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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十四章 山海と先住民達
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氷炎の戦砦 その四

 大骨戦砦グレートボーンウォーフォートから発生した突起はどんどん大きくなり、最終的にこれまで奴が分体として作り出していた魔物の頭部となった。これまで現れていた分体と同じく骨が集まってその形状を象っているだけではあるが、大きさと迫力は我々をして気圧されるに十分であった。


 四本の頭部の内の猿のような頭部はマック達を、鼠のような頭部はルビー達を、そして残りの蛇と熊のような頭部はジゴロウ達に向いている。ジゴロウ達を狙っている頭部が多いのは、恐らく彼らが大骨戦砦グレートボーンウォーフォートの本体に最もダメージを与えていたからだろう。


「「「「ゴオォォォ…」」」」


 大骨戦砦グレートボーンウォーフォートの変化はそれだけでは終わらない。これまで攻撃に使っていた全ての脚を地面に着けて身体を固定し、四つの頭部が同時に口を開けたのである。


 大きく開いた口から見える喉の奥では紅蓮の炎が渦巻いている。身体の固定に大きく開いた口に炎…これはマズイ!


「大技が来るぞっ!星魔陣、呪文調整、聖域(サンクチュアリ)!」

「「「「ガアアアアアアアアアアアアッ!!!」」」」


 悪い予感ほどよく当たるものだ。四つの頭部からはまるで龍息吹(ドラゴンブレス)のように炎が吐き出されたのである。気付いていない者などいないとわかっている上で叫ぶようにして警告してから、私はマック達を守る為に【神聖魔術】の防御魔術を咄嗟に張ってギリギリで防いだ。


 炎の中には当然のように骨片が大量に紛れ込んでおり、この骨と炎の濁流に飲み込まれればひとたまりもない。事実、巻き込まれた分体は全て原形を保つことすら敵わずに濁流を成す骨になってしまっている。


 これに対して、源十郎達は高く跳ねたり飛んだりして回避している。飛んだり跳ねたり出来ないウールは紫舟がフォローしていた。彼女は腹の先から出した糸で彼を縛り上げ、そのまま壁を登って高い場所へと逃げたのだ。紫舟の器用さや糸の強度も感心するが、反射的に行動出来たのは素晴らしいファインプレーである。


 一方で、モッさん達はエイジの盾と七甲の魔術によってどうにかやり過ごしたようだった。エイジ本人と盾の両方がボロボロになっているが、彼はすぐさま盾を交換している上に傷は即座にミケロが治している。あちらも大丈夫そうだ。


「オラオラオラオラァ!!!!」


 そんな中で、ジゴロウだけは信じられない行動に出ていた。炎が吐き出される瞬間に、あろうことか熊を模した頭部に向かって飛び掛かったのである。


 跳躍によって炎の濁流を回避したジゴロウは、頭部の上に立つと脚を大きく振り上げから一気に踏みつけたのだ。全体重と脚力を乗せた踏みつけは骨を砕き折るだけにとどまらず、炎を吐いている最中の上顎を少し下げている。それを知ってか知らずか、ジゴロウは踏みつけを連続して繰り出した。


「どおあああああぁ!?」


 速くて重い踏みつけの連撃は徐々にではあるが上顎と下顎の隙間を狭くしていき、ついには無理矢理に噛み合わせることに成功した。その途端に行き場を失った炎が大爆発を引き起こし、熊を模した頭部は内側から爆発してしまった。


 それを成したジゴロウも爆発に巻き込まれて木の葉のように宙を舞うが、地面に叩き付けられる前に体勢を整えて両手脚を使って着地した。相変わらずの猫のようなバランス感覚である。


 やり方は滅茶苦茶であったが、ジゴロウの行動は結果的に三パーティー全てを救った。というのも、爆発した衝撃で踏ん張っていた大骨戦砦グレートボーンウォーフォートの脚が全て折れ、炎を吐くことそのものが中断されたのである。


 しかもジゴロウが閉じさせた頭部は完全に崩壊しており、今も黒煙を上げている状態だ。膨大な大骨戦砦グレートボーンウォーフォートの体力も何と一割以上も削れており、残りの体力は六割強となっている。加えて大骨戦砦グレートボーンウォーフォートはぐったりとして身動ぎ一つしなくなった。アイコンには何の表示もないが、まるでスタン状態になっているかのようだ。


