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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十四章 山海と先住民達
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氷炎の戦砦 その三

「あれは白骨化した溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)…ではないか」

「肉があったであろう部分にも骨が詰まっておるわい」


 大骨戦砦グレートボーンウォーフォートに空いた穴から現れたのは、骨を組み合わせて作られた大型の蛇であった。骨の隙間から炎が出ていることから、最初は不死(アンデッド)と化した溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)かと思ったが異なるようだ。


 確かに頭部とそれが繋がっている背骨は溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)のものだと思う。だが、源十郎の言う通り筋肉や内臓があったはずの場所にまで骨が詰まっているのだ。溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)をベースとした別の不死(アンデッド)だと考えた方が良さそうである。【鑑定】してみるか。


――――――――――


炎骨分体 品質:良 レア度:S(特別級)

 大骨戦砦グレートボーンウォーフォートが自分の一部を用いて作り出した分体。

 独立して行動しているが、あくまでも本体の一部である。

 作成時に炎の力を持つ骨を多く使用されている。


――――――――――


 なるほど、奴は自分の一部を切り離して戦わせることが可能なのか。名前からして、間違いなく【分体生成】によって作られたものだ。能力(スキル)などが一切表示されず、まるでアイテムのような扱いを受けているところは魔導人形(ゴーレム)に似ている。実際、他の魔物というわけでもないのだから当然かもしれないが。


 大骨戦砦グレートボーンウォーフォートの身体の穴からは続々と分体が出てくる。炎骨分体と同じく炎を纏うものだけではなく、冷気を纏う個体も這い上がってきた。その形状は猿や鼠などの獣型、蛇や蜥蜴などの爬虫類型、さらに昆虫型や人型まで多種多様である。


 分体の数はどんどん増えており、無制限に増殖することはないにせよこのままではボスエリアを埋め尽くす勢いだ。誰かがこれを減らさなければ、大骨戦砦グレートボーンウォーフォートを攻撃することすら覚束なくなるだろう。


「差し詰め、砦の兵士が出撃したというところかのぅ」

「してくれなくても良いのだが。というわけで、ルビー。このパーティーに任せてもいいか?」

「ボク達で?いいよ。お祖父ちゃんもいいよね?」

「うむ。先ほど死にかけた原因となった慢心。これを削ぎ落とす良い機会じゃ」


 この分体の始末を私はルビー達に頼むことにした。彼女達ならば分体の群れだろうと楽に片付けられるはずだ。本人も乗り気であるし、全面的に任せるとしよう。


 源十郎は渋るかと思ったが、素直にルビーと共に分体との戦いを選んでくれた。どうやら先ほど死にかけたことを随分気にしているらしい。頼もしい限りである。


 分体が現れたのは大骨戦砦グレートボーンウォーフォートの頂上部分で、ちょうどいいことにそこからこちらに向かって下ってきた。ただ、任せることに不安はないが、敵の正確な実力がわからない。分体が本体よりも強いとは思わないが、最初の内だけは彼らと共に分体を迎撃しよう。


「火属性にも水属性にも関係ない属性で攻めるとするか。星魔陣、砂刃(サンドブレード)

「シャアアッ!」


 【砂塵魔術】によって先陣を切る分体の出鼻を挫くと、そこへ源十郎が斬り込んだ。裂帛の気合いと共に振り抜かれた刃は、一刀のもとに熊型の分体を真っ二つに両断する。頭頂から股間までを左右に分かたれた分体は、動かなくなってその場に崩れ落ちた。


 しかし、私は遠目ながら目撃していた。その切断面が真っ赤な光を放っていることを。これは間違いなく自爆めいた攻撃をするに違いない。それを指摘しようとした時、既に源十郎は動いていた。


「二度も通じると思うでないわ!」


 自爆する直前に、源十郎は両断した分体を他の分体に向かって蹴り上げたではないか。すると敵陣の真っ只中で分体は自爆し、他の分体へ多大な被害をもたらしているようだった。


