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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十三章 来たれ魔物よ
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雲上国見物

 ログインしました。昨日、ミツヒ子はステルギオス王とリュサンドロス君に様々な質問をぶつけていた。その質問の内容は常識的であり、プライベートな内容に触れることはなかった。


 流石に友好国の王と王子に向かってナメた態度を取ることはないらしい。そんなことをして魔王国と雲上国の関係が悪化した原因になりたくないといったところか。


 無事にインタビューを終えたところでログアウトの時間になったので、私はステルギオス王が用意してくれた家で休むことにした。シラツキのベッドを使っても良かったのだが、せっかく用意してくれたモノを断わるのは申し訳ない。私は用意された家屋に泊まった。


「ええと、メッセージは特になし。外に出てみるか」


 確認しなければならないメッセージはなかったので、私は外に出る。真っ先に行ったのはカルとリン、そしてゲイハの様子を見ることだ。


「グオォゥ…」

「クルルゥ…」

「メェ~」

「メェェ〜」

「ハッハッハ、人気者じゃないか」


 広場で伏せていたカルとリンだが、二頭の周囲には取り囲むように十匹を超える雲羊(クラウドシープ)達が横になっていた。どうやら警戒する必要がない相手だと思われているらしい。すっかり仲間のような扱いになっていた。


 雲羊(クラウドシープ)の羊毛に包まれて夢見心地らしく、二頭の反応はとても薄い。無理に起こすつもりもないので、私はそのまま眠らせておくことにした。


「フォォォォン」

「メェェ」

「メェ~メェ~」


 一方でゲイハは空中を雲羊(クラウドシープ)と共にゆっくりと泳いでいる。復活させてからずっと感じていたが、ゲイハは本当に飛ぶことが大好きらしい。害はないようなのでこのまま放置しておこうか。


「おっ、魔王陛下じゃあござんせんか」

「やあ、ウロコスキー。一人とは珍しいな」


 三頭の様子も確認出来た。ちょうどその時、私と同じく一人でいるウロコスキー話しかけられた。まだ彼のクランメンバーが揃っていないのだろう。それ以外に彼がわざわざ一人でいる理由が思い付かなかった。


「他の連中よりもちょいと早く来すぎちまいまして。ぶらっと散歩でもしようかと思った次第でござんすよ」

「やっぱりか。ああ、そうだ。なら少し私に付き合わないか?」


 やはりまだクランメンバーが揃っていないらしい。暇潰しをしたいようなので彼を誘ってみる。するとウロコスキーは興味があるのか、舌をチロチロと出し入れしながら私に顔を寄せた。


「どこに行かれるんで?」

「鍛冶師のところだ。半壊した浮遊艦があるし、雲上国の鍛冶場に興味があってな」


 この後、私が向かおうと思っていたのは雲上国の鍛冶場である。アイリスからのメッセージがなかったので詳細はわからないが、浮遊艦のことは聞いているので是非ともこの目で見ておきたかったのだ。


 私の誘いにウロコスキーは乗ることにしたらしい。私と彼は雲上国で唯一の鍛冶場へと足を向ける。場所については詳しく知らないが、迷うことは決してない。何故なら…


「すごい音でござんすねぇ」


 そう、鍛冶場からは凄まじい音が聞こえてくるからだ。天巨人(タイタス)による鍛冶仕事は自然と巨人サイズの武具を作成することになる。それはとてもダイナミックな作業なのだ。


 天巨人(タイタス)天巨人(タイタス)サイズの鎚を振るって金属を加工する。その時に出る音は地上の鍛冶場とは比較にならない。細かい作業もあるのだろうが、まだ離れているのに私達の耳が破壊されそうな金属音が聞こえていた。


「たのもーう!」

「その挨拶はどうなんだ?」

「あぁ!?誰だい!?」


 まるで道場破りであるかのような言葉を口走りながら鍛冶場に入るウロコスキーにツッコミを入れていると、鍛冶場の音に負けない怒鳴り声が返ってくる。そして床をズシンズシンと揺らしながら現れたのは、大きな鎚を肩に担いだ高齢の女性だった。


 彼女が雷鳴のような大声の主だったらしい。彼女は怪訝そうな顔で周囲を見渡した後、不思議そうに首を捻っている。ああ、私達に気付いていないのか。気付いてもらうべく、私は浮遊しながら声を掛けることにした。


