人工神鉄と謎の骨
――――――――――
フィールドボス、大骨戦砦を撃破しました。
報酬と10SPが贈られます。
フィールドボス、大骨戦砦の初討伐パーティーです。
全員に特別報酬と20SPが贈られます。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【付与術】レベルが上昇しました。
――――――――――
ボス戦の終わりを告げるアナウンスが、我々全員の頭の中に響き渡る。ああ、これを聞くと本当に終わったのだと実感するよ。
ただし、気を抜き過ぎるのも良くない。私が無作為迷宮のボスをやった時のように、クリアしたと思わせてから次があるのかもしれないからだ。源十郎風に言わせれば「残心を忘れてはならない」のである。
「ルビー、まだ敵の反応は残っているか?」
「ないね。少なくともボク達に敵意を向ける相手はいないよ」
「ならば安全か。ふう、今回もどうにか切り抜けられたか…二人の力があってこそなのが情けないところだがね」
私は安堵すると同時に、この勝利はジゴロウと源十郎という超人めいた戦闘技術を持つ二人がいたからこそのものだと痛感していた。二人だけで倒せたかどうかはさておき、二人がいなければ絶対に勝てなかったのは間違いない。
これでは二人に頼りきりのようではないか。それではクランのリーダーとして情けない。私にも実生活があるのだが、それを崩さない範囲で腕前を研こう。私は魔術師であるので素振りをしたところで意味はない。だが、立ち回りや事前の準備など出来ることはあるはずだ。
「勝てればいいんすよ、勝てれば。強くなりたいと思って実戦を繰り返せば、自然とどうすれば強くなるのかわかってくるもんっす。自分もVFPSでそうやって強くなったんすから」
「焦る必要はないが、強さを貪欲に求める姿勢は維持するべきと言うことか。参考にさせてもらおう」
「ねぇねぇ!他のパーティーは剥ぎ取りに向かってるよ!」
「僕達もー、行こーよー」
シオから強くなるためのアドバイスを受け取りつつ、私達は紫舟とウールにせっつかれるまま動かなくなった大骨戦砦の元へ向かった。
物言わぬ骨の小山となった大骨戦砦だが、何とこの骨は全て拾うことが可能だった。レア度と品質に差はあれど、その全てが魔骨であった。火属性や水属性を持つ骨があるかと思ったが、残念ながらそんなものはなかった。
その代わり、骨の山には骨と同じく数えるのも億劫になりそうな数の魔石が交ざっていた。こちらもレア度と品質はピンからキリまであるが、錬金術を用いれば火属性や水属性を持つ骨を作り出すことが出来るだろう。
「問題はこれをどう分配するかだが…」
「今更何に使えんだ、骨なんてよ」
「骨の武器なんてとっくに卒業してるっての!」
ワタシがチラリとマック達を見たとき、彼らは面倒くさそうに骨の山をかき分けていた。これは魔骨による骨体改造を知らないと見える。きっと試していないのだろう。
サーラとカマボコ、他にも『不死野郎』には多くの動く骸骨系アバターのメンバーがいる。知っているのならば宝の山にも見えるはずだ。これも何かの縁、教えてあげるとするか。
「待ってくれ。骨は不死、特に動く骸骨系にとってあればあるだけ便利な代物だぞ」
「え?どういうこと?」
「それはな…」
私は自分が知っている情報の一部を彼らに教えた。気前が良いと思われるかもしれないが、そんなことはない。これ自体は【錬金術】さえ使えれば誰でも可能な技術であるからだ。
【死霊魔術】で不死を製作することも可能だと言うことは黙っているので、情報を安売りしている訳ではない。仲が良くなったことと、何でもかんでも教えることは別の話であるのだ。
「お兄ちゃん!持てるだけ持って帰るよ!」
「へいへい、わかったから落ち着け。イザーム達の分も取っていこうとすんな」
「そうよ、サーラ。気になることがあったらすぐ暴走しちゃうんだから…」
私の説明を一通り聞いた後、マック達はうってかわって骨を積極的に回収することにした。特にサーラの食い付きは凄まじく、手当たり次第に自分のインベントリに放り込んでいる。マックとポップが諌めているが、あの様子では聞いているかどうかは怪しいところだ。
「パーティーは三つだが、攻略に参加したのは二つのクランだ。骨に関しては折半でいいだろう」
「えっ?いいの?」
「貰い過ぎじゃねぇか?」
「君達は仲間達の分も必要だろう?我々はこれまでの道中で回収しているし、半分もあれば十分だ」
「そもそも、数が多すぎて正確に分けることは不可能でしょう。大体半分ずつにするのが現実的ですね」
彼らは驚いているが、こちらのクランで骨を多用するのは私くらいのものだ。私は骨で兵力を確保しようとしているので多めに必要だが、マック達は今から身体を改造するのだから私以上に必要だろう。
人数的に考えれば三分の二はこちらなのだが、見ての通り骨は山ほどある。半分あれば求めていた以上の骨が手に入ることだろう。夢の不死兵団が完成するかもしれない!