「なるほど、ああすれば良いんだね。みんな、お祖父ちゃんのやり方を真似しよう!」

「敵さんを爆弾にするってこと?いい作戦だね!」

「じゃあ自分は奥側の敵を狙撃するっす」

「じゃー、爆弾を投げるのはー、僕とイザームかなー?」

「そうなるな、ウール。君は右側を、私は左側を担当しよう」


 活動を停止させた分体を、爆弾として利用する。このルビーの作戦は非常に効果的であった。源十郎、ルビー、そして紫舟の三人が分体を破壊し、それを私の魔術とウールの鳴き声が作り出す衝撃波で敵の方へと吹き飛ばす。それらは分体の群れの中で爆散し、時には連鎖的な爆発を起こすことがあった。


 しかもシオによる正確な狙撃が、群れを中央部から奥側にいる分体を貫いていく。どうやら活動を停止すると自動的に爆散するようになっているらしく、彼女の攻撃もまた有効であった。


 連続して火炎や冷気をともなう爆発が起こっているので、私にまで骨の破片が飛んでくる。眼下で爆発が繰り返される光景は圧巻の一言であるが、爆風を近くで浴びることが多い源十郎達は少しずつダメージが蓄積しているようだった。


「そろそろ回復した方が良いか。かといって、三人で前線を支えている現状、誰か一人でも退却させると厳しくなる。どうするべきか…」

「なれば儂が少々、骨を折るとするかのぅ!」


 私は小声で思案していたのだが、源十郎はバッチリ聞いていたらしい。彼は刀を仕舞うと、素早く四本もの薙刀を取り出した。それを四本の腕で一本ずつ握ると、凄まじい勢いで振り回し始めたではないか!


 四本の薙刀など、常人に使いこなせるとは思えない。しかし、源十郎は武器同士をぶつけたり動きが停滞したりすることなく、いままで以上の激しさで戦っていた。


「ほっほっほ!まだ動きが荒いが、儂の多刀流も様になって来たじゃろう?」


 最初の一本が分体を断ち切り、次の一本が鋭い刺突で骨の塊を貫き、また次の一本が石突きで粉砕し、最後の一本によって薙ぎ払われた残骸が明後日の方向で爆発する。一人で四人分の戦働きをしてみせると言わんばかりの、獅子奮迅の活躍であった。


 確かに、源十郎は【多刀流】という能力(スキル)を所有している。これは【二刀流】が進化したものであった。


 プレイヤーの間では、元となった【二刀流】は有名かつ人気の能力(スキル)である。複数の武器を同時に扱う時の攻撃力に補正を受けたり、これがなければ習得出来ない武技があったりするからだ。


 防御面ではやや不安が残るようだが、それを補う攻撃性能が売りである。しかも第一回の闘技大会において、好成績を残した選手に【二刀流】を使いこなす者が複数人いたことも人気に拍車をかけたのだろう。単純にカッコいいという理由もありそうだが。


 しかし、この【二刀流】は能力(スキル)による補正があっても使いこなすのが難しいことで有名だ。能力(スキル)を習得したは良いが、武技による決められた動きしか出来ずに活かしきれないプレイヤーが多いと聞く。これは人類プレイヤーだった邯那から聞いた話なので確実である。


 にもかかわらず、源十郎は更に難しいであろう四本の腕を全て用いるという荒業を使って見せた。腕が四本あるアバターである私は断言しよう。あれは常人には不可能な動きである。


 増えた腕はシステムによる補正によって、元から生えていたかのように自然な動きが可能である。だが、産まれたときから生えている二本の腕であっても自由自在に動かすことは難しいのに、それが増えたなら難易度が上がることはあっても下がる訳がないではないか。


 以前より、源十郎は三本の刀による三刀流を使っている。これも十分に凄いことなのだが、本人はケロリとして「一刀流と二刀流を同時に使っているだけで、コツを掴めば簡単だ」と言っていた。そんなわけはないが、言われてみれば確かにそうだった。


