久々の洞窟探索
前話にてフィールドの名称が誤っていたので修正しました。ご迷惑をおかけします。
「ゲホッゲホッ…皆、生きてるか?」
「い、生きてますぅ…」
「ええ、何とか」
「洗濯物になったみたいで、最高の気分よ」
「怖かったー」
煙たい砂埃を払いながら、私は仲間達の安否を確認する。アイリスはフラフラしているが、兎路には皮肉を言う余裕があるらしい。勢いよく落下することへの反応は、人それぞれになるのは当たり前であろう。
急襲されたことで墜落した我々だったが、どうにか誰一人、いや一名を除いて死なずに済んでいた。では誰が死んだのかって?それは何を隠そう、この私である。
回避が間に合わないことを悟った私は、どうせ一度ならば復活出来るのだからと自分から火炎球に突撃したのだ。その結果、私は爆炎で即死し、カル達は爆風に吹き飛ばされて地上に激突したのである。既にスペアの頭部と取り替えている。
「キュウーン…」
「助かったわ。アンタ達二人のお陰ね」
「今治療致します」
「ありがとう、ミケロ」
爆風の直撃から仲間達を庇ったのはカルだった。彼は翼を器用に使って背中にいたアイリスと兎路を腹側に引き寄せ、更に脚にぶら下がっていたミケロを引っ張り上げると四人を抱えた状態で背中から落ちたのである。カルも私と同じく重傷だが、彼が居なければミケロ以外の三人は落下死していただろう。
私はカルと共にミケロの治療の治療を受けながら、現在地を確認する。マップ情報によると我々は『槍岩の福鉱山』にいるようだ。まだ入ってなかったと思ったが、どうやら爆風によってこちらまで吹き飛ばされたらしい。
これを不幸中の幸いと呼んでも良いのかはまだわからない。何故なら麓から徐々に進んだのではなく、事故によって不時着しただけだからだ。ひょっとしたらここは魔物の巣のど真ん中かもしれない。悠長にしていたら大惨事になりかねないぞ!
「ギャオオオオオオオオ!」
「…あの龍の声がここまで聞こえてくるわね」
「兎路、先程も言いかけたがあれは龍ではない。あれは飛龍だ」
龍とは四本の足と角、そして翼を持つ種族だ。翼が退化した種もいるらしいが、重要なのはあれは前足が翼となっていることである。その他は同じだが、龍とは異なるのだ。
その正体だが、『龍の聖地』で読んだ本によると飛龍というらしい。これは【龍の因子】を得た鳥の魔物の子孫である。元が鳥であるからか羽毛は生えている個体も多く、空中での機動力に関しては風属性の龍にも匹敵するそうだ。
以前に毒炎亀龍と戦ったが、我々はその前に骨を拾っている。彼処には劣火龍の骨も落ちていたからだ。
これは私の勝手な想像だが、彼処で劣火龍と飛龍は戦いになって共倒れになったのではないだろうか。それを食らった個体が、毒炎亀龍という【龍の因子】を持つ特殊な個体になったのだと推理しているのだ。
この私の想像が正しいとするなら、劣火龍よりも格上であるカルを一撃で吹き飛ばしたあの飛龍はレベルがとても高いのだと思われる。我々だけでは倒すことは今は不可能に近いと予想される。レベルを上げて装備を整えたとしても、事前に情報をしっかり集めてからにするべきだ。
「いや、今は細かい種族の違いなど気にしている場合ではないか。何時あの飛龍に見付かるかわからない。安全な場所を探そう」
「なら、彼処に見える洞窟はどうですか?距離も近いですし、カルちゃんも入れそうですよ」
アイリスが触手の一本で指し示したのは、我々が墜落した場所から少し登った山肌にある洞窟だった。大きな岩が組み合わさって出来たもののようで、上空から見下ろされても隠れられるだろう。良い案だと私も思う。早速移動しよう。
洞窟の入り口に移動した我々は、そこでしばらく休息することにした。まだまともな戦闘すらしていないのに、カルは死にかけて私は一回死んでしまった。皆も高い場所から墜落したことで精神的に疲れている。落ち着くための時間が必要だった。
「ぬぅ…やれやれ、出鼻を挫かれた訳だが…帰ろうにも不用意に飛べば先程の二の舞だろう。山を歩くにしても上からの脅威が待っていると。いやあ、参ったなこれは」
「いや、アンタの魔術なら帰れるでしょ」
「それが、何故か帰還用の拠点転移が使えないんだ」
兎路の指摘は尤もだ。私の【時空魔術】ならば、仲間ごと拠点へ帰ることは可能だ。だが、問題が起きているのだ。
何時でも戻れると安心したくて待機状態にしようとした時、理由はわからないが私の視界に『現在は使用出来ません』と表示されたのだ。他の【時空魔術】は使えるのに、ピンポイントで脱出用の魔術だけが使えない。謎過ぎて笑うしかないな!コンチクショウ!
「あれ?これって…えい!やっぱり!」
私が頭を抱えていると、何かに気付いたアイリスがつるはしを取り出して壁を叩く。すると幾つかの石ころが地面に落ち、それを拾ってから大きな声を出した。
「どーしたのー?」
「ここ、採掘ポイントです!」
「採掘…と言うと、鉱石が手に入る場所だったか」
採掘ポイントとは、フィールドにある金属鉱石や宝石の原石などを得られる場所である。得られる金属の種類と量はポイントによって異なり、何がドロップするのかもポイント毎に決められた確率で決まっていた。
誰でも採掘は可能だが、専用の能力があると鉱石の質やドロップの量、そしてレアドロップの出現率に補正がかかる。私はアイリスから教わった情報を記憶の底からを掘り起こしていた。しかし、それが今の状況と何の関係があるのだろうか?
