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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第五章 湖の死闘
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蛙人の縄張りにて

「で、ここよりも北に向かうと蛙人(トードマン)の縄張りになるわけだな?」

「はい、そうなります」


 我々は初遭遇した蜥蜴人(リザードマン)の漁師に案内されて湖畔の中程まで進んでいた。少し歪んだ円形である湖の真ん中から少し北までが蜥蜴人(リザードマン)の縄張りらしい。


 その領域で狩猟と採集を行って生活しているのだと言う。蛙人(トードマン)も似たような生活をしていて、更に食べるモノも被っているらしく、故にこれまではお互いに縄張りを意識し合って余計な争いに発展しないようにしてきた。


 なのに今回の騒動である。絶対に何らかの問題が発生しているのは確かだろう。それが何なのかを調べるのが、今回のクエストだからな。


「案内をしてくれてありがとう。気を付けて帰ってくれ」

「お気遣い、ありがとうございます」


 万が一の事態に備えて、彼にはここで離脱してもらう。ここから先は何時戦闘が起きるかわからないからな。危ないし、上手く連携が取れない相手と一緒に戦うのは難しいだろう。


「帰ったか…それにしても、NPCをパーティーに加えられるとは知らなかった」

「そんな機会がありませんでしたからね」


 しかし、何よりも驚いたのはNPCをパーティーに加入させられる事だ。これまでマトモなNPCと会話する機会が無かったから知らなかったが、双方の同意があればNPCをパーティーに入れる事は可能であるようだ。


 この辺りのシステム的な仕様は掲示板に載っているのだろうが、興味が無かったので無視していた。何とも間抜けな話である。


「しかし、蛙人(トードマン)かぁ…強ェといいがな」

「残念だけど、蜥蜴人(リザードマン)よりも弱いって話だよ」


 実際に蜥蜴人(リザードマン)から聞き取り調査を行ったところ、一対一かつ進化の段階が同じならば確実に蜥蜴人(リザードマン)が勝つそうだ。唯一気を付けるべきは【奇襲】だが、逆に言えば正面きっての戦いだとそこまで脅威にはならないと言う意味である。ジゴロウが満足するような戦いには成りにくいだろう。


「チッ、つまんねェな」

「これこれ、そう言うでない。ならばこそ異常の根源への期待が強まるじゃろう?」

「まぁそうだけどよォ…」


 文句を垂れるジゴロウを、源十郎は宥めるように諭している。いやいや、アンタはそれを期待してるだけだろう?


 こ、これでもし異常の原因が大して強く無かったらジゴロウは暴れだすんじゃないか?ボスよ、どうか我々が程よく苦戦する程度に強くあってくれ。私は切実に祈ることしか出来ない。


「あ、何かいるよ。警戒して」


 そうこうしている内にルビーが何かを発見したらしい。もう蛙人(トードマン)が現れたのか?


「そこっ!」


 ルビーは体内に収納していた投げナイフを取り出すと、泥の中に向かって投げつける。先制攻撃を仕掛けたが、どうなる?


カン!


 しかし、ナイフはアッサリと弾かれてしまった。盾か何かを持っているのか。しっかりと武装している…いや、違う。あれは蛙人(トードマン)では無いぞ?


――――――――――


種族(レイス)泥田螺(マッドスネイル) Lv10

職業(ジョブ):なし

能力(スキル):【殻】

   【地魔術】

   【水魔術】

   【射出】


――――――――――


 泥から出てきたのは、馬鹿デカイ田螺(タニシ)だった。そう言う魔物もいるんだな。ハッキリ言ってかなり弱いし能力(スキル)も大したものを持たないが、殻は相当硬いらしい。【投擲術】を持っているルビーの投げナイフで傷一つ付いていないのだから。


 上手く殻を壊さずに倒せれば、素材として手に入るかもしれないな。何となくだが、ひっくり返してやれば簡単に倒せそうな気もする。ここは私が闇腕(ダークアーム)を使って…


「面白ェ!俺の拳で砕けるか、試してやらァ!」

「ちょ!」


 そんな私の考えを伝えるよりも先にジゴロウが動いた。どうやら、硬い相手に興味津々なご様子。それを砕けるかどうかを試してみたくなったのだろう。


 けど!待って!私は殻を壊さずに倒す方法を考えていたんだぞ!?


「オッラァ!」


ミシィッ!


 ジゴロウの右ストレートが殻に突き刺さる。それによってヒビが入ったものの、砕くには至らなかった。


 何と、耐えたと言うのか!驚く程に硬いのだな!


