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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十二章 深淵の決戦
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侵塩の結晶窟 その二

 結論から言うと、ルビーによるバックヤード探索は非常に実入りが良かった。バックヤードはほぼ手付かずだったようで、無数のアイテムが得られたのだ。


 どうやらこのフロアは飲食店が集中していたようで、オシャレな食器や家具が大量に置いてあった。生鮮食品は長い時間で腐敗を超えて完全に風化して消滅していたらしい。だが、残っている上に食べられるかもしれない食糧も存在していた。


「これが古代の缶詰ねぇ?」

「どうやって開けるんすか?」


 それは保存食品の一つ、缶詰である。飲食店なのに缶詰が何故あったのか不思議だが…まあ缶詰バーなどもあるしその類の店があったのだろう。


 古代の缶詰は白い陶器のような円筒形になっていた。剥がれたラベルの痕跡が残っているが、プルタブなどはない。缶切りで開けるのだろうか?そんなことを考えながら【鑑定】を使ってみた。


ーーーーーーーーーー


加工肉ビーフシチューの缶詰 品質:劣 レア度:R(希少級)

ビーフシチューの缶詰。

農業プラントで生産された豆類によって作られた代替肉が用いられている。

管理された農業プラントの上質な素材によって高品質に仕上がっている。

経年劣化によって容器は劣化しているものの、中身の状態は保たれている。


ーーーーーーーーーー


 農業プラントの代替肉って、大豆ミート的なモノなのか。古代では代替肉は一般的だったのだろうか。そして本当に食べられるらしい。劣化しているのはあくまでも缶詰の容器だけであって、中身は無事なのだという…本当か?


 幸いにもと言って良いのかは微妙だが、私は飲食不能なアバターであるが故に毒見役にならずにすんだ。それ以前に開け方が分からないので、持って帰ってアイリスやマキシマ達になんとかしてもらわなければならないだろう。


「缶詰も興味深いが、それ以上にこのパーツは掘り出し物だな」

「うむ。トワに使えるかもしれんからの」


 だが、面白いだけのアイテムである缶詰よりも有用なアイテムもある。その代表が魔導人間(アンドロイド)のパーツであった。どうやら古代では生活の一部として魔導人間(アンドロイド)が浸透していたらしく、修理用のパーツがどの店のバックヤードにも置いてあったのだ。


 それらを回収しておけば、トワに不具合が生じた時に使えるだろう。余剰分を研究区画の連中に預ければ、プレイヤーメイドな魔導人間(アンドロイド)が製作出来るかもしれない。夢が広がっていくな!


「粗方回収はしたから、下のフロアの探索に向かおう。ルビー、どうだった?」

「あ、そう言えば話してなかったっけ。えっと、一つ下もテナントが並んでるってところはここと同じだよ。ただ、徘徊してる塩獣(ソルティア)の数は多いかな。五十くらいいたもん」


 五十か…確かに多いな。このフロアでは戦闘にならなかったから良かったものの、室内という閉鎖空間で塩獣(ソルティア)と戦うのは面倒だ。全員が侵塩を浴びることを前提としておく必要があるだろう。消耗を強いられることをわかった上で降りるというのは気が進まないなぁ。


 しかしながら、先程の作業めいた戦いを思えば苦戦するほどでもなさそうだ。少しだけ憂鬱ではあるが、降りないという選択肢はない。私達は一つ下のフロアへと降りるべく、ルビーの先導に従って吹き抜けに生える侵塩に結晶を伝って行った。


「うむうむ、ウジャウジャとおるのぅ」

「…言ってた数より多くない?」

「絶対増えてるよ。下から上がってきたのかも」


 いざ下に降りてみると、塩獣(ソルティア)の数は倍近くにまで跳ね上がっていた。この数の違いを見間違えるはずもなく、ルビー本人も言っている通り増えたのだと考えた方が良さそうだ。


 これはどうしたものか…ある意味、今日の目的は既に果たされつつあると言っても過言ではない。内部は複数のテナントが入っているショッピングモールであり、通風孔などからバックヤードに侵入すれば高い確率で古代のアイテムが入手出来ることはわかったのだから。


 具体的に何階あるのか、またどんな店があるのかは全くの不明ではある。しかし、それを調べるのが本格的な探索というものだろう。やはりここは無理に戦わず、一時撤退を…あ。


「メッチャこっち見てないっすか?」

「…今からでも気のせいってことにならないか?」

「なる訳ないでしょ」

「くっ、来るよ!」


 吹き抜けの上の方から階下を見ている私達に、塩獣(ソルティア)は気付いてしまった。戦うことになっても良いと慢心し、気配を消す努力をしなかったことが原因だ。私達は慌てて上階へと逃げた…おっ、追ってくるぞ!?


