不戦敗のリベンジ
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【光属性脆弱】スキルが緩和されました。
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ログインしました。現実の時刻は午前11時30分。丁度良い時間だな。私は光を放つランプを腰に吊るして自室から今は全員の談話室と化しつつある研究室に行く。
既にいるのは作業中のアイリスと読書中のルビーか。二人はこちらを見たかと思えば、時が止まったかのように動かなくなった。
「おはよう。いや、時間的にはこんにちは、か?」
「こ、こんにちは…イザーム?」
「…何故疑問系?」
アイリスがやや戸惑ったような挨拶に、私は首を傾げる。何かおかしな所があっただろうか?
「イザーム?あのさ、何があったら一晩でそんな化け物に変わるの?」
「ば、化け物?」
「いやいや、その牙とか…肘の爪とか…何よりなんで腕が増えてんのさ?」
「腕は自分で増やしたんだが…牙?肘の爪?」
牙と肘の爪だって?なんだそれは?私は指摘された通りに肘を見る。すると確かに肘の先端に見覚えの無い鋭利な爪らしき突起がついているではないか。な、なんじゃこりゃ!?
次に私は恐る恐る自分の顔に触れ、指を口へ這わせる。そして私の尖った指先が触れたのは、猛獣もかくやと言わんばかりの生え揃った牙であった。
私は慌ててメニュー画面を開いて自分の姿を確認する。そこには禍々しいとしか形容出来ない凶悪な見た目の骸骨が映っていた。
「…恐っ!」
「いやいや、自分のことじゃん。それで、何をしたの?」
「ああ、実はな…」
私は二人に昨日やったことを、即ち自分の身体を改造してから進化と転職をしたこと語って聞かせた。すると二人は呆れたようにため息をつく。何故だ?
「イザームって、案外チャレンジャーなんだね」
「チャレンジャー?」
「あの、システム上ですら可能かどうか不明だったんですよね?それを躊躇なく試せるのはチャレンジャーでしょう?」
「それに、自分の身体を改造するっていうのも普通は嫌がるんじゃないかな?」
「そうなのか?」
いや、これはゲームなんだし面白そうなことは積極的に試すものじゃないのか?それに身体の改造への忌避感もよくわからん。だってゲームじゃないか。現実で整形手術をするわけでもあるまいし、そんなに嫌がることかね?まあ、価値観の違いと言うべきか。
「何にせよ、進化と転職で強くなったはずだ。鼠男将軍戦では期待してくれ」
「頼りにしてるよ?」
「はい!…あ、増えた腕の防具はどうしましょう?」
「今から鼠男将軍戦に間に合う訳がないから、帰ってから頼めるかい?」
「素材は?」
「劣小蛇龍を使って欲しい」
「了解です」
因みに、アイリスは進化した私を『もっとカッコ良くなった』と評した。やっぱりこの娘、ただ者ではないな。
◆◇◆◇◆◇
三人でしばらく雑談していると、ジゴロウと源十郎もログインしてきた。私の変わり様に二人も驚いたが、女性二人ほどではなかった。
源十郎はより強くなった事を喜ぶだけだったし、ジゴロウにいたってはより強いスパーリング相手を作れるとはしゃいでいた。…戦闘狂め!
何はともあれ我々は予定通りに鼠男将軍を討伐すべく研究室を出発した。時折遭遇する鼠男を蹴散らしながら進軍し、遂に私とジゴロウが以前に引き返した地点に到達した。
まだ相手に気付かれてはいない。物陰に隠れたまま、私は全員を【付与術】で強化していく。これで準備は整った。
「よし、準備完了だ」
「んじゃあ作戦通りに行こうぜ」
「ああ、行くぞ…魔石吸収、菱魔陣遠隔起動、熱霧!」
【付与術】と杖の機能である【魔石吸収】で威力を上げ、さらに【魔法陣】の菱魔陣によって同時に放たれた四発の熱霧が鼠男将軍とその取り巻きに襲い掛かる。
【暗殺術】の効果も乗った灼熱の霧が、鼠男達を焼いていく。沸騰した湯に頭から浸かるようなものなのだから、彼らの痛みは尋常ではあるまい。
熱霧で苦しむ鼠男の軍団だが、この程度で仕留め切れるとは思っていない。それどころか私と同格以上の相手なら大したダメージは与えられないだろう。
「続けて菱魔陣遠隔起動、亡者召喚。取り押さえろ!」
「「「オオオォオォオオ!!」」」
「ヂュ!?」
ならばどうするか。そこで我々が立てた作戦は、強い相手を抑えている間に取り巻きを片付けるというものだ。自分達よりも多数を相手取る時の常套手段だな。
この作戦で取り押さえるのは鼠男将軍ただ一匹。その為に熱かろうが冷たかろうが愚直に突っ込む【降霊術】で召喚した亡者の物量でごり押すのだ!
