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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十四章 王国の蠢動
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やって来た浮遊戦艦

 フェルフェニール様から聞いた『傲慢』に関する情報はすぐに魔王国のプレイヤー達に共有している。皆が知っていた方が良い情報は共有しておくに越したことはないのだから。


「これか…」


 そして今、私は『マキシマ重工』の工場にいた。その目的は雲上国より届けられたという浮遊戦艦を見ることである。こちらに運ばれたとメッセージに書かれていたので寄り道せずにここまで来たのである。


「うーん、シラツキよりも結構小さいね」

「いやいや、十分デカいっすよ」


 引き続きルビーとシオの二人も私に同行していた。理由はもちろん、浮遊戦艦が気になっていたからだ。特にシオは自分と肩を並べて戦うことになる兵器である。気になるのも無理はなかった。


 雲上国から届いた浮遊戦艦は、ルビーが言うようにシラツキよりも小さい。激しい戦闘を経験していたのか、外装は傷跡だらけ。一部は大きな穴が空いていてバチバチと漏電していた。


 天巨人(タイタス)が見つけたということもあり、この見た目でも浮かぶことは可能らしい。漏電していることからも動力が生きているのは確実であった。


「おう!来たか!」

「ああ。一目見たくてな。そっちは早速中身の調査か?」

「あたぼうよ!」


 浮遊戦艦を見上げていると、その中からマキシマが現れた。どうやらログインしている『マキシマ重工』のメンバー全員が新たな浮遊戦艦を調査しているようだった。


 そして浮遊戦艦に注目しているのは『マキシマ重工』だけではない。大勢の鉱人(メタリカ)も周囲を駆け回っている。鉱人(メタリカ)は大人でも小さく、振る舞いも子供っぽいところがあるので大興奮しているということのようだ。


「何かわかったか?まあ、まだ届いてから一時間も経ってないのに聞くのは…」

「聞いてくれよ、イザーム!こいつぁ凄ぇんだ!」


 わからないことだらけだ、と思ったのだが実はそうでもないらしい。マキシマは最優先で浮遊戦艦の動力を調査したらしく、その構造はまだ解明出来ていない。だが、動力がどういう原理で動いているのかはもう理解したようだ。


 どうやら動力は巨大な魔石を核とした魔道具で、起動すると膨大な電力を発生させつつ自動的に物体の重量を軽量化させるらしい。つまり、この魔道具を再現出来れば重量故に作ったところで動かせなかった兵器が動くようになるのだ。


 重量という概念を完全には無視出来ないようだが、軽量化可能というのは十分なアドバンテージである。マキシマの興奮具合から、きっともう頭の中で作りたくとも重量のせいで断念していたモノを作る計画を立てているに違いない。


 ちなみに、動力の魔道具を解析したのはザビーネ嬢だという。身勝手極まりないお嬢様だが、魔道具に関する才能と知識とノウハウは我々では敵わない域に達しているのも事実のようだ。


「技術的な面で口出しするつもりはない。わからんことだらけだからな。だからこそ、率直に聞く。直せるのか?」

「それなんだがよ、ちっと難しいぜ。あれを見ろ」


 マキシマが指差したのは破損している部分だった。高温で焼かれたのだろうか、その部分はドロドロに溶けた跡が残っている。装甲だけでなく、内部までも大きく溶かされたようだ。


「あんな感じでフレームが歪んでる部分があってよ、装甲だけ張り替えても強度に問題が出るんだ。飛ばすだけでいいならそれで十分なんだが、戦闘になればすぐオシャカになるだろうぜ」

「えぇ?ダメじゃないっすか」


 あの浮遊戦艦は兵器として運用するには致命的な損傷を受けているらしい。それではダメだ。私達は浮かぶだけの鉄の棺桶など求めてはいないのだから。


 露骨に落ち込むシオだったが、マキシマはニヤリと笑う。何か代案があるらしいし、ここは聞くだけ聞いてみるとしようか。


「まあ待て、シオの嬢ちゃん。フレームは使えねぇってだけで中身は無事なんだ。要は中身を別の器に移し替えりゃいいのさ」


 マキシマの代案とは無事な動力部分を取り外し、別の何かに放り込めば良いと言っているのだ。つまり動力部分のコピーを作る前に本来は動かない自作兵器を動かそうと考えているようだ。


 それが戦力になるのならば、魔王国として問題はない。だが、一つだけ必ず満たして欲しい条件があった。それは…


「何に入れるつもりか興味はあるが、前提として航空戦力として使えるモノにしてくれよ?」

「イザームさんの言う通りっすよ」


 この動力を使う兵器は航空戦力に数えられるようにすることである。シオは元々航空戦力の拡充を主張していたし、その意見は『傲慢』の起動という情報によって重要性を増した。せっかく浮かぶ動力なのに、超重量の陸戦兵器を動かすために使うのはもったいないではないか。


