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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十二章 深淵の決戦
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深淵大決戦 その九

「ギイィィィヤァァァァァァ!?」


 魔物を毛嫌いするアールルが作り出したとされる神剣。それは深淵に飲まれ、堕天するどころか神敵にまで成り下がったエリステルには劇毒とでも言うべきモノだったらしい。エリステルは苦悶の絶叫を上げながら、手足をメチャクチャに動かすばかりであった。


 その際、無数の手が握り締めていた大剣を全て手放している。肉の翼にある眼球は痛みのせいかギョロギョロと忙しなく動いていて、まともに武技などを使える状態ではなくなっていた。


 今こそ千載一遇の好機である。当然ながら全ての部隊の指揮官がそれに気付いており、全員が同時に全く同じ指示を声を張り上げて口にした。


「「「ありったけ、叩き込めぇ!」」」


 指示されるまでもなく、既に全員が発動に時間がかかる武技や魔術、能力(スキル)を発動させる準備を整えていた。そして指示した瞬間に全員が最高の攻撃を叩き込む。色とりどりの光を発する攻撃がエリステルへと殺到した。


 私もまた、切り札をお披露目する。私とカル、そしてリンは可能な限り口を大きく口を開けると、そこから【龍息吹】を放ったのである。


 三本の【龍息吹】はエリステルへと直撃する。(ドラゴン)の切り札ということもあって相当に強力なはずなのだが、エリステルの体力が減少するペースはほとんど変わっていない。【龍息吹】以外にも仲間達が渾身の一撃を叩き込んでいるはずなのに、である。


 その原因はエリステルが全力で自身を回復させているからだ。武器を手放し、なりふり構わず生き延びるために全てのリソースを割いている。最終形態となったエリステルが回復だけに心血を注いだことで、神剣と私達の全力を受けてなお生き延びているのだ。


「カハァ!あれは…いかん!絶対に抜かせるな!」

「手を狙うのよ!」


 【龍息吹】を最後まで撃ちきった私だったが、エリステルが回復しながら何かをしていることに気が付いた。腕をワチャワチャと動かしているのだが、その目的がわかったことで阻止するべく声を張り上げる。奴は何とかして深々と突き刺さった神剣付きの飛翔体を引き抜こうとしていたのだ。


 神剣というエリステルを蝕む猛毒があるからこそ、全力で回復しようとするエリステルの体力を減らせている。エリステルが回復以外に手が回らなくなる最大の要因である神剣を失えば、私達の敗北は必至。あれだけは絶対に防がなければならなかった。


 私と同じくエリステルの狙いに気付いていたママもまた、弓隊に命じて阻止すべく矢を放たせる。この際、ママは個別に腕を狙わせている。こればかりは一斉射撃によるまとまったダメージよりも、正確に腕に当てる方が優先だからだ。


 それは魔術隊も同じこと。私達もまた抜かせないようにすることを優先し、飛翔体に伸ばされる手を破壊しようとしたり拘束系の魔術が使える者は動きを止めようとしたりしていた。


「何だか知らねェが、さっさとブッ殺せェ!」

「魔力が尽きても斬り続けよ!」


 盾隊や遊撃隊には神剣の情報を教える余裕などなかったので、彼らはいきなりエリステルが苦しみ始めた原因はわからないはず。それでも私達が今までとは異なってバラバラに攻撃しているのを見て何か原因があると察したのだろう。ジゴロウと源十郎は戦場全体に響き渡る大音声で一刻も早く倒すようにと急かしていた。


 そのお陰で吹っ切れたのか、いざという時に備えていたであろう盾隊は防御をかなぐり捨てて攻撃に専念し始めた。加えて機動隊も小さな円を描くように動き、最小限の間隔で突撃を繰り返す。生き残った全員が攻撃に全ての意識を向けていた。


「アグウゥゥ!」

「イイィアァ!」


 それでも回復し続けてしぶとく生きているエリステルだったが、悲鳴を上げながらもついに腕の一本が飛翔体に触れた。神剣が使われているのは先端だけであり、飛翔体の外に出ている部分は掴んでも問題はないのだ。


 ヒヤリとしたのは一瞬のこと。エリステルは自分に突き刺さった飛翔体を握り…そのまま握り潰してしまったからだ。指に刺さった小さな木の繊維を抜こうとして、先端だけ残った時のことを思い出す。あれはより深く刺さることはあっても、抜くのは容易いことではないぞ?


