湖の中の戦争 その二
スミマセン!昨日投稿したと思い込んでいました…
我々は一旦自分達に貸し与えられた家に戻り、準備を整えることにした。消費したポーションの補充と武器・防具の補修と私とアイリスはやることが目白押しだ。
私達二人が作業を開始したのも束の間、突如としてジゴロウが光出した!あ、そろそろ進化のタイミングか。私のレベルが29だから、ジゴロウが30レベルになっているのは自然だろう。
「っあ~!視界が高いぜ!」
進化したジゴロウは更に背が伸びて三メートル近くなり、より筋肉質になっていた。あの腕で殴られたり蹴られたりする敵に同情すら覚えるよ、私は。
しかも今まで禿げていた頭には固そうな金色の剛毛が、そして両方のこめかみからは雄々しく尖った黒い角が生えている。加えて肌の色が真っ赤に、身体に走る刺青は白に近い金色に染まっていた。
うん。刺青を除けば『赤鬼どん』と言いたくなる見た目だな。と言うか、彼の種族は絶対にアレだろう。
「一応聞いておくが、何になったんだ?」
「おう、炎雷狂大鬼だとよ。いきなり長くなってビックリだぜ」
…その明らかに強そうな種族になった感想がそれかい!もっと何かあるだろ!?
「あれ?何で炎が入ってるの?」
「知らねぇ。多分、イベント報酬で貰った奴の効果じゃね?飲み込んだ奴」
まあ、それしか無いだろう。ジゴロウがイベントで貰った武器は物理攻撃マシマシの性能だったし。
「蛙人王だかなんだか知らねぇが、殴り殺してやんよ!」
「意気込みはありがたいがな、無茶はするなよ」
「わかってンよ。鼠野郎の時の失敗は繰り返さねぇ」
ジゴロウは苦々しげに顔を歪めた。油断しないならいい。だからその怒った顔を止めろ!結構怖いぞ!?
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【錬金術】レベルが上昇しました。
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それはそれとして、私は雑談しながらもポーション作りの手を休めてはいない。これまでの探索で得たすべての薬草類を使いきるつもりで錬金していった。
レベルが足りないのか数回失敗したものの、どうにか補充は完了した。あぁ、もう一人でいいから生産も出来る仲間が欲しい。それがダメなら誰か回復魔術を使える人材が欲しい。どちらも高望みか?
では、私も新たな呪文の確認と自分の強化を始めるとしよう。増えた呪文は【降霊術】の悪霊召喚と【邪術】の壊死だ。
前者は私の場合、雑霊召喚の上位互換だ。悪霊は雑霊よりも強く、多少の頭脳もあるらしい。彼らが狙うのは生者のみ。不死である私は狙わないという寸法だ。
ただし!私以外の仲間は容赦なく狙われるので使い所は十分に注意せねばなるまい。私には敵を倒すためなら仲間もろとも、などとは考えていないからな。
もう一つの壊死だが、掛けられた相手の四肢からランダムで選ばれた一本が三分後に強制的に部位破壊する術だ。効果そのものは強力に聞こえるが…三分ってそこまで時間が掛かる戦いのほうが少ないんだよなぁ。
ならボスに使うか?とも思ったが、説明文にボスには効きにくいとある。成功率を少しでも上げるにはまたもや能力レベルを上げなければならない。
くうぅっ!無条件に強いなんてあり得ないのはわかるが、新しい術がどちらも違う意味で試し難いのは悲しいぞ!
気を取り直して、次だ。私自身の強化だな。それは何ぞや、と言われれば【魔力制御】の進化だ。進化先はもう確認している。【魔力精密制御】だそうだ。必要SPは20と中々重たいが、今の私はSP成金だ。躊躇なく取得させて貰おう。
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20SPを消費して【魔力制御】が【魔力精密制御】に進化しました。
新たにの呪文調整を習得しました。
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呪文調整?どういうことだ?ええと…ああ、なるほど!これは面白いな!
