迷宮イベントを終えて
視界が戻るとアラ不思議、いつもの研究室に戻っていた。イーファ様と少しお喋りしていたからか、私が最後のようだ。
「イザーム、お疲れ様です」
「ああ、皆もお疲れ様」
アイリスに返事をすると、私は近くにあった椅子に腰かける。色々あったが、なんとも面白いイベントであったな。
そして仲間が帰って来たというのに何も言わない薄情な他の三人は何をしているのか。ジゴロウは見覚えの無い籠手を撫で、源十郎は同じく見覚えの無い腕輪をさすり、ルビーもまた見覚えの無い無色透明の宝石を掲げている。恐らくは報酬の確認をしているのだろう。
「あはは、皆さん帰って来てからあの調子で…」
「そうか。気持ちはわかるから、あのままにしておこうか。それで、アイリスは何を貰ったんだ?」
「あ、はい。私は『生産と技術の女神』ピーシャ様の加護と『神式万能作業台』を頂きました!」
そう言って彼女は自分の後ろに設置していた報酬を見せてくれる。なんでも、『神式万能作業台』はあらゆる生産が可能な作業台なんだとか。鍛冶がしたければ金床や炉になるし、裁縫がしたければ針や糸が出てくるそうだ。正に万能だな。
そして性能も最高…ではないらしい。これはアイリスの能力レベルに合わせて成長するそうな。我々の武器と似ているな。彼女曰く、腕前に見合った作業台を入手しただけで十分過ぎる報酬だそうだ。生産が更に捗るな!
もう一つの『生産と技術の女神』ピーシャの加護だが、こちらは生産した作品の質が向上したり、生産に関する能力レベルが上がりやすくなるらしい。私の加護と似ているな。
「イザームは何を貰ったんですか?」
「ああ、この二つだ」
そう言って私はインベントリから謎の卵と大鎌を取り出す。とりあえず、【鑑定】してみるか。
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魔物の卵 品質:? レア度:?
何が産まれるか解らない卵。所有者固定。
所有者の魔力を吸収して成長し、産まれる魔物が決まる。
産まれた魔物は【調教】が無くとも所有者の従魔となる。
古ぼけた大鎌 品質:劣 レア度:G
錆びと刃溢れだらけの大鎌。破壊不可。所有者固定。
見た目に反した頑丈さが何に由来するのかは不明。
強化素材:黒鉄×5、黒き灯火
装備効果:【闇属性付与】
【封印中】
【封印中】
【封印中】
【封印中】
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卵は興味深いな。何が産まれるかは解らないのは知ってた。ただ、私の魔力によって産まれる魔物が決まるのは面白い。【光魔術】以外の全属性を使い、更に深淵系魔術まで極めんとする私の魔力を参照すると何が産まれるのか。見物だな。
それに、産まれた魔物を従えるのに【調教】が要らないのは嬉しいな。掲示板の情報では【調教】を取得するには従魔士など専用の職業に就く必要があるらしい。魔術を極めたい私にとって、魔術の専門職以外への寄り道は好ましくないからな。助かる仕様だ。
一方で鎌は微妙!今は属性持ちってだけだからな。まあ、強化して真の姿を取り戻せば違うんだろうけど。それに必要な素材が明記されているものの、現状では手に入れる手段が解らないものがあるのも問題だ。
アイリス曰く、黒鉄は鉄と闇属性の魔物の魔石を用いれば造れるらしい。私の作った『呪いの墓塔』の不死系モンスターが落としていたので、似たような不死系モンスターを倒せば手に入るだろう。だが、『黒き灯火』はアイリスでも聞いたことすらないらしい。強化の目処は立たないと言うことだな。
しかしなぁ、女神様に使うと言ったのは事実なんだよなぁ。まあ近場の雑魚狩りになら使えそうだし、今は適当に振り回そう。
さて、とりあえず【鎌術】を取得して使えるようにしますかね。必要なSPは…12!?多いな!魔術師が近接武器なんて使ってんじゃねぇ!って言いたいのかね?まあ、今回のイベントで腐るほどSPは得たからいいんだけどさ。じゃあポチッとな。
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SPを消費して【鎌術】を取得しました。
【鎌術】の武技、斬撃を修得しました。
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おお、武技か。杖の瞑想以来だ。瞑想は休憩中にちょくちょく使っていたが、これはガッツリ戦闘用だな。なんでも鎌での攻撃時に威力とモーションに補正がかかるらしい。素人っぽくない攻撃が出来る、ってことか。
しかし、ジゴロウや源十郎なんかはモーションの補正が気持ち悪いと言って武技をほとんど使わない。リアルチート組には不評な武技だが、一般人たる私は使わざるを得ないだろう。普通の人が鎌での攻撃方法に精通している訳がないだろ?
