戦力確認
我々は軍を進発させて街の外に出る。そこで今更ではあるが、我々の総戦力を確認しておこう。
我々のクランメンバーはおいておくとして、まずは地上戦力を見ておこう。軽歩兵中心の疵人が二百人、選りすぐりの弓兵ばかりである闇森人が五十人、作成と操縦の訓練が間に合った鉱人の装甲車両が四台、ステータスによって重騎兵と軽騎兵に分けられた四脚人が百人である。
更に私が作った不死傀儡達が五百と、しいたけが作った魔導人形部隊が二百。何と地上の兵力だけでも合わせて千を超える頭数を揃えることに成功していた。
次に航空戦力だが、言わずと知れた浮遊戦艦シラツキに長距離攻撃タイプの戦術殻に搭乗した鉱人が五十、しいたけ製の飛行型魔導人形が百機あった。こちらも充実していると言って差し支えないだろう。
「むふふふふ!我ながら良い出来だねぇ、魔導人形ちゃん達は!」
低空飛行するシラツキの艦橋の機器を弄りながら、しいたけが奇妙な笑い声を上げる。彼女は鉱人と交流する傍ら、イベントで大量に集めた『魔導人形の核』を使って自分の手で魔導人形を生産していたのだ。
とにかく数を熟すことが能力をレベルアップさせる上でも使い捨ての戦力を確保する上でも有効だと考えた彼女は、品質の低い『魔導人形の核』を使って大量の魔導人形を用意したのである。その結果が空と陸で合わせて三百にもなる軍団だった。
使い捨ての戦力ではあるものの、最低限の戦力になるような素材を使っている。今もズシンズシンと大地を揺らしながら歩く地上の魔導人形は、この大陸に初めて来た時に拾った瘴黒石の塊である瘴黒岩を素材として用いられていた。
これは街の城壁や建物に使われている建材であり、しいたけが穴を掘ったせいで崩れた建物の残骸を流用している。彼女は図らずも自分で素材を用意した形になった。
瘴黒石の説明文にあった通り、瘴黒岩もまた重く固いという性質を持っている。瘴黒岩製魔導人形は動きこそ鈍いものの、比類なき堅牢さと素材の重さを活かした強力な打撃で戦えるのだ。
魔導人形は一応人型ではあるのだが、人とは似ても似つかない。身長は三メートル程あり、胴体と頭は岩をそのまま使っていてゴツゴツしている。脚は短く、逆に腕は長くて岩を少し磨いただけの丸い拳は地面に擦れていた。全体的にずんぐりむっくりとした形である。
完成した魔導人形には疵人の手によって複数の紋様が刻まれている。これによって筋力や防御力などステータスの向上や、極々微量ではあるが自身を徐々に回復する機能まで付与されていた。疵人のお陰で使い捨てにしてはオーバースペックな性能になったのだった。
雑に作っていた地上の魔導人形に比べ、飛行型魔導人形はしいたけの発想とアイリスの技術とトワの知識が融合した作品である。瘴黒岩製魔導人形で魔導人形造りの技術を得たしいたけは、次に飛行型の製作に着手した。
しかし、流石に空を飛ぶ魔導人形は何かをくっ付けるだけで完成するほど簡単ではなかった。そこでアイリスの技術を借りると同時にトワの持つ太古の知識を頼ったのである。実際、トワと出会った廃墟では空を飛ぶ魔導人形が侵入者として我々を攻撃してきたのだ。トワを頼るのは正しい選択肢だったと言えよう。
こうして作られたのが、長方形の箱とその四角から回転する羽が延びる、現実にも存在するドローンに良く似た飛行型魔導人形が完成したのである。飛ばすこと自体が難しく、飛行型は小さくなっているので武装はテニスボール大の爆弾を六個搭載しているだけだ。
だが、百機のドローンによる爆撃は間違いなく敵に甚大な被害を与えるに違いない。しかも装填されているのは、しいたけ製の爆弾だ。ただの爆弾もあるが、謎の薬品や怪しい素材を使った爆弾の方が多い。
特に闇森人に採集してもらった『誘惑の闇森』に自生する毒草や危ない果実を使ったモノは会心の出来だと自慢げに話していた。…味方に被害は出ないようにしてあるよね?