呪文調整とは、これまでシステムで定められた大きさと形のものしか放てなかった魔術を弄れるようになる技術らしい。例えば、闇玉を黒い骸骨が飛んでいく見た目に変えたり出来るようだ。
ただ、そんな遊び用にしか使えない能力かと問われればそうではない。魔術を使う際に、消費する魔力を調整することで魔術の威力を変えられるのだ。例えば馬鹿デカイ火の玉を作り出したり、逆に針のような土の槍を作ったり出来るのである。
見た目を弄るのは心惹かれるが、今は無視!今すぐに必要なのは魔術の威力を高められる効果の方だ。無制限に上げられる訳ではないようだが、一撃を重たくする必要に駆られた時に重宝するだろう。
それにしても、今日だけでSPを50近くも散財してしまったな。しばらくは貯めておこう。また有用だけどSPを大量消費する能力が出てくるかもしれないからな。
さて、私に出来る準備がもう無いな。ならば他の者達の準備金が終わるまで休憩しておこう。これからは今まで以上の激戦が待っているに違いないのだからな。
◆◇◆◇◆◇
今、私は空を飛んでいる。俯瞰視点から索敵を行っているのだ。今のところ、敵影は無い。
現在のゲーム内時刻は午前零時を回った所だ。深夜である。もうとっくに太陽は沈み、月と星の明かりだけが闇夜を照らしている。これが進軍中でなく、更に現実であったなら月見酒と洒落混みたい所だ。
現在、我々は夜襲をかけるべく進軍していた。蜥蜴人の用意が整うまで思ったよりも時間がかかったので、我々が一度ログアウトして夕食と風呂ないしシャワーを済ませて戻る時間があった位だ。心身共にリフレッシュし、更に現実に肉体にエネルギーも補充出来た。万全の態勢である。
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イザーム:こちら空中、異常なし。
ルビー:こちら水中、異常ありません!
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眼下の仲間とは久しぶりにパーティーチャットを使って連絡を取り合っている。これを最後に使ったのは、皆の【言語学】レベルが一定まで上がる前だったか?本当に久しぶりにだな。
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ジゴロウ:こっちは問題発生。アイリスが船酔いした。
ルビー:ええΣ(Д゜;/)/自分で造った船なのに!?
源十郎:元々、乗り物酔いしやすい体質だそうじゃ。
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この会話からわかる通り、空を飛べる私と水中を泳げるルビー以外の三人は、アイリスが急造した筏に乗っていた。蛙人の巣まで三人を運ぶことしか考慮していなかったのが悪かったらしく、凄く揺れている。そりゃあ船酔いするわ。
けど、辛抱して貰うしかない。あともう少しなのだ。頑張れ!
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アイリス:い、いつか、絶対に揺れない、船を、造って、みせますぅぅ…!
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そ、そうか。ゲームだし、造れると思うよ…?
◆◇◆◇◆◇
「ゲコゲコ!」
「ゲロゲーロ!」
蛙人の巣、その大母蛙が使っていた一室の付近は今、蜂の巣をつついたような慌ただしさであった。原因は大母蛙が何者かに殺されたこと…ではない。
勿論それも問題であったが、今は何よりも重要な御方へ捧げる供物の用意に奔走しているのだ。
「ゲロロ!」
「ゲコォ!」
体格のいい一匹のオスが両手で抱えるほど大きな虫を山盛りに乗せた箱を抱えて走ってくる。部屋の前にいた別のオスは急かすように手招きしていた。
「ゲコ、ゲロ…!」
ジャッ…バリバリ…クチャクチャ…
そのオスが箱を部屋に入れようとした瞬間、彼には視認出来ない何かが高速で箱をひったくる用にして奪われた。その数秒後、室内からは汚い咀嚼音が聞こえてくる。
「ゲロォ…」
普通なら呆然としそうな光景だったが、そのオスはむしろ安堵のため息を吐いていた。これで一安心だ、と。
だが、まだまだ足りない。まだ目標の半分にも届いていないのだ。自分達は後何回、この作業を繰り返さねばならないのだろうか。それを考えると気が遠くなるのだった。
「ゲロッ!ゲロロォ!」
「ゲコッ!?」
余計なことを考えていた時、外から敵襲を報せる叫びが聞こえてきた。相手は十中八九、忌々しい蜥蜴共だろう。なら、大母蛙を殺したのも奴等か?
そう考えると腸が煮えくり返る思いだ。必ずや返り討ちにしてくれよう!
ゴアアアアアア!!!
「ゲ、ゲロロッ!?」
今の恐ろしい咆哮は一体何なのだ!?あんな声を出せる蜥蜴など聞いたこともが無い。敵は蜥蜴ではないのか?
混乱した古参の蛙人は、しばらくの間呆然と立ち尽くすのだった。
◆◇◆◇◆◇
「ゲロッ!ゲロロォ!」
「ちっ、気付かれたか」
ある程度近付いたところで蛙人の見張りに気付かれたらしい。水中を移動する蜥蜴人はともかく、水面に浮かぶ筏は流石に目立つか。
しかし、見つかったならもう遠慮はいらない。思い切り暴れてやればいいのだ!
