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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十五章 這い出でる脅威
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作戦会議

 と言うことで、私は今この街にいる四つの種族(レイス)の主だった者達を集めて何が起きたのかを説明する運びとなった。集まったのは、王宮だった建物の中にある中で最も綺麗な状態で残っている部屋である。これから共闘しようと言う人達との会合に、壊れかけた建物を使う訳には行かないからだ。


 主だった者達と言っても、闇森人(ダークエルフ)はキリルズしかいないし疵人(スカー)の別の氏族を迎えに行った者達はいないのでもう一度話し合う機会を設けることになりそうだが。


「つまりだ、あの音はアンタの仲間がやったことなんだね?まったく、とんだじゃじゃ馬が居たもんだ」

「お恥ずかしい限りです」


 疵人(スカー)の代表として来てくれたムーノ殿は意地悪そうな笑みを浮かべながらクツクツと笑う。しいたけが私の制御下に置けないという点では反論する余地もないので笑われることも受け入れねばなるまい。


「やり方はともかく、長い距離を繋ぐ技術と実行する行動力は素晴らしい。それに、この大陸に住む者達が一堂に会するのは長い歴史上でも聞いたことのないことだ。ここは協力して共通の危機を乗り越えるための話し合いをしようじゃないか」


 恐縮するしかない私をフォローする形でキリルズが共闘の重要性を強調する。私が言えた義理ではないが、建設的な話し合いをするべきという提案には全面的に賛成だ。


 笑みを浮かべて朗らかに、しかし確固たる意志を感じさせるキリルズに反論する者はいなかった。…言葉が通じずに首を捻るばかりの鉱人(メタリカ)には私が翻訳して伝えたのだが。


「無論、協力することには賛成である。しかし、統率をとることは出来るのだろうか?もう一度繰り返すが、四脚人(ケンタウロス)は進んで協力する。しかし、出会って日が浅い我らが連携出来るかどうかはわからぬであろう」


 レグドゥス殿は誰もが思うであろう慎重論を述べた。今まで知り合いではあったが共同作業すらほとんどしたことのない者達と連携するのは誰がどう考えても難しい。その質問に対する答えを私は考えていた。


「協力するのは前提として、今から連携の訓練を始めるのは現実的ではありません。そこで四つの種族(レイス)ごとに部隊を作り、その指揮下に我々の一部が加わることにしましょう」


 どの種族(レイス)の誰が指揮するのか、どのような陣形をとるのか、どんな戦闘を想定した戦術の訓練をするのか。これを今から話し合って決めるのは無理だろう。やったとしても付け焼き刃の訓練では混乱するだけだと思われる。


 ならば最初から単一の種族(レイス)で固めた部隊を作ってもらい、そこに合った仲間と壁を派遣した方が良い。全員が異なる種族(レイス)職業(ジョブ)なプレイヤーだからこそ、上手く馴染むことも出来るハズだ。


 それに仲間達が各種族(レイス)の部隊に加わっていれば、いざという時にクランチャットで迅速な情報の共有も可能である。例の戦争イベントの時には封印されていたが、今はイベントではないのだから存分に使わせてもらおう。


「ふむ…それならば問題はなかろう。失礼した」

「ありがとうございます。そこで一つお聞きしておかなかればならないのは、それぞれの種族(レイス)が得手とする戦術と武器についてです。得意分野によって役割を決めて行きましょう」


 各種族(レイス)に合わせると言っても、そのためには得意なことを知っておく必要がある。私の場合は大体知っているが、ここはお互いに理解し合う意味でもこの会合の場で言ってもらうとしよう。


「我ら四脚人(ケンタウロス)は高い機動力と突破力が自慢である。得意と言えるのは槍と弓であろう」

「その速度によって戦場を縦横無尽に駆けてもらうことになるでしょう」


 四脚人(ケンタウロス)は産まれながらの騎兵であり、弓と近接武器、特に槍の扱いはお手の物である。何の動物の四脚人(ケンタウロス)かによってステータスに差はあるらしいが、戦士であれば槍と弓は扱えて当然なのだ。


 その反面、魔術を使える者はかなり少ないらしい。戦場では騎兵として大いに活躍してくれるだろう。彼らと動向してもらうのは羅雅亜と邯那のコンビに加えて、セイと彼の従魔が相応しい。と言うよりも四脚人(ケンタウロス)達の足を引っ張らない人選だと彼らしかいないのである。


「あたしら疵人(スカー)は正面きっての戦いは不得手だけど、紋様を使えば何でも出来るさね。戦いが始まる直前にでも色々と仕込みが出来ると思うよ。得意な武器ってのは人それぞれだね」

「それならば、隠形を活かした遊撃隊として転戦してもらうことになるでしょう」


 疵人(スカー)は紋様による隠形はもちろんのこと、それを用いた不意打ちや即席の罠の設置などが得意である。以前に酋長の息子であるキルデ君を救うために戦っていたが、あれは本来の戦い方とは大きく異なるのだ。


 彼らの隠形が通じない獄獣がいるのもまた事実であるが、全体からすればごく一部だ。獄獣との戦いでも、彼らが幾度も不意打ちしてもらうことを私は期待していた。


 彼らの強みを活かしつつ遊撃隊として同行出来るのは、優れた隠形術を持つ者…即ちルビーくらいになる。彼女の場合、素早い上に防御力も高いので短時間なら囮になることも出来ると本人が言っていた。実践してもらうこともあるかもしれない。


