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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十四章 山海と先住民達
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神鉄鎧人形 その一

 扉の向こう側は、殺風景なだだっ広い部屋であった。家具どころか柱すらないので、それを利用した戦法は難しい。ガチンコの戦闘を強いられることになるのだろう。


 縦にも横にも広いので、大型のパワータイプでも小型・中型の高機動タイプでも存分に戦えそうである。部屋の形状だけでは全くボスの予想がつかなかった。


――――――――――


ボスエリアに入りました。

条件を満たしたため、『特殊ボス・神鉄鎧人形』を開始します。


――――――――――


「何だと?」

「あァ?」

「ほう?」

「あれ?」

「これは…?」


 私とジゴロウだけではなく、一度は攻略しているはずのウスバと茜、更に常に冷静沈着なセバスチャンまで困惑しているようだった。想定外の事態が生じているに違いない。それもイベントに初日から参加している者達ですら知らないことが。


 我々が狼狽していると、部屋の中央に魔法陣が発生してそこから三つの影が現れた。それらは白銀の鎧を身に纏った騎士のような姿をしており、その全てがカイトシールドとバスタードソードで武装している。一見すると騎士にしか見えない見た目であった。


 しかし、鎧の胸部にはこれまで戦った魔導人形(ゴーレム)と同じ核が埋まっている。それぞれ核の色は違って、左から赤・青・緑と並んでいて、武装は同じでも多少の個体差はあるらしい。


 ここまでの道中で魔導人形(ゴーレム)とは幾度となく戦ってきたが、ボスの放つ存在感は段違いだ。これまでもそうだったが、実際に強敵と相対した時には圧力としか言い様のないモノを感じたことはある。今回もその圧をヒシヒシと感じているので、きっとコイツも強敵なのだろう。それこそ、我々が全力を尽くさなければ勝てないほどに。


 名前から明らかに魔導人形(ゴーレム)なので、【鑑定】してもアイテムとしての情報しか出てこない。しかし、少しでも情報を集めるために私は【鑑定】せずにはいられなかった。


――――――――――


神鉄鎧人形 品質:神 レア度:G(神級)

 『生産と技術の女神』ピーシャの手でイベント用に造り上げられた魔導人形の一種。

 神の試練を一つ以上達成済みの者を二人以上含む、人類と魔物の混成パーティーの前に現れる。

 都市の治安維持用魔導人形よりは弱いが、隠しボスに相応しい強さを秘めている。


――――――――――


 思った通りのアイテム扱いだが、名前と出現条件は判明した。神様、それも生産職の神様がイベント専用に作った魔導人形とは恐れ入った。


 それにしたって、出現条件があまりにも厳しい。一般的に知られている神の試練とは、『蒼月の試練』だろう。他にも存在してそれを隠している者がいてもおかしくないが、何にせよ難易度は非常に高いはずだ。


 それを攻略した者を二人以上含む、しかも人類と魔物の混成パーティーの前にしか現れない…これ、現状で条件を満たせるのって我々のパーティーだけなのでは?


 しかし、気になるのはこの魔導人形(ゴーレム)よりも強いとハッキリ書かれている治安維持用の魔導人形(ゴーレム)だ。あくまでも治安維持用であり、都市の防衛には参加しなかったのでプレイヤーの間では『最強のポンコツ』と呼ばれている。だがその強さは尋常ではなく、自分から喧嘩を売った高レベルプレイヤーパーティーが秒殺されたと聞く。役に立つんだか立たないんだかよくわからない性能をしている。


 比較対象が強すぎてあまり参考にならなかったものの、神様がイベント用に造ったのだから倒せる強さに抑えてくれているはずだ。ただし、試練を突破している者達を対象にしているのだから半端なく強いのだろう。これは出し惜しみをしている場合ではなさそうだ。必要なら、私のあらゆる能力(スキル)を使わなければならない。


「神鉄鎧人形…凄まじく強い魔導人形(ゴーレム)のようだ」

「ハッハァ!いいねェ!一体貰うぜェ!」

「私も貰いましょう」


 私が情報になってない情報を伝えるが早いか、ジゴロウとウスバは左右の神鉄鎧人形に向かって突撃していった。どうやら一対一で戦うつもりであるらしい。二人は足止めなどではなく、自分一人で倒してやろうと本気で考えているようだ。


