地下墓地探索 その二
魔物プレイヤーについて三人で語り合っていると、源十郎とルビーが帰ってきた。よし、では出発するとしようか。
ここからは第四層になる。これまで以上に敵が強くなるだろうし、罠も増えるだろう。気を引き締めてかからねば。
◆◇◆◇◆◇
――――――――――
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【杖】レベルが上昇しました。
【鎌術】レベルが上昇しました。
【魔力制御】レベルが上昇しました。
【召喚術】レベルが上昇しました。
新たに二段階進化の呪文を習得しました。
【付与術】レベルが上昇しました。
新たに五重付与の呪文を習得しました。
【死霊魔術】レベルが上昇しました。
【呪術】レベルが上昇しました。
【罠魔術】レベルが上昇しました。
【降霊術】レベルが上昇しました。
【邪術】レベルが上昇しました。
【暗殺術】レベルが上昇しました。
――――――――――
色々とレベルが上がったが、一つ言わせてくれ。ヤバいわここ。何がヤバいって、敵の数と質が上がっただけじゃなくて高い頻度で混戦になることだ。
混戦とはなんぞや、と思われるだろう。まずここに来て判明したのだが、この地下墓地において鼠男達と不死達は敵対しているらしいのだ。三層までも鼠男系と不死系の混合パーティーがいないなぁとは思っていたが、まさか出会った瞬間に殺し会う仲だとは知らなかった。
そのせいで我々が鼠男系と戦っている所に不死系の魔物が乱入したり、その逆もまた頻繁に起こるのである。時々鼠男達と不死達が戦っていることもあり、そこに無差別攻撃めいた魔術を叩き込んで漁夫の利を得ることもあったので文句ばかり垂れるのも間違いだとは思うが。
第四層も隈無く探索したが、ここには隠し部屋の類いは無いらしい。ルビーが念入りに探ったにもかかわらず見付からなかったのだから間違いないだろう。
そして遅れたが新たな魔術を紹介しよう。と言っても両方共文字通りなんだがな。【召喚術】の二段階進化はレベル20相当の魔物を召喚出来るようになり、【付与術】の五重付与は一人につき五つまで強化を付与出来るようになった。両方共便利だが、これ以上言えるとこは無いな。
そして今、我々は五層に続く階段の前にいる。結構な回数の戦闘をこなしたとは言え、まだ休憩するほどではない。なのに我々が階段を降りるのを躊躇している理由は、ここからでも聞こえてくる激しい戦闘音のせいだ。
階段を降りたところで誰かが戦っている。そこへ割り込むべきか、はたまた戦闘が一段落したのを確かめてから降りるべきか。意見が割れたのだ。
「なぁ、行こうぜ!乱闘も楽しいんだからよぉ!」
「いやいや、ここは慎重に行こうよ」
「ルビーよ、時には大胆さも必要じゃぞ?」
「源十郎はただ戦いたいだけですよね?」
前者を支持したのがジゴロウと源十郎、後者を支持したのがアイリスとルビーである。最終的な決定権は私の判断に委ねられた。
ううむ、どうするべきか…。戦いが終わるまで待った方が無難なのはわかる。しかし、何時まで続くのか不明であるし今なら漁夫の利を狙えるかもしれない。悩ましい。本当に悩ましいが…よし、決めた!
「…行こう。行かなければ何もわからないし、この戦い自体がイベントの可能性も捨てきれないからな」
「ハッハァー!話が分かるねぇ、大将!」
「うむうむ」
「はぁ、しょうがないなぁ。付き合うよ」
「イベントの可能性と言われたら断れないじゃないですか」
女性陣もなんとか納得して貰えたようで一安心だ。では、進もう。私の予想では鼠男と不死の上位種同士が軍団規模で戦っていると思うのだが、どうだろうか?
