さらば北の山、こんにちは湖
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フィールドボス、鬼を撃破しました。
報酬と3SPが贈られます。
【鎌術】レベルが上昇しました。
【光魔術】レベルが上昇しました。
新たに閃光と光壁の呪文を習得しました。
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「か、勝ったぞ…!それも、無傷で!」
つ、疲れた!やっぱり、前衛の緊張感は何回経験しても慣れない。絶対に向いていないのだろうな。
ここまで私一人で、しかも【光魔術】と鎌だけを使って攻略させられたが、ジゴロウと源十郎のせいでメチャクチャ辛かった。どうして初心者用フィールドで、レベル30間近の私がこんなに苦労する羽目になるんだ!?
「おう、やるじゃねェか」
「うむ。まだ余計な力が入っておるが、受け流しは出来ておるのぅ。結構結構!」
私に試練を課した二人は満足そうにしている。こ、これでようやく接近戦から解放されるんですよね…?
「ご、合格した…のか…?」
私が恐る恐る尋ねると、ジゴロウと源十郎はこれまで見せたことのない爽やかな笑みを浮かべながら頷いた。おおお…やっと、やっと後衛に戻れるのか…ッ!
「イザーム…でも合格したってことは…」
アイリスが心配そうに弱々しく触手をくねらせる。ん?何を心配しているのだ?私はようやく接近戦の地獄から解放されたと言うのに。
「あのさ、忘れてるっぽいけど、あの二人がイザームを鍛えた目的って覚えてる?」
「目的?それは…」
二人が私に接近戦をやらせた理由は自衛の為…違う!これは私の目的だった。二人の目的。それは…あ゛っ!
「す、スパーリング相手を見繕う…ため…だった…よう…な…?」
ルビーは沈黙によって肯定した。つ、つまり、合格とは、私が二人にとって最低限の対人戦闘能力を身に付けた事を意味するんだよな?で、ではまさか…
「これからはたまにでいいから相手してくれや!」
「うむ。頼んだぞ、我等がリーダーよ!」
二人の爽やかな笑顔が、いつの間にか好戦的な、獲物を狙う肉食獣のそれへと変貌していた。それは新たなスパーリング相手を決して逃がさない意思の現れであろう。
二人のスパーリングを見物したことが幾度かあるが、どの戦いも昔見たバトル系アニメの最終回を飾る最終決戦を彷彿とさせる激しさだった。そんなに激しい戦いをしているのに、二人は終始楽しそうなのだ。戦闘狂という言葉の真の意味を知った瞬間である。
そこに私が加わる?アレに?あの、訳がわからん動きをする格闘鬼と、見えない位に速い斬撃を繰り出す武士虫との戦いに?
どうしてこうなった?
「あ…ああ…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「イザーム!?」
「あ、壊れた」
どうしてこうなったんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?
◆◇◆◇◆◇
「あの…イザーム?落ち着きましたか?」
「ギャァァッ!?」
「ああ、もう落ち着いているとも。さっきは見苦しい姿を見せたな」
アイリスは何故か未だに心配しているようだが、私はもう問題ない。頭を抱えて絶叫したが、それによって何とか心の切り替えが出来たのだからな。
「ゲギァァ…!」
それにしても、ここまでの道中で使った魔術が【光魔術】だけだった事もあって、新しい呪文を覚えるまで成長したぞ。先ずは閃光だが、簡潔に言えば目眩ましだな。一瞬だが、激しい閃光によって視界を奪えるようだ。試してみるとカメラのフラッシュよりもかなり強かったので、肉眼で耐えることはほぼ無理だろう。サングラスでもあれば別だろうが。
「ゴギャァ!」
ただし、ダメージは一切無い。【闇魔術】の闇仮面や【砂塵魔術】の砂風と比べてどれが最も有用かは場合によりけりだろう。
「ゲギィィ!?」
もう一つの光壁は他の壁シリーズと同様の防御呪文だ。他の壁呪文よりも若干硬いようだが、これまた攻撃力は全く無い。
「ゲァァァ!?」
掲示板によると【光魔術】は防御に秀でているが、代わりに攻撃魔術を覚えるまでが長いらしい。私の場合は攻撃手段が有り余っているのでむしろ有難いくらいだが。
「ギャァァァッ!?」
ここまでは何故か地獄のスパルタ訓練だったが、ここからは環境や出てくる魔物が変わってくる。攻略板によると、湖の周囲は沼地になっていて、かなり歩き辛いらしい。そして遭遇するのは沼地に適応した魔物のようだ。
「ゲガァァァ!?」
特に注意すべきは蜥蜴人と蛙人らしい。彼らは武技や魔術を使うらしく、しかも複数いると戦術的な動きもしてくるそうだ。
「ギィッ、ゲギャァッ!?」
そしてフィールドボスは大毒蛙という体高が2メートルもある馬鹿デカい蛙なのだという。どちらかと言うと蛙が優勢なのかね?