「墓穴を掘ったらし…いぃっ!?」


 これで心配はいらない。そう思った矢先、エリステルはとんでもないことを始めた。奴は鉤爪付きの腕によって自分の身体を抉り始めたのだ。


 神剣が身体に埋まってしまったエリステルだったが、強引にでも抜き取るつもりらしい。私達は慌てて攻撃の優先目標を鉤爪付きの腕に切り替える。だが、自傷行為をもいとわないエリステルを止めることは叶わず、ついに奴は神剣付きの飛翔体の先端部分を引き抜いた。


「ギャガァァァアアァァァ!?」


 先端部分を掴んだ瞬間、神剣は目を焼くほど激しく発光していた。すると神剣を掴んでいたエリステルの腕は灰になって崩れていく。掴んでいた腕が消失したことで、神剣は輝きを失いながら深淵の海へと沈んでしまった。


 これでエリステルを蝕む最大の要因が消えてしまったことになる。倒すのならここから体勢を立て直す前の今しかない。誰もがそれを理解していたからか、私達は誰に言われるともなく魔力が尽きるまで武技や魔術を放ち始める。


「ぐあああっ!?」

「クッソォォォ!」


 しかし、再起動したエリステルは再び翼の大剣を生み出して振り回す。盾隊はこれをどうにか防いだものの、私達は何度目かになる絶望に包まれてしまった。全ての部隊が限界であるのに、エリステルはまだ生きている。残りの体力はほんの僅かだというのに、そこに届かないのだ。


 これまでの準備が報われなかった悔しさ、不十分な準備で勝てると思っていた自分の浅はかさへの怒り。様々な感情が湧き上がってくるのを感じる。私は愛用の杖を握り締めつつ、基地の放棄と撤退戦に移る決断を下そうとした。


「ギヒィィィィィ!?」


 その時、再びエリステルは絶叫しながら大剣を手放した。何事かと思えば、深淵の海の下から激しい光が迸る。爆発した海面から外に飛び出して来たのは、飛翔体の先端に触腕を巻き付けたゴゥ殿であった。


 ルビーが帰還した時、確かに彼は基地内にいた。故に飛翔体の先端に神剣を仕込むように指示するのを聞いていた可能性が高い。つまり、前線に出ている者達の中で数少ない神剣について知っている者なのだ。


 エリステルが自力で神剣を引き抜いた後、落水したそれを彼は拾いに行ったらしい。そしてまだ残っていた飛翔体の部分に触腕となった腕を巻き付けて保持し、エリステルに突き刺したようだ。


 空中に投げ出されたゴゥ殿だったが、空中で身体を捻って体勢を整えると神剣の切っ先を下にして落下していく。エリステルは迎撃するべく鉤爪付きの腕を振り回した。空中にいるせいでゴゥ殿にこれを回避することは不可能である。エリステルの鉤爪によって、彼は上半身と下半身で真っ二つにされてしまった。


「貴様ヲ討テルノナラ、命ナドイラヌ!」


 真っ二つにされたゴゥ殿だったが、驚くべきことにまだ戦意を失っていなかった。エリステルを自らの手で討つ絶好の好機が巡ってきたのだ。それを逃すつもりはさらさらなかったらしい。


 そんなゴゥ殿の息の根を止めるべく鉤爪を振り回したエリステルだったが、その手をゴゥ殿は神剣によって斬り裂いていく。本来のステータス差であれば不可能なのだろうが、神剣という究極の武器がその差を覆していた。


「仲間達ノ仇!滅ビヨ、悪神ノ手先メ!」


 ゴゥ殿は落下のスピードを乗せて神剣をエリステルに突き立てる。それだけでも神剣の半ばまで突き刺さったのだが、ゴゥ殿は何を思ったか自分で刀身を鷲掴みにすると、体重を掛けてさらに深く突き刺した。


 その瞬間、神剣は再び眩い光を放つと真っ白な爆発を起こす。爆風によってゴゥ殿は吹き飛ばされ、エリステルの身体は大きく抉られてしまった。


「ゴゥ殿…!犠牲を無駄にするな!魔力が尽きるまで撃ちまくれ!」


 光の爆発のせいか、エリステルは身動きを完全に止めてしまう。ゴゥ殿の上半身が吹き飛ばされながら灰になっていく姿を見てしまった私は、彼の命を燃やし尽くして生み出された最大の好機を逃す訳にはいかない。私達は魔力が本当に尽きるまでひたすら攻撃し続け…ついにエリステルの体力ゲージは尽きるのだった。

 次回は8月26日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴゥ殿にしてみれば、かつての仲間達の仇で、自分が信仰する神の宿敵なんだから、討つためならなんでもするつもりだったんだろうな。 ただ、この後戦後賠償とか考えなきゃいけないからコチラとしては素直…
[一言] 指に刺さった小さな木の繊維を抜こうとして、先端だけ残った時のことを思い出す。あれはより深く刺さることはあっても、抜くのは容易いことではないぞ? 分かるわぁ。 何とか勝てたっぽいのは良かった…
[良い点] 超絶熱い展開!!
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