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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第二十二章 深淵の決戦
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侵塩の結晶窟 その一

「おぉ〜!ポロポロ落ちてるっす!」

「面白いほど効くのぅ」


 塩獣(ソルティア)との戦闘が終了した後、侵塩を浴びた源十郎と兎路は早速中和剤を身体に振り掛けた。すると皮膚の表面に張り付いていた侵塩の結晶はポロポロと落ちていく。中和剤はちゃんと効果を発揮したようだ。


 これがなくならない限り、今まで遭遇した塩獣(ソルティア)程度ならば倍の数が相手でも消耗は最小限で済むだろう。優秀な生産職に支えられていると実感する瞬間である。


「ザッと見てきたよ。出入り口は一つだけっぽいね。見張りとかはいないから、今なら入れるよ」


 周辺の斥候に出ていたルビーだったが、すぐに戻ってきて報告した。侵入する機会を逃す訳にはいかない。治療も終えたところで、我々は彼女の先導に従って入口へと向かう。そこは侵塩の()()()()めいた見た目の場所であった。


 慎重に入口をくぐると、そこは侵塩の結晶が石筍のように生える階段が続いている。やはりここも古代の施設だったのだろう。海上の部分はきっと屋上だったのだ。


「ほう…」

「広っ!?」

「へぇ?かなり深いのね」


 階段を降りた先は、侵塩がそこら中に生えた広い空間であった。どうやらここは古代のショッピングモールか何かだったらしい。中央が吹き抜けになっていて、フロアは全てドーナツ型になっている。円形の廊下にはテナントだったのだろう部屋が並んでおり、そこは無数の侵塩の結晶が乱立していた。


 塩獣(ソルティア)達は我々に気付いていないのか、私達を襲ってこない。そこで私達はそっと吹き抜けの下を見下ろしてみた。


「…下が見えないわね。結晶だらけじゃない」

「しかし、お陰で足場には困らんじゃろう。ここから降りられそうじゃぞ」


 吹き抜けを上から見下ろしたのだが、底が見えることはなかった。何故なら、フロアから吹き抜けへと突き出すように生える侵塩の結晶によって蓋をされていたからだ。


 ただし、源十郎の言うようにこの結晶を足場にして下へ降りられそうではある。階段などの降りる方法がなかった場合、吹き抜けを降りていくことになりそうだ。


「ルビー、敵の反応は?」

「このフロアにはいないよ。採取するなら今の内だね」


 クランでも最大の索敵範囲を誇るルビーがそう言うのならば間違いはあるまい。私達は少しだけ緊張の糸を緩めながら最も近くにある部屋へと入った。


 古代の遺跡ということもあって何かアイテムがあるかと期待していたのだが、残念ながら特筆するべきアイテムは何一つ存在しなかった。代わりにあったのは部屋を埋め尽くす大量の侵塩の結晶と干からびた魔物の残骸だけである。


 塩獣(ソルティア)によって捕食された魔物の出涸らしであろう残骸は最低品質のアイテム扱いだった。栄養分を余すことなく全て吸い取っているということかもしれない。


「今日分だけで塩は一生分集まりそうな雰囲気じゃない?」

「流石に足りないんじゃないっすか?おすそ分けも必要っすから」


 侵塩の結晶の大きいモノには採掘ポイントがあり、そんな結晶は一部屋に数個存在した。そこを削って回収していくと、最上階のワンフロアだけで大量の侵塩を入手することが出来た。


 これだけあれば中和剤を大量に作ることが可能だろう。これを持ち帰るというのも一つの方針だが…まだ中和剤は一回しか使っていない。残りが半分を切るまでは探索を続けよう。


「エレベーターは…ダメそうね」


 最上階の探索が終わった私達は、下の階へ降りる道を探し始めた。すぐにエレベーターだろうと思われる両開きの扉を見付けたのだが、そこにはビッシリと侵塩の結晶が生えていた。


