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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十四章 山海と先住民達
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炎苔の菌林 その二

「ジャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


 食欲に突き動かされるまま、溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)は我々に向かって突撃してきた。【敏捷強化】のような能力(スキル)はなかったが、思っていたよりもかなり素早い。能力(スキル)による補正はなくとも、敏捷のステータスが元々高いのだろう。


 奴は先頭にいるエイジではなく、モッさん目掛けて飛び掛かった。エイジはその間に割り込んで、大きく開いた顎に大盾を支え棒のように嵌め込む。お返しとばかりに気合いを入れて斧を叩き込んだ。


「ぬんっ!…うわあっ!?」


 すると斧によって溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)の固い鱗は砕けたものの、その瞬間に鱗の内側で流動していた溶岩が飛沫になって飛び散った。まるで【溶岩魔術】の溶散弾(ラーヴァショット)のようである。


 エイジが驚いて追撃が遅れた隙に溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)は一度後退して、蜷局を巻いて防御を固めている。エイジは鱗の一部を砕いていたが、何とその部分は既に修復されていた。


 どうやら鱗の裏に流れる溶岩は攻撃された時の反撃に使うだけではなく、鱗の修復をもこなすようだ。流石に鱗を砕いて与えたダメージまでは回復していないが、ダメージ覚悟で鱗を砕いても結局は防御力が常に変わらないのは厄介極まりない。


「ジュジャア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」

「げっ!?毒!?」

「強力な毒ですね。地面の苔が死んでますよ、これ」


 溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)は蜷局を巻いた状態で口を開くと、牙から毒液を発射した。毒はかなり強力だったらしく、モッさんの言う通り苔が一瞬で枯れてしまった。


 狙いが荒くて当たらなかったから良かったものの、直撃すれば私以外はただではすまないだろう。ひょっとして、このまま砲台のように毒を放つつもりだろうか?それは流石に我々を舐めすぎだ。


「動きが止まっているのなら、私としては好都合だ。大魔法陣起動、呪文調整…氷雨(アイスレイン)!」

「うっひゃあ!」

「あれ、私なら一応回避は出来そうですね」


 動かないことを逆手に取って、私は発動するまで時間がかかる大魔法陣を使い、頭上から無数の氷塊を落とす【水氷魔術】を使う。すると想像していた以上の範囲に、一メートルほどもある氷の塊が降り注いだ。


 相変わらずド派手な演出である。エイジは魔術の迫力に驚き、モッさんは降る氷の塊の隙間を飛べるかどうかを冷静に分析する。敵が使った時のことを想定するのは重要だが、もう少し反応してくれてもいいんだぞ?


「ジャギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!?」


 仲間の反応はどうあれ、落ちてくる氷の塊は溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)の全身を強かに打ち据える。全身を鈍器で殴られたのと同じであり、奴は汚い声で絶叫を上げている。


 氷の塊が鱗を破砕したことで溶岩を撒き散らされるが、付近には誰もいないので意味がない。ただただ、奴が苦しみに喘ぐだけである。


「今だっ!ぶおおおおおおっ!」


 怯んだ隙にエイジが突撃する。地面に埋まった氷の塊を足場にして駆け上がると、跳躍してから奴の頭部目掛けて斧を振り下ろした。眉間から頭部を両断する勢いだったが、ギリギリで回避されて頭部には当たらなかった。


 しかし、その刃は頭部に近い胴体に食い込んでいる。再び溶岩が飛び散るが、エイジはそれを盾で防ぎつつそのまま殴り付けた。殴った反動で斧が抜けて、彼はそのまま着地する。ジゴロウ達を彷彿とさせる身のこなしを見て、私に目があれば驚きで大きく見開いていたことだろう。


「凄い平衡感覚でしょう?私も昨日は驚きましたよ」

「ああ。鈍重な身体でよくもまあ動けるものだ」


 モッさんと私が二人で感心している間にも戦況は動いている。一ヶ所に止まることの愚を覚ったのか、溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)は我々の周囲を囲むように円運動し始めたのだ。


 そうすれば再び氷雨(アイスレイン)を発動されてもその範囲から逃れられるし、エイジの攻撃にも対応し易いかもしれない。ただし、今戦っているのはエイジと私だけではなかった。


「【超音波】からの、空翼刃…これ、最適解なのでは?」

「ジュオオオオオオオオッ!?」


 最後の一人であるモッさんは上空に飛び上がると、我々の耳には聞こえない声で何かを叫ぶ。聞こえない代わりに空間が震えるエフェクトが出て、それが溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)に当たった途端にその鱗が弾け飛んだ。


 どうやら、ウールと同じように音波によって物理的に攻撃を加えたらしい。そうして鱗が剥がれた部分へと翼で作り出した真空波が直撃する。鱗を失った場所への一撃はかなりのダメージを与えていた。


 モッさんの言う通り、これが溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)と戦う上での最適解であるようだった。どうにかして鱗を砕き、鱗が再生する前にその部位へと更に攻撃を加える。この繰り返しが攻略法なのだ。


「ジュガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」


 当然、相手もやられっぱなしではない。口から紫掛かった黒いガスを吐き出して反撃してくる。きっとこれが【灼毒息吹】という能力(スキル)だ。字面からして火属性のダメージも与える毒ガスを吐き出すのだろう。非常に危険だ。


「星魔陣、遠隔起動、風柱(ウインドピラー)


 だが、私もそれなりに経験を積んだプレイヤーだ。こういう場合の対処法はもう知っている。離れた場所に風の柱を立てて、空気の流れを生み出すことでガスをそちらへと誘導するのだ。