 だから今、彼が行っている四本の薙刀を連動させて戦う戦法こそ、彼が求めた真の多刀流なのだ。それを現実のものにしたのだから、やはり彼は現代の剣豪と呼んで差し支えないだろう。


「お、お祖父ちゃん…」

「まるで台風っすよ、源十郎さん」

「あわわ…」

「凄いねー」

「ハッハハハハハハァ!!!いいねェ、爺さんよォ!」


 源十郎の暴れぶりに、私以外のメンバーも驚愕していた。どうやら他のパーティーからも見えていたらしく、ジゴロウは興奮気味に高笑いしている。見るまでもなく、奴はもっと荒々しく戦っていることだろう。


 マック達も呆然としていたが、呆けている場合ではないと戦いに戻った。ジゴロウのように触発されて戦い方が激しくなりはせずに、これまで通りの堅実な戦いぶりを見せている。彼らは常識人で良かった。


「ギギギギギギギ…」


 そうこうしている内に、大骨戦砦グレートボーンウォーフォートの本体は三度目の形態変化によって再び炎を纏い始める。こうなると私はマック達の援護に向かわなければならないだろう。


「ルビー、私は向こうに行く。引き続きここは任せた」

「はいはーい!」

「いってらっしゃーい」


 ルビー達にもう一度【付与術】と【魂術】を掛けた私は、再びマック達と合流する。炎に弱い彼らは援護しなければ厳しい戦いを強いられることになるからだ。


 マック達は思った通り苦戦しているようで、即座に【魂術】をかけて回復効果を延長させる。さらに魔術による障壁を張って防御面でもサポートを開始した。


「援護に来た。防御は任せろ」

「あ、ああ。助かる」

「イザームさんっ!あの源十郎さんってどんな能力(スキル)を使ってるんですかっ!?」


 即座に魔力盾(マジックシールド)で防御を固める私に、マックは歯切れの悪い返事をし、サーラは素早く私に近付いて質問を浴びせた。彼女は興奮しているのだろうが、鎌を持った骸骨に詰め寄られたら少し怖い。


 だが、サーラは見えない手に持ち上げられたように浮かぶと、前線に向かって放り投げられた。彼女は悲鳴を上げてながら文句を言っているようだったが、燃える腕が迫っていることもあって慌ててこれを迎撃していた。


「助かったよ、ポップ」

「どういたしまして。サーラも困ったものね!他の人に能力(スキル)を聞くのってマナー違反なのに…」


 サーラを投げたのはポップの念動力だった。衝撃波を起こしたり、見えない手で掴んだりと応用の利く能力(スキル)である。彼女は騒衝幽霊(ポルターガイスト)と自分で名乗っていたが、かなり優秀な種族(レイス)であるようだ。


「聞くのなら源十郎に聞けばいい。案外、あっさり教えてくれると思うぞ」

「そうなの?」

「ああ、源十郎はおおらかだからな。ただ、真似できるかどうかはサーラ次第だ。能力(スキル)さえあれば使える類いの技ではないし…」

「それは見るからにそうよね。まず、腕を増やすところから始めないと!」


 …本人がやりたいと言ったら増やさせるつもりなのか。思いきりの良いことである。実際に増やしている私の言えることではないが。


 ポップとの雑談を切り上げたところで、大骨戦砦グレートボーンウォーフォートに新たな変化が起きた。今度は穴が空くのではなく、盛り上がって分体にもいた魔物の頭部を象ったのである。


 敵の体力はまだ三割ほどしか削れていない。更なる変化を残している可能性は高いが、必ず倒してやろうじゃないか!

 次回は7月12日に投稿予定です。

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[良い点] ヒロインが生産触手なところ [気になる点] どうしてオークキングの言葉がわかるくらい言語レベルが上がったのに龍族のカルとはいつまでも会話できないのか? [一言] ちょっとこの頃ボス戦ばかり…
2020/07/08 21:28 退会済み
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