「【鑑定】すればわかります!」
「そ、そうか?ならば…」
ずずいと差し出された鉱石を受け取った私は、言われるがままにアイテムを【鑑定】する。その結果はこうなっていた。
――――――――――
時空鉱石 品質:良 レア度:S
時空属性の魔力を金属を含有する岩石。含有率は高い。
周囲の時空属性に影響を及ぼすほどの魔力を持つ。
時空属性に関するアイテムの制作に役立つだろう。
――――――――――
「周囲の時空属性に影響を及ぼす…だと?なるほど、この鉱石のせいで私の魔術が妨害されているのか」
この鉱石が【時空属性】限定で魔術妨害を展開しているような状態らしい。珍しいアイテムは嬉しいが、今の状況だと全く喜ぶことは出来ない。
「しかも、この鉱石は普通のドロップアイテムみたいです」
「と言うことは、この周囲の岩が全て【時空属性】を妨害しているということになるのか」
「そりゃあ転移は無理よね。歩くしかないわ」
兎路の言うように、徒歩で帰るしか道はないだろう。しかし、空の上の脅威を考えると迂闊に今いる洞窟から出る訳にもいかない。ならばどうするのか。答えは一つしかないだろう。
「何が待ち受けるかはわからないが、洞窟の奥に進む他にないようだ」
「ちょっと懐かしいです」
「アタシは初めてだわ。戦争イベントの時は洞窟じゃなくて蟻の巣穴だったし」
「僕もー」
「洞窟探険ですか。悪党のアジト以外だと初めてです」
洞窟を進むのは劣小蛇龍と戦った時以来か。アイリスもその事を懐かしんでいる。兎路とウールはイベントで巨大な蟻の巣を拠点として利用したことがあったが、あれはこのような自然の洞窟ではないからノーカウントなのだろう。
ミケロに関しては我々の中では最も洞窟の攻略に慣れている。彼はヴェトゥス浮遊島を探そうとしていたが、普通の住人に恐れられる外見であった。故に彼は近くにいた悪党のアジトを襲撃し、そこの者達を脅迫して情報収集をしたのである。
結局これと言って役立つ情報はなく、偶然にも遭遇した嵐でたどり着いたのだが…とにかく、洞窟の経験は豊富である。頼りにさせてもらうとしよう。
そんなこんなで、我々は洞窟に足を踏み入れた。ここはマップの表記によると『槍岩の福鉱山・内部』と書かれている。確かに山の中なのだから内部なのだが、もう少し具体的な説明があっても良かっただろうに。
場所はわからないままだが、一本道であるので迷う心配もなく我々は進む。魔物であるが故に誰もが【暗視】の能力を持っているので、明かりは全く必要ない。それに、洞窟の内部は思っていたよりも明るかったのだ。
その原因は鉱石にあった。洞窟の内部には無数の採掘ポイントがあるのだが、そこからは何と時空鉱石の他にも全ての属性の鉱石がドロップしたのである。その中には光属性の鉱石もあって、それが光っているのだ。
採掘ポイント以外の岩石にも光属性の鉱石は混ざっているようで、所々キラキラと輝く洞窟は幻想的であった。これが天然のライトの役割を果たしているようで、坑道のランタンのように洞窟を照らしていた。
「おっ、品質が『優』の鉱石が出たぞ」
「ここは素材の宝庫です!来て良かったぁ~!」
我々は洞窟を採掘ポイントを逃さないようにしながら、ゆっくりと進んでいた。せっかくこれだけ採掘ポイントがあるのだから見過ごすのはあり得ない。
採掘ポイントの仕様だが、一つのポイントは決められた回数まで専用の能力の有無を問わず誰でも利用可能というものだ。そして一定時間経った後、再び利用出来るようになる。時間さえかければいくらでも鉱石を得られるのだ。
ただし、採掘ポイントのある周囲の環境が大きく変わるとポイントの位置が変わったり、最悪消滅することもあるらしい。何の知識もなく地形を変えると、取り返しのつかない事態を招くこともあるのだ。拠点の再建計画は慎重に行うとしよう。
「皆、採掘は終わったな?では先に進もう。ミケロ、カル。頼んだ」
「お任せください」
「グオン!」
この洞窟を進むにあたって、前衛はカルとミケロに任せていた。カルは今いるメンバーでは防御力と体力の両方で優れているから、ミケロは洞窟を歩き慣れている経験を活かしてもらうためである。
しばらく採掘ポイントもない場所を歩いていると、フワフワと浮かんでいたミケロがピタッと止まった。何か気になることがあるらしい。彼は眼球の付いた触手をくねらせて、周囲を観察しているようだった。
「ふむふむ、この地形は危ないですね。私の経験で言うと…やっぱり。皆さん、敵です」
「グルルルル…!」
どんなに美しい場所でも、フィールドである限り魔物は現れるものだ。ミケロとカルが警告した直後、頭上から六匹の蜥蜴が落ちてくる。我々は即座に武器を構え、応戦するのだった。
次回は3月14日に投稿予定です。




