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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十四章 王国の蠢動
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探検家達の選択

 ケースケ君に同情したところで、私は二人についてどう対応するべきかを考える。二人のことはほとんど知らないが、ここに来てしまった上に帰ることも難しいとなれば…選択肢は一つしかなかった。


「それで、二人はどうする?一応聞いておくが、匿ってもらえる場所はあるのか?」

「何を言うんだい?我らは探検家だ!気の向くままに未知を求めて旅するだけさ!」

「…残念ながらありません。良ければここに置いてくれませんかね?」


 やはりそうなったか。彼らはプレイヤーの別名である風来者を体現したかのような存在だ。どこかに腰を下ろして何かをするようなマネはしないだろう。


 コロンブスは楽観的だが、実際はかなり困っているはずだ。ならばこちらの条件を飲ませることは容易だろう。そもそも法外な条件を吹っ掛けるつもりはないのだから。


「ここに居座って良いかどうかは私に権限はない。決められるのはここの顔役だな」

「そうですか…」

「だが、ここに来たことからもわかるように私はここの顔役に近い立場にある。君達がここに滞在しても良いように説得することは出来るぞ。条件次第では滞在出来るはずだ」


 私は何一つ嘘はついていない。ここ『エビタイ』は実質的にコンラートが統治する港町であり、彼と私は友人だから顔が利く。ただ私が名目上は『エビタイ』と『ノックス』の両方を支配する魔王だということを伏せているだけなのだ。


 ケースケ君はコロンブスに何か言おうとしたが、その前にどこか落ち着かない様子だった彼女が口を開く。彼女が発した言葉は全く持って彼女らしいとしか言いようのない内容であった。


「そんなことよりも!ここには未知のフィールドはあるのかい!?」

「あ、ああ。確認はしていても未踏の領域はあるぞ」

「決まりだ!予定変更!しばらくここを拠点にして探検しよう!」

「コロンブス…」


 人跡未踏のフィールドの有無。私達はティンブリカ大陸において自分達の居住空間を確保するべく開拓はしているが、大陸の端々まで網羅したとは言い難い。それ故に未知のフィールドは無数に存在した。


 そんな場所に興味を持たない訳がない。コロンブスは目を輝かせている。こうなったらケースケ君に止めることは出来ないだろう。雰囲気に流されて未知のフィールドがあると言ってしまった私をケースケ君は睨んでいた。


「そう睨むな、ケースケ君。それにここは居心地は悪くないんだぞ?なあ?」

「え?ああ、そうだな。俺だけじゃなくて、他のプレイヤーも楽しくやってんぜ」


 急に話を振られたセイだったが、当たり前のことのようにそう言った。きっと本気でそう考えてくれているのだろう。ありがたいことだ。


 ケースケ君は少し考えてから、諦めたかのように息を吐いた。コロンブスの翻意を促すのは不可能であり、どんな条件であれ受け入れるしかないと思っているようだ。


「決まりだな。少し待て…よし。相手に連絡を入れた。では、この街の顔役のところまで連れて行く。付いてきてくれ。ああ、そうだ。前提としてここのことは公にしていないから拡散しないように頼む」

「もちろんさ!未知のフィールドを他のプレイヤーに踏ませたくはないからね!ね、ケースケ君?」

「はぁ、わかりましたよ」

「戦士の皆さんも付いてきて下さい。一応、護送という形になるので」

「わかりました」

「お供しましょう」


 扉を開けた私は二人を先導する形で倉庫から出た。ただ、二人の周囲は闇森人(ダークエルフ)半龍人(ドラゴニュート)達に囲まれている。そのせいか周囲の景色が気になっているようだが街の様子を眺めることは出来ないようだった。


 どうにかして隙間から覗き見るようと試みているようだが、その度に闇森人(ダークエルフ)の戦士が視界を遮る位置に立つので上手く見られない。流石のコロンブスも諦めたようだった。


「顔役ってどんな人?」

「会えばわかる」

「ここはティンブリカ大陸ってマップに出てるけど、未知の大陸だよね?いつからいるのさ?」

「さあな。正確な日数は覚えていない」

「じゃあどうやって来たんだい?」

「ノーコメントで」

「この住民達って見たことない種族(レイス)だけど、ここじゃ珍しくないのか?」

「珍しくはないぞ。むしろ通常の人類の方が少ないくらいだ」

「ここの街の名前は?」

「『エビタイ』だ」


 代わりに今度は私に知りたいことを質問する方向にシフトしたらしい。彼女は矢継ぎ早に質問を繰り返していく。私は変なことを口走らないよう、言葉を選ぶのは思った以上に頭を使っていた。


