【国家運営】のメリットとデメリット
「…なるほどのぅ。一応は理解したわい」
「要するに、『この範囲はボク達の国だ』って宣言をしないと色々不便ってことだよね」
【国家運営】の能力について説明するべく、私は仲間達に一度集まってもらうことにした。全員の都合が付く時間が出来たのはあれから五日後の今日である。
集まって欲しいと頼んだ私に急な仕事が入ったのが遅れた理由だ。主催した本人のせいで話し合いが遅れるという、何とも情けないことになっていた。
「領土内だと国民の基礎ステータスが微上昇っすか!それって建国し得っすよね?」
「法律の制定に徴税…何か国造り系シミュみたいなことになるなら、当然デメリットもあるのでは?」
「ああ。領土を維持するためには資源が必要になるし、万が一にも国が崩壊すれば色々とマズいことになるらしいからな」
説明するにあたって、私は最初に【国家運営】の能力の良い点を語った。だが、美味しい話には当然のように裏がある。エイジの指摘通り、それなりに大きなデメリットもあるのだ。
領土を維持するには、広さによって定められた金銭かアイテムが必要になる。金額は広くなればなるほど加速度的に多くなるようで、収入のアテもないのに領土だけ広くしたら財政が一瞬で破綻してしまうだろう。
ちなみに都市国家…一つの街だけで国家を名乗っている状態が最小の単位である。街一つ持っていないのに建国することは出来ない。最低でもそのくらいは持てるようになっていないと、【国家運営】の能力は宝の持ち腐れとなってしまうだろう。
「領土を維持するための徴税ってこと?取り上げた税金で好き勝手するってわけにはいかないのねぇ」
「いやいや、税率を上げれば贅沢出来るやろ。まぁ、イザームはんがやるとは思わんし、住人にクッソ嫌われるやろうけど」
「プレイヤーも寄り付かなくなるでしょうな。搾取するようなことだけは避けるべきでござるよ」
時代劇の悪代官めいたことをすれば、兎路の言うような贅沢も可能だろう。しかし、それこそ七甲の言う通り私はそんなことをするつもりはない。むしろ税金は可能な限り低く保とうとしていた。
それは住民のためだけでなく、ネナーシが指摘するプレイヤーのクランを意識してのことでもあった。国にはマック達の『不死野郎』やウロコスキー達の『八岐大蛇』など、強力なプレイヤークランを内に抱えておけば有事の際に力になってもらえるだろう。
そのためには税金を納めてもらわねばならず、税率を高くすると彼らの負担は大きなものとなる。彼らに味方でいてもらうためにも、税率を低く抑えるのだ。
まあ、他に行き場のない彼らの足下を見てむしり取るという考えもある。だが、そんな理不尽なことをすれば彼らは離れていくだろうし、恨みを買えばこちらの情報を他に安値で売られることになる。少なくとも私ならそうするだろう。仲が良いのだから、その関係を壊すことは避けるべきだ。
「建国するってことに反対はないっぽいけどさ、なら決めることがあるよな」
「そうねぇ。王様は決まってるけれど、誰がどの大臣と将軍をやるのかは決めなきゃねぇ」
「そっち!?」
維持するためには努力が必要になるが、建国そのものにはメリットしかない。そのこともあって建国すること自体に難色を示す者はいなかった。既に【国家運営】の能力を取得したのに無駄にならなくて良かったよ。
そこでセイが建国するならば決めねばならないことについて言及する。しかし、それに真っ先に反応した邯那が少しズレたことを述べ、紫舟は素っ頓狂な声でツッコミを入れた。
「いや、実際にそこは事前に決めておいた方が良い。どうやら公職に就くと何らかの効果が得られるようだからな」
「へぇー?どんな公職があるのー?」
ウールが珍しく興味津々と言った雰囲気で尋ねて来たこともあり、私は公職リストを開いてみる。事前に見ていたのだが、実はこの公職というものは滅茶苦茶多い。大臣や将軍のような国政や軍事に関する公職だけでなく、それは公職と言って良いのかと疑問に思う公職もあるのだ。
