表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第五章 湖の死闘
56/688

湖の中の戦争 その四

 私がボスとその取り巻きとの戦場へ馳せ参じた時に思ったことは、一つだった。


「ウオラァ!どうしたァ!?」

「ゲゴォ!」

「スッとろいんだ、よォ!」

「ゲゴゴッ!」


 これ、私いる?


 いやいや!いるでしょ!格闘戦においてはジゴロウが圧倒しているが、ボスの体力自体はほとんど減っていない。いや、正確に言えば少し減少しては回復するのを繰り返しているのだ。これは【体力自動回復】の効果だろう。


「シィッ!」

「ハッハァー!遅すぎるぜ!」


 …今も蛙人王子(トードマンプリンス)が伸ばした舌を躱しながら逆に爪でそれを斬り裂いていたが、私の援護は必要だな、うん。


 いや、現実的にアイリス達の事を考えると速攻で倒す必要がある。むしろこの場にいる四人で袋叩きにする位の気持ちでやらねばなるまい。


 なら、先ず私がすべき事は源十郎とルビーの援護であり、その為には最も厄介な蛙人歌手(トードマンシンガー)をどうにかせねば!


「ルビー、今助ける!星魔陣遠隔起動、冷霧(コールドミスト)!」


 私が選んだ術は冷霧(コールドミスト)であった。ゲーム内の季節は現実にリンクしているので、今は春だ。しかし、春とは言え夜中は凍えそうな程に寒い。それを更に冷やしてやろうと言う訳だ。


「「「「ケロケロ~!」」」」

「何だと!?」


 しかし、蛙人歌手(トードマンシンガー)が歌うと私の出した霧が一気に晴れてしまった。そんな事も出来るのか!?


「とった!」

「「ケロ…?」」

「ゲ、ゲロロッ!」


 だが、一瞬でも視界を遮りつつ術への対処に気を取られた蛙人歌手(トードマンシンガー)をルビーが背後から襲う。粘体(スライム)の表面を変形させて握った二本の短剣が、蛙人歌手(トードマンシンガー)の首を一つずつ落とした。


 もしかして、蛙人歌手(トードマンシンガー)は戦い慣れていないのか?私の魔術に気を取られて今までは行っていたルビーへの備えが全く無かったぞ?純粋な後衛職であり、援護しかしてこなかったので、予想外な事には対応仕切れない?


 いや、これだけで判断するのは早計だ。もう一つ、試してみよう。


「星魔陣起動、砂風(サンドウインド)


 私は【砂塵魔術】で蛙人歌手(トードマンシンガー)と護衛の戦蛙人(ウォートードマン)に目潰しをかける。戦蛙人(ウォートードマン)の方は目をどうにか開こうとしているのに対して、蛙人歌手(トードマンシンガー)は隙だらけの姿で目を擦っている。戦い慣れていない、と言うか攻撃を食らい慣れていないのは確定だな。


「イザーム、ありがと!」


 そしてこの分析も、もう意味がない。何故なら蛙人歌手(トードマンシンガー)の探知が無ければルビーが戦蛙人(ウォートードマン)から身を隠すのは朝飯前であり、彼女を抑えられ無ければ蛙人歌手(トードマンシンガー)の命など簡単に刈り取れるからだ。既に残り二匹の首級は、彼女のものとなっていた。


「ほっほ!弱くなったのぉ!」

「ゲャ!?」

「ゲゴ…!」


 蛙人歌手(トードマンシンガー)の死は、戦況を大きく動かした。あの四匹の力で源十郎とルビーは苦戦していたのだ。ステータスが元に戻った戦蛙人(ウォートードマン)など、二人の相手にはならない。バッタバッタと薙ぎ倒されていく。当然、私も魔術で援護したがね。


「あとはボスで終いじゃの」

「畳み掛ける…って、ジゴロウ!?」


 取り巻きを倒し終わったと思えば、今度はジゴロウにトラブル発生だ。何と、彼の身体の色々な箇所に紫色の斑点が出来ていたのである。


 頭部のマーカーには毒の文字が出ているな。しかし、今まで見てきたどの毒よりも体力の減るペースが早い!そうか、これが【猛毒】の効果か!


