再会の誓い
ログインしました。今日、私達はシラツキを戻すためにも帰還することにしていた。昨日の内にステルギオス王には帰還する旨を告げている。また来るし魔王国にも来てくれて構わないと言ったのだが、王と王妃など何人もの天巨人達が見送りに来てくれた。
「こんな大事にする必要はないのだが…」
「カッカッカ!まあ、そう言うな!友好国の王をひっそりと送り出すなどと、不甲斐ない真似をさせるな友よ!」
…そういうことらしい。私は苦笑しながらステルギオス王と再び握手をする。そして少し言葉を交わしてから手を離した。次にここへ来るのがいつになるかはわからんが、少なくとも彼らが来る時には歓迎するようにしよう。
私は手を振る天巨人達に手を振り返して艦橋に向かう。そこにいるのはアイリスただ一人。そう、帰還するのは私達だけなのである!
「盛大に見送ってくれるようですね」
「ああ、ありがたいことだ。しれっとウロコスキー達が混ざっているのは、何と言うか…モヤッとするがな」
私とアイリス以外の全員が雲上国に残ることになっている。まだまだ探索し足りないのだろう。それだけ雲上国、というより古代雲羊大帝は魅力的な場所なのだ。
一方で私はシラツキを戻さなければならないし、そもそも魔王国からあまり離れるべきではない。帰る義務があるのだ。国王という立場は恩恵もあるが、プレイヤーとしての自由に制限をかけている。贅沢かもしれないが、身軽な彼らが少し羨ましかった。
「そう言えばリュサンドロス王子がいませんね?」
「ああ。ステルギオス王にも尋ねたが誤魔化されてしまった。きっと何かサプライズでも企んでいるのではないかな」
ステルギオス王との別れ際に交わしたのはリュサンドロス君がここにいないことについてであった。ステルギオス王は明らかに目を泳がせて言葉を濁していたので、きっと何かあるのは間違いない。まあ、あまりとんでもないことはして来ないだろう。やり過ぎたらきっと説教が待っていることだろうし。
そういう訳で私達はシラツキに帰還するように命じる。フワリと浮上すると、シラツキはゆっくりと加速しながら雲上国から離れていった。
「よし。この高度とゲイハが余裕を持って追い付ける速度を維持するぞ」
帰還にあたってシラツキは全速力を出すことが出来ない。何故なら空を泳ぎたがるゲイハがいるからだ。私などよりも余程素早く空を泳ぐゲイハだが、流石に浮遊戦艦であるシラツキの全速力には及ばない。遅い方に合わせる必要があるのだ。
ちなみにゲイハはシラツキの上を、カルとリンは左右を飛んでいる。仮に空中で戦闘になったとしても盤石の布陣と言っても差し支えないだろう。
「とおーう!」
「おぉ?そう来たか」
離陸してから少しして、古代雲羊大帝の近くに浮かぶ雲の中から現れた一つの集団がいた。それは雲羊の群れである。その先頭の一匹にはリュサンドロス君が乗っているではないか。
私はシラツキの速度を落とさせ、空中で完全に停止する。ゲイハはその上をゆっくりと旋回し、カルとリンは甲板に着艦したようだ。私は艦橋の艦長席から立ち上がると、出迎えるべく甲板の上に出た。
「どうした、リュサンドロス君。いなかったと思ったらあんな所に隠れていたのか」
「えへへ!ビックリしたでしょ?」
別れ際に私をビックリさせたかったらしい。甲板に顔を寄せたリュサンドロス君は無垢な笑みを浮かべている。全く、このイタズラ小僧め。そんな笑顔だと怒れないじゃないか。
「ああ、ビックリしたよ。でも、それだけのために抜け出したのかい?」
「ううん、違うよ。あのね、留学の話があったじゃない?あの話を進めて欲しいって思ったから、頼みに来たんだ」
…なるほど。留学の話は親子で話し合って決めさせるように私が仲を取り持ったが、結局は留学する方向で話を進めることになったようだ。
この様子だとリュサンドロス君自身が色々と考えた結果として留学を選択したのだろう。彼は迷いのない真っ直ぐな視線を私に向けていた。
「わかった。留学の話は進めるとしよう。是非とも我が国で見聞を広めてくれ。きっと子供達も喜ぶだろう」
「うん!ありがとう!」
リュサンドロス君はほっとした安堵の表情で礼を述べた。断られるとは思っておらずとも、緊張せずにはいられなかったというところか。
「では、君がまた魔王国に来る日を楽しみにしている」
「うん!またね!」
晴れやかな笑みを浮かべるリュサンドロス君と再会を約束した後、再び私は魔王国への帰路に付く。シラツキのレーダーがあるので奇襲される可能性は低いだろう。私は艦長席に腰を降ろし、背もたれによりかかってくつろぐ態勢になった。
