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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第五章 湖の死闘
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湖の中の戦争 その三

 建物内に溜まっていた埃が巻き上がってまだ姿を確認出来ないが、十中八九こいつがターゲットだろう。


「へっ、やっとこさお出ましかよ。」

「重役出勤ではないかな?」

「お祖父ちゃん、重役じゃなくて王族じゃない?」


 お前ら…結構余裕があるな。アイリスを見ろ。顔はわからんが、触手の動きが普段より硬いだろ?緊張している証拠だ。


 奥の家を崩壊させた何者かは、蛙人(トードマン)の家々を壊しながら真っ直ぐに近付いてくる。…あのー、私達が何もせずともこの巣は終わりじゃないですかね?


「ゲッブゥゥゥ…ゲゴゴ!」

「ひっ!」

「うわぁ…」


 それは、ウチの女性陣が思わずたじろいでしまう程に醜い姿をしていた。身体は縦にも横にも大きい。でっぷりと出た腹と四重になった下顎の肉が、明らかな肥満体であることを示している。しかも口には蛙には無いハズの牙がズラリと生え揃っており、噛み付きにも注意する必要があるだろう。


 これだけならただ背が高く、牙があるが太っただけの蛙人(トードマン)だ。しかし、問題はその皮膚にある。紫であったり、濁った茶色であったりするイボが無数に浮き出ているのだ。それから粘液を滴らせているのだから、女性にはキツイ光景だろうよ。


 これまでの経験上、デカイ相手は基本的に強かった。だからこそ、油断は出来ない。どの蛙人(トードマン)よりも大きいコイツは、同時にどの蛙人(トードマン)よりも強いのかもしれないのだ。では、【鑑定】!


――――――――――


種族(レイス)蛙人王子(トードマンプリンス) Lv35

職業(ジョブ):王子 Lv5

能力(スキル):【牙】

   【舌】

   【拳】

   【蹴撃】

   【大地魔術】

   【水氷魔術】

   【筋力強化】

   【防御力強化】

   【知力強化】

   【体力自動回復】

   【水棲】

   【咆哮】

   【猛毒】

   【指揮】

   【配下強化】

   【毒無効】

   【痛覚耐性】

   【大食】

   【暗視】

   【粘液】


――――――――――


 つ、強い!何よりも言いたいのは、この見た目で王子(プリンス)なのかよ!似合ってない!


 それはさておき、能力(スキル)は遠近両方に対応できる構成だな。二種類ある魔術能力(スキル)が両方とも進化済みなのは素直に驚いた。


 耐性面も【毒無効】が地味に痛い。ルビーに持たせた仕込み毒が完全に意味を成さないからな。そして【痛覚耐性】。字面的にはある程度の痛みを我慢出来る、ということか?あまり深入りするべきじゃないな。


「ゲゴッ!」

「ゲロッゲェ!」

「「「ケロケロ!」」」


 やはり取り巻きが居たか。確かに強いが、一体だけなら我々でも対処可能な相手だったからな。順当だろう。


 取り巻きの構成は戦蛙人(ウォートードマン)蛙人魔術師(トードマンメイジ)、あとの見慣れない者達は…ひょっとしてメスなのか?


――――――――――


種族(レイス)蛙人歌手(トードマンシンガー) Lv20~23

職業(ジョブ):歌手 Lv 0~3

能力(スキル):【舌】

   【水魔術】または【土魔術】

   【歌唱】

   【知力強化】

   【聞き耳】

   【水棲】

   【暗視】

   【粘液】

   【雷属性脆弱】


――――――――――


 蛙人歌手(トードマンシンガー)か。それが四体。歌手(シンガー)なんて戦いで何の役に立つんだ?全く想像がつかない。


 だが、わざわざボスと一緒に現れたのだから何らかの意味があるはずだ。放置するのは危険な気がするぞ。


「ゲゴゴゴゴォ!ゲロロォォォ!」

「「「ゲゴッ!」」」

「「「ゲロッ!」」」


 むっ!今のは蛙人王子(トードマンプリンス)が配下を鼓舞したのか?【指揮】か【配下強化】の効果に違いない。


「くっ!」

「コイツら、急に強くなった!?」


 蜥蜴人(リザードマン)達の苦し気な声が聞こえてくる。鼓舞によってステータスが底上げされたのか、実力が拮抗しているようだ。数で劣る我々は不利だ!早く対処せねば、全滅してしまう!


「ジゴロウ!あのデカイのを抑えられるか!?」

「当ったり前よォ!」


 頼もしいな!ならば敵の情報は教えておく必要があるだろう。


「奴は格闘戦と土と水の魔術を使う!あと殴るなら【猛毒】と【粘液】、あと【痛覚耐性】に注意しろ!」

「あいよ!」


 私の話を聞きつつ、ジゴロウは蛙人王子(トードマンプリンス)に飛び掛かった。


「ゴオオオアアアア!!」

「ゲゴオオオオオオ!!」


 お互いに【咆哮】を打ち合いつつ、正面からの殴り合いが始まった。拳同士が激突して空気が揺さぶられるような鈍い音が木霊する。


 しかし、その邪魔をすべく取り巻きと他の雑魚が殺到した。私達はまず、コイツらの数を減らして蜥蜴人(リザードマン)だけで持ちこたえられるようにしなくては!