 突撃する二人を神鉄鎧人形が迎撃する。ジゴロウの拳とウスバの直を盾で受け止めてから剣で反撃するものの、二人は軽やかに身を翻して回避した。


 二体の神鉄鎧人形には二人が襲い掛かったのだが、神鉄鎧人形はまだもう一体残っている。その個体は二人のどちらかではなく、我々三人に向かって直進してきた。


 私は後方に飛行して、茜は素早く跳躍して回避し、セバスチャンは大盾で神鉄鎧人形の剣を防ぐ。私としてはこの三人で一体と戦うのが理想的ではあった。


「ボス、抜け駆けしてる」

「君も一対一で戦いたいのかもしれんが、ここは残った三人で戦わせてくれ。私だけでは体力を削り切れる気がしない」

「うーん、わかった」

「前衛はお任せ下さい」


 しかし、やはりと言うべきか茜も一対一で戦いたがった。ウスバに向かって不平を言ながら、今にもウスバの方へ駆け出さんとしていたので慌てて引き止める。少しだけ悩んだものの、彼女はこちらで戦うことを了承してくれた。


 さて、この三人で戦うことになったわけだが…核を残して勝利するのは無理だと思う。とてもではないがそんな余裕はない。核という弱点を狙って倒すのだ。


 私が牽制のために適当な魔術を弱点目掛けて連続で放つと、合わせるようにしてセバスチャンが盾で押し返す。それによって神鉄鎧人形は逆らわずに跳躍し、距離をとった。


「茜、連携は得意か?」

「苦手。いつも一人で襲撃するから」

「私はイザーム様の指示に従います」

「…わかった。セバスチャンは前で防いでほしい。茜は隙を見て攻撃を仕掛けてくれ」

「畏まりました」

「うん」


 ボスエリアに入る前に、私は全員に【付与術】による強化と【魂術】による徐々に回復するように魔術を使っている。なので前準備は必要なく、落ち着いてどっしり構えるとしよう。


 それからしばらく戦ったところ、神鉄鎧人形は基本的に奇を衒わない、堅実な戦い方をすることがわかった。剣による斬撃と盾による鉄壁の防御を高い水準で使いこなしている。正統派の強さを誇る戦士といった風情であった。


「ふっ…!」

「星魔陣起動、暗黒糸(ブラックスレッド)

「えいえい」


 だが、試練を突破している者三人がかりならばやってやれないこともない。セバスチャンが確実に防ぎ、私が攻撃の手を止め、その隙に茜が核を狙って剣を突き刺す。流石に避けようとするので直撃こそさせられていないが、茜の速度と技量によって核の表面には着実に傷が刻まれていた。


 この調子を保てば倒せるだろうが、そう簡単には行かないだろう。そんな安っぽい敵を女神が造るとは思えない。そろそろ次の切り札を切ってくる頃だ。


「うおっとォ!危ねェなァ!」

「一段と速くなりましたね?」


 一足先にジゴロウとウスバはほぼ同時に次の段階へと移行したらしい。ガシャッと音を立てて鎧が展開し、排熱するように一度煙を出すと変化が訪れていた。神鉄鎧人形の正確さと力強さはそのままに速度が上がっている。純粋な戦闘能力が一段階上がったのだ。


 しかもジゴロウが戦っている個体は鎧の隙間から炎を、ウスバが戦っている個体は風刃(ウインドブレイド)を放っている。と言うことは我々が戦っている個体も鎧の隙間から何かを放つのだと思われる。警戒しなければなるまい。


「…冷たい」

「こっちは氷…水属性か!」


 こちらもガシャッと音を立てて鎧を展開させると、茜が嫌そうな声を出すほどに冷たい煙を放出する。その後、氷の礫を撒き散らし始めた。


 これでわかったことは、神鉄鎧人形の第二段階は魔術を使いながら戦う一流の戦士になると言うことだ。ただし、魔術の発動が素早いので対応が難しい。一応、魔術を使う前には鎧の頭部が発光するのでノーモーションというわけではなかった。


