迷宮イベント その四
ぶわはははははは!見事に騙されたな、勇者共よ!卑怯?違うな。私がやったことのある数少ないゲームでは、強かったボスが実は前座で二連戦だったと言うことはザラだったぞ。
彼らがボスだと勘違いしていたのはユニークモンスター三体と、それらに指揮させる配下だったのだ。いやあ、王族屍体の知能を上げるためのポイントを捻出するのにはかなり苦労したよ。本当はいれたかった謎解き要素を泣く泣く諦めたのだが、ボスだと勘違いさせらせたのだからこれで大正解だったな!
奇襲成功!最後の最後で詰めが甘いのだよ、君たちは!さあ、最大の障害は死んだ!ここからが真のボス戦だぞぉ?リーダー無しでどこまでヤれるのかなぁ?
「や、やったな!」
「許さない!」
ようやく動き出した女達だが、怒りのままに振るう剣や短剣ならば私でも容易に回避可能だ。んでもって、鎌と言う特殊な武器は背後に下がりながらでも使えるんだぜ?
「く、くそっ…!」
「キクノぉ!?」
私は鎌を振りつつバックステップを踏む。それによって鎌の刃は、キクノと呼ばれたプレイヤーの腹部をバッサリと切り裂く。もう死にかけだった彼女は、それだけで御陀仏だ。流石はボスの火力!いい一撃してんねぇ!
「このぉ!」
おっと、この娘は確かローズだったか。もう立ち直っているとは、中々豪胆な女性だな。
「私が盾役をやる!メグは死角に回り込んで攻撃!蓮華、魔力は?」
「まだ無理です!」
「なら、藍菜を庇って!藍菜は光の魔術を用意!」
「「「了解!」」」
ローズの指示で持ち直した辺り、彼女がこのパーティーの副リーダーのようだ。やれやれ、このまま楽に勝たせては貰えないらしい。
「光槍…っな!」
藍菜、だったか?そのプレイヤーが放つ魔術を私はわざとギリギリまで待ってから大きくサイドステップすることで躱す。その一点で彼女達は驚愕している。それもその筈、不死は基本的にノロマなのだ。しかも特殊な魔物でもない限り、戦闘AIは余り賢くない。
しかし、今の私は違う。不死の中でもかなり素早い種族で、しかも中に元々は魔術師だったプレイヤーが入っているのだ。魔術師にとって一番嫌なのは、当たるギリギリで大きく動かれる事。【魔力制御】によって誘導されているから、こう動かれると中々当たらない。
『敵を知り、己を知らば百戦危うからず』という言葉があるが、敵をこれ以上ない程知っている私に魔術が当たる訳がないのさ!
「カタカタカタカタ!」
私はボス部屋を縦横無尽に駆け回りながら鎌を振り、【闇魔術】の闇玉をローズとメグに向かって連射する。ただし、これは単なる牽制と足止めに過ぎない。私の本命は魔術師と神官だ。
私は神官目掛けて鎌を振り降ろす。上段からの一撃を神官は小盾と棍棒を交差させてガードしてみせた。咄嗟に動ける辺り、流石はトッププレイヤーの一角と言うべきか。
「うあぁっ!」
受けきったか。だが、膂力は私の方が勝っているらしい。ジリジリとではあるが押し込んでいる感覚があるからな。
「離れろ!」
まあ、足を止めれば来るわな。私は背後から斬りかかったローズを躱して四人から距離を取る。仕切り直し、だな。
「メグ、鑑定は!?」
「…骸骨処刑者Lv30」
【鑑定】されたか。そうとも。私が選んだ種族は骸骨処刑者。動く骸骨から骸骨戦士、骸骨鎌士から特殊な進化を遂げた魔物だ。
進化する条件は二つ。一つ目は『【鎌術】ともう一つ以上の武器系能力がレベル20以上である事』、二つ目は『防御系または体力増強系の能力を持たない事』だな。ぶっちゃけ『攻撃特化型の鎌使い』がなれる種族だ。
高火力高機動紙装甲と言う奴である。だからこそ、勇者の一撃を食らう訳にはいかなかった。下手すれば普通の骸骨戦士よりも体力が少ないから、即死するボスなんて無様を晒しかねないからな。因みに能力構成はこんな感じ。
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種族:骸骨処刑者 Lv30
職業:大鎌士 Lv0
能力:【鎌術】
【剣術】
【投擲術】
【二刀流】
【筋力強化】
【敏捷強化】
【土魔術】
【闇魔術】
【暗殺術】
【暗視】
【状態異常無効】
【打撃脆弱】
【光属性脆弱】
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【暗殺術】による奇襲で一人を確実に排除した後、時々魔術で以て牽制しつつ、見た目に反したパワーとスピードで翻弄するガン攻め構成だ。
鎌って凄く使い難い武器なんだが、能力のお陰で簡単に使いこなせる。ゲームの動作補助システムによって何となくこうすればいいのが分かるからだな。
それでも難しいのに変わりは無いのだが、使っていて結構楽しくなってきたぞ?
