蜥蜴人の村にて
予約投稿の日時を間違えてしまいました!なので急遽昼間に投稿しました。
申し訳ありません!夜は夜で投稿します!
は、ははは。これが龍か。見ただけで解るぞ。今の我々では何をしたって敵わない相手であることが。私の【鑑定】した結果を見れば誰にでも解るだろう。
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名前:アグナスレリム
種族:神代水龍王 Lv87
職業:龍王 Lv7
能力:#####
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そして【鑑定】した瞬間、通知が来た。
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【鑑定】レベルが上昇しました。
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無茶苦茶だな。レベル87だって?こんな序盤に居ていい相手じゃないだろう?しかも能力に至っては名前どころか個数すら解らないじゃないか。それに一度【鑑定】しただけで能力レベルが上がるとか、どんな化け物なんだ?
同時に納得もした。ここまで強い相手であれば蜥蜴人でなくても信仰対象にするだろうよ。流石のジゴロウも戦いたいなどと言う発想すら浮かんでいないらしく、皆と同様に呆然としている。
それにしても、龍とはこうも美しいのか。見た目は西洋のドラゴンで、我々が前に倒した劣小蛇龍とは似ても似つかない。水中に特化しているのか、蝙蝠のような翼は畳まれており、手足は鰭状になっている。体表は滑らかで紺碧の小さな鱗が隙間なく並んでおり、きっと水の抵抗を受けにくいのだろうと思われた。
しかし、美しいばかりではない。美しい鱗は金属すらも易々と弾くであろうし、ズラリと生え揃った牙なら私を簡単にバリバリと喰らうことが出来るだろう。そして頭部に生えた鋭く尖った二本の角が圧倒的な存在感を放っている。絶対に敵に回してはならない相手とは、こういうものか。
「龍王様!?」
「はっ、ははぁ~!」
二人の蜥蜴人はまたしても平伏している。目の前に信仰対象が現れたのだから当然か。
『やあ、良く来たね。一応自己紹介をしておこうか。私はアグナスレリム。蜥蜴人とこの湖を守護する古代水龍王さ』
「わ、私は混合深淵龍骨魔導師のイザームと申します、偉大なる龍王よ」
私は仮面を外し、恭しく一礼しながら名乗り返した。ど、どうにか噛まずに名乗る事が出来たぞ!ここでロールプレイが出来た自分を誉めてやりたい気分だ!
『ははは、胆が据わっているね。大抵の者は怯えて気絶するか動転して襲い掛かってくるかのどちらかなんだけどね。ここで長話をするのも馬鹿らしいし、村へ行こう。さあ、乗るといい』
「乗る…いや、龍王様の背中に乗るなど畏れ多い!」
『私がいいと言ってるんだからいいんだよ。それに、龍王の背中に乗るという貴重な経験をふいにしてもいいのかい?』
うっ!その言い方は卑怯だろう!?断れる訳がないじゃないか!
「では、失礼して…」
私はガチガチに固まった身体の無理矢理動かしてアグナスレリムの背中を登る。もうなるようになれだ!
アグナスレリムは広く、人間換算で三十人は乗れそうだ。バス並み、と言えばいいのか?これなら全員乗っても問題は無いだろう。しかし、四人は固まったままだ。
『他の四人も乗るといい。繰り返すけど、龍王の背中に乗るなんて中々経験出来る事じゃないよ?』
アグナスレリムに促されて、彼らはようやく動き出す。私と同じくガチガチに固まっているが、仕方ない事だと思う。
『君たちもどうだい?』
「め、滅相も無い!」
「私などが龍王様の背に乗るなど、不敬の極みです!」
『うーん、そっかぁ…』
おや?どことなくアグナスレリムが悲しげなのは気のせいだろうか?