 【灼毒息吹】は視界を覆い尽くさんばかりに吐き出されたが、五本の風の柱によって全てが吹き散らされている。必殺の一撃が通用しなかったということもあって、溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)は【灼毒息吹】を吐いた姿勢のままどこか呆然とした表情で固まっていた。


「首を狙おう!飛斬乱舞!」

「合わせます!空翼斬…エイジ君!」

「はいっ!断頭円斧!」


 その隙を我々は見逃さない。私は久々に取り出した鎌によって無数の斬撃を飛ばし、同時にモッさんも羽ばたくことでいくつもの風の刃を放つ。狙いは急所である頭部、ではなくそのすぐ下の部分だ。ちなみに頭部を避けたのは先ほど回避されたからで、それ以上の理由はない。


 我々の飛ぶ斬撃によって鱗は砕け、再び溶岩が周囲に飛び散った。飛散する溶岩を盾で防ぎながら突貫したエイジは、空中で一回転しながら斧を振り抜く。溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)の頭部は切断され、大口を開けたままの状態で地面に落ちて鈍い音を響かせた。


――――――――――


戦闘に勝利しました。

種族(レイス)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

職業(ジョブ)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

【水氷魔術】レベルが上昇しました。

新たに水氷渦(グレイサーハリケーン)の呪文を習得しました。

【水氷魔術】が成長限界に達しました。限界突破には20SPが必要です。


――――――――――


「おっと、レベルが上がったか。格下ではあったが、気を付けないと危ない相手だった」

「ええ。これから他の個体と遭遇するでしょうから、油断しているとあっという間に毒に犯されそうです」

「うわぁ、面倒くさい!」


 我々が苦戦を強いられるほど強くはないが、雑に戦ったら手痛いしっぺ返しを食らう。溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)の総評はそんなものか。


 ただし、レベルが低い内に挑むと何度も修復される鱗に攻撃を阻まれている間に毒殺されてしまいそうだ。マック達に戦った経験があるのかは不明だが、一応こんな魔物がいたと情報交換しておこう。


 さて、ではお待ちかねの剥ぎ取りの時間だ。苔とキノコはあれど、魔物の素材はまだ得られていない。ここらで魅力的な素材が出るとうれしいが、どうだろう?


――――――――――


溶岩死毒蛇の毒牙 品質:可 レア度:S(特別級)

 溶岩(ラーヴァ)死毒蛇(デッドリーヴァイパー)の牙。

 強い火属性の魔力を帯び、染み込んだ毒は消えることはない。

 頑丈ではあるが管状になっていて加工は困難である。


――――――――――


 ドロップアイテムは牙といくつかの魔石だった。魔石はさておき、少しだけ反っていて、先端から根本までは五十センチメートルほどあるだろうか。手触りはこれまで見てきた魔物の牙と変わらないが、少々赤み掛かっているのと紫色の筋が入っているのが特徴だ。


 また、実際に触れてみると牙そのものが熱を持っているのがわかる。触れられないほどではないが、それなりに熱いのは確かであった。


「武器に使えそうだが…何とも微妙な長さだ」

「直剣か曲剣にするには少し短くて、短剣にするには長過ぎですよね」

「帯に短し襷に長し、というやつですか」


 モッさんが引き合いに出したことわざの通り、とても使いにくい長さである。面白いアイテムであるからこそ、余計に勿体なく感じてしまうのは私が貧乏性だからだろうか?


 しかし、持って帰らないという選択肢は存在しない。折角の戦利品なのだから。ただ、もしも再び戦闘になったなら、別の倒し方をして他のアイテムが出るかどうかを調べてみるとしよう。


「おや?しいたけからメッセージが…山のように届いているぞ?」


 とりあえずアイテムをインベントリへ片付けようとした時、しいたけから大量のメッセージが届いていることに気が付いた。私は戦闘中に通知を切っていたせいで気付くのが遅れた形になる。


「しいたけさん?何かありましたっけ?」

「あれでしょう?四脚人(ケンタウロス)の子供の件。アルヴィーちゃんを見た時の反応から察するに…」

「その通り、暴走しかけたようだが…カルに追い払われたらしい。私に届いているのはそれに対する抗議のメールだ」


 どうやら彼女はこれまで、魔導人形(ゴーレム)の核を集めるべく迷宮(ダンジョン)に籠って無心に戦っていたらしい。そうして集めたアイテムを一度片付けに戻ったところ、カルと遊ぶ四脚人(ケンタウロス)の子供を見付けたのだ。


 予想に違わず暴走して子供達にダッシュで接近しようとしたが、その前にカルが立ちはだかって【威圧】と【咆哮】の能力(スキル)を使ってまで彼女を追い払ったらしい。子供達は何か悪者がいると思ったのか、怯えてカルの後ろに隠れてしまったと言う。


 それに対してしいたけは「遊ばせろ!」やら「これは差別だ!」やらと文句を私に言って来たのである。自業自得だし、怖がらせないように近付けばいいだけである。抗議に答えてやる義務はないのだが…宥めてみるか。


「変わったアイテムを渡すから今は堪えて欲しい、と」

「渡すためにもう帰るんですか?」

「いや、しいたけも頭を冷やす時間が必要だ。もうしばらく三人で探索しよう」

「そう来なくっちゃ!」


 しいたけの抗議に返信はしたが、すぐに戻るとは言っていない。もうしばらくここにいてもいいだろう。我々は満足するまで『炎苔の菌林』を探索するのだった。

 次回は6月10日に投稿予定です。

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