植物の脅威
植物系の魔物は面倒臭い。それをつくづく思い知らされた。生産職であるアイリスはともかく、敵は前衛で戦うネナーシに近い存在だ。得意とするのは敵の拘束や毒などを流し込んで状態異常にさせること。そう思っていた。
だがそれはパーティーを組んだプレイヤーの場合であるらしい。野良の魔物の群れであるこいつらの強みは、ネナーシとは別のところにあった。
「全然減らねェぞォ!どうなってンだ、オラァ!」
「効いてはいる。ただ、回復速度が異常なんだ」
それは体力が無尽蔵にあるかのように錯覚させる、圧倒的な回復能力だった。【高速回復】と【光合成】、さらに根を足のように動かす【根足】の能力をあえて使わないことで地面に根を伸ばして回復速度を上昇させている。
動けなくなったところで問題はない。連中の武器である触手と蔓はそれぞれ長さを自在に変化させられる能力があるので、動けずとも攻撃が可能なのだ。しかも触手と蔓を使って武技まで使ってくる始末で、捕まればジゴロウですら脱出するのが困難な力で締め上げられる。
そうして私がジゴロウの救出をしている間に、奴等は持ち前の回復力でどんどん治癒していくのだ。直接的な攻撃力は大して強くないのが不幸中の幸いだが、それは戦闘がひたすらに長引くことに繋がる。私達は終わりが見えない戦いに身を投じている気分であった。
「倒すには一撃で即死させるのが一番なのだろうが…真死。やっぱり効かないか」
私は【深淵のオーラ】と【死と混沌の魔眼】を使いながら、【邪術】による即死攻撃を試す。だが、奴等は【状態異常耐性】を高いレベルで保有しているのか中々成功しない。一度だけ成功したが、これを繰り返していては全滅させる前に私の魔力が尽きてしまうだろう。
ジゴロウも暴れているが、あと一歩のところで邪魔をされている印象だ。もう一人いれば勝てる。そんな状況だった。
だからこそ、カルが麻痺していなければと考えずにはいられない。今度からは拾い食いをしないように後で注意しなければなるまい。
「安全策では埒が明かない。一発勝負になるが…やれるな、兄弟」
「合わせるから、さっさとやりやがれェ!」
このままではジリ貧のままリソースが完全に尽きて負けるだろう。だったら使いきる勢いで攻め立てて、そのまま押し潰すしかあるまい。一か八かの大勝負だ!
「召喚、獣鬼!さぁ、突っ込め!」
私は残りの魔力の大半を使って、二十体の獣鬼を召喚した。命令に従って、獣鬼達は雄叫びを上げながら敵の群れに突撃していく。
しかし、動きが鈍い上に身体も大きな獣鬼は一瞬で触手と蔓に縛られてしまう。私の【召喚術】のレベルがあまり高くないので、コイツらは見た目よりも強くない。きっとすぐに体力が尽きて消滅してしまうだろう。
別にそれでも良い。私が求めたのは戦力としてではなく、肉壁としての役割だからだ。体力が多く、再生力も高い獣鬼を殺しきるのには直接的な攻撃力が低い奴等では時間が掛かる。そのほんの少しの時間さえあれば…
「オラオラオラァ!一匹目ェ!」
物理的に燃える拳と滾る闘志を燃やすジゴロウが叩き潰してくれるのだ。死毒捕食魔草は爪と牙でズタズタにしてから、口から吐いた炎で焼き尽くす。剛岩絞殺触手は堅牢な細胞壁を蹴りによって砕いたあと、露出した内側に手刀を突き刺して内部から燃やしていた。
これまでの鬱憤を晴らさんとするジゴロウの戦いぶりは、まさに修羅の如し。これで人語を話していなければ、誰も彼をプレイヤーだとは思わないだろう。
「私も少しは働くか。稲穂刈り」
稲穂刈りは【鎌術】の武技で、これまでは使う機会がなかった。だが、植物に特に大きなダメージを与えられるという情報を信じて使ってみることにしたのだ。
獣鬼を縛り上げる死毒捕食魔草の蔓を切断したのだが、目に見えて体力が減少している。近接攻撃に関して、職業による補正を受けていない私の武技では、普通に考えてこんなにダメージが出る訳がない。稲穂刈りの植物に良く効くという特性に依るところが大きいのだ。
想定以上のダメージが確認されたことから、特定の種族に効果的な武器や武技の存在には注意するべきだと実感した。同時にそのような武器と、逆にその効果を軽減する防具の作成を検討するべきである。毎度のことながら、やりたいことばかり増えていくのはどうにかならんものだろうか?