「源十郎!ルビー!ジゴロウの代わりに前へ!星魔陣遠隔起動、光壁(ライトウォール)!」


 私は二人に指示しながら、急いでジゴロウと蛙人王子(トードマンプリンス)の間に光壁(ライトウォール)で壁を築く。ジゴロウはそれに合わせて後方に退いた。


 私は飛行して彼に近付くと、持っていた解毒薬を渡す。一体、何があったというのだ?


「大丈夫か?」

「ああ。すまねぇ、油断した」


 ジゴロウは油断、と言うがそれは違うのではないかと思う。彼は戦闘中に気持ちが昂って敵を煽る癖があるが、油断らしい油断は鼠男王(ラットマンキング)戦で見せた無謀な突撃位なものだった。その反省をしている彼が、本当に油断したとは到底思えないのだ。


「何があった?」

「あいつイボ、あるだろ?それを潰したらこのザマだ」

「まさか、あのイボ一つ一つに毒が詰まってるのか!?」

「多分な」


 な、なんて面倒臭い奴なんだ!天然の爆発反応装甲(リアクティブアーマー)を持っていると言うことじゃないか!イボが潰れた痛みに耐えられる様に【痛覚耐性】があるのかもしれないな。


 私の叫び声を聞いた源十郎とルビーは、ビクリと一瞬動きを止めてから、攻撃の頻度を下げ始めた。自分達も毒に犯される訳には行かないと判断したのだろう。懸命だな。


 …いや、待てよ?確かに、無数の毒イボ爆弾は近接攻撃には強いだろう。ならば魔術でイボを潰してしまえばいいのでは?


 作戦はもう思い付いた。しかし、問題がある。蛙人王子(トードマンプリンス)は見た目に反して動きが速いのだ。それをどう制御するのか、考えねばならない。


「イザームよぉ、何か策はあるんだろ?」

「ああ。だが、アレの動きをどうやってコントロールしたものか…」

「それ、俺に任せろよ」


 悩んでいる私に、ジゴロウが提案する。確かに、ジゴロウなら動きを正確に捉えられるし、敵の動きを想定するよりも難易度は下がるだろう。


 しかし、ジゴロウがかなり危険な役回りを演じることになる。また毒に犯されるのはほぼ確定なのだから。


「キツイ指示になるぞ?」

「構わねぇよ、()()。俺達ゃ『人外ブラザーズ』なんだろ?」


 ふっ、ふふふふふ!そこまで言われたら任せるしかないだろうが!


「じゃあ任せるぞ、兄弟。手段は問わんから、奴をこっち()()()()こい!」

「いよっしゃァ!!」


 ジゴロウは好戦的な笑みを浮かべながら突貫する。この作戦が成功すれば、その後は思う存分に蛙人王子(トードマンプリンス)をぶん殴れると解っているからだろう。本当に戦闘狂だな!


「オラオラオラァ!」

「ゲゴゴロォ!」


 ジゴロウは蛙人王子(トードマンプリンス)の懐に入り込むと、イボのある位置を避けて拳を叩きつけていた。器用だな!


「ゲロッ!」

「当たんねぇんだよ、んな攻撃ィ!」


 ジゴロウのラッシュを食らいながらも、蛙人王子(トードマンプリンス)は拳で殴り掛かったり、牙で噛み付いたりしている。流石にやられっぱなしは頭に来たのかもしれない。


 しかし、そんな大振りではリアルチートであるジゴロウには当てる事すら叶わない。即座に対応され、むしろクロスカウンターの要領で顎を打ち抜かれたではないか。


「ゲ…ケッ…」

「ここだァァ!」


 顎を殴られて脳震盪…ゲーム的にいえばスタン状態になった蛙人王子(トードマンプリンス)の動きがふらつく。その隙を見逃すジゴロウではない。


 素早く足元に潜り込むと、足払いを食らわせる。私であれば骨が砕けるであろう蹴りだったが、蛙人王子(トードマンプリンス)は尻餅をつくだけに終わる。なんて頑丈なんだ!?