「ゲゲェッ!?」
それにしても蜥蜴人に蛙人か。理性的な相手ならば我々の【言語学】が役に立つだろう。上手くすれば戦闘をある程度回避出来るかもしれない。しかし、過度な期待は禁物だ。基本は敵だと思って行動しよう。
「ゲァッ、ゲガァァ!!」
「…何だ、逃げるのか?光球」
どうやらこの山全体が小鬼共の縄張りらしく、鬼を倒した後も襲い掛かってくる。面倒だが、私が相手をしてやっていたのだ。
勿論、大鎌で。
「あの、絶対にまだ混乱してますよね?さっきから【鎌術】と【光魔術】しか使ってませんし…」
「大丈夫ダヨ、私ハ普段通リダ」
小鬼は斬らなければ…魔術は【光魔術】だけで…
「おお~、鎌の扱いも大分様になってきたなァ」
「うむうむ。敵を見かけてから身体を動かすまでの時間が随分と短くなったの。この調子じゃよ」
皆が何か言ってる…それより小鬼…小鬼を倒さなければ…
「アイリス…その…ごめんね?」
「イ、イザーム!正気に戻って下さい!もう、山は終わりです!小鬼の領域から出られますよ!」
小鬼が終わり…?ハッ!
「戻らなきゃ…」
「イザームぅぅぅ!?」
◆◇◆◇◆◇
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【光魔術】レベルが上昇しました。
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あれからしばらくして、本当に正気に返った私と仲間たちは山をどうにか下る事に成功した。人の手が全く入っていない山がこんなにも歩き難いとは知らなかったぞ。
鬼と戦った山を越えると、視界一杯に湖が広がっていた。時刻はまだ夜だが、沈みかけた美しい月とその光で煌めく湖沼と原生林の濃い緑の薫り、そしてその薫りを運ぶひんやりとした夜風が五感を擽る。私は骨だけだが。
「中々の絶景よの」
「何だか観光名所に来てるみたいだな」
単なる映像美だけではなく、他の五感を刺激されるとここまでリアリティーが出るのか。少し前にニュースで話題になっていた事を思い出す。
何でも、『ゲーム内の現実ではあり得ない絶景を求めて旅をする人』、通称『旅人プレイヤー』が増加傾向にあるという内容だった。家に居ながらにして手軽に絶景が見られるのだから、時間的にも経済的にも忙しい現代人向き、というわけだ。単なる景色だけが売りの観光名所が悲鳴を上げているという話を聞いたが、これを見てしまうと納得だな。
おっと、いかんいかん。我々の目的は景色ではない。湖の向こうに見える山の頂上だ。早く行くとしよう。
「ここからは蜥蜴人の縄張りだ。他にも魔物が潜んでいるらしい。注意してくれ」
情報によると湖の南側が蜥蜴人の領域で、北側が蛙人の領域らしい。また、沼地の泥に潜む魔物も確認されている。攻略掲示板様々だな。
「確か両方とも水の中から現れて、蜥蜴人は蛙人よりも戦闘力が高い代わりに隠密性が低くて見つけ易いんだっけ?ならボクに任せてよ!」
そう言うとルビーは音もなく湖の中に潜って行った。なるほど、端から水中にいれば索敵しやすいと言う訳だな。粘体は水の中でも自由が利く特性を遺憾無く発揮して貰いたいものだ。
それから暫く、我々は湖の外周に沿って進んだ。地面が泥だらけなので歩き難く、ルビー以外の三人は苦戦していた。私?私は装備の効果で低空飛行していますが、何か?