「源十郎はジゴロウの援護!ルビーは蛙人歌手(トードマンシンガー)…後ろに控えるメス達をやってくれ!」

「ほいほい!」

「任せて!」


 私は二人の返事を聞きながら、周囲を見渡す。そして最も敵の密度が高い場所に狙いを定めた。


「一気に殲滅するぞ!星魔陣起動、起動待機!アイリス!」

「はい!閃光(フラッシュ)!」

「発動、暗黒剣(ブラックソード)!」


 激しい光を発生させる閃光(フラッシュ)と、影を切り裂いてダメージを与える暗黒剣(ブラックソード)。このコンボは我々が編み出した物…なのだが同じことを考えるプレイヤーは多かったらしい。思い付いてから嬉々として掲示板を覗いたら既に書き込まれていて悲しかったよ…。


 だが、掲示板には効果は絶大だがタイミングを合わせるのがシビアだとされており、実用的ではないと書かれていた。二人の息を合わせなければならないのだから当然だ。


 しかし、ここで今まで使えない子だった【魔法陣】の起動待機が活きてくる。私が暗黒剣(ブラックソード)を待機状態にし、アイリスが閃光(フラッシュ)を放った時に発動させることで、シビアだったタイミングをお手軽に合わせる事が可能になったのだ。


「ゲゲッ!?」

「ゲコッ!?」


 閃光(フラッシュ)によって引き伸ばされた影を、五本の暗黒剣(ブラックソード)が斬る。回避や防御が実質不可能な斬撃を食らった蛙人(トードマン)がバタバタと倒れていく。


 食らった者で生き残ったのは戦蛙人(ウォートードマン)だけだった。それももう死にかけ。蜥蜴人(リザードマン)に任せて、次だ!


「アイリスは右側を!私が左をやる!」

「はい!」

「星魔陣起動、(ストーム)!」


 私から見て左側に巨大な竜巻が五つ発生する。巻き込まれた蛙人(トードマン)は、進化しているかを問わず空中へと巻き上げられていく。あれならば術が切れた頃には死亡を免れない高さまで舞い上がっているだろう。


 そして左側では、アイリスが触手と触手で握る木槌と鉈、そして作っておいた投擲用の武器だ。アイリスが作った投げナイフもあれば、私が【錬金術】で作った毒煙玉などもある。私がポーションと毒しか作って居ないとでも思ったか?私だって色々作っているのだよ!


 触手で締め上げられ、木槌で殴られ、鉈で叩き斬られ、投擲物が降ってくる。そんな戦場はまさしく地獄である。こっちの蛙人(トードマン)も何とかなりそうだな。


「「「「ケロケロケ~ロ、ケロケ~ロ♪」」」」

「「ゲロォ!」」

「むむっ!強いぞ!」

「私の隠形が効かない!?探知でもしてるの!?」


 私とアイリスが順調な一方、源十郎とルビーは苦戦を強いられているらしい。これまでは源十郎の剣を見切れなかった蛙人(トードマン)が、どうにか防御し始めたのだ。


 さらにルビーもこれまでは当然のように成功させていた奇襲に失敗し、助けに来た蛙人(トードマン)と正面から戦っている。どういう事だ?


 …なるほど。ここで蛙人歌手(トードマンシンガー)の厄介さが浮き彫りになってきた。おそらくだが、蛙人歌手(トードマンシンガー)の歌には味方の強化効果があるのだろう。


 そして【鑑定】結果と合わせて考えると、自分達の歌で強化された【聞き耳】でルビーの居場所を探知していると予想出来る。彼女の撹乱が意味を成さないのは辛い。早く援護せねば!


「骨の龍様!ここは我々が食い止めます!」

「仲間方々の所へ!」


 蜥蜴人(リザードマン)達はそう言うが、私の感覚では数が多すぎて支え切れないと思われる。それは必然的に彼らを捨て駒と見なすことに繋がる。どうする!?


「イザーム、行って下さい!私が残ります!」

「…わかった!」


 アイリスの叫ぶような声から覚悟を感じた私は、身を翻してボスに向かって飛んだ。彼女も色々と強化していたし、本人の言うような足手まといでは決して無い。


 しかし、それでもあの数は厳しいだろう。ボスとの戦いを控えている手前、最大魔力が減少する【召喚術】は使えない。今の人員だけでどうにかして貰わねばならないのだ。


 苦しい戦いになるだろうが、なるべく早く決着をつけて戻って来る。それまで頼むぞ!