「しゃらくせぇ!」


バキャッブチュッ!


 だが、流石にヒビの入った状態では二発目を耐えられなかったらしい。ジゴロウの左手による追撃によって、泥田螺(マッドスネイル)の殻は無惨にも砕け散り、さらに殻を砕いた勢いのまま内臓部分を潰されて絶命した。


「殴り応えのある硬さだったな!」


 ジゴロウが満足したようで何よりですよ、ホント。一応、剥ぎ取ってみますか…って、何も落とさないか。まあ、出たとしても殻は砕けてたし中身はグチャグチャだったしでまともな品質では無かっただろうけど。


「儂も負けてはおられんの。殻ごと中身を切ってくれるわ」

「あの、殻がドロップするかもしれないので出来れば壊さないで倒してくれませんか?」

「な、なんじゃと!?」


 私が言いたかった事をアイリスが代弁してくれた。さすがは生産職、素材の大切さは我々の誰よりも知っているらしい。


 実際、一発とは言えレベル10の魔物がジゴロウの拳に耐えたという事実は驚くべき事である。あの殻がドロップし、それを加工した防具が作れればかなりの性能となるに違いない。その可能性をみすみす逃す手は無いだろう。


「そうだよ、お祖父ちゃん!素材は大切にしないと!」

「むうぅ…」

「はっはっは!残念だったな、爺さん?」


 ルビーに叱られてしょげている源十郎と勝ち誇ったように笑うジゴロウ。おい、お前が笑うのは違うんじゃないか?


「ジゴロウもだよ?」

「ぐっ…」


 凄まじく冷たい声音でルビーはそう言った。おお、あのジゴロウがたじろいでいるぞ!これからは戦闘狂(バトルジャンキー)二人の面倒は彼女に見て貰うとするか。


「ん…また敵だよ。多分、さっきと同じ奴。…わかってるよね?」

「「は、はい!」」


 二人はビシッと直立して答えている。なんだか軍隊みたいだな。さて、今度こそひっくり返して倒してみますかね。多分、これが正攻法っぽいしな。



◆◇◆◇◆◇



 あれから何度か戦闘をこなしたのだが、一向に蛙人(トードマン)とは出くわさなかった。動きが活発になっているんじゃなかったのか?蜥蜴人(リザードマン)の長が嘘を付いていた可能性まであるぞ、これは。


 それはそうと、あれから泥田螺(マッドスネイル)魔魚(イビルフィッシュ)(ローチ)を狩りつつ進んだのでドロップアイテムは入手出来た。魔魚(イビルフィッシュ)(ローチ)は肉とヒゲだけだったが、泥田螺(マッドスネイル)はこんな物を落としてくれた。


――――――――――


泥田螺(マッドスネイル)の貝殻 品質:良 レア度:R(希少級)

 沼地の泥の中に生息する泥田螺(マッドスネイル)の貝殻。

 捕食者から身を守る為、かなりの硬度を誇る。

 加工は難しいが、優れた盾や防具の材料となる。


――――――――――


 思った通り、泥田螺(マッドスネイル)は貝殻をドロップしてくれた。良質な素材が手に入って、アイリスはホクホク顔になっている。…顔は無いので雰囲気であるが。


「しっかし、ドジョウとタニシばっかだな。蛙人(トードマン)なんざ一匹もいねェじゃねェか」

「ああ、そうだな」


 ジゴロウが不満げにそんな事を言う。それに関しては全面的に同意するぞ。蛙人(トードマン)が不振な動きを見せているという話だったのに、縄張りに入って結構経つ我々を見逃しているのには違和感を覚えるぞ。


「…今思ったんですけど、ひょっとして私たちは誘い込まれたんじゃないでしょうか?」

「まさかそんな…いや、あり得るか」


 アイリスがふと気になる事を呟いた。我々は『活動が活発化している』と聞いていたが、実際はそう単純な話では無いのかもしれない。そして彼女の予想が事実なら、私達は敵陣の奥深くで孤立している形となる。これは危険だ。


「よし、一旦引き返そう。仕切り直しだ」

「えぇ~?マジかよ」


 ジゴロウは心の底から嫌そうな声を出す。しかし、この決断を下すには少々遅すぎた。


「!?て、敵だよ!凄い数だ!囲まれてる!」


 ルビーが悲鳴を上げるようにして敵襲を告げる。すると、気付かれた事を察したのか、泥や湖の中から二足歩行の蛙、即ち蛙人(トードマン)が姿を表した。その数はざっと数えただけでも二十は下らない。ヤバいぞ!