分配が決まったところで、我々は黙々と骨拾いを開始した。インベントリに入れるだけとは言え、山を崩すような作業はかなり時間がかかる。約十分ほど、無心で骨を拾い続けた。
「あァ?何だァこりゃァ?おーい、兄弟!ちょいと来てくれェ」
戦闘時の高揚から一転して面倒くさそうに骨を拾っていたジゴロウだったが、何か妙なものを見付けたらしい。遠く離れた場所にいた私を呼びつけた。骨と魔石の回収ばかりで変化が乏しかったこともあって、私はすぐに向かった。
ジゴロウが骨の中から発見したのは、歪な形状をした拳大の金属の塊であった。パッと見ただけではただの鉄屑のようにも見える。実際、私もジゴロウから手渡されるまで何が気になったのかわからなかった。しかし、受け取った瞬間にこれが何か特別なものだと思い知らされた。
「ぐぉっ!?重いな、これは…」
「だろォ?鉄の倍くらい比重があるんじゃねェか?良く知らねェけどよォ…」
ジゴロウから受け取った金属は、この大きさとは思えないほどずっしりとした重さがあった。私は学生時代に砲丸投げの球を持ったことがあるが、それよりも数倍重く感じる。
このアバターの筋力が現実の私と比べて屈強なのか貧弱なのかはわからないが、とにかく重いことは間違いない。これが一体何なのか、【鑑定】しなければならない!
――――――――――
人工神鉄の破片 品質:可 レア度:T
人の手によって製造された、神鉄の破片。
人工神鉄とは、本来は女神にのみ製造出来る神鉄を模した金属である。
神鉄に匹敵する非常に優れた金属だが、経年劣化によって品質は下がっている。
――――――――――
人工神鉄…そんなものがあるのか。経年劣化という言葉から、古いものであることはわかる。女神にしか製造出来ない金属を模倣したとは、これを作り出した文明は相当進んでいたのだろう。
アルマーデルクス様の失言によって知ったことだが、この世界には第一文明と第二文明が存在していた。その内、神の御業とも言える人工神鉄の製造が可能だったのは前者だろう。浮遊戦艦であるシラツキを作り出した文明なら、可能であっても不思議ではない。
ただし、第二文明については私が試練で戦ったボスである『月ヘノ妄執』くらいしか知らない。だから奴等の見た目だけで第二文明について決め付けるのは問題だ。コンラートから情報を買うのもありかもしれないな。
閑話休題。由来はわからずとも、この人工神鉄が稀少なアイテムであることは間違いない。少なくとも、製造可能なプレイヤーが現れるまでは稀少であろう。これを加工出来るかどうかはわからないが、持っておけば何かに使えるかもしれない。
ジゴロウが発掘してから、人工神鉄の破片は幾つも出てきた。大きさはどれも同じくらいで、最終的に二十個ほど集まっている。これについては一人一個、余りは我々が貰うことになった。
マック曰く、「使える骨は多めに貰ったから、使えるかわからない金属は辞退する」とのことだ。アイリスとしいたけへのお土産にピッタリであるし、ありがたく受けとるとしよう。
「さて、最後はあれだが…」
「明らかにやべぇモンだよなぁ…」
そうして骨と魔石と人工神鉄の破片を回収し終わった後、大骨戦砦のあった場所に残ったのは一本の真っ黒な骨であった。明らかに他と違うと言うことで誰も手を出していない。それはマックの言った通り、どう見ても危険物にしか見えなかったからだ。
大きさは一センチメートルほどの太い骨で、両端は折れてしまっていて本来の形状は不明である。前述の通りその色は黒く、それでいて表面に浮き出る暗い青色の筋は血管のように脈打っていた。
折れた骨の破片であるのに、まるでまだ生きているかのようである。軽々しく触れるのは憚られる異様な雰囲気を纏っており、興奮気味に骨をかき集めていたサーラですら我に返って避けていた。
「…見て見ぬふりも出来ん。【鑑定】してから持って帰るかどうかを決めよう」
私は意を決して地面に突き立った骨を【鑑定】する。その結果がこれであった。
――――――――――
怨念蠢く太古の骨 品質:優 レア度:L
強烈な怨念の籠る、元になった生物も分からぬ古い骨。
死ぬ間際の残留思念が遺されており、触れた者を蝕んで乗っ取ってしまう。
呪いや邪悪な知識に精通する者のみ、正気を保つことが出来るだろう。
※このアイテムは呪われており、浄化は出来ません。
――――――――――
どうやら、これが最もレア度の高いアイテムになるようだ。それが怨念の籠った骨という呪いのアイテムなのはどうなのだろう?しかも【鑑定】の説明文によれば、普通のプレイヤーはインベントリに回収することも出来ないのではないだろうか?
「どうだ、ポップ?」
「『怨念蠢く太古の骨』だって。呪われているから、触ったらどうなるかもわからないわ」
私と同じく【鑑定】を使っていたポップはそう言って首を振った。彼女も私と同じ結論に至ったらしい。しかし、これだけのレア度のアイテムをみすみす放置するのはなぁ…勿体ないにも程がある。どうにか出来ないものか…
「呪いの武器なら見たことあるじゃん。装備を外せば呪いも消えたし、大丈夫だって!」
「あっ、バカ!止めろ!」
マックの制止も聞かず、サーラは楽観視して『怨念蠢く太古の骨』を持ち上げた。その瞬間、骨の表面に浮かんでいた暗い青色の筋が生き物のように彼女の手に這い上がるのだった。
次回は8月1日に投稿予定です。