「ふぬっ!」


 次にジゴロウは尻餅をついた蛙人王子(トードマンプリンス)の股の間に入ると、両脇に奴の足首を挟み込んだ。うん。ここから何をするつもりなのか、私にもわかるわ。


「ウオオオッラアアアア!!!」

「ゲゲゲゲゲゲゲ!?」


 ジゴロウは全身全霊の力でジャイアントスイングを開始したのだ!私の『飛ばせ』と言う注文に応えるためなのだろうが、予想外過ぎるわ!


 ジゴロウと蛙人王子(トードマンプリンス)は独楽のように回転する。そしてその回転速度はどんどん加速していた。ええと、確かプロレスの記録が数十回転だっけ?いや、どうでもいいか。


「ッシャア!行くぜ兄弟ィッ!」

「いつでも来い!」

「ウッシャアアアア!!!」


 ジゴロウはジャイアントスイングからハンマー投げの要領で私に向かって注文通りに蛙人王子(トードマンプリンス)を飛ばして来た。ここからは私の腕の見せ所だな!


「星魔陣遠隔起動、呪文調整、暗黒糸(ブラックスレッド)!」


 虚空に浮かんだ魔法陣から黒く太い糸が飛び出して、空中の蛙人王子(トードマンプリンス)を受け止める。限界まで強化した五本の糸が、蛙人王子(トードマンプリンス)を雁字搦めにした。よし!捕まえ…


ギギギ…!


 うおおおお、重いいいい!!だ、だが、何とか支えられるぞ!呪文調整が無かったらとっくに切れている!念のために使っといて大正解だ!


 と、兎に角!これで()()()()()を固定する事が出来た!


「よし!魔法陣起動、地穴(アースホール)!続いて呪文調整、星罠陣の三重罠、設置!暗黒糸(ブラックスレッド)解除!」


 私は普段は魔力の消費が激し過ぎて使わない星罠陣と三重罠の同時使用を解禁し、蛙人王子(トードマンプリンス)の真下に魔術で掘った穴の底に全て設置する。どうして同時使用しないのか、と問われれば、単純な掛け算の問題だ。


 星罠陣は五つの罠を仕掛ける術で、三重罠は一つの罠に三つの魔術を仕込む術。この二つを同時に使うと言うことは、合計で十五もの魔術を使うのと同じ事になる。強い術であればあるほど、重ねての使用は魔力の消費が激しいのだ。


 しかし、今回は激しく消耗してでも早く倒す必要がある。だからこそ、解禁したのだよ!


「ボロ雑巾になるがいい!」


 私が罠に仕込んだ魔術は風柱(ウインドピラー)だ。これは風壁(ウインドウォール)と同じく触れた物を切り裂く効果がある。加えて範囲が狭まった代わりに威力は増している。


 さて、ここで問題だ。この上がった威力を呪文調整によって更に高め、かつそれが十五倍の密度で迫ってきた時、巻き込まれた者はどうなるでしょうか?


「ゲギャァァァァァァァ!?!!」


 答えはズタズタにされる、だ。真空の刃が無慈悲に蛙人王子(トードマンプリンス)を切り裂いていく。その過程で全身のイボも切り裂かれて、勢い良く毒を吹き出した。


 しかしその毒は穴の内壁や底に溜まるばかりで、敵を蝕むことは叶わない。まさに無駄撃ちだなぁ?


「ゲロロロロ!!」


 お?風柱(ウインドピラー)の効果が切れたか。自分を苛む拷問めいた魔術が終わったことで、蛙人王子(トードマンプリンス)は這う這うの体で穴から出てきた。


「よう、さっきぶり」

()()()()はキレイに取れたようじゃのぅ。ツルツルスベスベで肌が見違えるようじゃぞ?」

「お祖父ちゃん、ニキビは潰したら後が残っちゃうんだよ?」

「ゲ、ゲコゲコ…」


 しかし、穴の上にはジゴロウ、源十郎、そしてルビーの三人が待ち構えている。さて、穴の中と外、どっちの方が地獄だったのかな?


