迷宮を作ろう
さて色々と考察したい事はあるが、まずは小休止してから下水道の下層改め『忘れられし地下墓地』に行くとしよう。
それにしても地下墓地、ね。物語において墓地に出現する魔物といえば不死というのが鉄板ではないのか?なのにその入口を守っていたのは鼠男だった。これは何を意味しているのだろうか。
考え事は後回しにしよう。先に地下墓地を観察してするか。鼠男将軍達が守っていた入口の階段を下ると、真っ暗な通路に出た。床は石材で舗装され、通路の壁は棚状になっており、そこには白骨死体がぎっしりと詰め込まれている。
埋葬の雑さから見て、おそらくここは貧困層の死体が葬られているのだろう。南無南無。
「うわぁ、この骨、採取出来るみたいだよ」
「ううむ、死者の骨を持ち帰るのは気が引けるのぅ」
ルビーが心底嫌そうに言ったが、なんとこの骨は採取して持って帰ることが出来るらしい。私からすれば素材の宝庫なのだが、源十郎は墓を暴くというのには抵抗があるようだな。
こんな些細なことで喧嘩になるのもバカらしいし、採取は止めておこう。もう一度南無南無。
「待って、敵だよ!」
先頭のルビーが敵を発見したようだな。全く、骨のことを考える時間位くれても罰は当たらんだろうに。それはともかく、取り敢えず【鑑定】だな。
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種族:鼠男戦士 Lv21
職業:戦士 Lv1
能力:【悪食】
【牙】
【剣術】
【槍術】
【斧術】
【体力強化】
【筋力強化】
【防御力強化】
【敏捷強化】
種族:鼠男魔術師 Lv23
職業:魔術師 Lv3
能力:【悪食】
【牙】
【土魔術】
【火魔術】
【闇魔術】
【知力強化】
【指揮】
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鼠男戦士三体と鼠男魔術師一体か。戦士は物理特化、魔術師は魔術特化という感じだな。
物理と魔術、両方使える騎士の方が一対一なら強いかもしれないが、特化同士で徒党を組まれるとこっちの方が厄介だと思う。やっぱり一筋縄では行かないか!
「ヂュヂュ!」
「ヂュガッ!」
あらら、気付かれたか。不意討ちは出来ないな。では、真っ向から迎え撃つとしよう。
「菱魔陣遠隔起動、沈黙!」
「…ッ!?」
私は最初にやったのは、新呪文である【呪術】の沈黙で鼠男魔術師の魔術を封じ込める事だった。地下墓地はかなり狭く、魔術を使われると流石のジゴロウと源十郎でも回避が困難だ。
なら、初めから使わせなければいい。沈黙は魔術を一定時間使えなくする呪文だ。【虚無魔術】の魔力妨害に似ているが、これが敵味方問わずであるのに対して沈黙は確率で失敗するが指定した相手だけを封じる事が出来る。こっちの方が圧倒的に便利だな。
「へっ、ヌルいぜ!」
「ふっ!」
ジゴロウと源十郎は鼠男戦士と一対一で戦っている。どうやら二人が押しているようだ。同じレベル帯であるジゴロウはともかく、源十郎はまだ二回目の進化を遂げていないのに普通に勝っているのか…流石はリアルチート勢。
「ルビー!」
「任せて!」
一方、アイリスとルビーは二人で鼠男戦士と戦っているようだ。アイリスが触手で捕らえてルビーが短剣で切り裂く、と言うのが基本戦術なのだな。
しかし、だからといって鬱陶しいルビーに気を取られるとアイリスの木槌や鉈、更には私よりは弱いが魔術が飛んでくる。エグい組み合わせだな。
「負けてはおれんな。菱魔陣遠隔起動、氷円」
お次は【水氷魔術】の新呪文、氷円だ。これは指定範囲の温度を急激に下げる魔術だ。射程は短めで範囲も少し狭いが、遠隔起動すれば全く問題は無い。
流石に一瞬で絶対零度まで下がる事はないが、四重で発動させればマイナス数十度まで下がったはず。予想通り、鼠男魔術師は全身を震わせながら膝を付いた。
「寒そうだな。なら、暖めてやろう。菱魔陣遠隔起動、溶散弾」
親切な私は寒そうな鼠男魔術師を暖めるべく、【溶岩魔術】の溶散弾をお見舞いしてやる。
これは溶弾の散弾バージョン、と言えば分かりやすいだろうか。溶弾より一回り小さい溶岩の塊が五発飛ぶ術である。それを四重にして発動したので計二十発が飛んでいった。
「……!」
寒さで動けない鼠男魔術師に全弾命中し、私は彼の身体を強かに暖める事に成功した。うん、気持ち良くて昇天したみたいだな。
「と、冗談はさておき…終わったな」
私が止めを刺したのとほぼ同時にアイリスとルビーのコンビも鼠男戦士を倒したようだな。結構結構!
