炎苔の菌林 その三
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【魂術】レベルが上昇しました。
新たに乱癒の呪文を習得しました。
【呪術】レベルが上昇しました。
【邪術】レベルが上昇しました。
新たに幻死の呪文を習得しました。
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しいたけのメッセージを読んだ後も、我々は三人で探索を続けた。『炎苔の菌林』は思ったよりも広く、また採取しながらの探索していたこともあってまだボスエリアにはたどり着いていない。
だが、長らく探索していたこともあって収穫はあった。それは採取アイテムだけではなく、火鼠と溶岩死毒蛇からのドロップアイテムである。
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火鼠の尾 品質:可 レア度:T
火鼠の炎で出来た尾。
炎を帯びた一撃によって絶命した火鼠は、身体の一部を残すことがある。
純粋な火属性の魔力を放っており、様々な用途に用いることが出来る。
溶岩死毒蛇の流皮 品質:良 レア度:T
固い鱗を作り出す、液体に近い皮。
魔力を通すと表面が固形化し、半永久的に鱗を生成することが出来る。
使い方に工夫が必要だが、優秀な防具の素材となるだろう。
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火鼠と溶岩死毒蛇から新たなドロップアイテムを得ることに成功したのだ。両方とも一工夫加えた戦い方をしなければならなかったので随分と苦労したよ。
まず火鼠だが、これは『火属性を付与した物理攻撃で止めを指すこと』が条件であった。【火炎魔術】などでは回復されて終わりなのだが、火属性を付与した物理攻撃ならば属性ダメージは吸収されても物理ダメージは入のである。
わざわざ敵にとって都合の良い属性で攻撃しなければならないからこそ、見付かりにくくなってレア度が高くなるのだろう。知らなければどうしようもないし、私もエイジが一応試してみようと言わなければやろうとも思わなかった。これは完全にエイジの手柄である。
次に溶岩死毒蛇だが、こちらはある意味簡単だった。それは『最初の一撃で即死させること』である。『死と混沌の魔眼』によって即死の成功確率を少しでも上昇させてから、どうにか即死させた個体だけから剥ぎ取れたのでそれが条件だと思われる。
ただ、火鼠とは遭遇した回数そのものが少ないので試行回数が少なく、実は他の方法があるのを見落としている可能性もある。またここに来るかもしれないし、その時に色々と試してみよう。
「今日はもういい時間だし、そろそろ戻るか」
「そうしましょうか。いやぁ、楽しかったですよ」
「この三人で回るのは珍しいですからね。私も新鮮でした」
モッさんの言うように、珍しい組み合わせでの攻略は新鮮で楽しかった。ここにいる不死のプレイヤーとも交流したいし、ボス戦もまだだ。明日以降もここに来るとしよう。
その時はまた別の仲間と訪れることになるかもしれないが、それはそれで一興だ。もしそうなら、別のフィールドを探索するのも良いだろう。
「お~~~そ~~~い~~~ぞ~~~~~!!!」
「ぐぼはっ!?」
こうして探索を切り上げてシラツキに帰還した我々だったが、ラウンジに戻った瞬間に私は腹部にタックルを食らって背中から床に倒された。何事かと思って腹の方を見ると、そこには怒りに燃える手足の生えた棘だらけのキノコ…即ちしいたけが怒りを隠そうともせずに仁王立ちしていた。
「遅い!返信してからどれだけ時間が経ったと思ってんの!?」
「お、落ち着け!まずは話を…」
「可愛い生物からは遠ざけられた挙げ句、代わりのアイテムは何時までも来なくてお預け状態。これが!落ち着いて!いられるかぁ!」
「うわぁ、全然反省してないや」
しいたけは私の胸倉を掴むと激しく上下に動かす。カルの背中に乗って曲技飛行を体験したことがあるから、このくらいの力で揺さぶられても問題はない。それどころか、しいたけが案外筋力があることに若干驚く余裕まであった。
問題はエイジが呟いた通り、しいたけは全く頭が冷えていないことである。それどころかヒートアップして暴れているのだ。わざと時間をかけて戻ったのだが、完全に逆効果だったようだ。
「はぁ、全く。エイジ君」
「あ、はい。よいしょ」
「離せ~!うが~!」
ため息混じりにモッさんが声をかけると、エイジは応えてしいたけの笠を掴んで持ち上げた。まるでつまみ上げられた猫のようだったが、彼女の場合は一向に大人しくなる気配がなかった。
何はともあれ、エイジのお陰でマウントポジションから脱することが出来た。私は尻尾を使って手足を使わずに立ち上がると、入手したアイテムをインベントリから取り出した。
「ほら、お土産だ。自由に使ってくれ」
「フゥ~…ありがとう。もう落ち着いたぜ」
「…本当に?」
「ホントホント。冷静沈着って奴さ」
