化鯨王
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種族:化鯨王 Lv80
職業:大怨霊 Lv0
能力:【体力超強化】
【防御力超強化】
【知力超強化】
【精神超強化】
【体力回復速度上昇】
【魔力回復速度上昇】
【呪術】
【邪術】
【眷属霊召喚】
【眷属霊強化】
【指揮】
【浮遊】
【鯨王威】
【霊体】
【不運丿運ビ手】
【大怨霊丿祟リ】
【骨吸収】
【限定的物理無効】
【魔術耐性】
【光属性脆弱】
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歓喜の咆哮を上げ続けている頭蓋骨を【鑑定】した結果がこれである。私の頭蓋骨と混ざっただけでとんでもないことになった。魔物作成に使える素材どころか、魔物になってしまったのだから。
しばらく咆哮し続けた後、化鯨王は口を閉じる。そして頭を垂れるようにして頭を下げた。おお、どうやら私の言うことを聞いてくれるようだ。
「私はイザーム。私に従ってくれるか?」
『ブオオォォン』
「肯定している…んだよな?なら、お前に名前を与えよう。そうだな…」
優しげな鳴き声を肯定だと受け取った私は、眼の前の化鯨王に名前を与えることにした。『怨念蠢く太古の骨』という特別なアイテムと私の頭蓋骨を用いた、まず間違いなく世界に一体しか存在しない魔物。これに相応しい名前とは何だろうか?
そんなことを考えていると、クランメンバーや他クランのプレイヤーからメッセージが大量に届いた。あまりにも数が多かったので何か問題が起きたのかと思って慌てて内容を確認したのだが、その全てが今の鳴き声について知っていることはあるかという問い合わせであった。
中には私の仕業だと決め付けている者もいて、変なことをするのなら事前に説明しておけと苦情を入れてきた者もいる。いや、異変があったら私が原因だと決め付けて糾弾するのは流石にどうかと思う…のだが、実際にそうなので文句を言うことは出来なかった。
「それにしても、今の声が『ノックス』と『エビタイ』にも届いていたとは。鯨に声…ふむ、せっかくなら良い意味の名前が良い。決めたぞ。お前の名はゲイハだ」
『ブオォォ?』
「勝利した時に上げる声のことを鬨の声というが、別の漢字では鯨の波と書く。お前の声は大きく、どこまでも響き渡る。我々に勝利をもたらす鯨波の声を届けて欲しい。そんな願いを込めた名だ。どうだ?」
『ブオオオオオォォォォン!!!』
化鯨王のゲイハは再び歓喜の咆哮を上げる。すると、眼窩に浮かんでいた青白い火の玉が強く輝き始めた。
さらにゲイハの頭蓋骨はひとりでに浮遊し始めると同時に、頭蓋骨全体を半透明の何かが覆っていく。その半透明の何かは頭蓋骨よりも下へ伸びていき、半透明の鯨の身体を象ったではないか。
きっとあれがゲイハが【霊体】という能力で具現化した往時の身体なのだろう。翼のように大きな鰭を優雅に動かしながら空中を泳ぐその姿は優雅であり、私はしばし見惚れてしまった。
「うんうん、名前は気に入ったようだね。この際、ゲイハ君の力を試してみてはどうかな?」
「そうします」
「では、地獄へ送ってあげよう」
「グオッ!?グオオン!」
満足げなフェルフェニール様はゲイハの力を見て来るようにと促してくる。私もそれは良いと思ったので即座に頷いたのだが、その途端にカルは私に顔を擦り付けて来た。
理由はわかっているのですぐにモンスターキューブを取り出すと、カルは逃げ込むようにしてその中へと入っていく。どうやら身体をさらした状態で地獄に行くのは絶対に嫌なようだ。
「ゲイハ、今だけは頭蓋骨だけに戻ってくれるか?」
『ブォォ?オオォォン』
「準備は整ったようだね、うん。それでは、いこうか」
私は空を泳ぎ続けているゲイハに元の状態に戻るように指示する。私の指示にはきちんと従うらしく、ゲイハは元の頭蓋骨へと戻ってくれた。
準備は出来たと判断したフェルフェニール様は私とゲイハを舌で包み込むと、地獄へ運んでくれる。この舌に包まれるのは何度目かわからないが、毎回緊張してしまうのは私だけではないはずだ。
というか、ゲイハの頭蓋骨はフェルフェニール様の頭部と同じくらいの大きさだったはずなのだが…当たり前のように口に含んでいる。フェルフェニール様を外から見たらパンパンの風船めいた状態になっているのだろうか?少しだけ気になるところであった。