 最も大きな隙間ですら、私の骨だけの腕すらも通らない。こんな隙間しかないのなら、とてもではないが降りられないだろう…一人を除いて。


「ボク一人なら行けそうだね。先行してちょっと偵察してくるよ」

「言われなくてもわかっていると思うが、油断をするなよ?」

「はいはーい」


 粘体(スライム)のプルプルボディは小さな隙間であってもスルリと入り込める。ルビーは隙間の中へと音もなく侵入して行った。


 ルビーが戻って来るのを待つ間、手持ち無沙汰になってしまったな。もう一度、フロアを探索してみるか。ルビー曰く隠し扉の類はないようだが…暇だからなぁ。


「そう言えば、バックヤードはどこにあるのかしら?」

「バックヤード…と言うとあれか。関係者以外立ち入り禁止的な部屋か」

「そう、それ。お店のテナントそれぞれにあるのが普通でしょ?それがどこにもなかったのって、変じゃない?」


 兎路がふと思い出したかのようにバックヤードの話題を出した。彼女の言う通り、テナントにはバックヤードが付き物ではある。それが目に付かなかったのは確かに奇妙だ。


 古代は高度な技術が用いられていたようだが、それであっても品物の備蓄を置いていないということはないだろう。バックヤードはきっとあったはずだ。


「しかし、ルビーは隠し扉などないと言っておったぞ?」

「別に隠してないからじゃない?バックヤードに続く扉って、案外隠されてないでしょ?」

「ってことは…あぁっ!?ここ!見て欲しいっす!」


 源十郎の反論にも兎路は慌てることなく答えを返した。兎路の意見に一理あると思ったシオが注意深く壁を観察していたシオは、大きな声を上げて私達を呼んだ。


 彼女が指差した先には大きな侵塩の結晶があるだけに思える。だがシオの言うようにじっとそれを見つめると…結晶の奥に部屋に続くドアの外れたドア枠が見えたのだ。


「なるほど。侵塩が蓋になっていたのか」

「侵塩は黒っぽいから、透明度が低い結晶の向こうにあるドア枠は見えなかった。しかも誰かが意図して隠した訳じゃなさそうだから能力(スキル)も反応しなかった。こんなところじゃない?」

「お手柄っすよ、兎路さん!」

「お手柄はシオも同じじゃろうよ」


 兎路がふと抱いた疑問から、未発見の部屋の存在が明らかになった。それは紛れもなく兎路とシオの手柄と言える。そこに口を挟むつもりはなかった。


 ただし、まだ問題は残っている。それも根本的な問題が。それは何かと言うと…


「見付かった喜びに水を差すのは憚られるのだが、どうやって入るんだ?」

「「「あ…」」」


 そう、問題はどうやって入るのかだ。バックヤードへの入り口は見付けたが、それが塞がっているのだ。どちらにせよ入れないのだからどうしようもない。私の単純な指摘に三人は今気付いたらしい。灯台下暗し的な盲点となっていたようだ。


 さて、どうにかして入る方法を探すとするか。私達は再び壁や床などを注視する。何かないかと探していると、今度は源十郎が声を上げた。


「ここなら行けるのではないかの?」

「ああ、通風孔か」


 源十郎が発見したのは天井近くにある通風孔だった。バックヤードに続くドアと同じく蓋は外れているものの、代わりに侵塩の結晶が蓋をしていた。


 確かにこの通風孔ならばバックヤードどころか他の部屋にも行けるに違いない。だが、ここから何かをしてもらうにはルビーの粘体(スライム)ボディが必要だ。結局、彼女が偵察から戻るまで手分けしてテナントを調べながら待たなければならなかった。


「おまたせ〜って、どうしたの?」

「ああ、実はな…」


 他にも行く方法がないかと調べていると、下のフロアを調べていたルビーが戻ってきた。私達が分かれて一度調べたはずのテナントを調べていることに疑問を持った彼女に、私は事情を説明した。


 するとルビーは無言でべチャリと地面に広がってしまう。これは人で言えば膝を着いてガッカリしている時のポーズであろう。どうしてそうなったのかは…説明不要であった。


「うぅ…本来ならボクが気付かなきゃならないことなのに…」

「そう落ち込むな。能力(スキル)の穴を突かれたようなモノだろう?」

「ううん。斥候系のには通れる道を示してくれる能力(スキル)があるんだ。それを使えば一発だったのに…」


 ルビーは自分ならば簡単に見つけられるはずの通路を見逃したことに打ちのめされているらしい。状況が状況だけに個人的には気にする必要はないと思ったのだが、ルビーはそう捉えなかった。


 こうなったら私の言葉は届かないだろう。私は源十郎とシオに目配せして彼女のフォローをするように頼んだ。だが、二人が動く前にルビーはその形状を普段の状態へと戻った。


「よし!こうなったらこのフロアの全部のバックヤードを調べてやる!」


 力強く宣言したルビーは、二人の説得など聞く前に源十郎が見付けた通風孔へと突入する。落ち込んでいたルビーだが、自分で立ち直ることが出来たらしい。ポジティブなのは間違いなくルビーの美点であった。


 通風孔へと突入していったルビーを見送ってから、手分けして他のテナントの通風孔を探す。源十郎が見付けた辺りを探せばすぐに見付かった。テナントなのだから構造がほぼ同じなのだから楽なものだ。


 ルビーがバックヤードの探索を終えるのに時間が掛かっているらしい。それは逆説的に時間が掛かるような何かがあると言うこと。私達は期待しながら彼女の帰りを待つのだった。

 次回は4月4日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これルビー居なかったら大変だっただろうな。
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