「ヂュガガガァァ!」
「ヂヂィ、ヂュウウ!」
そんな阿鼻叫喚の地獄の中でも動く影がやはりあった。体格からいって、鼠男騎士に違いない。奴らは私よりも格上。耐えるのも道理だ。だが、混乱を収めることは出来ていない。これも計算通りだ。
「シャアアアアアアア!」
「行くぞ!」
私と同じく鼠男騎士の影を見つけたらしいジゴロウと源十郎が霧の中に飛び込んで行く。FSWでは仲間への攻撃が無効なので二人はダメージを受け無い。やりたい放題だ。
ジゴロウは進化したことで神獣化せずとも纏えるようになった雷を宿した拳で、源十郎は試練の報酬として得た大太刀で鼠男騎士へ確実にダメージを与えていく。鼠男騎士は四体いたのだが、既に二人がそれぞれ相手をしている二匹は虫の息だ。
「えいっ!」
「はっ!」
「暗黒界、闇波」
戦っているのは何も二人だけではない。アイリスとルビー、そして私の三人は熱霧によって死に体の鼠男に止めを刺していたのだ。アイリスの触手が首を絞め折り、ルビーの短剣が急所を抉り、私の魔術が吹き飛ばす。
単純な攻撃力ではジゴロウや源十郎に届かないアイリスとルビーだが、手数ならば圧倒的に上だ。弱らせた雑魚を散らすなら無数の触手を持つアイリスと素早い動きのルビー、そして範囲攻撃ができる私の方が向いているのである。
「ヂュオオオオオオオオオオ!!!」
鼠男騎士が三体、そして鼠男が全滅した頃に亡者をどうにかはね除けた鼠男将軍が雄叫びを上げた。鼠の顔色なんざわからないが、【言語学】のお陰で激昂しているのははっきりと解るぞ。
「ヂュウウ!ヂュアア!」
「させんよ!双魔陣遠隔起動、石壁」
自由になった鼠男将軍が最初にやったのは、【土魔術】による遠距離攻撃だった。見た目から言って石槍だな。それを連続で二本。狙いは今にも鼠男騎士を仕留めそうなジゴロウと源十郎だ。
二人に迫る石槍を私は魔術で防ぐ。レベルでは負けていても本職の私の守りを貫通は出来ないようで、私の石壁は砕かれる事もなく防ぎ切った。
「ありがと、よっと!」
「ナイスじゃ!」
「ヂィッ…!」
邪魔が入らなかった事で、最後の鼠男騎士は腹部にジゴロウの剛拳を受けた上に源十郎の大太刀で頭を割られて絶命した。これで残りは圧倒的に格上とはいえ、鼠男将軍ただ一匹だ。
そしてここで熱霧の時間切れだ。普段通りに戻った下水道で我々と鼠男将軍は睨み合う。
「ここからが本番だ!アイリス!」
「はい!」
アイリスは鼠男将軍の足を絡め取ろうと触手を総動員して伸ばす。直接的なダメージは無いしいつまでも拘束出来るほどアイリスの力は強くない。しかし、鬱陶しいのは確かだ。
案の定、鼠男将軍は小刻みにステップを踏んで触手を避けている。流石に素早い!
「ヘイヘイ、デカイの!俺と遊ぼうぜ!」
「ついでに儂とも遊んでもらおうかの!」
アイリスに牽制されている鼠男将軍に、ジゴロウと打刀に持ち変えた源十郎が襲い掛かる。打刀は先日の洞窟探索で水中から引き揚げた一振りで、アイリスが研いだ事で真の力を発揮可能となった業物だ。
同じく脇差しもセット装備の業物らしい。しかも色々な素材を集めて強化すると新たな力に目覚めるらしく、源十郎の武器として末永く付き合う事になるかもな。
閑話休題。彼らはアイリスの触手を上手く避けながら鼠男将軍に肉薄し、ガンガン攻撃していく。相手も回避したり斧や鎧の硬い部分で防御したりして善戦しているが、反撃は出来ないようだ。なら、その均衡を崩してやろう。
「罠設置、菱魔陣遠隔起動、雷矢」
「ヂヂッ!?」
私は回避困難かつ広範囲に影響を及ぼさない雷矢を放つ。足元の触手と二人の飽和攻撃に手一杯だった鼠男将軍は、私の不意討ちに反応出来ずに四発とも直撃した。
「せいっ!」
「!?」
そうして出来た隙に、途中から身を潜めていたルビーが急襲する。下水道の天井に張り付いて様子を伺っていた彼女は、二本の短剣を鼠男将軍の喉元と右目に刺す。これは痛いぞ…!