「ふむ…」
私は新たに増やした腕で鎌を握り、構えて素振りをしてみる。重心が先端に集中しているのでかなり使いにくいはずだが、どう振ればいいのかがなんとなく解る。ボスをやった時と似た感覚だな。これが能力の効果、ということか。
「おお~。なんだか様になりますね!」
「黒いフードに鎌を持った骸骨…死神かな?」
アイリスといつの間にか近付いていたルビーには好評(?)のようだな。折角だし試し切りしてみたくなってきたが、明日は仕事があるからそろそろ寝たい。今日はこの辺で切り上げよう。
それを伝えると、二人は時間が遅い事にようやく気付いたらしい。慌ててログアウトの準備に入っている。そんな二人の少女に苦笑しつつ、私は私室に戻ってログアウトするのだった。
◆◇◆◇◆◇
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種族レベルが上昇しました。
職業レベルが上昇しました。
【杖】レベルが上昇しました。
【鎌術】レベルが上昇しました。
【鎌術】の武技、飛斬を修得しました。
【魔力制御】レベルが上昇しました。
【大地魔術】レベルが上昇しました。
【水氷魔術】レベルが上昇しました。
【火炎魔術】レベルが上昇しました。
【暴風魔術】レベルが上昇しました。
【樹木魔術】レベルが上昇しました。
【溶岩魔術】レベルが上昇しました。
【砂塵魔術】レベルが上昇しました。
【煙霧魔術】レベルが上昇しました。
【雷撃魔術】レベルが上昇しました。
【爆裂魔術】レベルが上昇しました。
【暗黒魔術】レベルが上昇しました。
【虚無魔術】レベルが上昇しました。
【召喚術】レベルが上昇しました。
【付与術】レベルが上昇しました。
【魔法陣】レベルが上昇しました。
【死霊魔術】レベルが上昇しました。
【呪術】レベルが上昇しました。
【罠魔術】レベルが上昇しました。
【降霊術】レベルが上昇しました。
新たに餓鬼召喚の呪文を習得しました。
【邪術】レベルが上昇しました。
新たに幻痛、幻惑の呪文を習得しました。
【考古学】レベルが上昇しました。
【言語学】レベルが上昇しました。
【薬学】レベルが上昇しました。
【錬金術】レベルが上昇しました。
【鑑定】レベルが上昇しました。
【暗殺術】レベルが上昇しました。
【光属性脆弱】スキルが緩和されました。
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はい、ここまでが月曜日から木曜日までの成果です。帰宅から就寝までの短い時間を使って何度も地下墓地へ足繁く通ったのだよ。いや、キツかった。
月曜日は皆でイベントの成功を祝いつつ、各々の報酬を確認しあった。報酬を分類するならば四種類ある。一種類目は元々加護を賜っていた私とジゴロウ以外のメンバーへ与えられた加護だ。加護の効果はハッキリと目に見えないが、確実に強化されているはずだ。私見だが、これからの進化や就ける職業にも関係してきそうだ。貰っておいて損は無かろう。
二種類目は私の大鎌と同じく強化によって真価が発揮されていくアイテムだ。源十郎の腕輪やジゴロウの籠手がそれに当たる。二人は私と違って最初からそこそこ良い能力を持っていたらしく、嬉々として語っていた。く、悔しい!