「ハッハハハァ!火ィ吐くのを止めりゃァ良かったのになァ、間抜けェ!」

「急に止める方が難しいだろうに…それよりも、千載一遇のチャンスだ。これを逃す手はない。全員で総攻撃を仕掛けよう」

「あの二人だけ別のゲームやってるんじゃないですか?」

「それに慣れてるイザームも相当よね」

「ゴチャゴチャ言ってねぇで攻撃するぞ!」


 サーラとポップが小声で何かを話しているようだったが、ジゴロウの高笑いでよく聞こえなかった。しかし、マックの言う通り今は会話に興じている場合ではない。ジゴロウ達を【付与術】で強化してから、私もこの好機を逃さず攻撃に加わるとしよう。


 空を飛んでモッさん達と合流した私は、素早く全員を【付与術】によって強化していく。その間、大骨戦砦グレートボーンウォーフォートは総勢十七名による総攻撃を受けたことで更に体力を削られていく。これまで防御を固め、隙を見計らってチクチクと攻撃するしかなかった鬱憤を晴らすかのような猛攻撃であった。


 様々な武技が、魔術が、能力(スキル)による特殊な攻撃が大骨戦砦グレートボーンウォーフォートへと降り注ぐ。表面が弾け、砕け、千切れて四方八方へ欠片が飛んで行った。


「うおおっ!?破片がここまで…どんな力で殴っているんだ、兄弟は…?」

「痛っ!?かーっ、本物の鬼神か何かちゃうかあの人?こっから見てるだけでも恐ろしいわ」

「同感でござる」


 モッさん達のパーティーと共に魔術で攻撃していると、ジゴロウが粉砕した骨が私の方にまで飛んで来る。同じく後方から魔術と投擲アイテムによって攻撃していた七甲とネナーシも被害に遭っていて、私と共にため息混じりに愚痴を垂れていた。


 当のジゴロウは自分が殴った時に発生する破片を浴びつつ、意にも介さぬ様子で暴れ続けていた。そのせいで大骨戦砦グレートボーンウォーフォートの一部がクレーターのように抉れている。それほどの破壊行動によって飛び散る破片にはダメージ判定があるらしく、私や七甲も極々微量ながらダメージを受けていた。


 それを間近で受けているジゴロウ本人にもダメージが蓄積しているが、そこはミケロが治癒しているので問題なかった。ミケロの手間を増やしているが、それ以上に火力で貢献しているのでミケロ本人も文句を言うどころか今のうちに一発でも多く叩き込んでくれと願っていた。


「ギギ…ゴリゴリゴリゴリ!」

「何だ、この音は?」


 全員で総攻撃を加えていると、ようやく大骨戦砦グレートボーンウォーフォートは再起動したように身体をのっそりと動かし始めた。しかしその動きは目に見えて遅く緩慢で、ただ動いているだけのように見える。反撃というには余りにもお粗末であった。


 その代わりに、ゴリゴリという固いモノ同士が擦れる音が大骨戦砦グレートボーンウォーフォートの内部から聞こえてくる。何かをしているのは明らかであり、反撃の準備行動である可能性は高い。三つのパーティーのリーダーは冷静に一度攻撃の手を止めて距離をとるように指示し、それにはジゴロウですら従っていた。


「ゴギャギャギャギャギャギャッ!!!」


 そして彼らの判断は正しかった。骨が擦れ合って立てる異音と共に、大骨戦砦グレートボーンウォーフォートの隙間という隙間から真っ白な粉が噴射されたのである。


「ペッペッ!何ですか、これ!?」

「多分ですが、骨の粉でしょう。大きな欠片が混ざっていましたから」

「じゃあさっきの音は、自分の一部を粉にしとったんか!?けったいな戦法やで、ホンマ…」


 モッさんが言うように、この粉は骨を砕いたものであった。それを大量に、勢いよく噴射することで反撃してきたのである。骨の粉を使うなど、反撃と言うには弱々しいと思えるかもしれない。だが、実際には三つの点で厄介な攻撃であった。


