古代兵器の実情
ログインしました。昨日はアンによって度肝を抜かれた。彼女が小島に何をやったのか。それは小型の海中拠点を築いたのである。
あれは『生体武器研究所』との共同研究の成果だったらしい。研究所は陸上だけでなく、海中でも使える生体建造物について研究していた。その建造物を購入することを条件に、『蒼鱗海賊団』は研究に手を貸していたのである。
研究は難航したようだが、大量の海洋生物の素材を必要としながらも何とか形になったらしい。小島サイズの生きた潜水艦のような運用法で既に数隻の船を沈めているようだ。
元々海中から襲撃するのが『蒼鱗海賊団』の流儀であり、やっていることは変わらない。また、回遊島海獣という洋上の拠点は確保してある。あまり変化はないのではないか、と私は訝しんだ。
だが回遊島海獣よりも小回りの利きながらも、それなりの人数を同時に運搬出来るという強みがあるという。こればかりは運用している本人が使えると言っているのだからそれでよいのだ。
使えると確信したからか、アンは研究所に量産するように依頼しているらしい。その素材を確保するために狩りを行いつつ、費用を賄うために船を襲撃する。そんな充実した生活が始まったようだ…襲われる側からすれば悪夢だろうが。
量産の目処は立っているようなので、しばらくすれば洋上における戦いで『蒼鱗海賊団』に勝利するのは極めて難しくなるだろう。彼女らは海上防衛の要であるし、こちらも相応に気を使う必要がある。愛想を尽かされないようにしなくてはな。
日課の水やりを終えたところで今日はどこで何をしようかと考えていると、中庭に上空から勢い良く飛び込んでくる者がいた。それはルビーを肩に乗せたシオであった。
「おいおい、どうした?そんなに慌てて…」
「どうしたじゃないっすよ!古代兵器っす!」
「とにかく、今すぐ掲示板開いて!」
血相を変えて飛び込んで来たからには相応の理由があるとは思っていたが、それが飛び切りに危険であろう古代兵器関連となれば慌てるのも無理はない。私は言われるがままに掲示板を開いた。
どの掲示板でも取り上げているのは一枚の画像である。かなり荒い画像ではあったものの、空に浮かぶ巨大な物体であることだけは一目瞭然であった。
「…起動と制御に成功したのか」
「ただ凄いって盛り上がってるプレイヤーもいるんすけど、大抵は王国がこれを使って何をするのかに注目してるみたいっす」
「これは見過ごせないな。最悪の想定を…ここに来るという可能性まで考慮しなければなるまい」
古代兵器『傲慢』…空を飛ぶ要塞ならば海を越えて一息にここまでたどり着くことも可能かもしれない。そして要塞と言うのだから防衛兵器のみならず多種多様な兵器を搭載している可能性もある。もしそんなオーパーツに襲撃されれば、魔王国は建国間もなく滅びることになるだろう。
せっかく皆で作り上げたこの魔王国を亡国にする訳にはいかない。もしもに備えての軍備増強は以前より行っていたが、より急いで行う必要がありそうだ。ただ…その前に意見を聞いておくのも重要だろう。
「…ということなのです」
『なるほど…この時代の技術も中々のものだね、うん』
私が相談しに向かったのはフェルフェニール様だった。かの龍帝であれば何かしらためになる情報を知っているのではないか。一縷の望みを掛けてリンの背に乗って飛んで来たのだ。
古代兵器のことを教えてくれたルビーとシオも同行している。二人も私と同じく固唾を呑んで顔を舐めながら何かを考えるフェルフェニール様を見守っていた。
『大前提として、だけどね。アレがここまで飛んで来ることは可能だね、うん。壊れていても浮かんで移動するだけならこの星を一周することだって容易いのだからね、うん』
…聞きたくなかったが、『傲慢』はここまで来ることが可能であるらしい。可能だと断言されると思っていたよりも絶望感は強いな。
『ああ。でも心配はいらないね、うん。アレは今の技術じゃ絶対に直せないところがあるんだよ。そこが直っていなければ攻撃能力は大きく減少するね、うん』
「そうなのですか?」
『まあ、魔王国一帯を焼け野原にするくらい訳ないことだけどね、うん』
あの…上げといて落とされると絶望感が半端ないのですが。火力が落ちていると言っても、それは古代兵器基準であって魔王国の防衛力では防ぎきれないことに変わりはないようだ。
『落ち込むのは早いんだね、うん。何故ならアレにはもう艦載機など残っていないからね、うん』
「『傲慢』を守る壁は薄いと思って良いのか…」
「どうしてそんなこと知ってるんすか?」
『壊した張本人から聞いたからだね、うん』