 シオも同じことを言いたかったらしく、ウンウンと何度も頷いている。特に彼女は航空戦力が増えると期待してここに来たのだ。陸戦兵器に使われたらたまったものではないだろう。


「心配すんな。俺達は最初から浮かぶ兵器にする予定だ。クックック…やっと俺達の悲願が叶いそうだぜ…アーッハッハッハッハッハ!」


 マキシマは元から航空兵器を作るつもりだったらしい。それはありがたいのだが…彼の両眼がギラギラとしているのが非常に気になる。お前、いや、お前達は何を作ろうとしているんだ?ここは聞いておく必要が…あ、行ってしまったか。


 若干の不安はあれど、マキシマはやる気満々である。きっと強力な兵器を作ってくれるはずだ。まあ余計な機能を付けたがったり、性能よりもロマンを求める節があったりするのが玉に瑕なのだが…何だか急に不安になって来た。後でマキシマ達から兵器の具体的な説明をしてもらうべきだろう。


「私は持って来た天巨人(タイタス)の所に行くが、二人はどうする?」

「自分はもうちょっと残っとくっす」

「じゃ、ボクも一緒に残るよ」


 という訳で私は二人と分かれ、ここまで浮遊戦艦を持って来たのであろう天巨人(タイタス)に礼を言うべく巨人用の施設へ向かう。そこには当然ながら天巨人(タイタス)がいたのだが、同時に海巨人(オケアス)もいたのである。


 片や雲の上から、片や海の底から来た二種類の巨人族。彼らは施設の外で円座を組み、楽しげに談笑していた。全く異なる環境で生活していても、巨人族という大きな括りで言えば同族なのだ。意気投合してもおかしく…ん?


「あれは酒樽か?まさか、ただの談笑じゃなくて飲み会なのかよ…」


 巨人達は全員が酒樽を湯呑みのように手で鷲掴みにしてグビグビと飲んでいる。彼らの足元を見れば空になった酒樽が大量に転がっていた。


 彼らの近くにはコンラートとセバスチャンがいて、酒樽の手配を指揮しているらしい。あの酒は『コントラ商会』が提供しているようだ。


「コンラート、セバスチャン」

「おお、魔王様。ご機嫌麗しゅう存じます」


 私が二人の近くに着地すると、コンラートは恭しい態度で挨拶を返す。きっと巨人達がいるからだと思うのだが…こいつら、完全に出来上がってやがる。こっちに気付いていないじゃないか。


 私に気付くことすらないほど酔っている巨人達だったが、一人、また一人と酔い潰れてその場でイビキをかいて寝始めた。全員がそれなりに酒に強いのだろうが、同時に酒豪と言える人物もいなかったらしい。ほぼ同時に天巨人(タイタス)海巨人(オケアス)は全員が眠ってしまった。


「ふーん。天巨人(タイタス)海巨人(オケアス)にアルコールへの耐性に関して差はないっぽいね。酔い潰れる量もわかったかな」

「そんなことを知って意味があるのか?」

「いや、別に?ただ、巨人達は酒好きで質より量を求めるってことがわかったのは大きいよ。安酒を大量に売れば結構な利益が出そうだし」


 巨人達が軒並み酔い潰れたので普段の口調に戻ったコンラートは、無数に転がった酒樽を眺めながらそんなことを言っている。何事も儲け話に持っていけるモノの見方をしているコンラートは素直に凄いと思った。


「浮遊戦艦を持って来たことの礼を言おうと思ったんだが、酔い潰れていては無理だな」

「ははは。そういうこともあるよね」


 私達がそんな話をしている間に、セバスチャンはテキパキと樽を片付けている。相変わらず仕事が早い。流石はコンラートの執事だ。


天巨人(タイタス)が持って来た浮遊戦艦は見たか?あれに見合う量の金属を用意する必要がある。貯蓄分で足りなかったらお前の所から買い取りたい」

「お得意様価格で用意させてもらうよ」


 浮遊戦艦が届いたということは、対価となる金属を引き渡す必要がある。まさかこんなに早く来ると思っていなかったこともあり、金属の蓄えについて不安があった。


 不足分があればコンラートに用立ててもらわなければならない。お得意様価格と言ってはいるが、量が量なので結構な価格になるだろう。ううむ、しばらくは金策に走ることになるだろう。浮遊戦艦が来たことは嬉しい反面、これからの作業を思えば憂鬱にならざるを得ないのだった。

 次回は2月22日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 動力の魔道具。今回の分は安牌は飛行船、ロマン的には飛行人型兵器(ガンダムみたいなの)かな? [一言] コンラートから金属の仕入れ。という事は王国側の金属の値段が高騰して、財政にダメージ与え…
[一言] とりあえず王国周りから金属採れるだけぶん盗ってこようぜ!修繕開発への打撃にもなって一石二鳥
[一言] きっと空飛ぶ巨大ロボとか作るんだぜw 何故人は航空力学を無視してロボを飛ばそうとするのか……
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