三種類目はルビーが貰った宝石である。用途が二種類あるのだとか。それはアクセサリーにするか、吸収するかである。前者なら強力な一点物になるし、後者なら確実に特殊な進化が出来るらしい。
散々悩んだ挙げ句、最終的には吸収していた。どんな種族になるのか、楽しみだな。因みにジゴロウは『蒼月の試練』の報酬だった『神獣の魂玉(虎)』と同系統のアイテムである『神獣の魂玉(牛)』を貰ったらしい。貰ったその場で飲み込んだらしいが。
そして最後はここまでのカテゴリーに入らない特殊なアイテムだ。私の卵とアイリスの作業台だな。片や産まれるまでは何の価値もないアイテム、片や生産職垂涎の万能アイテムと差は大きいのだが。
あと、新たな武技と魔術について説明しよう。【鎌術】の武技の飛斬だが、これはよくある飛ぶ斬撃だ。普通に斬るよりも威力が低いが、そもそも私は後衛なので使い勝手がいい。むしろここ数日、鼠男相手に鎌を振り回していた事の方が可笑しかったのだ。これからは物理の遠距離攻撃も出来るようになったことを喜ぼう。
次は【降霊術】の餓鬼召喚だが、これは餓鬼という掌サイズの魔物を大量に呼び出す術。餓鬼とはギョロリとした濁った瞳にぽっこりと出た腹と逆に肋骨が浮き出るほど薄い胸のグロテスクな魔物で、何でも食べる悪食が特徴だな。ただし、この術の最も気味が悪い所は餓鬼の見た目ではない。餓鬼の攻撃方法だ。
なんと奴等は自分の腹が破裂するまで敵を食べようとするのである。正直、グロ耐性が高い私ですら吐き気を催すレベルで気持ち悪かったぞ。攻撃力は高い上に見た目のエグさも相まって対人戦で本領を発揮しそうだな。
最後の【邪術】の幻痛と幻惑だが、前者はそのまま相手の痛覚を刺激する術だ。最初は、この術は対人戦で役に立つと思ったのだが、大きな間違いだった。何故なら、このゲームにおける痛みは動かしにくさへと置き換えられているからだ。故にダメージを食らいながらカウンターを叩き込めるプレイヤーはいくらでもいるらしい。なのでこれは魔物やNPC用の魔術だな。
そして幻惑だが、これは掛けた相手の方向感覚を狂わせる術だ。前後左右上下が解らなくなる術なので、こっちは対人・対魔物の両方で使えるな。
「お!ようやく来たか、イザーム。置いていこうかと思ったぜ?」
「勘弁してくれよ、ジゴロウ」
私がログインした時、既に他の四人は準備万端で待っていた。私が予定より遅かった訳ではなく、彼らが早いのだ。きっと楽しみなのだろう。なんせ、今日からの我々の目標は『忘れられし地下墓地』の攻略なのだから。
先週のイベントで私を含めた全員が迷宮のボスという立場を存分に楽しんだ。しかし、同時に他のプレイヤーが迷宮を攻略する姿を見てとても羨ましかったのである。私達も未知のエリアを冒険したい!と言うことでイベント関連で攻略を後回しにしていた『忘れられし地下墓地』へ行く事に決まったのだ。
前回は一層だけを攻略したし、レベル上げのために何度も通っているが、第一層の魔物はあれ以外に存在しないらしく、代わり映えしなかった。次からはどんな魔物が出現するのか、そしてどんなドロップアイテムが手に入るのか。とても楽しみであるなぁ。
◆◇◆◇◆◇
「どういうことよ!」
ここは神域、その中でも全ての大神が集まるための空間です。そこで公開されたPVの内、『土と天候の女神』ニュレーが担当した部分を見た『光と秩序の女神』アールルが金切り声を上げています。相も変わらずうるさい女ですね。
「何か問題でも?」
「問題大有りよ!何で私の勇者がやられてるシーンがあるのよ!」
この女、自分が何を言っているのか解っているのでしょうか?特定のプレイヤーを依怙贔屓している私達ですらその事実をなるべく隠そうとしているのに、堂々とし過ぎですよ。
「そりゃあ盛り上がるシーンだからだろ。なぁ、ニュレー?」
「ええ、その通りですよぉ。ハイレベルな戦いだし、新規プレイヤーを虜に出来ると思いますぅ」
「キモい魔物が勝つ所なんか誰が見たいって言うの!?」
魔物嫌いも相変わらずですか。彼女は人間や森人など『人類』とされる者達の守護女神なのでそれらを優先するのはわかりますが、今の発言は少々不味いのでは?
