ゴクジュウ)を蹴散らせるのはイザーム君のお陰だよ」


 確かに私は戦闘を補助すべく【付与術】で強化したり、魔術で援護したりと何もしていない訳ではない。だが、邯那と羅雅亜の無双っぷりを見ていると私の助けなど不要では、と思えてしまうのだ。


 そもそも二人だけでここを駆け回っているのだから、この辺りの獄獣(ゴクジュウ)など相手にならないはず。まあ、お世辞は受け取っておこうか。


「それで、採掘ポイントは?」

「ああ、そうだった。あの辺だよ」


 羅雅亜が角で指し示した先には何の変哲もない赤茶けた岩がある。地獄の大地と同じ色だが、確かに採掘ポイントとなっていた。


 私は早速、採掘ポイントから鉱石を採取する。これが法外な値段で取引されていると言うのだから、集めれば集めるだけコンラートはボロ儲け出来るということ。そのお陰で私達も負債を手っ取り早く返せるのだから、世の中は何がどう繋がるかわからないものだ。


「風が〜吹いたら〜桶屋が〜儲かる〜っと」

「ウフフ。何、その歌?」

「いやいや、イザーム君の言う通りさ。地獄の素材を独占している者達がいて、そのプレイヤーが値を釣り上げているからこそ同じく地獄の素材を得られる僕たちが稼げるのだからね」


 下手な歌と共に採掘ポイントが使えなくなるまで掘り進め、獄獣(ゴクジュウ)を蹴散らしながら別の採掘ポイントへ向かってまた掘る。私達はひたすらこの作業に没頭した。


「そう言えば地獄の素材を牛耳るプレイヤーに地獄で遭遇したことはないのか?」

「魔王国のプレイヤーにしか会ったことはないよ」

「多分、とっても離れた場所にいるんだと思うの。地獄は地上と同じくらい広そうなんだもの」


 ふと気になったので二人に質問したのだが、二人の答えは想像通りだった。地獄は広いが、同時に『暴食』のような肉の樹海を始めとした危険地帯も多い。どうやら連中はその向こう側にいるようだ。


 私達もいつか危険地帯を踏破しようと思ってはいるものの、それ以外のことで手一杯なのが現実だ。手をこまねいている間に突破してくる者もいるかもしれないが、そこはあまり心配していなかった。


 何故なら、私達ですらフェルフェニール様が通る穴以外に地獄から地上に上がる抜け道を知らないからだ。見ず知らずの、それに人類プレイヤーをフェルフェニール様が地上に上げるとは思えない。仮にここに来たとしても、魔王国に行くことはほぼ不可能なの…ん?


「おい、あれを見ろ!」

「え?何かしら?」

「…人じゃないか!」


 そんなことを考えながら採掘を続けていると、私は視界の端で何かが動いたことに気が付いた。そちらに視線を向けると、何故か二つの人影が上空から落ちているではないか!


 落下速度が落ちているので、どうやら落下対策のアイテムを持っているらしい。高所などを探索する際の必需品…らしい。浮かべる私には関係ないので、私は持っていないのである。


「やっぱりそうなるよな」


 良かった、あれなら無事だ…などと思えるほど地獄は容易い環境ではない。地獄の空は鳥系の獄獣(ゴクジュウ)の縄張りだからだ。


 フェルフェニール様のように誰の目にも格の違いが明らかな相手ならともかく、ただの人型では獲物としか映らない。ゆっくりと降下していた二人はあっという間に獄獣(ゴクジュウ)に包囲されてしまった。


 何をどうすればあんな場所に行くことになるのかは不明だが、このまま放置も出来ない。私達は採掘を中断して救援に向かうことにした。


「あちゃー、本格的に落ち始めたね」

「片方は任せる」

「は~い。じゃあ捕まってね」


 私は低空飛行で、邯那を乗せた羅雅亜は駆け足で二人の真下を目指す。だが、真下に到達する前に二人の落下速度は一気に上昇したではないか。


 おそらく、浮遊させていた何かの効力が切れたのだろう。二つの人影は重力に引っ張られる形で自由落下を開始した。あのまま地面に激突すればどうなるかは、火を見るより明らかだ。


 私の速度では間に合わない。そう直感した私は即座に羅雅亜の手綱を握り、羅雅亜に全力を出してもらう。空をも駆ける羅雅亜は一瞬で加速し、落ち行く者達の下に滑り込んだ。


「よいしょ」

「グッ…ギリギリ届いたか」


 邯那が一人を、そして私がもう一人を捕まえる。筋力のステータスが高い邯那はともかく、私は力自慢とは対極に位置する者だ。伸ばした尻尾で受け止めることは出来たが、重量的にはギリギリであった。


 救助したのは良いが、鳥系の獄獣(ゴクジュウ)はまだこちらを狙っている。倒せないこともないのだろうが、救助者を抱えながらでは難しい。それは羅雅亜もわかっているようで、全力で駆けて距離を取りつつ地上に着陸した。


