封罪器『暴食』
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戦闘に勝利しました。
特殊ボス、神鉄鎧人形を撃破しました。
特殊ボス、神鉄鎧人形の初討伐パーティーです。
全員に特別報酬と20SPが贈られます。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【体力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【体力回復速度上昇】が成長限界に達しました。限界突破には20SPが必要です。
【魔力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魔力回復速度上昇】が成長限界に達しました。限界突破には20SPが必要です。
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咄嗟にカルは四枚の翼を広げて私を守ってくれたのだが、結果的にはその必要はなかった。何故なら、セバスチャンによって爆風は完全に防がれたからである。
彼が使った奥義…あの幻影の城壁は傷一つない状態で今もその勇姿を誇っている。向こう側にあった神鉄鎧人形は跡形もなく消え去っており、床や天井は煤で汚れていた。
「助かったよ、セバスチャン。カルもありがとう」
「恐縮です」
「グオオン」
セバスチャンはこれまで通りの無表情で一礼し、カルは嬉しそうに鼻を鳴らしてすり寄って来る。やはり可愛い奴だよ、お前は。
「スゲェ防御力だったなァ…防御系の奥義ってなァこんなに硬ェのかァ?」
「いいえ、ジゴロウ様。基本的に攻撃系の奥義と防御系の奥義がぶつかり合った場合、攻撃側が微有利と言われております」
「ふふふ、つまり使用条件か習得条件が厳しい奥義だったということですか」
「ご明察の通りです、ウスバ様」
セバスチャンが軽く説明してくれた話によると、攻撃系の奥義と防御系の奥義が激突した場合、完璧に防ぎきることは余程のレベル差がない限り防御の上から微量ながらダメージを食らってしまうらしい。だが、使いにくい上に習得の難易度や条件が厳しい奥義の場合は完全にシャットアウト出来るそうだ。
その奥義を使いこなしてみせたセバスチャンは、やはり優秀な盾職なのだろう。それにしても、神鉄鎧人形は消えてしまったので剥ぎ取りは不可能だ。その分、特別報酬が多いことを祈ろう。
「ボス部屋を出たら、コンラートの所へ行って報酬の確認をしませんか?同じクランならともかく、そうではないのですから交換会をするべきでしょう」
ウスバの提案に私は頷いた。ボスの報酬は剥ぎ取れる素材が主で、低確率でドロップ限定の装備が出る。悲しいことに私はドロップ限定の装備を入手したことはなく、剥ぎ取った素材と報酬の素材で装備を作ってもらっていた。
ドロップ装備はそれなりに強いものが多いらしく、攻略組などはドロップ装備を狙ってボス戦を周回するのだとか。足りない装備は一流のプレイヤーメイド装備で埋めているそうだ。やりこんでるなぁ。
「じゃ、さっさと帰ろうぜェ。出口っぽい魔法陣があるしよォ」
「そうしましょうか」
「イザーム、約束。忘れないで」
「ああ、覚えているとも」
「イザーム様、お待ち下さ…」
セバスチャンに引き留められた気がするが、既に魔法陣に足を踏み入れていた私達は入り口へと一瞬で転移した。かなりの時間が経過しているように思っていた通り、やはり外は薄暗くなっている。長丁場だったからなぁ…疲れた。
迷宮の入り口には未だに人がまばらに集まっていた。入り口付近に入ったときにいた商人達は何人か残っているようだ。儲かるのだろうか?
「何か、入る時より見られてねェか?」
「確かに。何だ、一体…げっ!?」
「グオォ?」
ジゴロウに言われた通り、出てきた瞬間にその場にいる全員の視線がこちらに集まっていることを感じていた。何故だろうと思っていたが、よく考えればカルがいるじゃないか!
