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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十三章 来たれ魔物よ
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魔王との謁見

 魔物プレイヤー達が訪れた魔王国の王宮は、意外なことに真っ白であった。城壁や街の建物が黒やそれに近い色ばかりだったこともあり、こちらも黒いと思い込んでいたのだ。


 王宮の城門前には武装したメタリックな質感の骸骨兵が直立していたが、コンラートが一言声を掛けると無言で城門を開けてくれる。彼に続いて城内に入ると、そこは絢爛豪華な装飾によって飾られていた。


 天井には美しいシャンデリアが吊られ、床には柔らかな絨毯が敷き詰められている。雄々しい戦士や美しい女神、凶暴そうな魔物や邪悪そうな骸骨魔術師の彫像なども一定の間隔で並べられていた。


「ここにあるのは彫像こそここの国の作品だけど、他は全て超高級品さ。君達が来るんだから綺麗にしようって提案してね。いやぁ、揃えるのはちょっと苦労したんだよ?」


 コンラートはしみじみとそう語った。この内装にかかる費用は莫大であることを疑う要素はない。それを自分達が来るからとコンラートは準備してくれたらしい。彼にとっても少額ではないらしく、自分達がそれほど歓迎されているのだと理解させられた。


 王宮の廊下を進んだ先には巨大な扉が待っていた。扉の横には城門の前にいたメタリックな骸骨兵士が控えているのだが、その雰囲気は城門前にいた個体よりも強そうである。そんな兵士に守られた重厚で真っ黒、しかし艶のある石材で作られた両開き扉には何かの戦いを抜き出したかのような意匠が彫り込まれていた。


 右側の扉に刻まれているのは無数の魔物と、それらを迎え撃つ魔物達だ。立ち向かっている者達には街で見掛けた謎の人型種族(レイス)が多く、傷だらけになりながらも果敢に立ち向かっていた。


 左側の扉に刻まれているのは巨大な翼を持つ異形と、それに立ち向かう魔物達である。遠近の縮尺が正しいとすればここに来た魔物プレイヤー達が遭遇したこともない大きさであろう。対峙するのは多種多様な魔物達。きっと魔王国に住む魔物プレイヤーが多く参加したのだろう。それほどに種族(レイス)に関しては統一感はなかった。


 そして扉の上部には王冠を被った三眼の骸骨が杖を携えて立っている。魔物プレイヤー達はその骸骨が高みから見守っているというよりも、その両方のレリーフにおける戦いの指揮を執っているのだと感じていた。


「この扉はね、昨日完成したんだよ。凄いだろう?ここの職人が一丸になって、王様のために作ったんだ」

「あれは…」


 美術館で飾られていてもおかしくない出来栄えの扉に魔物プレイヤー達が圧倒される中、ミツヒ子の視点は上部にある骸骨にだけ注がれている。彼女だけはあの骸骨に見覚えがあったからだ。


 ミツヒ子はコンラートを横目で見るが、彼はそれに気付いていないようである。コンラートが兵士達に向かって手を振ると、兵士達はゆっくりと扉を開けていった。


「「「…っ!」」」


 扉の向こうに広がっていたのは謁見の間なのだろう。中央から上座に向かって金糸で縁取られた真紅の絨毯が伸び、その左右には様々な魔物達が控えている。この光景だけでも魔物プレイヤー達は気圧されずにはいられなかった。


 そして冷静になれば、誰もが何らかの装飾品を装備していることに気付く。魔物であっても強力な装飾品を得られる環境がここには揃っているのだ。


 だが、最も目を引くのは最上座であろう。そこには当然ながら玉座が鎮座されている。黒を基調とし、金や宝石で美しく飾られているように見えるかもしれない。だが、良く見れば玉座は絡み合った無数の骸骨という見る人によっては恐ろしさしか感じないデザインだったのだ。


 眼窩に宝石を埋め込まれた、黒い骸骨と金色の骸骨が絡み合った玉座。その左右に伏しているのは二頭の(ドラゴン)だ。片方は力強く凶暴そうな黒い(ドラゴン)で、四枚ある翼を動かしながら大欠伸をしている。もう片方は白銀で細身の優美な(ドラゴン)で、こちらはジッと魔物プレイヤー達を眺めながら長い尻尾をユラユラと揺らしていた。


 そして玉座に座っているのは謁見の間の扉にもいた三眼の骸骨である。その骨は闇を固めたかのような漆黒で、頭蓋骨の上には豪奢な王冠が乗っている。ゆったりとした純白の服の上に光沢のある群青色のマントを羽織り、一本の杖をその手に握っていた。


 さらにその身体からは滲み出るかのような黒いオーラが垂れ流されている。外見もそうだが、このオーラが並々ならぬ迫力を演出していた。


 魔物プレイヤー達が入口に見えない扉があるかのような圧を感じる中、コンラートは一瞬の躊躇もなく謁見の間に足を踏み入れる。魔物プレイヤー達は慌てて彼の後ろに続いた。


「ご苦労だったな、我が友コンラートよ」

「苦労などと。陛下の御為とあらば、何事も苦とは感じません。ご機嫌麗しゅう存じます、魔王陛下」

「うむ」


 玉座にある程度近付いたところで、コンラートは膝を着いて臣下の礼を取る。友人と言っていたが、魔物プレイヤー達の目にはどう見ても家臣でしかない。彼らは慌ててそれぞれの方法で跪いた。