◆◇◆◇◆◇
「オオォオオオァァァァ!」
「ヂュヂュガガアアアア!」
階段を降りた先では、激しい剣戟と魔術の爆発音が響いていた。私の予想は半分正解だった。正解していたのは戦っているのは鼠男と不死の上位種である点だ。
では、不正解の点とは何か?それは鼠男が数十から百の軍団規模であるのに対し、不死はたったの一体だったという点である。
それで良く戦えるな、と思ったので親玉っぽい一番デカイ鼠男と孤軍奮闘している不死を【鑑定】してみた。その結果がこれだ。
――――――――――
種族:鼠男王 Lv45
職業:王 Lv5
能力:【悪食】
【牙】
【杖】
【火魔術】
【光魔術】
【闇魔術】
【筋力強化】
【防御力強化】
【???】
【敏捷強化】
【指揮】
【配下強化】
【???】
種族:墓守 Lv60
職業:墓守 Lv-
能力:【拳】
【蹴撃】
【剣術】
【斧術】
【???】
【体力強化】
【筋力強化】
【防御力強化】
【???】
【???】
【???】
【暗視】
【状態異常無効】
【痛覚無効】
【火属性脆弱】
【光属性脆弱】
――――――――――
久し振りだよ、相手の能力が読めないってのは。レベル的にも圧倒的に格上だ。
鼠男王はそのまま鼠男の王様なのだろう。王冠のような分かりやすいアイテムは無いものの、魔物が持っているにしては上物っぽい鎧を身に纏い、杖を握っている。
見た目にしても魔術師タイプのはずだが、鼠男将軍よりも大柄だ。王者の風格を漂わせているぞ、鼠の癖に。
墓守は錆まみれの全身鎧を纏い、右手に剣を、左手に手斧を握った戦士風の姿をしているな。フルフェイスの兜を被っているので確証は無いが、能力の傾向から言って鎧の下は屍体系だと思われる。四方八方から迫る鼠男達を豪快に吹き飛ばす姿はレベルによるステータスの暴力としか言い様がないな。
戦況は墓守が若干不利だ。いかんせん数が違い過ぎるのである。鼠男王を筆頭に、鼠男将軍が四体もいるし残りは全て鼠男騎士や鼠男魔術師で構成されている。
しかも鼠の分際で統率が取れており、適宜前衛を交代させて消耗を抑えつつ、鼠男王と鼠男魔術師が墓守の弱点である【火魔術】や【光魔術】を撃ち込んでいるな。特に弱点属性を両方使える鼠男王の魔術が効いている。連携は完璧で、このままでは墓守に待っているのは確実なる敗北だろう。
「どうするかの、イザームよ?」
源十郎が私にそう問いかける。それに対する答えはとっくに、それこそ【鑑定】する前から決まっていた。故に私は即答した。
「墓守を援護する」
何故私が墓守の側に付こうと思ったのか?
囲まれてタコ殴りにされる墓守が可哀想だと義憤に駆られた?違う。
同じ不死の誼?全然違う。単純に鼠男王が気に入らないのだ。
何が気に入らないって?それはな…私が使えない【光魔術】を持ってるからだよ!魔物の、それも私達の経験値源である鼠男の分際で生意気にも【光魔術】だとぉ!?ふざけるな!纏めて経験値にしてくれるわ!
「先ずは取り巻きの数を減らすぞ。星魔陣遠隔起動、氷円!」
「ヂュヂュ!?」
私は【水氷魔術】の範囲攻撃、氷円を鼠男の集団のど真ん中に五つ展開する。前もって【付与術】で魔術の威力を最大限に上げていたことと【暗殺術】の効果もあり、巻き込まれた鼠男騎士は寒さで凍りついて動けなくなり、鼠男魔術師は即死していた。
「続いて行くぞ!星魔陣遠隔起動、餓鬼召喚!」
追い討ちをかけるべく私が選んだのは【降霊術】の餓鬼召喚だ。誰彼構わず噛み付いて喰らおうとする餓鬼の特性上、絶対に無視出来ないだろう。そして餓鬼がもたらす混乱は統率を乱し、統率が乱れたならば…
「オオオオ!」
「ヂヂッ…!」
墓守が隙を付いてくれる。わかっていないなら教えてやろうか、鼠共。お前達は今、挟撃されているのだよ。つまり、袋の鼠なのだ!
