深淵大決戦 その二
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名前:エリステル
種族:濁白堕熾天使 Lv100
職業:狂気ノ虜 Lv48
能力:【熾天翼撃】
【白光天使剣術】
【白光天使鎧術】
【体力超強化】
【筋力超強化】
【防御力強化】
【敏捷超強化】
【器用超強化】
【知力超強化】
【精神超強化】
【堕天魔術】
【回復魔術】
【呪術】
【天罰】
【光の戦天使】
【秩序を敷く者】
【加護の配り手】
【自在翼】
【濁リシ白】
【穢レシ翼】
【異形ノ天使】
【神ヲ憎ム者】
【超速飛行】
【指揮】
【光属性無効】
【闇属性無効】
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盾隊と激突したエリステルを【鑑定】した結果である。かつてはアールルに仕える熾天使だった頃から持っている能力に加え、堕熾天使になった後に得てしまったのであろう能力もあった。
以前に戦ったアールルの天使に似た能力構成であり、武術と魔術の両方を高いレベルで使いこなす上に回復まで自前で行える隙のない構成だ。万能と言っても良いだろう。
仮にプレイヤーであっても万能と言えるかもしれないが、あらゆる行動に魔力が必要になるせいで確実にすぐに魔力切れを起こすだろう。熾天使のように最上級の天使だからこそ可能な能力構成であった。
「翼を剣に変えたのは【自在翼】の効果か?遠近どちらでも強いのは厄介だが、狂乱しているお陰で遠距離攻撃をする気がなさそうだ。その分、盾隊の負担が大きくなりすぎる。盾隊を休ませる時間を捻出するぞ」
「なら、一斉射撃ね!撃ちなさぁい!」
魔術隊と弓隊は再び一斉射撃を行った。訓練によって最初の頃のようなムラはなく、全ての攻撃がほぼ同時に着弾していく。エリステルの体力は膨大ではあれど、この人数による一斉射撃でダメージを受けずにはいられない。奴の体力は確かに減少していた。
ただ、大きなダメージを与えたことでエリステルの注意がこちらに向けられてしまう。もしもあの巨体が振るう剣がこちらに向けられれば、城壁は残っても私達は消し飛ぶことだろう。
「今だァ!突っ込めェ!」
「征くかの」
そのタイミングで左右から挟み込むようにして突撃したのはジゴロウと源十郎が率いる遊撃隊である。遊撃隊は二つに分けてあるのだが、それぞれのリーダーがジゴロウと源十郎なのだ。
隊員の内訳はジゴロウをアニキと慕う荒くれ者達と、源十郎の教えを受ける門下生達。どちらも攻撃力に特化していて、この猛攻を凌ぐのは盾隊であっても至難と言わしめるほどであった。
ジゴロウと源十郎のそれぞれを先頭に突撃した遊撃隊は、渾身の一撃を叩き込んでいく。エリステルの身体が揺さぶられ、奴の羽根が再び宙に舞い上がった。
「おのれェェ!邪魔をするなァッ!」
エリステルが怒りのままに咆哮を上げると、舞い上がった羽根が銃弾のようにジゴロウ達に向かって飛んでいく。自分から分離した羽根をもコントロール可能らしい。あれも【自在翼】の効果であろうか?