 塩獣(ソルティア)達は緩慢とした動きで追ってくる。追い付かれることはないと思うが、無数の塩獣(ソルティア)が蠢いている様子は怖気が走る光景だ。しかも数体は私達目掛けて塩弾を発射してくる。相変わらず連係が取れているのか取れていないのか分からない連中だ。


 勢いのまま外に出た私達だったが、ここでも二つの選択肢を選ぶことになる。一つ目の選択肢は今すぐに『侵塩の結晶窟』から退避すること。そして二つ目の選択肢は外という開けた場所で迎撃することだ。


 前者はリスクもないが、得られるリターンもない。後者は大量の塩獣(ソルティア)と戦うリスクはあれど、下のフロアを調べられるという大きなリターンもある。私はこのリターンに惹かれている自分に気付いていた。


「…撤退しよう。あの数が合体する可能性がある」


 しかしながら、その誘惑を理性で断ち切った。その理由は以前にここを訪れた時に見た塩獣(ソルティア)が一つに集まった姿を見ていたことだ。


 仮に追いかけてくる全ての塩獣(ソルティア)が全て融合してしまったら、とんでもない強さになるのではないか?その疑念が頭をよぎっていたのである。私達は冷静に撤退を開始した。


「…うげっ!?なんすか、あのでっかいのは!?」

「マネキンみたいだね」


 私の懸念は的中していたらしく、私達が去った後の『侵塩の結晶窟』には身長十メートルを超える塩獣(ソルティア)が仁王立ちしていた。動きはこれまで通り緩慢だったとしても、あの大きさはそれだけで脅威だ。これまで巨大だったのに弱々しい魔物になど遭遇したことはなかったからだ。


「男っぽいけど塩製の大きな人型って…空から赤い(ドラゴン)でも降ってきそうだわ」

「ん?どういう意味じゃ?」

「さあ、わからん」

「…忘れてちょうだい」


 兎路が不思議なことを口にしたが、私と源十郎どころかルビーとシオまでも意味がわかっていなかった。きっと何か元ネタがある話なのだろうが、誰にも伝わっていなかった。本人が忘れろと言っているし、これ以上突っ込むのは止めておこう。


 しかし困った。今のように巨大化して迎撃されたら探索どころの騒ぎではない。何か対策を講じなければなるまい。一番簡単で確実なのは人数を集めて物量で攻略することだろうか。


「しばらくは何か対策ができないか調べるしかあるまい」

「うむ、そうじゃな」

「地道な調査ってしんどいけど、やるしかないかな」


 とりあえず『侵塩の結晶窟』の内部について少しだけ事情がわかったところで、私達は妖人(フィーンド)の住む遺跡に向かった。それからすぐに戻ってしまったので、あそこから適当に魔物を狩ってアイテムでも集めようという話になったのだ。


「おお?イザームじゃねぇか。随分早く切り上げたんだな?」


 一度寄った遺跡には先客がいた。それはマック達『不死野郎』である。彼らはまさに今から探索に向かうという様子であった。


 ならば、今の『侵塩の結晶窟』の状況を知らなければそっちに行ってしまうかもしれない。知っていてそれを放置する訳にはいかない。私は早速忠告しておくことにした。


「ああ。『侵塩の結晶窟』で()()()目に会ったからな」

「マジかよ。今から行くつもりだったんだが…何があったのか教えてくれよ」


 マックに頼まれるまま、私は何があったのかを要点をかいつまんで語る。どうやらちょうど『侵塩の結晶窟』に行く予定だったらしく、彼は私の説明を真剣に聞いていた。


 話し終えたところでマックは難しい顔になって腕を組んだ。今すぐに『侵塩の結晶窟』に行くことは危険だとわかっていても、今まさに行こうとしていた場所なのだ。出鼻をくじかれた形になって気分が良い訳がないだろう。これは私達の失態とも言え、申し訳ない気持ちになった。


「行くつもりだったのに、一気に行く気が削がれちまったぜ…」

「狙ってやったことではないが、本当に悪かった。今度行く時は『溶岩遊泳部』や『八岐大蛇』を誘って皆で攻略しよう」

「おいおい、集まるんならその前にやることがあるだろ?」

「やること…?ああ、千足魔(キィラプス)へのお礼参りか」

「その通りだ。やらかしたことの落とし前はキッチリ付けさせてもらうぜ」


 千足魔(キィラプス)によって獲物を横取りされたマック達は、彼らへの報復するつもりでいる。プレイヤー全体にナメた態度を取られるのは我々全体の不利益となるのだから、報復については私達も基本的に同意であった。


 その計画や予定を立てるのはマックが主導するということで改めて同意した後、私達は別方向へと探索に向かう。海巨人(オケアス)方面は一直線に話が進んでいるのかもしれないが、こちらは色々とイベントが起こっている。全く退屈しないな、と私は内心で笑うのだった。

 次回は4月8日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんで最後の最後で音ゲーになるんだあれは…
[一言]  マルチバッドエンディングさんネタは、吹いた  まだ、赤さんじゃないから良いかなぁ
[一言] 戦っていたらマルチバッドエンディングだったのだろうか・・・
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