「オラァ!」

「シッ!」

「はあっ!」

「ゲロッ、ゲゴッ、ゲゲェ!?」


 巨大かつ籠手の嵌まった剛拳が、三本の日本刀が、そして二本が合体した大振りの短剣が蛙人王子(トードマンプリンス)の身体を更に傷付けていく。圧倒的な暴力に飲み込まれた蛙人王子(トードマンプリンス)に、逆転の目など存在しなかった。


「ゲギョアァァァァァァァァァァ……!!!!」


 最期の断末魔まで汚い声だ。やはり、王族と言っても所詮は蛙というわけか。


 よし、急いで戻ろう!アイリスと蜥蜴人(リザードマン)が心配だ。死んでいなければいいが…


――――――――――


戦闘に勝利しました。

種族(レイス)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

種族(レイス)レベルが規定値に達しました。進化が可能です。

職業(ジョブ)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

職業(ジョブ)レベルが規定値に達しました。転職が可能です。

【杖】レベルが上昇しました。

【鎌術】レベルが上昇しました。

【知力強化】レベルが上昇しました。

【精神強化】レベルが上昇しました。

【体力回復速度上昇】レベルが上昇しました。

【魔力回復速度上昇】レベルが上昇しました。

【魔力精密制御】レベルが上昇しました。

【大地魔術】レベルが上昇しました。

新たに地変の呪文を習得しました。

【水氷魔術】レベルが上昇しました。

新たに氷結の呪文を習得しました。

【火炎魔術】レベルが上昇しました。

新たに炎体の呪文を習得しました。

【暴風魔術】レベルが上昇しました。

新たに風刃の呪文を習得しました。

【樹木魔術】レベルが上昇しました。

新たに樹海の呪文を習得しました。

【溶岩魔術】レベルが上昇しました。

新たに噴火の呪文を習得しました。

【砂塵魔術】レベルが上昇しました。

新たに砂嵐の呪文を習得しました。

【煙霧魔術】レベルが上昇しました。

新たに酸霧の呪文を習得しました。

【雷撃魔術】レベルが上昇しました。

新たにの呪文を習得しました。

【爆裂魔術】レベルが上昇しました。

新たに地雷の呪文を習得しました。

【光魔術】レベルが上昇しました。

新たに光鎧、光槍の呪文を習得しました。

【光魔術】が成長限界に達しました。進化が可能です。

【暗黒魔術】レベルが上昇しました。

【虚無魔術】レベルが上昇しました。

新たに魔力探知の呪文を習得しました。

【召喚術】レベルが上昇しました。

【付与術】レベルが上昇しました。

【魔法陣】レベルが上昇しました。

【死霊魔術】レベルが上昇しました。

【呪術】レベルが上昇しました。

【罠魔術】レベルが上昇しました。

【降霊術】レベルが上昇しました。

【邪術】レベルが上昇しました。

【言語学】レベルが上昇しました。


――――――――――


 あ、あれ?戦闘終了?

 もしも主人公たちが蛙人と戦っていなかったらどうなっていたかについて


①大母蛙が更に卵を産む!汚い!

②蛙人王子が蛙人王に進化!

③戦蛙人や蛙人魔術師も進化!

④蛙人歌手も蛙人歌姫に進化!

⑤この軍団が蜥蜴人の村を強襲!蜥蜴人はほぼ壊滅!

⑥騒ぎに気付いた水龍王が逆に全滅させる!

⑦湖の生態系が乱れ、攻略組が調べたこれまでの調査結果と食い違う魔物が多数出現!

⑧プレイヤー、大混乱!


 となっていたでしょう。またしても知らず知らずの内にファインプレーをしていた主人公。


 実は特撮モノの悪役も知らない所で世界を救っていた可能性が微レ存…?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
【誤字報告】 自分達も毒に犯される訳には行かないと判断したのだろう。 ⇩ 自分達も毒に犯される訳にはいかないと判断したのだろう。 懸命だな。 ⇩ 賢明だな。 【推敲】 【雷撃魔術】レベルが上昇しま…
[一言] 【雷撃魔術】レベルが上昇しました。 新たにの呪文を習得しました。 なんか呪文が抜けてませんか?
[一言] 雷撃魔術】レベルが上昇しました。 新たにの呪文を習得しました。 なんの呪文を習得したのは書かれていない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