「私の、大地の眷族である虫人をキモいですってぇ…?」
ニュレーは普段通りに柔和な笑みを浮かべていますが、うっすらと開いた瞳は全く笑っていません。かなり頭に来ている様子。仕方がありません。私がフォローしますか。
「ニュレー、申し訳ありませんが、ルークというプレイヤー達が敗北する様子は『呪いの墓塔』で映してしまっています。なので別のプレイヤーに変えては貰えませんか?」
「う~ん、そうですねぇ。そこは彼らしかボスに辿り着けていませんもんねぇ。わかりましたぁ」
ニュレーは納得してくれたようですね。しかし、馬鹿は『呪いの墓塔』と聞いて顔をより顰めています。自分の勇者を屠った相手である事に変わりは有りませんからね。ですが、釘は刺して置きますか。
「アールル。我々女神は己が産み出した眷族を愛でる義務がありますが、他の女神の眷族を貶める権利を持ちません。訂正を」
「うるさいわね!魔物なんて、人類の発展を阻害する害悪でしかないじゃない!」
うわぁ。常々思っていましたが、この女は眷族に毒され過ぎていますね。
このFSWの世界を構築したのは『World Simulate System』、通称WSSと言う我々のような疑似人格AIとほぼ同時に発表されたシステムです。これは細かな条件を入力することで、一から世界の成り立ちを観測したり、未来に起こりうる災害を予測したりするツールですね。
それをゲームに流用しているのです。こうすることで現実とほぼ変わらない、リアリティーのある世界が作り出せる訳ですね。
FSWの設定は、地球の約四倍の直径の惑星で現実にはない魔力というエネルギーが存在し、更に我々女神が恣意的な介入がある程度可能、というのが大雑把な基本設定でした。
我々は総合管理AIとして、この世界が産声を上げた時から管理を続けてきました。それこそ、地上がただの荒野であった時からですね。それから時間を加速させ、我々の主観では約1000年経った時からサービスが開始しています。つまり、ゲーム内の書籍等に記載される過去の出来事の殆んどは、サービス以前の世界で実際に起こった出来事なのです。
その間に、このアホは自分の眷族が勝手に言い出した『人類至上主義』に傾倒していきました。自分の眷族こそ、何よりも優れているという思想なので聞き心地が良かったのでしょうね。数百年前に起こった事件も関係してくるのでしょうが。
ですが、このせいでサービス開始時点で人類の作った町に魔物系プレイヤーが入れない理不尽な世界になってしまったのです。つまり、イザーム様達が苦労しているのはこの愚か者のせいなのですよ。
「人類も~魔物も~私達の眷族じゃな~い?」
「理性の無い魔物と人類を並べないで!」
いやいや、知性があって肉体も頑強な種族なんてバランスブレイカーを無くす為にほとんどの魔物は最低限の知性しか持たないようにしたのでしょうが。そして両方を兼ね備えた存在には、克服するのにはとても時間が掛かる弱点属性を持たせるようにして調整しましたよね?
完全無欠の存在なんて龍神を含めた亜神、即ち限りなく神に近付いた力ある者達だけです。そんなことも忘れたのですか?
「もういいわ!貴女達がそう言う態度なら、私にも考えがあるもの!」
「考えとは?」
「…ふん!」
答えもせずに帰りましたか。本当に厄介な女ですね。さて、何を企んでいるのかは知りませんがアレの暴走がどんな混沌をもたらすのかは少々楽しみではあります。様子見と洒落こみましょうか。
各自が貰った物は
イザーム:武器(大鎌)と卵
ジゴロウ:武器(籠手)と特殊進化用アイテム
アイリス:加護と万能作業台
源十郎:加護と装飾品(腕輪)
ルビー:加護と特殊進化用アイテム
ですね。
女神の言っていたWSSですが、実は掲示板回の一回目で名前だけ出しています。突っ込みが無くてちょっと悲しかったですね。
詳しくは手記に記述しようと思っています。ファンタジーな事を考えるのも楽しいですが、架空の技術を妄想するのも楽しいですよ!
次回からは地下墓地の攻略を開始します!