迷宮からただでさえ目立つ構成のパーティーが、龍を引き連れて出てきたらそりゃあ目立つわ。普段から一緒にいることに慣れていたせいで、ここがイベントエリアであることも忘れて気が緩んでいたらしい。
迂闊過ぎる自分の行動に頭を抱える私を見て、ジゴロウは困ったように頭を掻く。ウスバは俯いて笑うのをこらえるので必死だし、茜は視線などどこ吹く風という風情でカルの肌をペタペタと触っていた。
「申し訳ありません。移動する前にご忠告申し上げようとしたのですが、間に合いませんでした」
遅れて出てきたセバスチャンが自分の不手際だと詫びるが、これに関しては完全に私が悪い。それどころか気を遣わせてしまって情けない思いだ。はぁ~…
「…もう隠しようがない。皆、カルの背中に乗ってくれ。空の旅に出て現実逃避をしよう」
「はいよ、兄弟」
「楽しみですねぇ」
「わーい」
「失礼致します」
「グオオオオオオン!!!」
私を含めた五人は素早くカルの背中に飛び乗ると、カルは空に向かってご機嫌な咆哮を高らかに上げた。そして四枚の翼を広げると、一気に大空へと飛び立つ。下がざわついているのが聞こえてくる。掲示板とかで情報が拡散するのは確実だろう。
これが嫌だから可能な限りカルの存在は隠して来たのに…私自身の大失態だから言いに行くところもない。迷宮の攻略直後だからといって、気が緩みすぎだろう!?
「まァまァ。そう落ち込むなよ、兄弟。良い方に考えようぜェ」
「良い方に?」
「おうよ。ここまで来りゃァ開き直っちまってよォ、これからはイベントでカル坊も連れ回そうや」
「グオオ?」
自分が呼ばれたのかと、カルが少しだけこちらを向いていた。大丈夫だ、という意思を込めて首を撫でてやると気持ち良さそうに喉を鳴らした。
ジゴロウの言い分も一理ある。漏れた情報は一夜にして広まるとするなら、今度は堂々と一緒に行動すれば良いのだ。前向きに考えれば、これ以上楽しいことはないだろう。よし、そう考えることにしようか!
「ありがとう、兄弟。吹っ切れたよ」
「はいよ。俺ァお前が慎重だから助かってる場面も多いけどよォ、たまにゃァシンプルに行こうや。なァ、兄弟」
ジゴロウはそう言って笑いながら肩をバシバシ叩く。少し照れ臭いが、気の良い友人…いや、兄弟分を得た私は幸せ者である。ありがたいことだ。
「おー…空、いいね。私も空飛ぶ従魔が欲しい」
「婉曲に言ってますけど、要は龍が欲しいのですね?」
「うん」
「そうですか。どうにかなりませんか?」
私が一人で感動していると、ウスバがこちらを向いてそう聞いてきた。それは龍を従魔にする方法を聞いているのか?そう言われてもわからない。何故なら、私はカルが産まれた卵をクエストの報酬として受け取ったに過ぎないからだ。
私のやり方は特殊過ぎるので、教えてもどうにもならないだろう。だが、心当たりがない訳ではない。そちらを教えてみるか。
「私の場合は口で説明し難いが、再現するのはほぼ不可能なのは確実だ。だが、心当たりはある」
「と言うと?」
「ヴェトゥス浮遊島、その奥にある『龍の聖地』を訪ねてみろ。そこの主人に気に入られて、失礼のないようにすれば…機会はくれるかもな」
私の心当たりとは、アルマーデルクス様の下へ行くことだ。どんな条件か試練を課すかはわからないが、あの御方なら誠意を尽くして頼めば機会くらいはくれそうな気がする。
「…おい、兄弟。それ、話して良かったのかァ?」
「構わん。二人は不用意に言いふらしたりしないだろうし…今は一人でも龍を友とする同志が欲しい」
吹っ切れたと言っても、やはり不特定多数のプレイヤーの注目を集めるのは避けたい。少なくとも、情報を秘匿する必要がなくなったと思えるまで自分達のクランを強化するまでは無駄に注目を集めたくはないのだ。
それに従魔とすることへの勝算がない話でもない。アルマーデルクス様であれば、その龍を納得させられるなら好きに連れていけと言ってくれそうだ。…無体なことをすれば瞬く間に死に戻りすることになるだろうが。
「ヴェトゥス浮遊島…噂に聞く空に浮かぶ大地ですか。その口振りだと行ったことがありそうですね?」
「成り行きでな。色々と秘密が眠っていそうな場所だったよ」
「話せるのはここまで、ということですか」
ウスバの確認するような問いを私は肯定した。一言で語るには濃すぎる場所であるし、何より私も知らない部分が多すぎる。言いたくないと言うよりは、知らないものは言い様がないのだ。
ウスバは何かを思案するように仮面を撫でると、腰の剣を鞘に入ったまま外して私の方に差し出した。どういうつもりだ?