「テメェで…最後だァ!」
獣鬼が全滅するころにはもう敵は最後の一体を残すのみになっていた。肉壁としての役割は問題なく果たせていたらしい。
最後に残った剛岩絞殺触手とジゴロウは一騎討ちの形となった。素早く、そして様々な方向から迫る触手を、ジゴロウは全て爪で引き裂きながら前に進む。相手が一体しかいない今、彼の足を止めることなど不可能なのだ。
「ッシャアァ!!!」
拳の間合いにまで到達したジゴロウは、裂帛の気合いと共に正拳突きを繰り出した。武道には疎い私であっても美しいとすら思える正拳は、しかし絶大な破壊力をもって細胞壁ごと剛岩絞殺触手を貫いた。
それでもまだ体力は残っていて、しかも回復していく。しかもジゴロウに千切られた触手も再生しつつある。この戦いで散々見せつけられたタフネスは、ここでも発揮されているのだ。
更に厄介なことに、奴は狡猾にもジゴロウから見えない位置にある触手を温存していた。それを伸ばして拳を叩き込んだ直後の隙を狙って捕食しようと言うのだろう。
「稲穂刈り!」
ただ、離れた場所にいた私に見られていたのが運の尽きだ。触手がジゴロウに襲い掛かる前に低空飛行で接近し、武技を使ってそれらを切り払う。最後に取っておいたらしい奥の手は、無惨に切り捨てられたのだ。
「ナイスだぜェ、兄弟ィ!ふん!オッラアァ!」
私の武技でせっかく回復した体力は再び減少し、攻撃の手段もまだ再生していない剛岩絞殺触手は、まるで生きたサンドバッグのようなものである。ジゴロウは貫通していた腕を引き抜くと、身体を回転させて鋭い後ろ回し蹴りで残った体力を吹き飛ばした。
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戦闘に勝利しました。
【暴風魔術】レベルが上昇しました。
新たに台風の呪文を習得しました。
【暴風魔術】が成長限界に達しました。限界突破にはSPが必要です。
【召喚術】レベルが上昇しました。
新たに四段階進化の呪文を習得しました。
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レベルは上がらなかったが、きっと経験値は大量に溜まったことだろう。それに【大地魔術】に続いて【暴風魔術】も成長限界に到達した。こちらも上限を突破させるには20SPが必要だ。
コツコツ貯めてSPはかなり貯まっているし、両方とも使ってしまおうか。両方とも役に立つ場面は多いし、何よりもパーティーを組んだ際に私の取り柄は多くの引き出しを持っていることだ。今更選択肢を狭めては強みが消えるだけになる。限界突破はさせておこう。
「おい、兄弟。カル坊の様子はどうだァ?」
「…動く気配すらない。体力に変化はないから命に関わる訳ではないようだ。とりあえず、剥ぎ取るとしよう。カルのことはそれから考える」
「はいよォ~」
私とジゴロウは黙々と倒した魔物からアイテムを剥ぎ取った。大体は魔石だったが、少しだけ変わったアイテムを入手している。それがこれだ!