 対照的にケースケ君は静かなものだ。はしゃいでいるコロンブスを温かく見守っているだけである。外部との接触を図ろうとすると思っていたのだが、コロンブスに同意させられたこともあって出来ないようだった。


 こうして二人を連れて行ったのはエビタイにある大きな屋敷である。ここは『コントラ商会』ではなく、コンラート個人の屋敷だった。


 『コントラ商会』の持ち物ではなく、あくまでもコンラート個人が所有する屋敷…の()()だ。『エビタイ』だけでなく、『ノックス』や支店を出している他の大陸の街にも屋敷は用意してあるようだ。


 屋敷の使用人はどこも現地の住民を雇用しているらしい。どうやら住民達の雇用を生むことで、その街に馴染みやすくなるという狙いがあるようだ。給料も良いらしく、コンラートが作り出す雇用は現地の住民に人気であった。


 私達を丁重に出迎えた使用人達は、広い応接間へと連れて行く。そこではソファーの上で紅茶を片手にくつろぐコンラートが待っている。その背後にはセバスチャンが普段通りの直立不動で佇んでいた。


「連れて来たぞ」

「いらっしゃいませ。よくぞおいで下さいました」


 私の姿を見ると同時にコンラートは立ち上がると恭しく頭を垂れる。そして私のために用意したと思われる上座のソファーに座るよう促した。


 護衛の戦士達がいるので配慮したのだろう。私は無粋な突っ込みを入れることなく上座に座った。セイもまたノリノリで私の背後に立っている。セバスチャンのような優雅さはないが、威圧感は比べ物にならない。護衛としての役割は十分に果たしていた。


「どうも!コロンブスと言います!」

「いやいや、いやいやいやいや!『コントラ商会』のコンラート!?超大金持ちの!?どういうこと!?」

「落ち着け、ケースケ君。皆もそう殺気立つ必要はない。私達だけにしてくれるか?」


 挨拶をしただけのコロンブスとは異なり、コンラートを見たケースケ君は素っ頓狂な声を上げて立ち上がった。ただし、そんな声を出せば部屋の中にいる戦士達が黙ってはいない。いつでも武器を抜けるように身構えていた。


 しかし、これでは話が進まない。私は苦笑しながら護衛のためにここまでついてきてくれていた者達を部屋の外で待つように誘導した。


「これでプレイヤーだけになったな。セイも座れ」

「そうするよ。ボディーガードっぽく振る舞えてたか?」

「うんうん。堂に入ってたよ」


 彼らがいなくなったところで、セイはコンラートの隣に座った。私達があまりにも落ち着いていたからか、混乱していたらしいケースケ君も落ち着きを取り戻してイソイソと腰を下ろした。


 これで冷静に話し合えるというものだ。冷静になったからだろうか、ケースケ君は冷静に抱いていた質問を私達にぶつけた。


「あんたら、どういう関係なんです?」

「友人だよ。ねぇ?」

「ああ、そうだな」

「じゃあ、なんでさっきはあんなに丁寧な口調だったんですか」

「そりゃあ住民達の前だったからね。この国における公的な立場だと僕はイザームの覚えが目出度い大商人だし」

「…国?そう言えばイザームさんは何者なんですか。あの住民達が…」

「そう、住民だ!あの住民って何!?見たことないよ!」


 ケースケ君による質問タイムを遮ったのはコロンブスだった。彼女は良くも悪くも空気が読めない、しいたけの同類だろう。ただ、流石のケースケ君も今は自分の質問を優先して欲しいらしい。彼はこめかみを押さえながらコロンブスを落ち着かせた。


「ちょっとだけ待ってて、コロンブス。今大切な話をしているんだ」

「むむ。ケースケ君がそういうのなら待っておくよ」

「…夫婦漫才は終わりか?ならケースケ君の質問から答えるとしよう。私はここ、『アルトスノム魔王国』の王だ。改めてよろしく頼むよ」


 私は聞かれた通り、自分の立場についてありのまま教えてあげた。そんな答えは想定外だったらしく、ケースケ君とコロンブスは口を半開きにしながら目を皿のようにしてこちらを凝視するのだった。

 次回は1月13日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「もちろんさ!未知のフィールドを他のプレイヤーに踏ませたくはないからね!ね、ケースケ君?」 冒険家としては最高の大陸だろうし、ライバル増やしたくないから言葉通り漏洩はしなさそうなのは良かっ…
[一言] 多分、今回のコロンブス達の引き込みでプレイヤーを仲間にするのはお終いだろうなぁ… 『傲慢』経由で誰かが来ちゃうんだろうし…
[一言] ケースケは苦労人してそうですねぇw コロンブスは苦手な感じのキャラだなぁ、しいたけは好きなんですけどw
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