道中でまだ戦闘は無いが、辺りに中級ポーションの原料となる薬草が生えていたので採取しながら歩いていると、空が明るくなった。夜明けである。
「おお、太陽だ」
ゲームの中の太陽は現実と輝きも大きさも全く変わらない。しかし、この骸骨の姿で御天道様を拝むのは初めてであり、【光耐性脆弱】を克服したとき以上の感動を私にもたらした。
「あー、感極まってる所で申し訳ないけど、敵だよ。泥の中!」
…くっ!無粋な魔物め。感傷的になる時間すらくれないのか。良い度胸だ、【呪術】と【邪術】で苦しめてから殺してやろう。
ルビーから敵がいるおおよその方向を聞き、注意深く観察する。すると泥が不自然に動く場所があった。そこか!先ずは【鑑定】!
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種族:魔魚・鯲 Lv11
職業:見習い盗賊 Lv1
能力:【牙】
【地魔術】
【水魔術】
【水棲】
【隠密】
【奇襲】
【雷属性脆弱】
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魔魚・鯲 、つまり魔物になったドジョウだな?かなり大きいな。一メートルはありそうだ。それ相応に髭も長いし、見えにくいが口には鋭い牙が並んでいるらしい。
それにしてもドジョウか…柳川鍋、好きなんだよな。あと地獄鍋とか。その見た目に免じて物騒な倒し方は勘弁してやろう。
「星魔陣展開、雷矢」
私の杖から迸った五本の雷矢が、魔魚・鯲 に突き刺さる。ただでさえ【雷属性脆弱】があるのに、レベル差が20近くある私の魔術をくらってはひとたまりも無い。魔魚・鯲は至極あっさりと討伐された。
格下を倒しただけなのだが、私は感動にうち震えていた。何故ならば…
「そうだ、そうだよ。私は魔術師だ!魔術で戦わねばな!」
ようやく己の本分に戻る事が出来たからだ!何だかとても久し振りに魔術を使った気がするぞ!
ああ、やっぱり魔術の方がいい!落ち着く!後衛職万歳!魔術師万歳だ!ふはははは!
「チッ!アイツ、まだこっち側に引きずり込めてねェか」
「なんの、また機会はあるわい」
後ろから不穏な会話が聞こえてきた気がするが、無視だ無視!今は魔術を使っても怒られない状況に感謝しよう!
「イザーム、剥ぎ取りは終わりましたよ」
「ほう、どれどれ…?」
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魔魚・鯲のヒゲ 品質:劣 レア度:R
魔物化した鯲のヒゲ。討伐時に劣化している。
非常に柔軟かつ見た目よりも強靭で、縄に向いている。
乾燥に弱いので、保存には注意が必要。
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魔魚・鯲のヒゲか。乾燥に弱いが、縄に向いているというのは面白い。
しかし、『討伐時に劣化』と言うのが気になる。ひょっとして、弱点属性で倒してしまうと素材としての品質が落ちる場合があるのか?
そう言えば西の洞窟で動く骸骨を狩った時、【光魔術】で倒すと骨その物が消滅したし、破壊した部分の骨は魔骨としてドロップしなかった。やはり、関連があると見るべきだろう。
「源十郎、もしまた魔魚・鯲が現れたら今度はヒゲを傷付ける事無く倒してくれないか?」
「む?それは構わんが、何か気になる事でもあるのかの?」
「ああ、それは…」
私が自分の予想を伝えようとした時だった。
「危ないッ!」
「「「「!!」」」」
ルビーが水中から飛び出すと、同じく水中から我々目掛けて高速で飛来した何かを短剣で弾いた。私は驚きつつも飛んできたモノを見る。それは木と魔物の素材を組み合わせて作ったと思われる銛だった。
「敵だよ!蜥蜴人だ!」
ルビーの警告に応えるように、湖の中から武装した二匹の二足歩行する蜥蜴、即ち蜥蜴人が姿を現す。初手の奇襲に失敗したからには、隠れても無駄だと悟って出てきたのだろう。
いやはや、山でも沼地でも大歓迎だな!だが、纏めて素材にしてくれるわ!
前話に載せていた前書きについて手厳しいお叱りを受けたので削除しました。生意気言ってすいません…
しかも予約投稿の時間まで間違えていました。本当に失敗続きで申し訳ないです。
新作云々のアイデアは心の中に保存しておき、余裕が出来るまではこの作品に集中したいと思います。
ちょっと暗い話題は置いといて、次回でこの章は終わりです。なので掲示板回と同時投稿します!




