進化と転職(七回目)
今回から新章が始まります!
ログインしました。結局宝物庫でそのままログアウトした訳だが、今は私一人で誰もいない。ルビーとシオなど数人がログインしているが、今は別の場所にいるようだ。
昨日は色んなことが有りすぎて情報過多であったが、とりあえず私の中で整理は着いた。ログインして最初にすること。それは勿論…
「さて、進化と行こうか」
私は昨日のボス戦で遂にレベルが70に到達している。なので何時でも進化が可能であった。今日最初にやるのは絶対に進化することだ、と昨日ログアウトする前から決めていたのである。
ジゴロウと源十郎にようやく追い付けるというものだ。ええと、進化先は何があるのかなっと。
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混沌深淵龍骨不死王
深淵系魔術を全て使え、身体に龍の一部が含まれ、更に【錬金術】によって様々な部位が追加された不死王の新種。
通常の不死王とは比較にならない強さを誇ると予想されるが、新種故に正確な戦闘力の測定は不可能。
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うん、知ってた。やっぱり『王』が付く種族が出るよね。不死王と言うことは、カトリーヌの座を簒奪したような形だろうか。単純に探検したくてここを訪れたのだが、どうしてこうなった?
過去の事を振り返るのはよそう。今は一つしか無い選択肢に従うまでだ。はい、進化しますよっと。
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混沌深淵龍骨不死王が選択されました。
混沌深淵龍骨不死王へ進化を開始します。
進化により【不死の叡智】レベルが上昇しました。
進化により【深淵の住人】レベルが上昇しました。
進化により【深淵のオーラ】レベルが上昇しました。
進化により【浮遊する頭骨】レベルが上昇しました。
進化により【混沌の王威】スキルを獲得しました。
進化により【深淵の導き手】スキルを獲得しました。
進化に伴い、蓬莱の杖、髑髏の仮面、月の羽衣が一段階成長しました。
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文字の羅列を読んでから、ステータスの上昇と装備の強化を確認する。うん、この辺りはいつも通り、順調に強化されているようだ。問題は追加された能力である。
王様になるのだから、きっと能力が増えるだろうとは思ったが、【混沌の王威】と【深淵の導き手】かぁ…。すっごく不穏な字面ですけど、どんな能力なのかね?確認しておこう。
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【混沌の王威】
自分を中心とした一定範囲内にいる敵対者のステータスを強制的に平均化する。
効果範囲と効果時間はプレイヤーレベルに比例する。
また一度発動するとリアルタイムで丸一日、即ちゲーム内時間で九十六時間は再発動出来ない。
【深淵の導き手】
クランメンバー、同盟クランのメンバー、フレンドを深淵に近付ける。
深淵系魔術の習得条件と、深淵の魔物へ進化する条件を緩和させる。
ただし、選択肢が限られる訳ではない。
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ん?んんんんん!?こりゃあ、どっちも相当強力なんじゃないか!?
【混沌の王威】はプレイヤーレベル×0.1メートル、つまり今の私ならば半径7メートルの範囲にいる敵のステータスを平均化するらしい。効果時間はプレイヤーレベル×1秒で、今なら70秒の間は敵を弱体化させられるのだ。
強制的に平均化、と言うことは良く言えば万能型、悪く言えば器用貧乏なステータスに無理矢理すると考えて良いだろう。なので元々万能型のキャラクター構成をしている相手には効果が薄い。ほぼ意味が無いと言ってもいいかもしれない。
だが、何らかのステータスに特化しているプレイヤーには大打撃である。堅牢な盾職もスピードスターも知性溢れる魔術師も、揃って得意分野を奪われてしまうのだから。
ステータスが低下している状態だと、一部の武技が使えなくなる事が検証によって判明している。それは一定以上のステータスを要求される武技であり、軒並み必殺技と言って良いものだ。重量武器はまともに振れなくなるだろうし、精密な射撃や大威力の魔術も使えなくなるだろう。
効果範囲は少し狭く、再使用に必要な時間も長い。それを差し引いても恐ろしく強力な能力だと断言出来る。しかも私には【生への執着】による一回の復活があるので、場合によっては玉砕覚悟で敵陣に特攻しても良さそうだ。
ただし、無条件に安心出来るとは思わない方が良い。重戦士の速度が上がり、暗殺者の筋力は強化され、魔術師は体力と防御力の増加によって簡単に倒せなくなる。『下げる』のではなく、あくまでも『平均化』という事を肝に命じておくとしよう。