「ゲコッ!」

「ゲロォ!」


 蛙人(トードマン)達は声に明らかな敵意と殺意を込めてつつ、此方に突撃してきた。ええい、ままよ!


「迎撃するぞ!」

「待ってましたァ!」


 これからどう動くにしても、この集団をどうにかしないことには始まらない。とにかく、今は戦わねば!



◆◇◆◇◆◇



――――――――――


種族(レイス)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

職業(ジョブ)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

【鎌術】レベルが上昇しました。

【光魔術】レベルが上昇しました。

【召喚術】レベルが上昇しました。

【付与術】レベルが上昇しました。

【降霊術】レベルが上昇しました。

【邪術】レベルが上昇しました。

【言語学】レベルが上昇しました。


――――――――――


 蛙人(トードマン)の領域に踏み込んだ時、私達は異変など無いではないかと文句を言っていた。しかし、実際には想像を遥かに越えた異常事態が起こっていたのである。


「ゲロロロロ!」

「ゲロッゲゴォォォ!」


 二足歩行する蛙としか言い様の無い蛙人(トードマン)達が殺意を剥き出しにして迫ってくる。奴等の言葉も鼠男(ラットマン)と同じでそれに籠められた感情位しか聞き取れない。蜥蜴人(リザードマン)の言葉は普通だったのにな。何が違うんだろう?


「しつけぇ…っつの!」


 ジゴロウの怒声と共に放った拳が、二匹の蛙人(トードマン)を吹き飛ばす。うん、現実逃避はこのくらいにしよう。我々は今、追い詰められているのだから。


 最初の二十匹は既に片付け終わっている。しかし、奴等は数が減ってくると仲間を呼ぶ声を上げたのだ。そのせいで敵の援軍が次々とやって来て、私達は逃げることも出来ずに連戦を繰り返しているのだ。


「ゲコッゲコッ!」

「ゲロォ!ゲゴゲゴ!」


 それからというものかれこれ二十分は休憩なしで戦い続けているのだ。延々と援軍がやってくるので、経験値は溜まってくれるが流石に疲れが見え始めている。ジゴロウが苛立ちを伴った悪態を吐くのも無理も無い。


 それに戦闘続きで肝心の調査は全く進んでいない。そんな余裕が一切無いからな!…ダメだ。ここはやはり退却するべきだろう。


「皆、撤退しよう!これじゃ、埒が明かない!」

「逃げるって、誰が時間稼ぎすんだ!?残った奴は絶対死ぬぞ!」

「殿は私が喚び出す!星魔陣起動、亡者召喚!」


 【降霊術】によって大量の亡者が現世に降り立つ。それらは一体一体は蛙人(トードマン)に劣るが、数では勝っている。我々がやられたように、数の暴力で無理矢理足止めすることは可能だろう。


召喚(サモン)骸骨盾戦士スケルトンシールドウォリアー!そして不死強化(アンデッドブースト)!」


 さらに【召喚術】で防御に優れる骸骨盾戦士スケルトンシールドウォリアーを喚び出して【死霊魔術】で強化する。これが計五体。私の魔力の最大値が一気に半分を切ったが、逃げるための必要経費だ!


「よし、今の内に逃げるぞ!」

「おう!」


 我々は脱兎の如く逃げ出した。私と源十郎は飛行し、移動速度に難があるアイリスをジゴロウとルビーが抱えて全力疾走する。


 こうして第一回の調査ではただただ敵の数が多い事が判明した以外には、何の成果も得られなかった。これは我々に危機感と作戦らしい作戦を無かったのが原因だと思う。次回からはちゃんとした作戦を立ててから挑まなくては!


「これは中々厄介な問題になりそうだな…」


 敵に背を向けて逃げながら、私はそう独りごちるのだった。

 田舎で暮らしていた時、今の時期は夜に蛙が鳴いてうるさかったのを思い出します。なので蛙人はやられ役になってもらいました。


 …冗談です。

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― 新着の感想 ―
【誤字報告】 唯一気を付けるべきは【奇襲】だが、逆に言えば正面きっての戦いだとそこまで脅威にはならないと言う意味である。 ⇩ 唯一気を付けるべきは【奇襲】だが、逆に言えば正面きっての戦いだとそこまで脅…
[一言] ここまで一気読みしました。 少し誤字はあれど読みやすい文章だと思います。 まだまだ先があるので楽しみに読みふけって行きます
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