洞窟探検 その四
うーむ、敵が出ない。いや、それ自体は問題ではないんだ。そこまで強くない敵を倒しながら進むのは結構面倒だし、それが動く骸骨系であればドロップも必要ない。
しかし、こうも敵がいないとこの先に何もない気がしてしまう。結構歩いているし、これで無駄足だったら皆の士気に関わりそうだ。何かあってくれ!そう祈らずにはいられなかった。
「…ストップ」
ルビーから指示が飛ぶ。何か見つけたのだろうか。
「少し進んだ所に大きな空間があるよ。何かが動いてた」
よし、ビンゴ!やっぱり何かあるんじゃないか。さて、問題はその何かが我々の敵かそうではないのかだ。私としては無駄な衝突は避けたいのだが、戦いとなった時は全力で行くとしよう。
「行こう。先頭は源十郎に変更、ジゴロウは前へ。ルビーはアイリスの隣に」
我々は隊列を変更して広い空間へと歩を進めた。
◆◇◆◇◆◇
――――――――――
イザーム達は隠しエリア『洞窟の隠れ祭壇』を発見しました。
発見報酬として10SPが授与されます。
――――――――――
そんなインフォが全員の頭に流れる。ルビーが発見した空間がその『洞窟の隠れ祭壇』なのだろう。パッと見たところ、確かに何らかの聖堂のようだった。これが最奥には何かの祭壇が、そしてその周辺には棺のような物が六つ置かれている。ハッキリ言って不気味だな。
ルビーの言っていた動いていた何か。それはボロボロで汚れた異国風の、というか中華風と言うべきか。そんな服を着た人型の魔物であった。何故魔物だとわかるのかって?マーカーが真っ黒だからだよ!
その魔物は姿勢からおそらくは祀っている神に祈っている最中なのだろう。動きも中華風を踏襲しているのか、正確な名称は忘れたが頓首とか稽首とか言うはずの古代中国の礼法を繰り返している。あれって神に向かってやるものだったっけ?
まあいい。ゲームの中の世界観なんだから、そういうものなんだろう。何にせよ我々は大事な時にお邪魔したようだな。
「…何者だ?」
おっと、祈っていた魔物は我々に気付いていたらしい。こちらを振り返るでもなく、不快感を滲ませる声音で聞いてくる。これは答えるべきだろう。
「祈りの邪魔をして申し訳ない。我々はただこの洞窟を探索していただけなのだ」
「否、わかっておるわ。貴様らはアールルの使徒であろう!?」
アールル?それは『光と秩序の女神』の名前だな。それなら絶対に違う。むしろその女神のお気に入りらしい勇者君とその仲間を皆殺したんだからな!
「違うぞ、我々は…」
「是非も無し!アールルの使徒は殺す!殺す殺す殺すコロスコロスコロコロゴロズゥゥ!!」
「あ、話が通じねぇわ」
ジゴロウの言う通りらしい。相手は最初、ハッキリとしゃべっていたので理性ある相手かと思われた。しかし、魔物である事を隠そうともしていない我々を見てこの反応。明らかに正気を失っているのだろうな。
奴ここでようやくこちらに向き直る。その顔には血の気が無く、瞳もドロリとして生気が無い。どうやら、不死のようだな。
「戦闘は避けられんようだ。全員、備えろ!」
「出デヨ、我ガ友ヨォォォォォ!」
「何?」
祭壇の横にあった棺の蓋が内側から吹き飛ばされる。そして中から出てきたのは二種類の魔物だ。片方は動く骸骨系が四体、そしてもう片方は映画等で見慣れた顔に札を張り付けた有名な化け物が二体だった。
「動く骸骨の化け物と…キョンシー?」
そう、キョンシーだ。中国の道教における反魂術によって作られし生ける屍。途轍もない怪力と上位の者になれば神通力まで使いこなすと言う。
そして動く骸骨の化け物とは…四腕の動く骸骨だ。肩甲骨以外の骨は全て人型なのだが、その肩関節部分が二つあってそこに腕が二本くっついているのだ。何なんだ、あれは?【鑑定】してみよう。
――――――――――
種族:僵尸 Lv23
職業:拳法士 Lv3
能力:【拳】
【蹴撃】
【軽業】
【筋力強化】
【防御力強化】
【暗視】
【怪力】
【状態異常無効】
【光属性脆弱】
【火属性脆弱】
種族:混合骸骨戦士 Lv15
職業:戦士 Lv5
能力:【剣術】
【槍術】
【盾術】
【長柄武器術】
【暗視】
【状態異常無効】
【光属性脆弱】
【打撃脆弱】
種族:死霊道士 Lv25
職業:上級死霊魔術師 Lv5
能力:【拳】
【蹴撃】
【魔力制御】
【大地魔術】
【暗黒魔術】
【神聖魔術】
【召喚術】
【付与術】
【死霊魔術】
【呪術】
【暗視】
【怪力】
【状態異常無効】
【光属性脆弱】
【火属性脆弱】
――――――――――
ほほう、混合骸骨戦士と来たか。これ、恐らくは【死霊魔術】で造り出したんだろうな。と言うことは、私にも造れるかもしれないと言うこと。ふふふ、創作意欲が湧いてくるではないか。
そして予想通り、あっちは僵尸か。レベルも高いが、能力も格闘方面に特化しているみたいだな。これは厄介な相手だ。
だが、それ以上にヤバいのは最初にしゃべっていた死霊道士だ。こいつ、レベルだけなら『蒼月の試練』で登場する魔物と同格だぞ。しかも、【死霊魔術】と【呪術】という深淵系魔術も取得している。
更に【光魔術】の進化先まで持ってるじゃないか。【光属性脆弱】があるのに、何故持っているんだ?もし私に当たったら、即死してしまう事は肝に銘じておかねばな。
「ジゴロウは動く骸骨を出来るだけ早く仕留めろ!アイリスは援護!源十郎とルビーは僵尸を足止め!相手は格上だから無理はするな!私は全体を援護する!」
「わかったぜぇぇ!ウシャァアアアアア!」
私は急いで指示を飛ばす。今は勝つために必要な事をするだけだ!