仮に訓練する前のジゴロウ達であれば、この羽根の雨に打たれて斬り刻まれる者が続出したに違いない。だが、今の彼らに一撃離脱を無視する者は誰一人としていなかった。まるで一つの生き物であるかのように整然と離れていく。
「させねぇんだよなぁ!」
そんな彼らを追いかける羽根の前に立ち塞がったのは、戦車隊であった。これはアン達が使っている『ホバーオルカ』と同じホバークラフトの高出力型で、金属の装甲板と強力な二門の主砲が搭載されている水陸両用戦車なのである。重厚な装甲板はエリステルの羽根を容易く弾き、ジゴロウ達を守り切った。
この戦車の名称は『ホバーゴリアテ』。操縦しているのはアイリスやしいたけ、それに『マキシマ重工』の職人達だ。彼らが作った戦車だからこそ、操縦に関して説明を受けずとも少し練習することで動かせるのである。
遊撃隊を守った戦車隊だったが、彼らの役目は守るだけではない。搭載されている主砲は飾りでも何でもないのだから。
「ぶっ放せぇい!」
戦車隊のリーダーであるマキシマが怒鳴ると、全ての戦車の主砲から轟音が響き渡る。発射されたのは徹甲榴弾、硬い装甲を貫いた後に炸裂する弾頭だ。エリステルの羽根は柔らかそうな外見とは反してそれだけで刃になるほどに硬い。それがわかっているからこその選択だろう。
実際、戦車の主砲はエリステルの姿の大半を隠す翼にめり込んでから爆発を起こした。エリステルは爆発の衝撃によって少しだけよろめいた。
「今だよ!やっちまいな!」
ここで満を持して登場したのが『ホバーオルカ』を駆るアン達だ。彼女らは戦車隊とは比べ物にならない機敏さでエリステルに接近すると、得意の鉤縄を一斉に投擲した。
鉤縄はエリステルを雁字搦めにしていくが、すぐにブチブチと音を立てて千切れてしまう。だが、鉤縄によって動きが止まったのも確かである。そこを見逃さない者達がいた。
「行くわよ〜」
「一当てしたらすぐに離脱するのを忘れないで!」
それは邯那と羅雅亜が率いる一団だった。彼女が所属しているのは機動隊であり、遊撃隊と同じくアン達と邯那達によって二つの部隊に分けてある。より小回りが利くアン達と、より打撃力に優れる邯那達。それらが上手く連動しているのだ。
邯那達は速度を落とすことなくエリステルに一撃を加え、そのまますれ違うように去って行く。エリステルによって追撃されないようにアン達は『ホバーオルカ』の主砲を発射していた。
「ああァァァ!小賢しい魔物がァ!斬り刻んでくれるゥ!」
「伏せろ!」
私達によってジワジワと体力を削られたエリステルは、苛立たしげに叫ぶと二枚の翼を可能な限り広げると高速で回転し始める。すると刃のような羽根が全方位に放たれた。
羽根は魔術隊と弓隊のいる位置にまで届いている。城壁を貫くほどの威力はないが、当たれば危険だと判断した私は急いで伏せさせる。全員が胸壁の陰に隠れたことで魔術隊と弓隊に被害はなかった。
だが、前線にいる者達は距離が近いこともあって回避し切れなかったらしい。十人を超えるプレイヤーが羽根を受けていた。
「薬ダ!使エ!」
「重傷者は退避させるぞ!」
そこへすかさず駆け付けたのは千足魔隊と妖人隊だ。深淵の海から飛び出した彼らに任せたのは負傷者への対処である。千足魔隊は軽症者に向かってポーションの瓶を投擲し、傷の治療を行っていた。
一方でかなり羽根が直撃したプレイヤーの中には瀕死の重傷を負った者達もいる。彼らを救ったのは千足魔隊と同じように深淵の海に潜んでいた妖人隊だった。彼らはその粘体に近い身体で重傷者を包み込むと、海中を移動して前線基地内へと帰還した。
海中での純粋な遊泳速度では千足魔隊に遅れを取る妖人隊だが、負傷者を深淵の海に接触させないように運ぶのは彼らにしか頼めない。適材適所、という言葉がピッタリであった。
「治療を急ぎましょう。万全の状態で前線に戻ってもらえるように」
そして基地内に運ばれたプレイヤー達は治癒隊によって全力で治療される。瞬く間に体力をほぼ全快したところで再び妖人隊に運ばれて前線へと出て行った。
今のところ、順調かつ優勢に戦いは進められている…ようにも見える。だが、私は再びの一斉射撃を指示しながらも低い声で唸ってしまった。
「グオォ?」
「有利だと思うだろう?だがな、相手は急所に直撃すれば瀕死になる一撃をバラ撒ける。火力が想定以上に高いんだ」
エリステルは強い。それはわかっていたつもりだ。だが、その火力は圧倒的としか言い様がなかった。急所とは言え直撃すればほぼ即死させられる攻撃を雑にバラ撒けるのだ。これを恐怖するなと言う方が難しいだろう。
私が想定外の火力に恐れ慄いていると、その肩がそこそこ強く叩かれた。驚いて叩かれた肩を見ると、その近くではリンの尻尾が浮かんでいた。
「クルル!」
「む…そうだな。今更慌てても仕方がないか。それに私達もまだ全てを見せた訳ではない。これまでの準備と仲間達の実力を信じよう」
それで良いとばかりにリンは尻尾を引っ込める。まさか従魔に叱られるとは思わなかったが、気合は入った。これまでの全てを信じて戦い抜くまでだ!
次回は7月29日に投稿予定です。