『じゃあ、行こうか。私達の村へ』
◆◇◆◇◆◇
蜥蜴人の村までは凡そ五分程度掛かった。その間にアグナスレリムにどうやって龍の力を手に入れたのかを尋ねられたので、正直に答えると、彼は感心したように頷くばかりであった。
同族を殺した事について何も言わないのか、と私は思わず聞いてしまった。恨んでいるのではないのか、と。それに対する答えはこうだった。
『恨むなんてとんでもない。その子が自分の意思で挑んで、力が足りなかったから負けた。それだけさ。もし君が倒したのが私の家族や友人だったとしても、私は同じことを言うよ』
なんともドライな死生観である。同族の死も自己責任、負けて死んだお前が悪い、と言うわけだ。そうやって割り切るのは本来ならば難しいと思うが、それは平和な日本人の感覚なのだろう。
『到着だ。さ、降りて降りて』
「わかりました」
我々はいそいそとアグナスレリムの背中から降りていく。あ、そういえば私は装備の効果で飛べたんだった。今まですっかり忘れていたぞ。やっぱり緊張していたのだな。
「おお、龍王様!お帰りなさいませ。して、そちらの御仁は…?」
出迎えてくれたのは先程出会った漁師よりも体格が良い蜥蜴人だった。顔付きがどことなく龍に近いように見えるし、進化しているに違いない。【鑑定】してみるか。
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種族:戦蜥蜴人 Lv27
職業:魔槍士 Lv7
能力:【牙】
【爪】
【尾撃】
【槍術】
【投擲術】
【筋力強化】
【防御力強化】
【敏捷強化】
【土魔術】
【水魔術】
【水棲】
【暗視】
【雷属性脆弱】
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おお、強いな。レベルで言えば我々と同格だ。周囲と比べても図抜けて強そうだし、村一番の戦士って所か。
『ああ、村長。彼らは客人だよ』
「そうで御座いますか。むむっ?龍の気配を漂わすお方がおられるのですか?」
『そうさ。彼らが君に頼みたい事があるらしくてね、連れてきたんだよ』
「私に?いかなる用があると?」
『それは君の家で聞くといい。じゃあ私はいつもの場所に戻るとするよ』
強そうな蜥蜴人は村長だったらしい。戦士長とかではないのか。やはり魔物なので強い者が偉いという社会構造なのかね?
アグナスレリムは言うべきことは伝えたとばかりに湖へと潜って行った。きっと『いつもの場所』やる地点に戻ったのだろう。彼が普段いる場所がどこなのかは気になるが、今は蜥蜴人との交渉が先だ。
◆◇◆◇◆◇
我々は蜥蜴人の村長宅で、彼らの縄張りにおける通行権が欲しいという要望を伝える。村長は少し悩んだ後に口を開いた。
「可能ですが、一つだけ頼みを聞いて下さいませんでしょうか?」
ふむ、仕事の報酬として通行権を渡すと言うことか。ギブアンドテイクは基本だな。先ずは話を聞こうではないか。
「頼みとは?」
「はい。実は最近、蛙共の動きが怪しいのです」
「蛙…蛙人の事だな?」
「その通りで御座います。奴等はこれまで、自分達の縄張りから出ようとはしませんでした。しかしここのところ我等の縄張りへ積極的に入ってくるのです」
魔物の異常行動、と言うわけだ。好戦的になっているのか?何が原因なのだろう。
「その原因を突き止めてくれませんでしょうか?」
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隠しクエスト:『蛙人の謎を追え!』を受注しますか?
Yes/No
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おっと、クエストか。地味にクエストの受注って二回目なんだよな。一度目は勿論、この前のイベントの時だ。そう考えると我々は普通のクエストを一つも受けてないのか。本当に魔物って厄介だな。
私は皆に目配せする。受けてもいいか、と。パーティーの時、クエストの受注権はリーダーにあるからだ。ここで嫌がるメンバーがいるなら即座に止めるからな。
しかし、皆は私をじっと見ているだけである。…良く考えたら私に目は無いじゃないか!と言うか、感情が分かりやすい眼球を持ってるのはジゴロウだけだった!
ああもう!何でもいい!Yesだよ、Yes!
「わかった、微力を尽くそう」
「おお!有り難う御座います!では、皆様が逗留する為の家へご案内致しましょう」
「家?」
家?何の話をしている?しかし村長は私の疑問に答えるでもなくさっさと立ち上がってしまう。それに合わせざるを得ない我々も立って付いていく。この人、結構押しが強いぞ!?
我々は村長宅からほんの十メートル程の地点にある普通サイズの竪穴式住居の前に連れていかれた。ひょっとして?
「蛙の調査をする間はここを自由に使って下さい」
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『蜥蜴人の住居』を貸与されました。
『蛙人の謎を追え!』の終了まで有効
『蜥蜴人の住居』をリスポーン地点に設定しますか?