気になるドロップアイテムだが、とてもしょっぱい。多少品質の良い鼠の皮と前歯、そして鼠男戦士が持っていた初期装備より少しだけマシな鉄製武器だった。経験値的には美味しいんだがなぁ。
そう言えば鼠男将軍のドロップも大したこと無かった。基本的に我々はドロップアイテムを一度共有し、欲しい人同士で話し合うという取り決めを交わしている。
しかし、当たり前だが止めを差した者に優先権がある。なので止めを刺した源十郎の物なのだが、彼は要らないから貰ってくれと言い出したのだ。
まあ、ドロップは斧と鎧だったからな。斧は伐採に使えるからとアイリスが所有する運びとなったが、防具は誰も要らないことが判明した。
良く考えれば、我々の前衛を努めるジゴロウは軽装だし、源十郎に至っては外骨格があるのでこの上に防具を装着したら動きの邪魔になるらしい。残りの三人も勿論使わない。
性能は結構いいものではある。なんでも体力が減少すればするほど防御力が上がるんだとか。最後の方でやたらと硬くなったのはこの鎧の効果みたいだ。
なのでそのまま源十郎の所有となった。きっとインベントリの肥やしになることだろう。良いものではあるんだが、拾った相手が悪かったと諦めてほしい。
閑話休題。こうして地下墓地の初戦を勝利で飾ったわけだが、敵はかなり強い事が解ったな。慎重に進むとしよう。
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種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【杖】レベルが上昇しました。
【魔力制御】レベルが上昇しました。
【大地魔術】レベルが上昇しました。
【水氷魔術】レベルが上昇しました。
【火炎魔術】レベルが上昇しました。
【暴風魔術】レベルが上昇しました。
【樹木魔術】レベルが上昇しました。
【溶岩魔術】レベルが上昇しました。
【砂塵魔術】レベルが上昇しました。
【煙霧魔術】レベルが上昇しました。
【雷撃魔術】レベルが上昇しました。
【爆裂魔術】レベルが上昇しました。
【付与術】レベルが上昇しました。
【魔法陣】レベルが上昇しました。
【呪術】レベルが上昇しました。
【罠魔術】レベルが上昇しました。
【考古学】レベルが上昇しました。
【言語学】レベルが上昇しました。
【鑑定】レベルが上昇しました。
【暗殺術】レベルが上昇しました。
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地下墓地の第一層、マッピング完了です。いやぁ、大変だったよ。かなり長い時間歩き回ったからな。その過程で地下墓地の壁画や副葬品をちまちま【鑑定】したので学問系のレベルもかなり上がったな。
そしてここはかなり古い墓場だと判明した。当時の世界情勢に関する情報こそ得られなかったがね。しかし、上の都市部よりも広い下水道に地下墓地、か。どうやらファースの街には何らかの秘密がありそうだな。
それにしても、相当な数の鼠男系の魔物と戦ったぞ。もうしばらくは鼠男は見たくないレベルだ。…下水道に住んでいるからには避けられない相手なのだが。
隈無く歩いた結果、更なる下層へ繋がる階段を発見した。まだまだ地下墓地は終わりではないらしいな。
あと何度か動く骸骨系と遭遇した。まあ、雑魚なのだが魔骨のドロップはとても有り難い。こちらは倒して手に入れたものなので持ち帰るのに源十郎も難色を示さなかった。
また、雑魚に変わりはないが面白い動く骸骨と出会った。こんな相手である。
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種族:骨壁 Lv16
職業:なし
能力:【防御力強化】
【骨吸収】
【暗視】
【状態異常無効】
【光属性脆弱】
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名前の通り、無数の骨が集まって出来た壁だった。弱い。弱いんだけど、今後【死霊魔術】で不死を作成する時の参考になる魔物ではあったな。いつか馬鹿みたいに骨を集めて骨宮殿とか作れるかもしれないな!
それはさておき、ボチボチ帰るとするか。連戦に次ぐ連戦で私の魔力は残り少ないし、前衛組を回復させるアイテムも枯渇寸前だ。ここらで退くべきだろうよ。
皆も同じ意見だったらしく、ここで地下墓地攻略一回目は終了した。どこまで深いのかはわからないが、絶対に最後まで攻略してやるからな!