 彼らが跪くと左右にいた魔物達がざわめいた。自分達の対応が間違ったかと彼らが内心で冷や汗をかいていると、玉座の主が手を振ると一瞬で謁見の間は静けさを取り戻した。


「騒ぐな、痴れ者共。さて…良く来たな、風来者の諸君。我がアルトスノム魔王国は君達を歓迎しよう」


 玉座に座る骸骨が迎え入れると宣言した瞬間、左右にいた魔物達は一斉に拍手で迎える。魔王の決断で全てが決まるようだ。彼らの目には眼の前の魔王がこの国に君臨する絶対者として映っていた。


 再び魔王が手を振るうと、拍手はピタリと止む。その後、魔王はゆっくりと立ち上がって杖で軽く床を叩いてコンと音を立てた。


「はい、これまで。これで良かったか、コンラート?」

「ブフフッ!最高だったよ、イザーム!」


 床を叩いた瞬間、謁見の間の空気は一気に弛緩する。魔王の声からは威厳が消えているし、コンラートに至っては笑うことが抑えられないようだ。左右に並んでいた魔物達も「楽しかった」やら「演技が良かった」やら好き勝手に話していた。


 呆然とする魔物プレイヤー達に玉座のある段から降りた魔王が歩み寄って来る。そして彼はどこか満足そうに語りかけた。


「楽しんでもらえたかな?改めて自己紹介をしよう。私はイザーム。『夜行衆(ナイトウォーカー)』というクランのリーダーにして、このアルトスノム魔王国の魔王をやっている君達と同じプレイヤーだ」



◆◇◆◇◆◇



 コンラートプロデュースの『魔王国がNPCの王国ドッキリ』は大成功に終わった。私としてはまだ為人も知らない者達にドッキリを仕掛けるということには抵抗感があったものの、アイリスを初めとした他の者達が面白そうだとノリノリだったこともあって実行されることになったのだ。


 正直に言えば、魔王のロールプレイはとても楽しかった。特に手を振って静かにさせるのはアドリブだったのだが、仲間達が空気を読んで黙った時は感動モノであったよ。私も十分に楽しませてもらった。


 意外にもドッキリを仕掛けられた側のプレイヤーに反発はほぼなかった。緊張はしたものの、誰かが傷付くようなドッキリではなかったことが大きかったらしい。カキアゲなど『ノンフィクション』の記者は一部が騒いだものの、それもリーダーのミツヒ子が黙らせていた。


 ちなみに、ミツヒ子とカキアゲは私を目撃しているので気づかれないように工夫している。仮面を外して王冠を被り、あの時とは全く異なる服を着て、杖も愛用のモノから以前に入手して修復した王笏を持っていた。そのお陰で彼女らは全く気付いていなかったようだ。だからこそカキアゲは『騙された』と喚いていたのだが…人類を騙し続けて来た者が言って良い台詞ではないだろう。


 ただ、その瞬間を天井に張り付いていたルビーによってスクリーンショットを撮られていたのは驚いた。彼女は欲しがる者達全員にそれをバラ撒いてしまったのだ。私も演技は楽しんだが、こうして第三者視点から見せられると羞恥心に悶えそうになってしまった。


「…以上が魔王国に拠点を置く際の注意点と避けて欲しい事項だ。何か質問はあるか?」


 謁見の間での顔合わせを終えた後、私達は場所を変えて説明会を行うことにした。説明会と言っても全てを口頭で説明していては時間がかかるので、事前にミツヒ子から受けていた説明に補足を加える方式を取った。


 補足内容は私が【国家運営】の能力(スキル)で定めた法律関連や決して手を出してはならない相手についてである。住民と相談しながら決めた法律だが、現実の法律とほぼ同じだ。ただ、少し異なる点があるとすれば法律を三回破った場合は魔王国から追放という形を取らせてもらうことになっていた。


 こちらから強要することは税金くらいで、それも借りているクランハウス代くらいだ。何かをしろとは基本的に言わないのだから、他の者達に迷惑を掛ける者には去ってもらう。その後、何をどう言われようがそこだけは徹底するつもりだった。


 そして手を出してはならない相手とは魔王国に有効的な住民に加え、『誘惑の闇森』や深淵の()大領主、そしてフェルフェニール様などの勝手に手を出されると魔王国全体に多大な被害が出る可能性がある者達だ。こちらは手を出したことが発覚し次第、即座に追放ということになっている。


「まあ、すぐに質問が思い付かなかったとしても後で聞いてくれて構わない。堅苦しい話はここまでにしよう。実は君達を歓迎する用意がある。移動しよう」


 私は新たな魔物プレイヤー達を引き連れて移動を開始する。その行く先は…闘技場であった。

 次回は10月5日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 皆ノリノリで演技してるやん。ドッキリ魔王ロールは楽しそうだなw(王笏直ったんだな) 闘技場!ジゴロウ達がウキウキになってそう。 [一言] 巨大な扉に彫られた意匠は地獄穴の戦いと深淵での戦…
[気になる点] >そして手を出してはならない相手とは魔王国に有効的な住民に加え 友好的な住民、ではないでしょうか [一言] あ、演技というかドッキリだったのね てっきり魔王としての威厳を示して今後の…
[良い点] 魔王ロール楽しそうで良き 国民達もノリノリで従ってて良いなぁ [気になる点] ノンフィクションの一部メンツが壮絶にやらかしそうで心配… 王位簒奪は無理としても、ボス達にちょっかいかけるか、…
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