「カタカタカタカタ!」
私は再度、突撃を敢行する。体力こそ少ないが、ボスはボス。ステータスは軒並み水増しされているので、私が本気で疾走すると誰も追い付くことはできない。
それを知ってか知らずか、ローズ達は密集陣形をとっている。恐らくは魔術師以外のメンバーで私の斬撃を受け止め、その瞬間に【光魔術】を撃つ算段だろう。肉を切らせて骨を断つ、といった所か。
そもそも私には骨しかないのだから、何をしたって骨を断つ形になる…って馬鹿な冗談は止めておこう。しかし、彼女達の努力は無駄である。
私は間合いの外から思い切り身体を捻って力を溜める。もし私に肉体があれば、背筋がギチギチと音を立てていたかもしれない。そんなレベルで力をいれる。
「カタタッ!」
「なっ!」
そして十分な力が溜まった直後、手に持っていた大きな鎌を投擲した。鎌は回転しながら魔術師目掛けて一直線に飛んでいく。あ、稲刈りをこうやって出来れば楽なんじゃ?いや、稲穂の回収が面倒だからダメか。
「な、めるなぁ!」
ローズは魔術師に向かって飛んでいく鎌を剣で撃ち落とした。飛んでくる巨大な刃物を打ち返すとは凄い胆力だ。
しかしまあ、そうするわな。当たれば運が良かった、程度のものよ。むしろ計算通りだ。
「カタカタ!」
「くはっ…!?」
私は握った両手剣によって鎌の対処で隙だらけになったローズを切り裂く。彼女達は知らないだろうが、進化の条件を満たすためにこのボスは【剣術】も持っているのだよ。
使うのは勿論、処刑剣。欧州で処刑の際、本当に使用されていた先端が平たい剣である。こういうモノを隠せる所もローブのいい点だな。
因みに、処刑剣は先端が平たいせいで突きが出せない代わりに首狙いの斬撃へ命中補正がかかるらしい。積極的に首刈りを狙って行くぞ?
私の速度と腕力がしっかりと乗った斬り上げによって、ローズは死亡、光の粒子となった。更に剣から左手を離して落ちていた鎌を握り、ローズの左右にいた盗賊と神官にそれぞれを振るう。
盗賊は鎌を回避したが、神官は防御を選択した。しかし盾を構えるのが一瞬、遅かったな。処刑剣はその用途通りに神官の首を切断する。残りは二人!
「くっ、聖光!」
魔術師の杖から一条の閃光が迸る。は、速い!流石は守りに特化しているが、数少ない攻撃魔術の速度は最も速い【光魔術】だな。この種族でなければ当たっていただろうよ。
「このタイミングでもダメなの!?」
「私が、行く!」
盗賊は二本の短剣を逆手に持って私に向かって来る。おお?これは二刀流というやつか?左右の腕がまるで別の意思を持っているかのように動いている。私と一緒だな!
しかし、前衛としての年季の差は大きいらしい。防ぐので手一杯だ!使っている武器が両方とも大きいのも一因だろうな。ならば、これでどうだ?