「魔法陣展開、魔術強化、魔術強化、魔術強化…!」
私は自分自身に魔術強化を三重に付与すると、ジゴロウ、源十郎、ルビーそしてアイリスへと矢継ぎ早に【付与術】で強化を飛ばしていく。相手は私と同じかそれ以上の術が使えるのだ。油断は許されない。
「ウグッ!?」
何だ?混合骸骨戦士を一方的にボコボコにしていたジゴロウの動きが止まった?って麻痺か!これは【呪術】だな?させないぞ!
「解呪!アイリス!」
「はい!光球!」
「っと、サンキュー!」
動けるようになった瞬間、ジゴロウは眼前に迫っていた混合骸骨戦士の槍の穂先を屈んで避ける。そして空振った一体の胴体にアイリスの魔術が直撃した。
「ウラァ!」
体力が一気に減った所にジゴロウの剛脚から繰り出される蹴りが頭部にクリーンヒット。そのまま頭を粉砕した。これで一体はお仕舞いだな。むっ、死霊道士が何か術を使おうとしているな。狙いは、ジゴロウか!
「させんよ!巴魔陣遠隔起動、魔力盾!」
私は死霊道士の目の前に三枚の魔力盾を展開し、奴の魔術にぶつけて相殺させる。使おうとしたのは恐らく闇槍か。
行き場を失った術の衝撃を浴びて、死霊道士は後ろに転がる。今がチャンスだ!
「源十郎、ルビー!魔術行くぞ!双魔陣遠隔起動、火炎放射!」
私の合図に従って、二人は後ろに飛び退く。それまで二人がいた地点と僵尸共の背後に私の魔方陣が浮かび、【火炎魔術】が炸裂した。弱点である火属性、しかも進化した能力による一撃は二体の体力をゴッソリと削っていく。
本来は近距離でなければ当てられない火炎放射だが、魔法陣によって起点を設定すれば近寄らずとも十分に使えるのだ。工夫次第、という奴さ。
「一気に仕留めるぞ!源十郎、ルビー!脚を狙ってくれ!」
「ほいっと」
「はあぁっ!」
私の無茶とも言える頼みに、二人は何も言わずに応じてくれる。源十郎は正確な一太刀で僵尸の腱を斬って転がし、ルビーも自慢の速度を乗せた短剣の一撃で片方の足首を両断した。
「溶弾!」
私は転けた僵尸へと溶弾をお見舞いする。着弾後、地面に残る特性を持つ溶弾だ。今の奴らは火山の火口に飛び込んだようなものである。
思った通り、一気に燃え上がった。火達磨になった僵尸達だが、溶岩の池からどうにか這い出る事に成功している。流石は格上、と言うべきか。だが、もう詰んでいるぞ?
「ふん!」
「イヤッ!」
這い出た先で待っていたのは源十郎とルビーである。彼らは容赦無く連中の首を落とした事で、二体の僵尸は動かなくなった。
「オオッラアアアアアァ!」
ジゴロウの方はと言うと、混合骸骨戦士を全て倒し終わっていた。アイリスの援護が的確だったのも一因だったようだが、それでも同格の魔物の四体相手にして圧倒するのは流石としか言い様がないな。
「後は死霊道士だけだ!ジゴロウと源十郎は接近して魔術を使う暇を与えるな!相手は近接もこなせるから注意しろ!」
「あいよ、大将!」
「ほいほい!」
「ルビーは背後に回って牽制、二人に集中させるな!アイリスは私と一緒に魔術で援護!」
「はい!」
「任せて!」
起き上がった死霊道士に向かって、ジゴロウと源十郎は走る。数秒でたどり着く距離なのだが、その数秒さえあれば魔術は使える。奴が選ぶ魔術はおそらく…
「地震」
やはりそう来たか!突如として震える大地に、私はバランスを崩してしまう。ジゴロウと源十郎はリアルチート特有のバランス感覚で揺らぐこと無く走っていた。
ぐぬぬ、一流アスリートか何かかよ!?肉体の性能はそれ以上なんだろうけど!