「どうやら本当に何時もの調子に戻ったようですね。それにしても、アイテムを受け取った途端に変わり過ぎでしょう」
ケラケラと笑う様子は、確かに普段の飄々としたしいたけである。ついさっきまで狂暴な獣のように暴れていた彼女は、アイテムを受け取っただけで鎮静化した。何とも現金な人物である。
「ゴメンって。何か夢中になれるモノがないとストレスを感じちゃうんだよねぇ~」
「あってもなくても暴走してるように見えるのは、ぼくだけでしょうか?」
「そうかもね!ハッハッハ!じゃ、早速実験だ!」
「行っちゃいましたね…」
そう言ってしいたけは上機嫌でシラツキの研究室へと駆けて行った。だが、彼女は優秀な生産職である。きっと渡したアイテムを上手く活かした薬品などを開発するだろう。実験している間は大人しくなるし、新たなアイテムを拝むことが出来る。まさに一石二鳥だ。
しいたけは困った奴だが、ただ自分の興味に真っ直ぐ過ぎるだけで性根は悪くないし愛嬌があるから憎めない。だから多少困ったくらいなら、誰しも苦笑しながら許せるのだ。
「ふう。とりあえず、しいたけの暴走は収まった。私はカルと四脚人の子供達の様子を見に行くが、二人はどうする?」
「あ、ご一緒します。顔を見せておいた方がいいですし、何より四脚人に会ってみたいですから」
「私も行きますよ。どうやら空を飛べると受けがいいと聞きましたし、ね」
その後、我々は三人で四脚人達に会いにいった。カルはしいたけが性懲りもなくまた来たのかと警戒していたようだが、私の姿を見た途端に唸るのを止めて逆に甘えるように鳴いている。
その様子を見て安全だとわかったのか、子供達はこちらに駆け寄って来た。エイジとモッさんを紹介してからしばらくすると、子供達は二人に懐いているようだった。エイジはアルヴィーの時も見せた面倒見の良さで、モッさんは飛べることをアピールして勝ち取った人気である。
さらに狩りから戻ってきた大人達も加えて交流した後、この日はログアウトした。尚、後からエイジとモッさんはすぐに受け入れられたと知ったしいたけは『何で私だけ!?』と言って叫んだと言う。
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ログインしました。無人島イベントも六日目で、今日を含めて残すところあと二日。私は今日も不死のプレイヤーのたまり場となっている縦穴の底を訪れていた。
「ほっほっほ。ルビーと二人で籠っておった穴を思い出すわい」
「あれとは穴の直径も深さも比べ物にならないでしょ、お祖父ちゃん」
「話に聞いていた通りの暗さと狭さっす。こういう場所で戦うの、ちょっと苦手っすねぇ」
「ウールー!平気ー!?」
「大丈夫ー」
ただし、メンバーは異なる。今日、私と同行しているのは源十郎、ルビー、シオ、紫舟、そしてウールであった。他にもジゴロウ、七甲、ミケロ、ネナーシの四人もエイジとモッさんに率いられて先行している。
彼らは全員、縦穴を降りての探索に興味を示した。本当なら全員で一緒に向かっても良かったのだが、私と共に降りている仲間達はリアルの都合によってログイン出来る時間が遅くなってしまった。
先導する者がいなければならないということで、私が残って彼らを待った。その結果、二つのパーティーとして別々に降りることになったのである。
「もうすぐ底につく。それまで我慢してくれ、ウール」
「わかったー」
縦穴を降下するにあたって、我々のパーティーには飛行出来ない者が三人いる。それはルビーと紫舟、そしてウールだ。ただ、ルビーは小柄なのでシオの肩に乗るだけで事足りるし、巨大な蜘蛛である紫舟は壁を歩くことが出来るので問題はなかった。
問題は残されたウールである。彼を運搬するのに苦労したのだ。というのも、源十郎は飛行は出来るだけで得意とは言えない種族。彼は後翅を羽ばたかせて、パラシュートのようにしてゆっくりと落ちているに過ぎない。ウールを抱えて降りる余力はなかった。
それはシオにも同じことが言えた。彼女は機敏に飛ぶのが得意だが、重量が増えすぎると飛ぶことすら困難になる。ウールは大型の羊一頭分の重さがあるので、彼女に運んで貰うのは無理だった。
そこで私は自分の筋力を最大まで強化し、ウールに尻尾を巻き付けて飛んでいた。もし縦穴に出現する魔物が強力だったり、ここが一度も訪れたことのない場所だったりしたならば私もこの方法を躊躇ったことだろう。
しかしここは既知の、しかも現れる敵が弱い場所だ。このメンバーならば余裕のある相手だと知っている。そこで私がウールを運ぶ役を引き受けたのである。
それに、私ならば吊している状態でも戦えるのも大きな要因だった。多少私が動き辛くなるが、ウールは鳴き声と魔術で攻撃する私と同じ後衛タイプ。むしろ固定砲台だと開き直って二人で遠距離攻撃に徹していた。
苦労したと言うにはそこまで苦しんでいない降下は終わり、我々はようやく着地する。そして昨日通った横穴を潜り抜けて、『不死の休息地』へと入って行った。
次回は6月14日に投稿予定です。