「失礼する。私達はこちらだ、御婦人」

「んあ?あぁ、誰かと思えば魔王様かい!」

「アポイントもなくいきなり訪れたことは謝罪する。邪魔をするつもりはないので見学させてもらえないだろうか?」


 私に気付いて目を見開く鍛冶師の女性に謝罪しつつ、見学する許可をもらいたいと頼む。すると鍛冶師の女性はそんなことかい、と笑いながら好きに見ていけと言ってくれた。


「うひゃー、デカい炉でござんすね」

「全てが巨人サイズだから圧倒されるな…ん?」


 鍛冶場に入って真っ先に目に入ったのは、巨大にも程がある炉であった。今も他の鍛冶師がこの炉に金属を入れたり、取り出して叩いたりしているのだが、この炉が当然のごとく雑居ビル並に大きいのだ。


 轟々と燃え盛る炎はまるで小さな火山のようで迫力があるのだが、私が気になったのは一人の天巨人(タイタス)が炉の中に放り込んだ何かであった。それを入れた瞬間に炎の勢いが強くなったので、おそらくは燃料か何かなのだろう。


 これが木炭や石炭のようなリアルにも存在する燃料だったり、魔石の粉だったりしたなら気になることはなかった。投入された燃料らしき物体は、何とクリーム色のねっとりとした液体だったのである。


「今入れたのは何だ?」

「あれかい?あれは巨大(ギガント)壁蝨(チック)の体液さね。これが良く燃えるんだ。鍛冶仕事には必須さ…大羊様を苦しめる害虫から取れるってのは腹が立つことだがねぇ」


 どうやらあれは巨大(ギガント)壁蝨(チック)から得られる素材であるらしい。駆除した害虫にも利用方法をちゃんと見出しているようだ。可燃性の体液…これは研究区画の連中に良い土産となるだろう。


 巨大な炉と熱された金属に向き合う天巨人(タイタス)達を見学した後は、ある意味で最も気になっていた浮遊艦を探す。目的のモノは炉のすぐ裏に鎮座していたのだが、想定していたよりもずっと状態は悪かった。


「これは…何と言うか…」

「使える部分なんて残ってるんでござんすかね?」


 おそらく、これが浮遊艦なのだろう。ただ、事前に浮遊艦だと知らなければ謎の金属の塊にしか見えない。浮遊艦だったとわかる名残は長細いシルエットだけだった。


 アイリスが私に連絡を寄越さなかった理由がわかった気がする。きっと彼女は引き取らないことにしたのだろう。現に今も数人の天巨人(タイタス)が工具を使って使えそうな部品を引っこ抜いている。とてもではないが修復して利用することは出来そうになかった。


「何事も上手く行くわけじゃあござんせんね」

「全くだ。さて、見たいものは見れた。これからどうしようか…」


 期待外れではあったものの、気になっていた件が片付いて心の()()()が取れたような気もする。しかし、これでもうやることがまたなくなってしまった。どうしたものだろうか。


「なら、ウチの連中と一緒に害虫駆除に行きやすかい?お供しやすぜ、魔王様」

「いいのか?なら、ありがたく同行させてもらおうか」


 今日の予定について考えているとウロコスキーが誘ってくれた。こちらとしても手持ち無沙汰だったので、ありがたく同行させてもらうことにした。カルとリンを起こして探索するのも考えたが、あの寝顔を見てしまうと緊急事態でもないのに叩き起こすのは気が引けていたのである。


 こうしてウロコスキーと共に行動しようとしたのだが、突如としてそれも叶わなくなった。何故なら『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』のメンバーから次々とログイン出来ないという連絡が届いたのだ。


 リアルで急用が入ったり体調が優れなかったりと理由は異なるのだが、とにかく私とウロコスキーの二人となってしまった。うぬぬ、こんなことになるとは…


「あれぇ?魔王さん?」

「お困りのようですねぇ」


 二人で頭を抱えているところに声を掛けてきたのは『YOUKAI』のユキとキュウリだった。こちらも二人だけで移動しているようだった。


「お仲間はどうしたんで?」

「えっと、それがぁ…」

「所用で我々はログインが遅れましてねぇ。皆は先に行ってしまったのですよ」


 どうやら私達とは異なり、ログインに遅れたせいで取り残されたらしい。これは…丁度よいのでは?同じことをウロコスキーも思い付いたらしく、私達は目配せして頷きあった。


「それなら私達と行かないか?」

「頭数が足りないモン同士、仲良くしようじゃありやせんか」

「それは良いですねぇ。構いませんか、ユキ?」

「は、はいぃ!」


 キュウリとユキは快諾してくれる。こうして雲上国に訪れた三つのクランのリーダー揃い踏みな臨時パーティーが結成されるのだった。

 次回は12月12日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] せめてなんか悔しいから、シラツキとは違う超古代文明の合金とか参考になるサンプルくらいは取れなかったんだろうか [一言] 可燃性の液体…ファンタジー世界で焼夷弾で敵国を焼き払うのは浪漫
[一言] 浮遊艦は既に残骸状態だったか、残念。
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