「ヂュヂュ!ヂュオオオ!!」
「ヂュゥゥ!」
「ヂュヂュゥ!」
む?もう自分達が置かれた状況に気が付いたのか。腐っても王と名の付く魔物、それなりのAIが積んであるようだな。控えに回していた鼠男将軍一匹とそれが指揮する鼠男騎士と鼠男魔術師を差し向けてくるとは。
だが、我々もこの『忘れられし地下墓地』に入ってから幾度かレベルアップしている。今さら鼠男将軍一匹にやられるものか!
「行くぜぇ!」
「せいやァァ!」
ジゴロウと源十郎が真っ先に突っ込んでいき、鼠男騎士を蹴散らして行く。
「ええい!」
「後ろががら空きだよ」
鼠男魔術師の首をアイリスの触手が締め上げ、ルビーの短剣が切り裂く。
「食らうが良い!」
そして私の様々な魔術が浮き足立った鼠男達に降り注ぐ。万が一墓守に流れ弾が当たる可能性を考慮して火属性の魔術は封印していたが。
「ヂ…ヂィ…!」
約五分後、我々は鼠男将軍の一部隊を撃破した。弱くは無かったが、そこまで強くも無かったな。
「次はテメェだ!」
「行くぞ!」
「ちょ!待て、二人とも!」
テンションが上がったのか、ジゴロウと源十郎は守りが手薄になった鼠男王へと襲い掛かった。それは
流石に無茶だ!
「ヂュガァ!」
「うげっ!?」
「ぬうっ!?」
背後から迫る二人を、鼠男王は鬱陶しそうに杖で殴りつけた。魔術師タイプとは言え、奴の体格とレベルによって向上した純粋なステータスから繰り出される打撃は凄まじく、二人が纏めて吹き飛ばされた。
しかも奴は魔術で追撃を掛けようとしている!ヤバい!打撃だけで二人の体力は半分近く削れている。ここで本領たる魔術を食らったら確実に死ぬ!
「くっ、菱魔陣遠隔起動、魔力盾!アイリス!」
「わかってます!」
「ヂュ、ヂィィィ!」
私が二人の前に魔力盾を展開しつつ、アイリスが触手で二人を此方へと引き寄せる。間に合え!
鼠男王の魔術が放たれたが、【魔力制御】を持っていないお陰か魔術は直撃せずに地面に着弾。衝撃波だけなら私の魔力盾でも耐えられた。
よ、良かった~!間一髪だったぞ!
「す、すまねぇ!」
「むぅ、面目無い」
「反省は後だ!さっさとポーションを使え!召喚、骸骨盾戦士!星魔陣起動、麻痺!」
私は肉壁として防御に優れた魔物を二体召喚しつつ、鼠男王に【呪術】を掛ける。出来るなら沈黙で魔術を使えなくしたいのだが、レベルが20近く上の相手に通用するとは思えない。なので少しでも時間を稼ぐべく、足止めになりつつ掛かりやすい麻痺を選択したのだ。
「ヂヂヂ!」
私の目論見は上手く行ったらしく、鼠男王は数秒間だが確実に動きを止めた。だが、二人が回復しきるまではまだかかる!もう少し時間を!
「これでどうだ!」
「たあっ!」
「こっちも見なよ!」
アイリスとルビーも私と同じことを考えていたらしい。私は武技の飛斬を可能な限り連続で、アイリスは木槌と鉈で、ルビーは背後から短剣で鼠男王を攻撃する。レベル差はあれど、ノーダメージとはいかないだろう?
「よし、行ける!」
「儂もじゃ!」
主観ではとても長く感じられたが、二人も復活したらしい。ルビーもそれを確認すると深追いせずに鼠男王から距離をとった。どうにか立て直したな!
さて、ここからどう動く?私達で削り切るのは不可能なのは明らかだ。ミス≒死に戻りの状況なんてソロで挑んだ『蒼月の試練』以来だな。骨の身体なのに冷や汗が出てくる気さえするぞ。
「皆、ここからは慎重に…」
「オアアアアア!」
うおっ!何だ何だ、って墓守か!すっかり忘れてたぞ。
あれ?何で墓守がここに?あ、三匹残っていた鼠男将軍を含めた取り巻きが全滅してる…。これ、勝ったのでは?