◆◇◆◇◆◇
我々は来た道を引き返して研究室まで無事に帰還した。ふう、やっぱりここは落ち着くな。
普段なら魔力が回復し次第ジゴロウは狩りに出掛けるのだろうが、我々にはやらねばならぬ事がある。それは明日の準備だ。各々の思い思いに迷宮をデザインし、どんなボスになるかを決めて依頼者である女神に提出するのである。
アイリスとルビー、そして源十郎は既に提出済みで、私とジゴロウは未提出だ。何故まだ出来ていないのかと言うと、私は今日の為にレベリングしていたので時間が取れず、ジゴロウは面倒事を後回しにする性分だかららしい。未提出である私が言うのも何だが、女神に怒られるぞ?
さて、私はどんな迷宮を作るのか?それは当然、不死だらけに決まっている。難易度を高めにしつつ、趣味全開で行かせて貰おう。
「ええと、何々…迷宮には建造ポイントがあるのか。んで、迷宮にはあらかじめ難易度が設定されていて、それは推奨レベルで表記される。そして難易度毎に与えられる建造ポイントが変動する、と」
迷宮は建造ポイントというものを割り振って造るようだな。難易度こと推奨レベルが高い程、与えられる建造ポイントが上昇するらしい。難易度で出現する魔物の初期レベルも変わるようだ。推奨レベル付近になるのだろう。
「内装に凝るのは問題無いけど、罠やら出現する魔物を弄ると増減する、ね」
例えば迷宮の内装を洞窟っぽくしたり豪華な城の廊下っぽくしたりするのには建造ポイントは消費しない。そういうステージというだけの話だからな。
しかし、出現する魔物を設定したり、それを強化するとポイントを消費するようだ。逆に推奨レベル毎に出現させられる魔物の初期レベルがあって、それより下の魔物を出現させるとポイントが少し浮くようだ。
あと、確実に宝箱をドロップするエリートモンスターというのもいる。ポイントは凄まじく消費するが。
「迷宮にはデフォルトの広さと宝箱の出現個数や中身のグレードが設定されていて、これも弄るとポイントが変動するのか」
迷宮をやたらと広くしたり、宝箱の数を減らしたり、宝箱の中身を粗品にしたりすればするほどポイントは消費されるのか。その逆もまた然り、だな。あと、扉の開閉にややこしい謎解きなんかを入れるのもポイントを消費する。当然だな。
「推奨レベルよりも5レベル以上低い者は挑戦出来ないのか。高くするとトップ層がガンガン来るし、低くすれば駆け出しばかりが集まる訓練所扱いになるってことかな」
推奨レベルより5レベル以上低いプレイヤーはその迷宮に挑戦出来ない。これは重要な情報だ。
我々は女神様から依頼を受け、第二陣に向けた魔物のアピールをせねばならない。ならば、高レベルプレイヤーをなぎ倒す絵が必要だろう。最高難易度か、準最高難易度にせねばなるまい。
となれば、私が選ぶべきは最高難易度だな。で?最高難易度で登場させられる不死はどんなものがいるのかを見てみよう。
「高位屍体、幽霊、骸骨剣士…その他諸々。20~25レベルの魔物、てことか」
なるほど。最高難易度はさっきまで我々が挑戦していた『忘れられし地下墓地』と同等ということ。まあデフォルトの広さが地下墓地の第一層よりも狭いので、難易度で言うとあっちの方が高いのだろうけど。
ふむふむ、仕様は完全に理解した。では、早速建造に取り掛かろう。方針としては不死を全面的に押し出しつつ、初見殺しの罠を配置する。しかし、理不尽過ぎないように。誰もボス部屋に来なかったら意味がないからな。
ここをこうして…あ、こいつをここに配置すればいいか。んで、ここに隠し宝箱を…うん。良く調べれば見つけられるな。ブービートラップは、ここなら効果的だろうな。お、これをここに置いとけば…ククク、引っ掛かると嬉しいぞ。
内装はこれで完成だな。ポイントはきっちり使いきった。コンセプト通りの出来だと自負できるな。私が入るボスは、こいつ一択。
うん、いいじゃない!いい感じにホラーっぽい雰囲気が出てるよ。これで完成…?
「ん?迷宮の名前を決める必要があるのか?」
名前ねぇ。うーん、どうしようか。名前負けさせたくないが、あんまり舐められるのも嫌だしな。よし、決めた!
「『呪いの墓塔』、と。これで提出」
推奨レベル25の『呪いの墓塔』。これが明日一日私が主となる迷宮の名前だ。さあ、プレイヤーよ。我が迷宮の踏破に挑むがいい!
ようやく迷宮作りに着手させられましたが、細かく書くとネタバレになってしまうので詳細には書けないという悲しみ。
『建造ポイント』やらなんやらと、まるでプレイヤーが弄ることを前提とした機能ですねぇ…?