壊した張本人というのはきっとフェルフェニール様の同胞、つまり超高位の龍なのだろう。あえて口にしないのは何故だろうか?きっと明言したくない理由があるのかもしれない。
それはともかく、艦載機がないというのは重要な情報だ。『傲慢』と戦う際、古代兵器の艦載機がいたならば航空戦力をいくら増やしたとしても一方的に蹂躙されていただろう。それがないだけでも儲け物である。
王国にも航空戦力が全くないとは思えないが、その実力は現代の技術でしかないのだから常識の範囲内に収まるはず。『傲慢』そのものの攻撃には注意が必要だろうが、手も足も出ないということにはならないはずだ。
「それにアレが無傷とは思えないね、うん。多分、外装は全て張り替えているんじゃないかな?強度は往時とは比べ物にならないほど低くなっていそうだね、うん」
…ほほう?『傲慢』は思っていたよりも状態が悪かったらしいな。フェルフェニール様の知り合いの攻撃を受けた装甲は、いくら古代の技術で作られたのだとしても無傷であるはずがないようだ。
画像にあった『傲慢』の外装はそれらしく整えられていた。だが、それは現役時代の装甲ではない。現代の技術で用意できる装甲、それも急ピッチで全体を覆えるだけの量を揃えるとなれば…案外、防御力はそれほど高くないのかもしれない。
『傲慢』を守る戦力は我々と大差なく、『傲慢』そのものの防御力は鉄壁からは程遠い。付け入る隙は大いにあるだろう。この情報は共有しなければ。
「大変参考になりました。ありがとうございます」
「聞かれたことに答えるくらいは何でもないよ、うん。ここを作ってくれたし、地獄の間引きも手伝ってくれているのだからね、うん」
フェルフェニール様は私達に非常に好意的なのはありがたかった。この家が大層気に入ってくれているのが最大の要因であろう。
こちらとしてもフェルフェニール様の家を作るという貴重な経験をさせてもらっただけでなく、所有している財宝を譲ってくれたこともあって頼りにしていた。これからもこの関係を保っていきたいところだ。
「ああ、そうだ。半龍人の子供達がフェルフェニール様の像を作ったようで。何分、子供の手ですので決して芸術品と呼ぶことは難しい出来なのですが…」
「問題ないよ。気持ちがこもっている方が大事だね、うんうん」
半龍人達は亡くなったアグナスレリム様を崇拝しながらも、同時にフェルフェニール様のことも信仰している。そんな心がこもったプレゼントを受け取れるとあってフェルフェニール様は上機嫌だ。
子供達が泥と石などを使って一生懸命作った作品はきっとフェルフェニール様を満足させることだろう。運ぶ時は細心の注意を払わなければ。
「改めて言っておくね。小生は君達の争いには積極的に関わることは出来ないないよ、うん。女神様方に禁じられているからね」
「存じております」
仮にフェルフェニール様が積極的に助力してくれるのなら、私達は何も心配する必要はない。だが、あまりにもバランスブレイカー過ぎるフェルフェニール様が争いに介入することは女神様が禁じている。だからこそ王国の動向に目を配っているのだ。
「でも、もしも大きな戦いになったら戦う力がない者達は匿うくらいなら手を貸すよ、うん。無論、ここが襲われたら遠慮はしないけどね、うん」
「それは…何とも心強い。もしそのようなことが起きたなら、その時はよろしくお願いします」
制約があるからこそ、非戦闘員を匿うことがフェルフェニール様に出来る最大の助力なのだろう。龍帝の懐で守って貰えるのなら、それ以上に安全な場所などほとんどない。住民達は安心して戦えるというモノだ。
フェルフェニール様は満足げに顔を舐めながら「もう一眠りするね、うん」と言って家に戻っていった。自分が話せる情報は全て話したということらしい。実際、かなり参考になった。この情報を元に戦略を組み立てる必要があるだろう。
「む、アイリスからメッセージか」
「古代兵器関連?」
「ちょっと待ってくれ…おお!シオに朗報だぞ」
「自分っすか?」
そんな時、アイリスから一通のメッセージが届いた。その内容は私もそうだが、それ以上にシオが喜ぶだろう報告だったのだ。
私に届いたメッセージが何故自分に関連しているのかピンと来ていないのか、シオは首をひねっている。フッフッフ、メッセージの内容を聞けばその理由はすぐにわかるはずだ。
「雲上国からプレゼントだ。まだ動く浮遊戦艦が届いたらしいぞ」
「マジっすか!?」
「これで空の戦力も上がるね!」
不穏な情報に右往左往させられたが、光明は見えたし新たな戦力も加わった。仮に『傲慢』が襲来したとしても返り討ちにしてくれるわ!
次回は2月18日に投稿予定です。