「情報の対価ですよ。【鑑定】してみてください」
私はウスバが持ったままの剣を言われるがままに【鑑定】する。その結果、このようなことが書かれていた。
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封罪器『暴食』 品質:優 レア度:L
古代兵器『暴食』の一部を封印し、その力を利用する武器。
魔力を込めることで、封印されている『暴食』の一部を自在に操ることが出来る。
装備効果:【暴食】
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封罪器『暴食』…古代兵器『暴食』の一部…あげくの果てには装備効果も【暴食】と来たか。いわゆる、七大罪という奴だろう。
きっとあの肉の触手がその『暴食』の一部ということだ。神鉄鎧人形の盾を貪った食欲は、まさに『暴食』の名を関するに相応しい。
「『暴食』の一部…か。と言うことは何処かに本体がいる、と考えるべきか」
「恐らくはそうでしょう。本体についての情報は今、コンラートに調べてもらっていますね」
「ふむ…」
「ウスバ様。その件につきまして、気になる情報がございます」
私とウスバの会話に入ってきたのはセバスチャンであった。コンラートに情報収集を依頼したのだから、それを彼が知っていても不思議ではない。欲しい情報を仕入れられるとは、やはり敏腕な商人である証と言えよう。
「まだ確実な情報ではありませんが、帰還し次第報告書をお渡しします」
「ふふふ、要点だけはここで言っていただけますか?その方が面白そうですし」
ウスバは楽しそうに笑ってセバスチャンに言った。ここでそれを話すと言うことは私にも概要を聞かせることに他ならない。私の情報と照らし合わせて、新たな発見を得ることを狙っているのかもしれない。
私の自意識過剰かもしれないが、仮にそうだとしても買い被りすぎだ。私達は確かに他のプレイヤーがたどり着いていない場所に行ったことがあるが、それだけだ。古代兵器の情報に関して力になれるとはとても思えない。
「かしこまりました。『暴食』とは古代の戦争で用いられた強力な戦略級兵器の一つで、他にも『嫉妬』や『傲慢』などの名を冠する兵器が存在したようです」
「まさに七大罪ということですか」
「はい。そしてこれらの兵器を生み出した国の敵国は、七美徳の名を持つ兵器を作って対抗したとのことです」
「と言うことは、戦略級古代兵器が少なくとも十四種類もあったと?それは凄まじい話だ」
しかし、戦略級古代兵器か。そんなものが作れる文明となればアルマーデルクス様から教わった第一文明の時代だと思われる。我々の浮遊戦艦『シラツキ』を造り出した文明の戦略級兵器…想像するのも恐ろしい。発掘されたそれらを完全に破壊するクエストなど将来的にありそうだ。
だが、万が一にもそれをプレイヤーが手にして思うままに使ったらどうなるのだろうか?ごく一部でもウスバのような手練れが使えばあれほど強力な武器となるのだ。下手をすればアルマーデルクス様辺りが出てこなければ大変なことになるかもしれない。くわばら、くわばら。
「その内幾つかの兵器は完膚無きまでに破壊されたようですが、封印されている物も多いと言われています。ウスバ様の『暴食』は封印されているものの一つ、とのことです」
「ふふふ、そうですか。それで、封印されている場所は?」
「申し訳ありません。文献にハッキリとした記述はなく、ただ一言『地の底に閉じ込めらるる』としかありませんでした」
地の底…地中深くに埋められたと言うことか。それだけではどこかの大陸にあることしかわからない。それに、埋めた場所そのものがそもそも容易には行けない場所の可能性が高い。容易に発掘されないようにするために正確な場所は秘匿されたのだろうが…これだけでは雲を掴むような話だな。
これに関して、私は何一つ情報を持っていない。あてが外れたようで申し訳ないが、正直に思い当たる節はないとウスバに伝えよう。
「あっ!そうだ、思い出したぜェ!」
「どうした、ジゴロウ?」
そんな時、角を握ってウンウン唸りながら考え事をしていたジゴロウが急に大きな声を出した。どうしたのだろうと聞いてみると、兄弟は私の肩を揺すってこう言った。あれは見たことがあるだろう、と。
「見たことがある?何を、何処で?」
「あの気色悪ィ剣の舌のことだァ!トワと初めて会ったビルの前で、兄弟が使った変な術で出てきたあの木とそっくりじゃねェか!」
「変な術…木…?まさか『暴食』が封印されているのは…!」
魔導人間のトワと会ったビルの前で私が使った魔術。そのことを兄弟が思い出してくれたことで、『暴食』の本体の居場所について私の中で一つの仮説が産まれるのだった。
次回は5月5日に投稿予定です。