「よし、派手にやるぞ」
「おっしゃ!ゴアアアアアア!!!」
ジゴロウが雄叫びを上げながら筏から跳躍し、蛙人の巣に特攻する。一人で正面から突撃するなど無謀に思えるかもしれないが、今に限っては全く問題ない。
「ゲ、ゲゲッ…!」
「ゲ…コ…!」
ジゴロウの持つ【威嚇】が進化した【咆哮】という能力がある。人類にも【威圧】という似た能力があるらしいが、今はいいだろう。
とにかく、彼の【咆哮】は音を聞いた相手を確率でスタンさせる能力だ。同格ないし格上には効かないことも多いらしいが、格下、それもレベルが半分以下の相手はほぼ確定でスタンさせられるそうだ。
蛙人の一般兵のレベルは12~15だったのを覚えているだろうか?つまり、【咆哮】の効果は絶大ということだ。
「ははははは!雑魚がァ!」
ジゴロウは上機嫌でスタンした蛙人達を殴り飛ばしていく。腕を一振りする度に蛙人が複数まとめて吹き飛んでいる。
気持ち良さそうに暴れるなぁ。まあ、私も攻撃させて貰うがね。
「飛斬、雷矢、飛斬、雷矢」
「ゲェ!?」
「ゲゴッ…!」
【鎌術】の武技と弱点である【雷撃魔術】を連射する。このセットでレベル18の蛙人までは確殺できることはもう覚えた。私がこれまで何体の蛙人を倒してきたと思っているんだ?
「うおおおお!骨の龍様達に続けぇぇぇ!」
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
蜥蜴人達も戦闘に加わり、弱い蛙人が奥からワラワラ出てくるも逆に押し込んでいく。やはり、こちらの数が多いと楽だな!
「ゲロッ!ゲロゲロォ!」
「ゲゴォ!」
おっと、あれがルビーの言っていた体格の良い蛙人か。それに杖を持った奴も一匹いるが、魔術師か?確かに強そうな見た目だな。【鑑定】してみよう。
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種族:戦蛙人 Lv21~26
職業:戦士 Lv1~6
能力:【舌】
【槍術】または【斧術】
【投擲術】
【筋力強化】
【敏捷強化】
【水棲】
【暗視】
【粘液】
【雷属性脆弱】
種族:蛙人魔術師 Lv25
職業:水術師 Lv5
能力:【舌】
【杖】
【土魔術】
【水氷魔術】
【風魔術】
【知力強化】
【水棲】
【暗視】
【粘液】
【雷属性脆弱】
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ほほう?戦蛙人に蛙人魔術師か。戦蛙人は普通の蜥蜴人よりは強いが、戦蜥蜴人よりは弱い。
そして蛙人魔術師だが、進化した能力を保有している。魔物にしてはやるじゃないか。しかし、私の敵ではないな!
「呪文調整、星魔陣展開、雷矢!」
「ゲガガガガ!?」
私は新たな技能である呪文調整により、今可能な限界まで強化した雷矢を五発分叩き込む。五本の雷が束になり、一本の太い光条と化して突き刺さる。その一撃は、見事に蛙人魔術師を即死させた。
「ふん、他愛もない」
「ほっほ!これは負けておられんの!」
源十郎は持っている大太刀、打刀、そして脇差しの全てを抜き放つ。これは腕が二本よりも多い種族だけが取得できる【二刀流】の進化した能力、【多刀流】だ。
この【能力】は武器を二本以上使う場合、攻撃力に補正が加わるのだ。源十郎は四本ある腕の内、一本に打ち刀と脇差しを、残りの二本で大太刀を握る三刀流スタイルを確立していた。
「ゲコァ!」
「ゲギュ!?」
「ゲロゲェ!?」
三本の刀が一振り毎に戦蛙人を斬り殺していく。ほぼ全ての斬撃が、正確に急所を抉っているからこそ出来る離れ業だ。
戦況は有利に動いている。まあ、夜襲かつ奇襲で序盤から敗色濃厚だと悲し過ぎるのだが。
「ゲェガアロォアアアアアアア!」
うっ!?ジゴロウと同じかそれ以上の【咆哮】だ!我々は大丈夫だったが、蜥蜴人の数人がスタンしているぞ。声と共に内側から爆発したかのように奥の屋敷の天井が吹き飛んだ。やはり強敵が居たか!必ず討ち取ってみせるぞ!