ただ、今は選択不可となっている公職も存在する。どうやらその公職を果たすために必要な施設が国にない場合、公職を設定出来ないようなのだ。
リストには載っているものの、仮想ディスプレイの文字は灰色になっている。試しにタッチしてみた時、『該当設備がないので任命することは出来ません』と表示されたのだから間違いない。
あと、公職に誰かが就いていると公職を選んだ本人だけでなく、それに関わる何かを国民が行う際に何らかのボーナスが加わるようだ。例えば『将軍』に率いられる軍団ならばよりスムーズな連携が可能になり、『経済大臣』がいたなら商人などが経済活動を行った時に得られる経験値が増えるという。なるべく任命可能な公職は全て埋めておいた方が良いようだ。
それを説明した上で、スクリーンショットを撮った画像を全員に送ってみる。ほとんど全員がそれを読む中で、アイリスはスッと手を挙げて尋ねた。クランメンバーでなければならないのか、と。
「どういう意味だ?」
「私達って私やしいたけさんを除けば全員が武官じゃないですか。私達も文官というよりは職人ですし、文官に就いて得られる効果もあんまり魅力的ではありません」
「確かに!アイリスちゃんは『産業大臣』ってのよりも『王宮総職長』の方が向いてるし、このしいたけ様だって『宮廷錬金術師』は良いけどそれ以外は興味ないしね」
「その役割を別の誰かに代わってもらう、ということですか」
アイリスとしいたけの意見をミケロがまとめる。なるほど、確かに彼らの言い分はもっともだ。なるべく席を埋めた方が良いとはいえ、自分に向かない公職に就くというのはストレスにしかならないだろう。
ならば向いている人物に代わってもらえば良い。アイリスの意見は採用させてもらおう。では、誰になら任せられるのかという話になるのだが…この公職に就ける者の条件は国民であることのみ。それさえ満たしていれば、私が任命するだけで良いようだ。
「そうだ。兼任は可能なのかい?リアルだと一人の議員がいくつかの国務大臣を兼任することがあるけど」
「ええと、ちょっと待ってくれ…あった。可能だそうだ。だが、制限があるな。兼任可能な公職は最大で二つだそうだ」
「全部独り占めして超強化、っちゅうのは許されん訳やな」
羅雅亜の質問に答えると、七甲は納得したように頷いている。彼の言うように可能な公職を一人に集中させてボーナスを全て得られるようになれば、とてつもなく強くなる可能性がある。流石にそれは許されないようだ。公職による効果は微々たるものでも、塵も積もれば山となるのだ。
「ところでこれは職業扱いなんですか?今の職業から強制的に変更、とかだと困るんですが…」
「そこは大丈夫だ。職業ではなく称号に反映されるようだからな」
モッさんは今の職業に影響が出るのかと問うが、その点は私も気になっていたので読み込んでいる。公職はあくまでもその国の内部における称号であって、今の職業を上書きするようなことはないのだ。
ただし、全く影響がないというわけでもないらしい。というのも公職に任命された後に転職しようとすると、その公職が候補として挙がるようだ。それに就いた時に何が起こるのかは明記されていないが、まず間違いなく公職を補助する効果はあることだろう。
「あと、公職によっては同時に複数人が就くことが可能だぞ。将軍が一人しかいないというのは不便だろう?」
「確かになァ。でもよォ、将軍にも色々あんじゃねェか」
「『車騎将軍』に『驃騎将軍』なんて中華風の将軍職もあれば、『大将』に『中将』とかの近代的な軍隊の職業もありますね」
「『獣将軍』とか『不死将軍』とか、ゲームっぽい将軍もたくさんあるね。まあ、ボクは将軍になろうとは思わないけどさ」
「とりあえず、全員の希望を聞こうと思う。今は選べない公職でも問題ない…と言われてもすぐに思い付かないかもしれんな。数日以内に決めておいてくれ」
こうして【国家運営】の能力を使い方についての概要と、建国後の公職について要望を聞くことが出来た。さて、皆がどんな公職を希望するのか今から楽しみだな!
次回は1月2日に投稿予定です。
皆様、良いお年を。