「発光を確認、遮水の盾。砕盾撃」

「上手いな…星魔陣、呪文調整、風刃(ウインドブレイド)

「えい。あれ冷たそう」


 だが魔術を撃つ瞬間がわかるのならセバスチャンは反応出来るらしい。水属性の攻撃をシャットアウトする武技で氷の礫を防ぎきり、逆に盾で神鉄鎧人形を殴り付ける。そうして体勢を崩したところを私と茜が魔術と剣で核を狙った。


 魔術を防げば剣が、剣を防げば魔術が核に傷をつける。黙々と、しかし確実に防御を固めるセバスチャンに私の様々な魔術、そして茜の剣技が上手く噛み合っている。即興で組んだパーティーにしては理想的に機能しているようだ。


「オオオッラアアアアァァ!!!」

「ふふふ…ふふふふふ!」


 核を狙う我々とは逆に、ジゴロウとウスバはやはりと言うべきか胴体の破壊を目論んでいた。ジゴロウの拳は鎧をベコベコに歪め、ウスバの剣が装甲を切り裂いて深い傷を刻んでいる。二人とも楽しそうな笑みを浮かべているのが、頼もしくも恐ろしく感じていた。


 一段階強化され、魔術を使うようになってもジゴロウとウスバはまだ余裕があるらしい。もちろんノーダメージではないのだが、その傷も即座に事前に掛けておいた【魂術】によって回復していた。


「ハッハァ!圧し折ってやるぜェ!」

「相性って怖いですねぇ…」


 特にジゴロウはそもそも炎に耐性があるので、炎を噴き出すことが強化になっていない。故に神鉄鎧人形に最もダメージを与えているのはジゴロウとなっていた。


 彼は神鉄鎧人形の突きを上体を反らして回避すると、下半身のバネだけで飛び上がって腕に関節技をかける。あれはジゴロウから教わった…ええと、確か飛び付き腕ひしぎ十字固めという技だったか?咄嗟に使えるのが流石としか言い様がない。


 しかもジゴロウは折ることに躊躇はない。そのまま肘を挫いて明後日の方向を向かせると、メキメキと何かが壊れる音がここまで聞こえてきた。


「どわあぁぁっ!?」

「ばっ、爆発した!?」


 ジゴロウが腕を破壊した瞬間、圧し折った腕が爆散したではないか!肘から先を失ったのだが、核が輝くと伽藍堂の中身が見える肘から新しい腕が生えてきた。


 破損した部分を再生させられる上に、切り離して自爆させられるのか。恐ろしい機能である。だが、自爆と再生をいつまでも繰り返せるとは思えない。いや、ボスだからといって、流石に無限に繰り返せて欲しくないわ。


「ウガアアアッ!しゃらくせェッ!何度でもブッ壊してやらァ!」

「ほっ…おや、どうやら属性に応じた爆発が発生するようですね」


 爆風に吹き飛ばされたジゴロウだったが、すぐに体勢を立て直して再び拳を握って襲い掛かった。その間にウスバが手首を斬り落としたのだが、やはり手の部分が爆発したものの、ジゴロウとは違って無数の風の刃が撒き散らされる。


 ウスバの言う通り、爆発も神鉄鎧人形の持つ属性に依存しているようだ。つまり、今私達三人が戦っている個体を部位破壊したら氷の爆発が起きると思われる。細心の注意を払って攻撃をしなければならないだろう。


 ただでさえ強いのに、部位破壊を狙ったらしっぺ返しが来るのは面倒ではある。しかし、来るとわかっているのならば調整しながら戦えば良い。反撃のことも計算に入れた上で、戦闘続行だ!

 次回は4月21日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] まあ、一応、誤字脱字報告 ・ジゴロウの拳とウスバの直を盾で受け止めてから →直?
[一言] イザームは観察と分析の描写が多くて、戦闘中サボってるような印象になってしまいますね。 もちろんサボってはいないし、魔術師だから連発連発なんてしないんでしょうけど。
[気になる点] 次回の更新は23日ではなく21日ですか? だとしたら嬉しいです!
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