◆◇◆◇◆◇



「ゲコッ!」

「ゲローッ!」


 イザームは行ったみたいです。これであっちは大丈夫でしょう。あの人は自分で思っているよりもずっと強いですから。


 それよりも問題はこっちです。蛙人(トードマン)は私でも倒せる位の強さしかありませんが、数が多すぎて手が足りていません。このままでは時間稼ぎしかならないでしょう。


 なのに私がイザームに向こうの救援に行って貰ったのは、私にも意地があるからです。私はアイテムやポーションを作って皆に貢献していますが、戦いでは足を引っ張り気味です。皆、戦うのが大好きですから。


 そんな四人が仲間なんですから、私だって少しは戦いで役に立って見せたい。そう思ったんです。


「捕縛!そのまま、締める!」

「ゲァ!?」

「ギュゲ!?」


 四人程じゃ無いですけど、私も蛙人(トードマン)を倒すのは手慣れて来ました。その方法の一つが『捕まえて締め上げる』、です。そして…


「重撃!」

「ゲボァ!?」


 二つ目が木槌を使って【槌術】の武技、重撃を使う事です。重撃は普通なら振りが大きくて当たりにくいんですが、人間とは違って関節が無い私なら触手をしならせて軌道修正出来ます。ホーミング木槌ですね。


「飛連斬!」

「ゲゴゴ!?」


 三つ目が鉈を使った【剣術】です。源十郎のように急所を正確に狙ったりは出来ませんが、十分です。仕留め切れなければ他の触手を使えばいいんですから。


「三連投、剛投!」


 そして四つ目が私自作の投擲武器やイザーム謹製の錬金アイテムです。一つ一つの威力は大したこと無いですが、数が違いますよ。


 何と言っても、これらは私とイザームが僅かな時間を見つけては能力(スキル)のレベル上げのためにコツコツと作ってきた物。ストックはまだまだあるので、大盤振る舞いです!


 触手による攻撃、木槌、鉈、そして投擲アイテム。これが私の戦い方です。生産系の能力(スキル)を全て網羅するためにこれまではあらゆるSPを注ぎ込んでいましたが、前のイベントで手に入れたSPは逆に全て戦闘用に注ぎ込みました。


 触手を強化する【筋力強化】、これまでは振り回すだけだった木槌と鉈の武技を使う為の【棍棒術】と【剣術】、そしてアイテムを正確に、そして武技を絡められるように【投擲術】。まだまだ能力(スキル)レベルは低いですけど、何とか戦えています。能力(スキル)を取っておいて正解でしたね!


「ぐあっ!」

「この、蛙がぁ!」


 ううっ!予想はしていましたが、蜥蜴人(リザードマン)に怪我人が増えて来ましたね…。ですが、四人に近付ける訳にはいきません。どうにか、耐えきらないと!


「戦士頭さん!私が前に出ます!その間に立て直して下さい!」

「あ、アイリス殿!?お待ちを!」


 蜥蜴人(リザードマン)のリーダーである戦士頭さんの制止を振り切って、私は前に出ます。岩触手(ローパー)は本来、高い防御力を活かして攻撃を耐えながら触手を巧みに操って敵を倒す種族(レイス)です。そして極めてタフ且つ重い身体を持っています。


 ええ、重いんです。五人の中で私が一番重いんです。そ、それはいいんです!いえ、女の子としてはよくありませんが!と、とにかく!私は盾役に向いているのですよ!


 ですが、種族的な欠点として動きの鈍さがあります。このせいで私達の行軍速度は私に合わせる形にならざるを得ませんでした。しかし、今は違います!


「とうっ!」

「ゲロ?」


 私は触手を伸ばして蛙人(トードマン)の近くにあった家の柱を掴むと、ちょっとだけジャンプしてから思い切り引っ張ります。すると、敵の方に一気に近付けるのです!


「ゲ、ゲロ!?」

「ええい!」


 一気に間合いを潰して近付いた私は、その勢いに任せて蛙人(トードマン)に体当たりをします。私の瞬間速度は陸上の短距離選手並みらしく、その速さで岩のような外殻と五人の中で一番重い私の体重がぶつかればどうなりますか?


「ゲギャ…」

「ゲロ!?」

「ゲココ!?」


 まさに轢かれた蛙の出来上がりです。しかも突然素早く動いて自分達のど真ん中に飛び込んできた私に驚いていますね。この隙を突きます!イザームのやり方の真似です!


「えいやぁ!」


 私を中心として触手と武器が竜巻のように暴れまわります!一匹も多くの蛙人(トードマン)を倒さなくては!


「ゲロァ!」

「うぐっ!」


 ああっ!私の触手の一本が斬られてしまいました!切ったのは当然、戦蛙人(ウォートードマン)です。流石は上位種族、戦闘職ではない私の攻撃程度なら対応して来ますか。


 ですが、私は退けません。皆がボスを倒すまで持ちこたえると決めたのです。絶対にボスには合流させませんよ!

 歌や音を使うキャラっていいですよね。何だか優雅な感じがします。


 補足ですが、別に歌声での味方強化は蛙人の専売特許ではありません。

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【推敲】 「仲間方々の所へ!」 ⇩ 「仲間の方々の所へ!」 【誤字報告】  四人程じゃ無いですけど、私も蛙人トードマンを倒すのは手慣れて来ました。 ⇩  四人程じゃ無いですけど、私も蛙人トードマンを…
[良い点] 触手の動きが普段より硬いだろ?緊張している証拠だ。 これは一流の触手鑑定人
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