 第一に、骨の粉にはモッさんが言っていた通り大きめの欠片が混ざっている。これを至近距離で受けていれば、散弾を受けたような状態になっていたことだろう。


 第二に、この骨には火属性の力を有している。私はパラパラと多少浴びただけだが、それでも少し体力が減少していた。もしも直撃していれば、マックのように【火属性脆弱】を持つ者は焼け死んでいたかもしれない。


 第三に、そんな火属性の力を持ち続けている骨の粉が大骨戦砦グレートボーンウォーフォートを包み込む煙幕のようになっているのだ。大骨戦砦グレートボーンウォーフォートの姿はおぼろ気な影しか見えず、煙幕の中で蠢いていることしかわからない。迂闊に踏み込むことも出来ないので、まずはこれを晴らすとするか。


「魔法陣、遠隔起動、(サイクロン)


 私は例のごとく【暴風魔術】によって風を起こして骨の粉を巻き上げていく。(サイクロン)を使ったのは煙幕となっている骨の粉が非常に多い上に拡散した範囲が広いので、風柱(ウインドピラー)などでは足りないと予想したからである。


 狙い通りに(サイクロン)は煙幕を晴らしていき、その内側で何が起きていたのかが明らかになっていく。クリアになった視界に広がっていたのは、新たに用意された二十体の分体であった。


 これがただの分体ならば、私だけではなく誰一人として動じることはなかっただろう。数もこれまでよりも少なく、特別に大きい訳でもなかったからだ。しかし、実際には全員が思わず動きを止めるほどの衝撃を受けていた。


「ジ、ジゴロウ…さん?」

「正確に言えば、ジゴロウ型の分体だろう。まさかこんなことまで出来るとは思わなかったが…」


 大骨戦砦グレートボーンウォーフォートが新たに作り出したのは、何とジゴロウの姿を象った分体であった。頭部から伸びる角や隆起した筋肉を骨によって忠実に再現されている。ただ、顔の部分は頭蓋骨ではなく肋骨などを出鱈目に組み合わせただけの歪なのっぺらぼうなので尋常ではなく不気味であった。


 ジゴロウの偽物はゆらりと身体を揺らすと、一斉に襲い掛かって来た。三つのパーティーへと分散して向かっていく。二十体いる分体の半数の十体がジゴロウ達へ、七体がルビー達へ、そして三体がマック達へと突撃した。


「俺のニセモンだァ?ハッハァ!どンだけ動けるか、見せて貰おうじゃねェか!」


 大骨戦砦グレートボーンウォーフォートの上を駆け降りる分体達を、ジゴロウは猛獣めいた笑みを浮かべて迎え撃つ。堂々と歩いて接近すると、棒立ちの状態から目にも止まらぬ速度で拳を突き出した。


 一撃で頭部を粉砕するかに思えたジゴロウの拳を、驚いたことに分体はギリギリで回避してみせた。しかも躱しながら頭部を狙ったハイキックを繰り出す始末である。その動きはまるでジゴロウそのものであった。


「クククッ…アッハハハハハハァ!いいねェ!思ったよりゃァ楽しめそうだァ!」


 ジゴロウはハイキックを角によって弾くと、回避された拳を開いて分体の後頭部を掴む。そして思い切り引き寄せると、引き寄せた頭部に頭突きを食らわせた。


 頭突きの威力は凄まじく、一撃で骨の塊である頭部に亀裂を入れてしまう。頭突きの衝撃によってよろけた分体に、今度は槍のように鋭い蹴りを叩き込んだ。


 あの分体はジゴロウに食い下がる実力があるらしい。それが二十体だと?嘘だと思いたいが、現実である。しかも大骨戦砦グレートボーンウォーフォートも攻撃を再開しようとしていた。


 これは一刻も速く分体を始末しなければ、我々に勝機はない。本当に厄介な相手だ!

 次回は7月16日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >ジゴロウコピー WSSの本領発揮ですねぇこれは。ゲーム内にPCの情報は蓄積されているからこその再現体でしょうし。 ダウン取ったのがイザームだった場合早くも全滅してた可能性もありますねコレ…
[良い点] うわーお、現時点でMVPかダウンとったプレイヤーの劣化コピーって。 劣化しててもジゴロウ×20はきつそう。
[一言] これはアレか、ダウン中に一番ダメージを与えた相手の分体を作り出すギミックでもあったのかな?
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