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死毒の蔓 品質:可 レア度:R
強力な毒性をもつ植物の蔓。
素手で触れるだけでも危険な毒性をもつ。
そのままでも危険だが、毒の成分だけを抽出すれば更に効果は高まる。
強靭な触手 品質:良 レア度:R
岩に擬態して獲物を絞め殺す岩触手の一部。
かなり強力な個体の触手であり、火には弱いが斬れにくい特性をもつ。
魔力を通すことで生前と同じように動かすことが可能。
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前者はしいたけが、後者はアイリスが喜びそうな素材だ。二人の創作意欲を掻き立てて、新しいアイテムを生み出してほしいものである。
それよりもカルのことだ。命に別状はなさそうであっても、心配なものは心配である。どうにかして動けるようになってくれれば良いのだが…
「あーあー、音がすると思ったら何かいるぜ?」
「人型の見たことがない魔物に…龍?この辺に来るのは珍しいわね」
私が悩んでいると、頭上から一組の男女の声が聞こえてきた。驚いて見上げると、そこには褐色の肌に長い耳を持つ二人の人物が立っている。ひょっとしなくても、この二人は探していた闇森人に違いない。
二人は暢気に話しているが、その立ち姿には隙がない。襲い掛かったとしても、即座に対応される気がする。そもそも敵対するつもりはないのだが。
「貴殿方はこの森に住む闇森人族の方々でよろしいか?」
「おっと、俺たちのことを知ってるのか」
「何処で、誰に聞いたのかしら?」
まあ、そうなるよな。どう見ても怪しい魔物が自分達のことをある程度知っている何て、裏があるようにしか思えないだろう。少なくとも、私だったら絶対に警戒するに違いない。
第一印象が最悪なのは仕方がないが、ここから挽回していけば良い。落ち着け、私よ。そのためのアイテムもあるじゃないか。
「我々は怪しく見えるとは思うが、やましいことを考えている不埒者ではない」
「それ、どうやって証明するつもりだい?」
「これを見て欲し…」
私はいつでも出せるようにポケットにしまっていた『ナデウス氏族の紋入り手形』を取り出して、彼らに見せようとした。その直後、ジゴロウが私の真横に高速で移動したかと思えば、何かを掴みとった。
ジゴロウが掴んでいたのは、一本の矢である。それは私の額にある第三の目に直撃コースで迫っていた。あ、危ねぇ!?ジゴロウが居なかったら頭が粉々になっていたかもしれない。仮面はあるが、目の隙間に入ったら大ダメージなのは仕様なのだ!
「ありゃりゃ?仕留め損なったか」
「かなりの手練れね。手加減はなしよ」
「不意打ちたァやってくれるじゃねェか。俺ァちょいと機嫌が悪ィんだ…テメェら、ぶっ殺されてェのかァ?」
どうやら私が手形を出すために一瞬だけ彼らを視界から外した瞬間に、男の方が私に向かって矢を放ったらしい。全く気が付かなかった…。
ジゴロウのお陰で私は危機を脱したものの、これ以上ないほど緊迫した空気になってしまった。ジゴロウはバキバキと指を鳴らし、闇森人の男は細身の剣を抜き放ち、女は杖を出して構えている。まさに一触即発である。
「待った待った待った!まずはこれを見てから判断してくれ!」
そう言って私は手形をよく見えるようにかざす。四脚人族と同じように、これで矛を納めてくれたら良いのだが…どうだ?
「おろろ?」
「あれは…」
手形を見た闇森人達は驚いた様子で顔を見合わせると、武器を納めて樹上から降りてきた。おお、やっぱり効果があるんじゃないか。
「やあやあ、友よ!どうして最初にそれを見せてくれなかったんだ?」
「私たちの森へようこそ!」
…効果があるなんてものじゃない。態度が百八十度変わってニコニコと笑顔を浮かべはじめたではないか。男は私とジゴロウの肩をバシバシと叩いて歓迎の意を全力で示し、女は満面の笑みを浮かべている。露骨な変化に私とジゴロウは困惑するばかりであった。
次回は2月27日に投稿予定です。