「オッラァ!」
「ふんっ!」
「…!」
更にジゴロウと源十郎の追い討ちが入る。通常の鼠男ならば一撃で沈む二人の攻撃が鼠男将軍の体力の大部分を削り取った。流石だな。
「やあっ!」
痛打を食らった鼠男将軍の足をようやく捕らえたアイリスは、足を思い切り引っ張る事で奴を転ばせる事に成功した。これが万全の鼠男将軍ならば無理であっただろうが、既に満身創痍なので踏ん張りが効かなかったのだろうな。何にせよ、チャンスだ。
「オラオラオラァ!」
「卑怯、と言ってくれるなよ?」
「やってる事は完全に悪役だけどね!」
倒れた鼠男将軍に、ジゴロウ、源十郎、そしてルビーの三人が追撃を繰り返す。私も【邪術】で幻覚を見せ、幻聴を聞かせる。これはもう戦いと言うよりリンチじゃないか。
「~~~~~!」
体力が一割を切ったタイミングで、鼠男将軍は斧を出鱈目に振り回してジゴロウ達を追い払うと、口から血を吐きながら立ち上がった。おそらくは咆哮をあげるはずだったのだろうが、喉を潰されているので声は出ていない。
しかし、こうなったからには相手は死力を振り絞って向かって来るに違いない。終盤戦に突入、だな。
「~~~!~~~~!」
鼠男将軍の初手は、先程と同じく魔術だった。大した威力は無さそうだが、無駄に食らう必要も無いだろう。魔術相手なら私の出番だ。
「菱魔陣起動、魔力盾」
私は自分以外の四人の前に魔力盾を出して援護する。私は月の羽衣の機能で飛行して回避した。いや、三次元的の動きは楽しいし回避も楽だな。
「~~~~!」
多少手数を増やした所で魔術では打開出来ないことを悟ったのか、鼠男将軍は斧での攻撃に切り替えたらしい。両手斧を掲げて突っ込んで来る。
速いな、今までとは全然違う!火事場の馬鹿力、という奴か?
「儂に任せよ」
そう言うと源十郎が前に飛び出した。そして鼠男将軍の斧による連撃をなんと打刀で全て捌き始めたではないか!ほんっとにリアルチートってズルい!
更に斬り返しで幾度か斬っているのだが、何故かダメージの通りが悪い。一時的に防御力が上がっているのか?
「羨んでも仕方がないか。皆、総攻撃だ!」
「はい!」
「おう!」
「わかってる!」
三者三様の返事を待たずして、私は様々な魔術を鼠男将軍の死角から遠隔起動で連発する。特に重視するのは【呪術】だ。防御力が上がったのなら、下げてやればいいんだよ!
ジゴロウは神獣化して超高速のヒット&アウェイ戦法でダメージを稼ぎ、ルビーは死角から短剣で急所や関節を攻撃する。アイリスは拘束が効かないと解るや否や試練の報酬である木槌と鉈を振り回しているな。以外と我々の中で最も豪快な戦い方をするのはアイリスかもしれない。
四人の攻撃は決して生温いものではない。なのに鼠男将軍はまだ倒れない。一体、どんだけタフなんだ!?
「~~~!」
「いい加減に…せんか!」
目を血走らせた鼠男将軍は、一心不乱に斧を振り続けている。防戦一方に見えていた源十郎だが、実のところ好機を伺っていただけらしい。奴が特に大振りの一撃を放とうとした瞬間、逆に踏み込むと腰に差していた脇差しを抜き放ち、そのまま奴の腹部を深々と裂いた。
「~~…~…」
この一撃が決まり手であったらしい。鼠男将軍は断末魔を上げる事すら出来ずに倒れた。
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戦闘に勝利しました。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【杖】レベルが上昇しました。
【魔力制御】レベルが上昇しました。
【大地魔術】レベルが上昇しました。
新たに地穴の呪文を習得しました。
【水氷魔術】レベルが上昇しました。
新たに氷円の呪文を習得しました。
【火炎魔術】レベルが上昇しました。
新たに鎮火の呪文を習得しました。
【暴風魔術】レベルが上昇しました。
新たに真空の呪文を習得しました。
【樹木魔術】レベルが上昇しました。
新たに成育の呪文を習得しました。
【溶岩魔術】レベルが上昇しました。
新たに溶散弾の呪文を習得しました。
【砂塵魔術】レベルが上昇しました。
新たに流砂の呪文を習得しました。
【煙霧魔術】レベルが上昇しました。
新たに冷霧の呪文を習得しました。
【雷撃魔術】レベルが上昇しました。
新たに帯電の呪文を習得しました。
【爆裂魔術】レベルが上昇しました。
新たに機雷の呪文を習得しました。
【暗黒魔術】レベルが上昇しました。
【虚無魔術】レベルが上昇しました。
【付与術】レベルが上昇しました。
【魔法陣】レベルが上昇しました。
【死霊魔術】レベルが上昇しました。
【呪術】レベルが上昇しました。
新たに恐怖と沈黙の呪文を習得しました。
【罠魔術】レベルが上昇しました。
新たに菱罠陣の呪文を習得しました。
【降霊術】レベルが上昇しました。
【邪術】レベルが上昇しました。
【暗殺術】レベルが上昇しました。
イザーム達は隠しエリア『忘れられし地下墓地』を発見した。
発見報酬として5SPが授与されます。
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情報が多いな!それにまたもや隠しエリアか。新たな呪文も沢山あって色々と考察すべき事は多いが、勝ったぞ!
という訳で新たな隠しエリアを発見!でも、ガッツリ探索は後日。イベント直前故、致し方なし。