「カタカタ!」
私は自分の足元に石壁を使う。するとどうなるか?石壁がせりあがる速度で上を取ったことになるのだ。
「んあっ!?」
石壁の上から盗賊の背後に跳躍した私は、防戦一方だった鬱憤を晴らすべく、鎌で彼女を袈裟懸けに両断した。これで、残りは一人。
「カタカタタ!」
「ひっ!」
私は持ち前の速さで一気に距離を潰すと、右手の処刑剣と左手の大鎌で魔術師を首と胴体を両断する。これにて戦闘終了、だ。
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イベントで勝利しました。
6SPを獲得しました。
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「よぉぉし!勝ったぞぉぉ!」
私は誰も居なくなったボス部屋で勝利の雄叫びを上げる。いやいや、疲れた。クタクタだよ。前衛って、こんなに疲れるのか。神経が磨り減っていく感じがしたぞ。
私には刺激が強すぎる。格下を虐めるならまだしも、同格とチャンバラするのはゴメンだ。ジゴロウ達の前衛でギリギリの戦いを求める心はきっと一生涯理解出来ないだろうな。
それにしても、PVに使われるからと厨二心を擽る種族を選んだのが功を奏すとは。あ、けど私のド汚い戦い方でPVに使えるのか?
ユニークモンスター三体が率いる魔物の群れで勘違いさせておいて、背後から急襲。それからも初見殺しな技で翻弄…ダメな気がする。まああの女神様のことだ、きっと上手く編集してくれるさ。…してくれますよね?
気にするのは止めよう!うん!今頃勇者パーティーが我が迷宮の構造を掲示板に書き込んでいるだろう。それを読んだ連中が押し掛けてくるに違いない。そっちでは可能な限り派手に暴れるとしようか。
◆◇◆◇◆◇
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イベントで勝利しました。
23SPを獲得しました。
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5…4…3…2…1…0
はい、イベント終了!結局、勇者パーティー以外は誰もここまで来ませんでした。勇者パーティーは詳細な情報を載せたのだが、罠はともかく物量の前に敗れ去ったのだ。やはり、弱い魔物とはいえ狭い通路で前後から挟まれたら推奨レベル帯でも厳しいのだろうな。
「おや?」
一人で感想をまとめていると、頭の中で電子音が鳴った。これは何かの通知が来た時の合図だ。なんだろうか、とメニュー開くと、視界が真っ白に染め上げられた。
◆◇◆◇◆◇
「毎度の事ながら唐突ですな、イーファ様」
「うふふ、この方が楽しいでしょう?」
そりゃ、ビックリさせる側は楽しいでしょうよ。口には出さないけどさ。
「それで、ここに招いたと言うことは…もしや?」
「ええ。イザーム様に約束の報酬を差し上げようかと」
私は心の中でガッツポーズをとる。必死に頭を使って弱い魔物を最大限に生かす方法を模索したり、注意が散漫になるタイミングを予測して罠を仕掛けたりした甲斐があったというものだ。
「楽しませて貰いましたよ?特に勇者が首を刈られた時の顔…今にも思い出し笑いをしてしまいそうですよ」
何気ない畜生発言ですねぇ。私も人の事は言えないのですが。
「勇者と言えば、プレイヤーのランキングはどうなったのです?今頃は結果発表なのでは?」
「あら、気になりますか?」
「ええ、勿論です」
一期一会で初見攻略を強要される無作為迷宮を効率よく攻略出来る事は、どれだけ機転が利くのかに関する一種の指標となり得る。いつか敵対する可能性鑑みれば、注目せずにはいられない。そう伝えるとイーファ様は微笑みつつ頷いた。
「ならば一番気になるのは最多迷宮攻略賞ですか。最も多くの迷宮を攻略したのは『白き陽光』ですね。あの勇者率いるパーティーですよ」
ほぅ。彼らが一位なのか。というか彼らのパーティー名は『白き陽光』だって初めて知ったぞ。中々格好いいじゃない。あと、我が迷宮の栄誉ある第一被害者であった『剛院具枚植威』は最多迷宮攻略賞は逃したものの、それでも堂々の三位入賞を果たした。おめでとう!
「因みに、彼らがクリア出来なかった迷宮はイザーム様の『呪いの墓塔』と源十郎様の『虫の楽園』だけです」
「おや?ではジゴロウの迷宮は攻略されてしまったので?」
「いいえ。単に彼らは挑戦出来なかっただけですよ。我々が依頼したイザーム様達の中に、迷宮を攻略された方は居られませんので」
おおお!皆もやりとげたのか!それは目出度い。特に恐らく勇者パーティーとガチンコ勝負をして勝った源十郎は流石としか言い様が無いな。むしろ、最後の最後まで搦め手で行った私が異質なのか?