「シャッ!」
「チェイッ!」
ジゴロウの正拳突きと源十郎の鋭い剣先が死霊道士を襲う。前者は水月を、後者は頚部を狙っている。
このゲーム、リアリティーを追及してあるので、格上相手でも急所を突けばアッサリと殺せるのだ。私が勇者君の仲間の戦士を魔力剣で殺せたのもその仕様のせいだ。
そう言う意味では体力バーはあくまでも目安でしかない。キレイに急所を突くのは物凄く難しいので普通の人には関係ないのだが、彼らのような化け物はそれをしっかりと活かしてくる。やっぱり不公平だ!
「カアア!」
その仕様のお陰でどっちが当たっても大ダメージは避けられないだろうと私は思っていた。しかし、やはりレベル差というのは大きいらしい。我々の動体視力では捉えるのも難しい二人の一撃を、死霊道士は躱してみせたのである。これは、援護無しでは無理だな。
「食らえっ!」
背後から音もなく近づいていたルビーは、補食時に用いる酸を吐いて牽制する。【状態異常無効】で毒の短剣が通用しないことを見越しての判断だろうな。毒と違って肉体や武装を溶かす酸は純粋な物理攻撃なので無効には出来ない。的確な行動だ。
「罠設置、水槍、雷矢、茨鞭」
酸を浴びるのを嫌がったのか、死霊道士は鬱陶しそうにルビーを蹴ろうとする。その隙を私は見逃さない。とある場所に罠を設置し、三種類の魔術を放つ。水の槍が奴を濡れ鼠にし、雷がその身体を痺れさせ、茨が奴を傷付けながら縛り上げる。
どれも奴の弱点ではないので大して効いていないし、麻痺は効く訳もなく、茨も一気に引きちぎられてしまった。だが、この一瞬が稼げればそれで良かったのだ。
「神獣化!オッラアアアアアア!」
金色のオーラと雷を纏ったジゴロウは、拳を全力で叩き込んだ。メキメキと何かが潰れるような音を立てつつ、死霊道士は漫画のように吹っ飛んだ。そして壁に激突した瞬間、その位置が大爆発する。勿論、偶然などではない。
「フフフ、予想通りだ」
爆弾を仕込んだ私の【罠魔術】だ。キレイに嵌まったようだな。仲間には私が仕掛けた罠の位置が見えているので、ジゴロウはそちらに殴り飛ばしたのである。
だが、ここで終わりではない。ここから何もさせずに滅ぼしてくれよう!
「下僕共よ、押さえ込め!アイリス!火属性付与!」
「…ッ!はいっ!」
私の召喚獣である骸骨戦士達が必死の力で死霊道士の手足を押さえ込む。力に圧倒的な差があるので、これも数秒しか意味がない。だが、アイリスが何時でも伸ばせるように準備していた触手を使うには十分に時間を稼げていた。
【火属性脆弱】を持つアイリスの触手に火属性付与は相性が最悪で、既に表面が焦げ初めている。今にも焼き切れてしまいそうだ。
仲間の攻撃が無効の仕様なはずなのにダメージを与えているぞ?地味な新発見である。
しかし、爆発でうつ伏せになった状態で拘束されればそれだけで動きにくくなるのは当然。そうなると、隙だらけの背中を曝す事になる。
「火属性付与、行け二人とも!」
「先ずはボクが!」
ようやく出来た時間を使って、私はジゴロウ達三人の武器に火属性を付与する。これで普通の攻撃もかなり効果的になるはずだ。
ルビーは死霊道士の背中に乗ると、その付与された短剣を心臓部に突き立てた。死霊道士は言葉にならない絶叫を上げる。内側から肉体を焼かれる痛みを感じているのかもしれない。
「食らいやがれェ!」
「終わり、じゃ!」
幸か不幸か、彼の苦痛は長続きすることは無かった。何故ならジゴロウの拳が胴体に穴を開け、源十郎の剣によって斬首されて一生痛みを感じることは出来なくなったからだ。
――――――――――
戦闘に勝利しました。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【杖】レベルが上昇しました。
【魔力制御】レベルが上昇しました。
【水氷魔術】レベルが上昇しました。
【火炎魔術】レベルが上昇しました。
【樹木魔術】レベルが上昇しました。
【溶岩魔術】レベルが上昇しました。
【雷撃魔術】レベルが上昇しました。
【爆裂魔術】レベルが上昇しました。
【虚無魔術】レベルが上昇しました。
新たに魔力妨害の呪文を習得しました。
【召喚術】レベルが上昇しました。
【付与術】レベルが上昇しました。
【魔方陣】レベルが上昇しました。
【死霊魔術】レベルが上昇しました。
【呪術】レベルが上昇しました。
【罠魔術】レベルが上昇しました。
――――――――――
よし、勝った!我々の勝利だ!…って、本当にもう終わり?
という訳で隠し中ボス戦でした。
死霊道士が何故【光魔術】系を持っていたかというと、まだ生きている時に取得していたからてすね。なので今は使えません。
本文では主人公が魔術を使う機会をほとんど与えなかったので、補足です。