ボーッとしながらシラツキの外の景色を眺めていると、時間の流れがとてもゆっくりになったように感じる。こんな時間もたまには良いモノだ。
「えぇっ!?」
「なっ、何だ!?」
呑気にそんなことを考えていると、アイリスが急に大きな声を出していた。事件性すらありそうな声に、私は何事かと思わず身構える。だが、アイリスはすぐに平常心を取り戻したようで、苦笑しながら私に謝った。
苦笑とはいえ、アイリスに笑うだけの余裕があることから我々にとって重大な何かがあったという訳ではなさそうだ。しかしながら、同時にアイリスが叫ぶだけの出来事が起きているのも事実である。私は好奇心から尋ねてみることにした。
「何があったんだ?」
「えっと、今一番閲覧されている掲示板について調べてみたんです。そうしたら…自分の目で見た方が早いと思いますよ」
アイリスが悲鳴を上げるほどの何かとは、掲示板に記載されていた内容のせいだったらしい。彼女がそこまで言うのなら、と私は掲示板を開いてみる。すると、彼女が大声を出すのも頷ける文字が私の目に飛び込んで来たではないか。
「古代兵器、『傲慢』が発見されただと…!見つけたのは…ああ、勇者君か」
それは『傲慢』の名を冠する古代兵器が発見されたというビッグニュースであった。以前、私達が戦ってアグナスレリム様を喪うこととなった『寛容』。それと同等の古代兵器が見付かったというのはとても大きな事件であった。
この古代兵器を見付けた彼らは自分達で運用するつもりはなく、リヒテスブルク王国に封印を依頼したらしい。無欲過ぎないかとも思ったものの、きっと自衛のためだろうと推測した。古代兵器を狙う他のプレイヤーを常時警戒することは不可能であり、それならいっそのこと国に渡した方が良いと判断したのだろう。
「古代兵器と戦った経験から、他の古代兵器を探していたようだな。しかしなぁ…封印するように依頼とは。何と言うか、見通しが甘くないか?」
「絶対に封印なんてしませんよね」
断言するアイリスに私も頷く。自分達よりも遥かに進んだ文明を築いたとされる古代、それも第一文明の兵器。しかも龍王の生命にも届き得る力を持つ兵器となれば、封印するどころか使おうとするのが道理である。
少なくとも魔王という立場で発見したならば、使えるかどうか調べさせるだろう。そして使えるとなれば、嬉々として魔王国の軍事力に加える。それだけの古代兵器には価値があるのだから。
「掲示板も荒れているな。勇者君の判断に対する肯定派、否定派、封印に対する肯定派と否定派…中々にカオスだぞ」
「野次が飛び交う議論の場になってますもんね。古代兵器についての情報は…ありました。けど、これって…」
「どれどれ…ああ、多分アイリスの想像通りだろう。ゲイハと彼の同胞を殺した犯人だ」
掲示板に画像などは投稿されていないものの、発見した時の様子については記されている。どうやら彼らはルクスレシア大陸の洞窟を探索中、大きな空洞を発見したらしい。その空洞の中心で『傲慢』はフワフワと浮かんでいたそうだ。
そのサイズは山のように大きかったともあるし、生前のゲイハの最期の光景を見た私はまず間違いない。そんな化け物兵器が一国の手に渡った…一波乱あるのは間違いない。それも飛び切り大きな波乱が、である。
「古代兵器、それも空を飛ぶ…うわぁ。これはマズいかもしれんぞ」
「何がですか?」
「空を飛ぶ古代兵器なら、当時の地図がインストールされている可能性が高い。データを復旧されれば、ティンブリカ大陸の所在がバレるかもしれないだろう?」
ティンブリカ大陸は私達魔物プレイヤーにとっては大手を振って地上を闊歩出来る数少ない場所であると同時に、人類にとっては未知の秘境である。そんな土地について人類が知ればどうなるか?開拓しようとするに決まっているではないか。
そして開拓するべく意気揚々と向かった先に魔物の国がある。相手はアールルを信仰する国、リヒテスブルク王国だ。確実に私達を排除し、全てを略奪されることになるだろう。
こちらも向こうの街を攻め滅ぼした経験があるので、向こうがこちらを襲撃することに文句を言う筋合いはないのかもしれない。だが、コツコツと積み上げられたモノをむざむざと奪わせるつもりは毛頭なかった。
人類の王国との戦争が起きることを前提として動向を見守りつつ準備を進めるしかない。私は早速思い付いたいくつかの策を実行してもらうべく、関係各位にメッセージを送るのだった。
次回は12月24日に投稿予定です。