YES/NO
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リスポーン地点の更新?つまり、死に戻りする可能性が高いと言う訳か?これ、もしかしなくてもかなり危険なクエストなんじゃないか…!?
では私はこれで、と言って村長は帰って行った。あのオッサン、本当にマイペースだな!
しかし、依頼を受けたのは私だ。それは否定出来ない。大体、この村へ連れて来られたのだって私が龍の骨を移植していたからである。つまり、この状況の原因の大部分は私にあると言うことだ。
「…とりあえず、中に入ろうか」
私はそう言うしか無かった。
◆◇◆◇◆◇
「妙は事になったな」
困惑気味のジゴロウに、私を含めた全員が同意する。蜥蜴人の領域を通過する権限を得るだけのはずが、蛙人の調査依頼に変わっているのだ。訳が解らない。
「本当に申し訳ない!」
私は深々と頭を下げる。この奇妙な展開の原因が私にある以上、素直に謝罪するのが筋というものだ。
「頭を上げんか、リーダーよ。誰も怒っとりゃせんよ」
優しく声を掛けてくれたのは源十郎だった。ほ、本当に怒ってないのか?
「そ、そうなのか?」
「そうですよ、イザーム。むしろ私はこの周囲の素材に興味がありますから。悪いと思うなら調査の合間に採取を手伝って下さいね?」
アイリスは冗談めかして慰めてくれる。採取なら【召喚術】で丁度いい魔物がいるから最大限に活用してくれ。
「ボクはむしろテンション上がって来たよ!調査って、まさしくボク向きのクエストだもんね!」
ルビーは本気で楽しみにしているようだ。粘体の表面がプルプルと波打っているのが証拠である。
「俺の言い方が悪かったな。こういう依頼ってなぁ、最後にクソ強ェ敵が出てくるってのがお約束だ。そいつと戦えるなら、文句はねェぜ」
ジゴロウは相変わらずの戦闘優先脳らしい。彼の一言が責めているように感じたのは、私の被害妄想だったか。
「それ見たことか」
源十郎は得意げに笑う。なにやら私は冷静さを欠いていたようだな。
…よし!調査をすると決まったなら、今から作戦会議だ。やるからには徹底的に調べ尽くしてやろうじゃないか。
「では、調査の方針を決めよう。現在判明しているのは蛙人が何故か蜥蜴人の縄張りへ積極的に侵入してくる、という事実だけだ。皆はどうするべきだと思う?」
「決まってんだろ。こっちからカチコミ掛けようぜ!」
ジゴロウは相変わらず好戦的な意見を述べる。それも一つの方針ではあるがな。こちらから仕掛ける事で威力偵察を行い、蛙人の戦力の規模を調べるのは効果的だろう。
我々の中で隠密行動がとれるのは私とルビーだけだし、こそこそ調べるのは時間がかかりすぎる。一当たりして反応をみるのが適当かもしれない。
「でも、敵陣の奥深くまで行くのは危険過ぎませんか?」
しかし、アイリスが至極真っ当な反論をする。何か異常が起こっているであろう蛙人の縄張り奥深くで戦闘など起こせば、あっという間に袋叩きにされて全滅してしまうだろうからな。
これはゲームなんだし、ゾンビアタックを続ければいいのかもしれない。だが、FSWのデスペナルティーは結構重いし、そんなやり方は私の主義に反する。『死んでもいい』、『負けてもいい』という考えの元で行動するのは何となく気に食わないのだ。
「ならば、その折衷案がいいのではないかの?」
「蛙人の縄張りの端っこで戦ってみる、ってことだね?」
源十郎の提案をルビーが簡潔にまとめる。確かに、それなら比較的安全に威力偵察を行えるだろう。
「…異存は無いようだな。では、これより蛙人の縄張りに侵入して威力偵察を行う。ただし、深入りは禁物だ」
やるべき事は決まったな。それでは早速、蛙人の縄張りへ出発だ!
龍王はプレイヤーが倒せるっちゃあ倒せますが、レベルカンストがメタ装備マシマシで大規模レイドを組まないと不可能な強さです。つまり、現状ではどう足掻いてもダメージすら与えられません。
ファースから程近い位置にいる水龍王…裏路地の露店…と言うことは?