「到着したよ」
「ありがとうございます」
『ブオォ?』
幸いにもカルとは違ってゲイハは舌に包まれたことを気にしていない様子である。それよりも短い時間で周辺の景色が一変したことに困惑しているようだった。
頭蓋骨をカタカタと揺らすゲイハを尻目に、私はカルの入ったモンスターキューブを取り出す。その中から飛び出したカルは伸びをするように翼と首を反らしていた。
「さて、ゲイハよ。ここならお前の力を存分に発揮出来るはずだ。ただ、私の味方がいる可能性もあるから私が指定した相手を攻撃して見せて欲しい。わかったか?」
『ブォォ』
恐らくは了承してくれたらしいゲイハは再び半透明の霊体を顕現させる。私はカルの背中に乗ると、ゲイハと共に地獄の空を飛び始めた。
地獄は地底にあるので、高く飛び過ぎると天井にぶつかってしまう。そこで低空飛行をせざるを得ないのだが、ゲイハの巨体は目立ち過ぎたらしい。刺激された凶暴な獄獣の群れが多方向からこちらを目指して集まって来ていた。
「数が多いな。カル、私達も…」
『フォォ…フオォォォン』
あまりにも数が多かったので、ゲイハだけに任せるのは酷だろうと私はカルと共に戦闘に加わろうと杖を構えた。しかしその前にゲイハはこれまでよりも少し高音の鳴き声を発した。
するとどうだろう。ゲイハの霊体の輪郭ががユラリとブレて…そこから小さな霊体の鯨が大量に現れたではないか。霊体の鯨はどんどん増えていき、気が付けば百を超える数にまで膨らんでいた。
小さいと言ってもそれはゲイハ基準なので、一匹がマグロ並みの大きさだ。それらはいくつかの群れに分かれると、迎撃するべく獄獣の群れを目掛けて空中を泳いで行った。
「は?」
「グォ?」
霊体の鯨でどのように戦うのか。私達はそれを楽しみにして様子を窺っていた。霊体の鯨を敵だと判断した獄獣達は、遠距離攻撃手段を持つ個体が牽制を放つ。鯨達は反撃などはせず、愚直に直進し続けたのだ。
霊体ということもあり、物理的な攻撃は身体をすり抜けている。しかし、魔術には流石に絶えられないようで直撃を受けた霊体は消滅していた。
それでも純粋に数が多いので鯨の群れは獄獣の群れと激突……せずにそのまますり抜けてしまった。何と言うか、魔術などを使うと思っていたので戦闘らしい戦闘が一切おこらなかったのだ。
「はぁ!?」
「グォッ!?」
ただ、何の効果もなかった訳ではない。鯨の群れとすれ違った獄獣の群れは急に苦しみ始めたのだ。よく見ると全ての個体が状態異常になっている。霊体の鯨に触れると高確率で状態異常になってしまうようだ。
苦しむ獄獣達に向かって、再び鯨の群れが突撃する。さらなる状態異常を撒き散らすのかと思いきや、鯨の群れは獄獣達の身体にすり抜けずに一体化した。
「グルルル…グオオオッ!」
「ヒギッ…ギィィィィッ!」
おそらく鯨達は獄獣に憑依したらしい。憑依は必ず成功するわけではないのか、霊体の鯨の中には憑依出来なかった個体もいる。だが、すり抜けられた獄獣はいずれもさらなる状態異常にかかっていた。
そして憑依された獄獣は狂乱しながら同士討ちを始める。憑依した鯨によって操られているのだろう。操られている上に狂乱していることもあって、憑依された個体は十全に力を出しきれないらしい。不意打ちこそ成功させたが、明らかに動きが悪かった。
しばらく待っているだけで憑依された個体は全て討ち取られてしまう。だが憑依された個体の方が数が多く、憑依を逃れた個体も最初に状態異常にかかっていたのだ。ダメージを少なめに抑えられた者はおらず、ほぼ瀕死の個体も多数見受けられた。
『ブオオオオオオオオン!』
接近する前から満身創痍となった獄獣の群れに向かってゲイハは直々に突撃する。掌に乗るサイズの骨と私の頭蓋骨が同化しただけなのに彼の頭蓋骨は見た目通りの重さがあるらしく、獄獣の群れはゲイハの突撃でボウリングのピンのように吹き飛ばされた。
突撃を繰り返すことで獄獣の群れはあっという間に全滅してしまう。状態異常を撒き散らしたり、憑依によって同士討ちをさせたりとゲイハは一対多の戦いが得意なようだ。
ただ、本体も中々にタフで突撃して体当たりするだけでも十分に威力がある。これは十分な戦力強化になったのではないか。勝利を喜ぶように鯨波の声を上げるゲイハを見ながら私は仮面の下でニヤリと笑うのだった。
次回は10月25日に投稿予定です。