「撒いたようだな。さて、それで…」


 羅雅亜の速度についてくることは難しいらしく、私達は獄獣(ゴクジュウ)から無事に逃げ切ることが出来た。逃げ切ったとなれば次に考えるべきは救助者についてであろう。どうしてわざわざ救助者の扱いを考えなければならないのかと問われれば、この二人がプレイヤー…それも人類だったからである。


 獣人(ビーストマン)の女性コンビだった訳だが、見たところレベルはあまり高くなさそうだ。しかし装備は非常に使い込まれていて、まだ強力な武具を揃えられるレベルではないが実践経験は豊富なのかもしれないな。


「あわわ…」

「どっ、どうする?お姉ちゃん…」


 そんな二人は高所から落下したことで腰が抜けてしまったらしい。アバターであったとしても、落下することに恐怖せずにはいられないのだ。


 二人は揃って地面に座り込んでおり、私達を見上げながら震えている。まあ、地獄に落ちたかと思いきや眼の前に銀の骸骨マスクを装備した怪しげな魔術師と、角の生えた立派な体躯と鱗を揃えた麒麟、さらに麒麟を駆る見るからに特殊な鎧を来た戦士がいるのだ。恐怖するなという方が無理だろう。


「落ち着け。私達はプレイヤーだ。危害を加えるつもりもない」

「えっ?自分ら、プレイヤーなん?魔王か何かかと思ったわ」

「はぁ〜。助かったなぁ、お姉ちゃん」


 プレイヤーだと教えたことで、二人は落ち着きを取り戻した。真実を言い当てられたので驚きかけたが、ただの冗談だったようでホッとした。それにしてもこのニュアンス…七甲の同郷だろうな。


「災難だったわねぇ」

「全くだよ。アレがいなかったとしても死に戻りだったろうね」

「何があったのか、聞いても良いか?」

「どうする?」

「ええんちゃう?話しても」


 何でも二人は最近になってFSWを始めたらしい。そしてすぐにテラストール大陸へと渡り、獣人(ビーストマン)の国で傭兵として戦争に明け暮れていた。装備が使い込まれていたのも納得である。


 ただ、ここ数日はしつこくナンパしてくる連中に付きまとわれていたらしい。あまりにもしつこいので昨日女神に頼んで厳重注意してもらったのだが、そのせいで逆恨みされてフィールドで追いかけ回されたようだ。何て迷惑な奴だ…


「可愛さ余って憎さ百倍っちゅーヤツやな」

「その表現はちょっと違うんじゃないかな?」

「それで逃げるためにわざと敵軍が仕掛けた転移罠に飛び込んだんや。そうしたら…」

「ここの空中に放り出された、と」


 話の続きを私が引き継ぐと二人は同時に頷いた。地獄、それも空中に繋がる転移罠とは殺意が高すぎる。テラストール大陸は複数の国が戦争に明け暮れていると話には聞いていたが、本当に戦国時代のような状態であるようだ。


「さて、君達には三つの選択肢がある。一つは私達と分かれて外を目指すこと。ざっくり言うとここでオサラバということだな」

「えぇ?自分、冷たない?」

「助けたんやったら最後まで面倒見てぇや」

「あらあら」


 ある意味で最も後腐れがない方法を口にすると、二人は揃って不平を述べる。その息がピッタリなのは姉妹だからだろうか?


「…結構図々しいな、お前達。では二つ目。これを転移の札で帰ること。無論、代金はいただくが安く提供出来るぞ」

「彼は自分で作れるからね」

「へぇ。便利やなぁ」

「でも、戻ってもなぁ…」


 そうだな。戻れば安全な街に戻れるかもしれないが、同時にナンパしてくる連中のいる場所に戻るだけ。それこそ今まさに死に戻りしてくるのを待っている可能性もある。二人にとっては最も嫌な選択肢かもしれない。


「そして三つ目の選択肢だ。私達と共に行くこと。これなら確実に安全で、ナンパをしていた者達からも離れた場所に行ける」

「最高やん!」

「待つんや、お姉ちゃん。そんな美味しい話が転がってる訳ないで」

「その通り。私達についてくるのなら、これから行く場所について他言しないことが条件になる。よく考えて決断することだ」


 姉妹は顔を見合わせて小声で何かを話し合っている。一分ほどしっかりと話し合った二人が出した結論は…

 次回は2月26日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] FSW?久しぶり過ぎてゲーム名忘れちゃった そういえば獣人も人類種扱いか、魔物化したら新しい種族がまた発見出来るな
[良い点] ヘイトは独占している連中に向かわせて、恨まれずにボロ儲け出来るのはおいしいな。まぁ、独占連中が悪いって事でw [一言] >「えっ?自分ら、プレイヤーなん?魔王か何かかと思ったわ」 正解! …
[一言] 女神からの厳重注意を受けたのに逆恨みして付きまとい? そいつらBAN対象では?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