地上の魔導人形部隊はのそのそと歩くので、全体としての行軍速度は遅い。しかし、これだけの人数が群れを成して歩いているのだから普通の魔物は襲ってこない。もしも襲ってくるとすれば獄獣だけだろう。今は哨戒に出ている軽装の四脚人達の報告を待つばかりだ。
「イザーム、哨戒に出ていた四脚人達が信号弾を上げたみたいです!」
「色と数は?」
「赤が三つです!」
そうこうしている内に、四脚人達が敵を発見したようだ。疵人のゼルムス翁が見せてくれた、仲間を呼ぶための花火っぽいアイテム。あれを位置情報を伝えるなどの機能を省き、三色の異なる色合いの光を出す信号弾にしてもらったのだ。
赤、青、黄の三色の内、赤が示すのは『多数の敵と遭遇』。そして三つ打ち上がった時の意味は『追跡されている』だ。つまり、多くの敵を引き連れて帰ってくると言うことになる。
「迎撃する。地上の魔導人形部隊を前に出せ」
「アイアイサ~!はいはーい、魔導人形ちゃん達~初陣だよ~!」
我々は進軍を一旦中断し、地上の魔導人形を前衛に固める。その背後には不死傀儡の部隊を配置し、私は指揮をするためにシラツキから降りる。その後、敵が来るまでじっと待ち続けた。
一分ほど経つと、地平線の向こう側から四つの影がこちらへ駆けてくる。彼らは哨戒に出ていた四脚人であり、その背後からは砂塵を巻き上げながら迫り来る魔物の群れが確認出来た。
「ゴルロロロ!」
「ギャッギャッギャッ!」
「あれが獄獣か。そう言えば何気に私は初見だったな」
四脚人を追い掛ける獄獣の奇声がここまで聞こえてくる。私はこれまで、召喚することはあっても獄獣と戦ったことはない。それは私がこの一週間ほど街で作業するか、直通の地下通路で繋がった『槍岩の福鉱山』にある洞窟で素材集めを兼ねたレベルアップを図るかしかしていないからだった。
他の仲間達から獄獣がどのような相手なのかは聞いている。【鑑定】したらどのような結果が出るのかも知っている。しかし、百聞は一見に如かずという言葉もある以上、自分でも【鑑定】してみるとするか。
――――――――――
種族:獄獣 Lv33
職業:猟犬 Lv3
能力:【体力強化】
【敏捷強化】
【毒牙】
【楯鱗】
【追跡】
【連携】
【火属性耐性】
【毒耐性】
種族:獄獣 Lv38
職業:火術師 Lv8
能力:【体力強化】
【知力強化】
【精神強化】
【麻痺牙】
【麻痺爪】
【尾撃】
【火属性魔術】
【火属性耐性】
【麻痺耐性】
――――――――――
四脚人達を追跡する獄獣を【鑑定】した結果がこれだ。前者は紫色の鱗に包まれた単眼の狼っぽい見た目の、後者は背中から指が六本ある腕が生えた黄土色の毛皮を持つ猿っぽい見た目の獄獣だった。
レベル帯が同じで種族も同じであるのに、見た目がまるで異なる。驚くべきことに、どうやら獄獣はレベルが50を超えるまでは常に獄獣という種族から変わらないらしいのだ。しかも外見は似ていてもまるで特性が異なる個体の報告例もあり、多様性がありすぎてハッキリとした対策が出来ないのも厄介である。
レベルが上がってもレベル50までは種族の名前に変化がないという点で人類に似ているが、同じではないようだ。レベル50以上の獄獣と遭遇した討伐したことがある闇森人によれば、【鑑定】した結果は高位獄獣などではなく、刀林獄獣だったそうな。
その刀林獄獣は多種多様な刃物が背中から生えるハリネズミのような見た目だったらしい。その刃を赤熱させつつ、背中から射出して戦ったのだ。どんな生態をしているんだ…?
閑話休題。追撃している獄獣は全てレベルが40にも達していない雑魚のようだった。数は三十ほどで、これなら安心して魔導人形と不死傀儡に任せられるというものだ。
「四脚人達は魔導人形の脇を抜けて後ろへ。魔導人形隊、戦闘準備」
「承知した!」
「ゴゴゴゴゴ…」
魔導人形が命令に従って戦闘態勢に入ると、疵人によって刻まれた紋様が黄色く輝き始める。真っ黒な岩のボディに浮かぶ紋様は美しく、どこかの彫刻家が造り上げた前衛芸術の石像のようにも見えた。
しかし、これは実用品、それも兵器である。彼らの横を四脚人達が駆け抜けた後、襲い掛かる獄獣達に向かってその真価を発揮した。
「ギャヒィン!?」
「ブゲラッ!?」
魔導人形達の大きな拳が獄獣達に振り下ろされる。攻撃力と防御力に特化させた魔導人形の拳は余りにも強力で、直撃した獄獣達は断末魔を上げながら吹き飛んで行った。
かろうじて生き残った者も数匹いたが、私が適当な魔術を使ってさっさと止めを差した。うむ、雑魚が相手なら魔導人形の攻撃力で十分と見える。
「ギャギャァァ!」
「むっ、張り付かれたか」
ただ魔導人形の攻撃は大雑把であり、機敏な敵だと回避してしまうらしい。十匹ほどの猿のような獄獣は拳を躱しつつ魔導人形の身体を登り、力任せに殴り始めた。
「効いているようには思えないが…こちらも試すいい機会だ。不死隊、前進。魔導人形に張り付いた敵を突き刺せ」
「「「カタカタカタ」」」
「ギャアアアアア!?」
魔導人形隊の背後に待機させていた不死傀儡達に命令を下すと、最前列に立っている個体が槍を突き出す。一糸乱れぬ動きによって複数の方向から槍が迫る獄獣は、回避する間もなく串刺しにされてしまった。
こうして何の問題もなく獄獣の群れは退治された。この程度の相手に苦戦していては話にならないのだから当然の結果なのだが、小さくとも勝利は勝利だ。全体の士気も上がっている。油断することなく、進軍を再開するか!
次回は9月26日に投稿予定です。