闇森人(ダークエルフ)は剣と弓、魔術も得意だよ。一番得意なのは森の中での戦いだね。戦場は平原になるんだろう?だったら【樹木魔術】で戦いやすい場所を作りたいな」

「平原のど真ん中に小さな林を作る、と?擬似的な砦として使えそうだ。闇森人(ダークエルフ)にはそこで敵を引き付けてもらうことになるだろう」


 キリルズは指を立てて闇森人(ダークエルフ)としての意見を述べる。彼が言うように【樹木魔術】には苗木を瞬時に成育したり樹木を作り出したりする呪文がある。それを利用して戦いやすい空間を作るつもりだろう。


 そうして作り出した林は彼らの陣地として機能する。樹木を折られたり焼かれたりするかもしれないが、すぐに魔術で再生させれば問題はない。ただ、魔力が尽きればそこまでなので、しっかりと物資を準備しておかなければなるまい。


 闇森人(ダークエルフ)の戦い方に合わせられるのは紫舟とネナーシだろうか。天井にも張り付ける紫舟ならば樹木を利用して戦えるだろうし、ネナーシもただの植物に擬態してから奇襲を仕掛けられる。それに彼は奇襲せずとも十分に強い。戦いが長引いても大丈夫だ。


鉱人(メタリカ)、罠得意。でも、準備に時間かかる。白兵戦、戦術殻ある。攻撃力高い。色々出来る。でも、息切れ早い」


 鉱人(メタリカ)が得意とするのは複雑な機器を用いた罠と万能兵器である戦術殻だ。前者は今回の戦いでは活かしにくいものの、後者の力は実際に戦った我々が一番良く知っている。一人一人の攻撃力で言えば、全ての種族(レイス)で断トツの一位だろう。


 しかし、魔力の消費が激しいと言うのも話に聞いた通りだ。この弱点をどう補うべきか。私には二つの案があった。


「遮蔽物のない場所での戦闘に使える、大型で火力の高い戦術殻を新しく作れないでしょうか?」

「うーん、作れると思う。でも、時間かかる。数は作れない。それに、きっと操縦難しい。大きすぎる戦術殻、動かすの大変」


 一つ目の案。それは地上における大規模な戦闘に特化した戦術殻の作成だ。一から作ってもらうことになるが、アイリスやしいたけを開発に関わらせれば現代の兵器を参考にしたモノを作り出せると思う。


 しかし、鉱人(メタリカ)によれば数を揃えるのは難しいようだ。これまで作った経験のないモノを量産しろ、と言うのは難しすぎる頼みではある。それに新しいモノの扱いに習熟するのが難しいのも道理だ。相当な熟練者でなければ厳しいのも理解出来る。よし、やはりここは本命である二つ目の案で行くとするか。


「ならば我々が保有する浮遊戦艦から射撃することは可能でしょうか?」

「高さにもよるけど、出来る。それより、空を飛ぶ船?凄い!」


 浮遊戦艦と聞いてそわそわしている鉱人(メタリカ)はともかく、二つ目の案とは彼らにはシラツキに同乗してもらって上空から射撃してもらうというものだ。これならば攻撃に全力を傾けて疲弊しても、シラツキで休息することが可能である。


 この様子ならこちらの案で行くことになりそうだ。規模は小さいが空軍と言っても良い。ならば同行するのは空が飛べるシオ、七甲、モッさん、そしてカルだ。敵にも飛べる個体がいた場合、彼らは護衛として戦ってもらうことになる。


 そしてシラツキの操縦や兵器の操作はアイリス、しいたけ、トワの三人にやってもらう。シラツキのAIが補助してくれるし、万が一故障しても彼女達ならどうにか出来るからだ。


 そして私を含めた残りのメンバーは不死傀儡(アンデスパペット)等を率いて正面からぶつかり合うことになる。きっと最も激しい戦いを強いられるだろうが、最悪の場合は我々だけで戦う予定だったのだ。味方がいる分、楽が出来ると考えるべきである。


「なるべく早く準備を整えた後、例の大きな縦穴へと進軍することになると思います。具体的な日時はまだ決められませんので、連絡は密に取るようにしましょう」

「わかった。じゃあ、里に帰って報告してくるよ」

「んー…帰る前に見物したい。いい?」

「構いませんよ」


 さて、これで深い穴から湧き出てくる獄獣と戦う基本方針は決まった。これからはしっかりと準備を整えることになる。そのために私がやるべきことは沢山あるので、時間の許す限り作業を続けることにしよう。


 これで会合は解散となった。キリルズは闇森人(ダークエルフ)の里へと帰還し、鉱人(メタリカ)の代表者はトコトコと小走りでシラツキのある方向へ走っていく。


「では、我々も出ましょうか」

「うむ」

「はいよ。あー、腰が痛い」


 部屋からムーノ殿とレグドゥス殿と共に王宮の外へ出た時、私に一件のメッセージが届いた。そのタイトルを読んだ時、私は思わず含み笑いをしてしまう。笑い声は小さかったのだろうが、レグドゥス殿の優れた聴覚には引っ掛かっていたらしい。彼は不思議そうな顔で私を覗き込んだ。


「どうしたのだ、イザーム殿?」

「いえ、お気になさらず。頼れる援軍が来てくれる可能性が出てきただけですよ」


 私に届いたメッセージ。その送り主はコンラートであり、タイトルは『大航海時代が到来するよd(⌒ー⌒)!』と言うものだったのである。

 次回は9月18日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 登場人物が多くなると久しぶりに出てくるキャラが誰かわからんくなるな。 コンラートは商人プレイしてるプレイヤーだっけ?
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