「さて、時間も有りませんし手早く報酬を差し上げましょう」
「時間?」
「ええ。ここがプレイヤーを易々と招いて良い場所ではないことは理解されておられるでしょう?」
「それはそうでしょうね」
当たり前だ。ここは神々の住まう領域、というヤツだろう。俗な言い方をすれば舞台裏のようなもの。そんな場所へプレイヤー気安く通していい訳がない。
「余り長居されると我々に賛同しない神に気付かれる可能性が高まるのですよ」
「なるほど、それは一大事ですな」
つまりイーファ様と不仲ないし敵対している神がいて、私達も連中に目を付けられる可能性があるのか。さっさと退散せねば。
「ご理解頂けたようで何よりです。ではこれをお受け取り下さい」
――――――――――
ゴッドクエスト:『迷宮の主』をクリアしました!
報酬が贈られます。
隠し条件、『難攻不落』を達成しました!
報酬が贈られます。
――――――――――
アナウンスと同時にイーファ様の手から神々しい光の玉が生まれ、私の方へと飛んでくる。ふよふよと頼りなく近付いてくるそれに思わず両手を伸ばすと、その光は実体となった。
「これは…卵?」
「ええ、その通りです」
私に与えられた報酬。それは人間の頭部程もある卵であった。一度テレビで観たダチョウの卵のようだな。しかし、ダチョウであるハズはないし…。一体、何の卵だというのだ?
「何が孵るかは私にもわかりません。というのも、この卵はイザーム様の行動によってイザーム様に相応しい相棒を産み出すからです」
「相応しい相棒、ですか。面白いですね」
ランダム、ではなく私の行動で決まるのか。参照する行動が何なのかは不明だが、私の行動原理を元に産まれると言うことはある意味私の分身のようなものだな。とても面白い。
「それは良かったです。では、あらゆる攻略者を退けたご褒美はこちらです」
「鎌…?もしや?」
「ええ。お察しの通り、イザーム様がボスとして振るっていた大鎌です」
うひょお!それは粋な計らいじゃないか。刃溢れと錆びだらけの鎌は記念品なんだろうけど、とてもロマンがある。ならばこれで十分だ。
「見た目はみすぼらしいですけれど、強化して使って下さいね。きっとお似合いですよ」
「…わかりました」
ふむ、イーファ様が言うのなら強化してみよう。という事は単なる記念品ではないのか。なら大切に使ってみますかね。なら、ここからでたら【鎌術】を取らねば。なぁに、このイベントでSPは腐るほど得たんだ。少し散財してもいいさ。
「そろそろ限界です。イザーム様、この度のご協力には本当に感謝しております」
「水臭いことをおっしゃいますな。私は単に祭りを楽しんだとしか認識しておりませんよ?」
これは私の嘘偽り無い気持ちだ。彼女達の思惑が何であれ、私はただ楽しかった。他の四人も同じだと思うぞ?
「ふふふ、そうでしたか。『夜行』の未来に幸有らんことを神域より祈っておりますよ」
それは心強い、という私の思考は言葉になる間もなく目の前が白く染まって行く。ああ、今回の謁見はこれで終わりか。視界が全て白く塗り潰されながら、私は暢気にそんなことを考えるのであった。
主人公の迷宮はダークソ○ルシリーズのフィールドみたいなもの。むしろボス部屋まで行けた彼らを誉めてやって欲しいです。
ボス戦が連戦だった時の絶望感は半端じゃありませんよね。ス○ウ&○ーンス○イン戦初見時には泣きそうになりました。
骸骨のキャラが持つ武器と言えば、ボロボロの屑鉄か大きな鎌だと相場は決まってますよね!ですが、『死と混沌の女神』がいるので、もし骸骨処刑人になってから進化を重ねても死神にはなれません。しかし特定の条件を満たすと…?
短いですが、第三章は次回で終わりです。
次の話と掲示板回と同時投稿します!