【深淵の導き手】は私自身には旨味が無いが、仲間の強化に繋がる。何か大きなことをやりたい時、これを餌に協力を募ることも出来そうだ。
美味しい思いをするだけしてから裏切られる可能性もあるが、その時は私に見る目が無かっただけのこと。相手も人が入っているプレイヤーなのだからそんな事もあるだろう。それに敵対するなら全力で相手をしてやれば良いさ。
「お次は職業を選ぼう。候補は大体決まっているのだが…」
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深淵神代賢者
邪悪な術をに精通した、強大な魔術師。
魔術の威力に大補正。
深淵系の魔術に極大補正。
不死王
不死の魔物の頂点に君臨する王。
全ステータスに大補正。
味方の不死系魔物のステータスに補正。
不死系魔物からの好感度が大幅に上昇。
魔王
多種多様な魔物を率いる王。
全ステータスに大補正。
味方の魔物のステータスに微補正。
全ての魔物からの好感度が上昇。
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やっぱりねー!王様系、あるよねー!知ってたよねー!…と現実逃避するのは後にしよう。此方は選択肢がある分、慎重に選ばねばなるまい。
魔術を伸ばすなら『深淵神代賢者』一択である。普通の魔術と深淵系魔術の双方が強化されるのだから、当然の選択肢だろう。
そして『不死王』と『魔王』だが、この二つならば『魔王』しかない。我がクランに不死は私と邯那しか存在せず、折角ならば全員を強化可能な方を選ぶべきだ。
これは悩ましい!次の進化と転職はまた先の話になるから、その時に選ばなかった方にするとしても時間が掛かるのだ。両方とも非常に魅力的だが…よし!
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『深淵神代賢者』が選択されました。
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悩みに悩んだが、『深淵神代賢者』を選んだ。理由は二つ。一つ目は私自身の戦闘力向上の為だ。仲間達を強化出来る職業は魅力的ではあるが、あくまでも私の本職は魔術師である。そちらを疎かにして魔術の威力が足りなくなるのは問題だろう。
一度回復の手段を確保するために『死と混沌の使徒』を選んでいるので、これ以上寄り道するとレベル帯の魔術師と火力で大きく差を開けられそうだ。それを避けたいのである。
そして二つ目の理由だが…此方は単に私が王を僭称するのが恥ずかしいからだ。いや、ロールプレイを楽しんでいるお前が何を今更と思うかもしれない。だが、王様を名乗るのは流石に恥ずかしい。次の転職までにどうにかこの恥を捨てられるようになっておきたい。
あと、今回は身体改造は無しだ。これ以上どこに何を付けてもあまり効果的とも思えなかったので、パーツすら作っていない。二本のサブアームと長い尻尾とスペアの頭部があれば十分でしょ?
進化と転職を終えた私が宝物庫から出ると、伏せて休んでいたカルが起き上がって此方に駆けてくる。そして頭を擦り付けて甘えてきた。大きくなっても可愛い奴め!
「うーん、今から行って合流するのも難しそうか。なら久し振りに我々だけで行くか、カルよ」
「グオオン!」
こうしてカルと共に行動を開始した訳だが、宮殿からは魔物が綺麗サッパリ消えてしまっていた。ボスを倒し、フィールドその物を手中に入れたからだろうか?それともルビー達が殲滅したからだろうか?どちらにせよ、まるで廃墟を観光しているようだ。
「グルルル…」
「む?不完全人造人類か」
カルと共に散歩がてらブラブラと宮殿を歩いていると、カルが背後を振り返って唸り声を出す。気になったので私もそちらを向くと、そこには相も変わらず歪な姿の不完全人造人類が廊下を歩いていた。
裸足なのでヒタヒタとホラー映画めいた音をさせるのは止めてほしい。今なら良いが、急に来られたら心臓に悪いだろうが!
「グオオオオオオッ!」
「ギャアアアアアア!?」
しかし、今更一体だけの不完全人造人類ごときに苦戦する我々ではない。それどころかカルか私のどちらか一人でも軽く蹴散らせるだろう。
案の定、勢い良く飛び掛かったカルに押さえ付けられ、そのまま捕食されている。食べるのは良いが、お腹を壊したりしないのだろうかと敵を食べる度に思う。個人的にはカルの食費が浮いて助かる。野良の魔物の諸君、どんどん食べられてくれ給え。
「グォン」
「うむ、良くやった。偉いぞ、カル…ん?」
褒めてくれと再び頭を近付けるカルを撫でながら、私はふと気になった。あの不完全人造人類はどこから来たのか、と。
と言うのも、奴はついさっき我々が通った直後の廊下に現れたのだ。彼処を通った時、絶対に奴はいなかった。その間にポンと何処からか湧いて出たのか?
いや不完全人造人類は名前にある通り『人造』の魔物だ。ならば普通に考えて誰かが、或いは何かが製造したと考えるべきである。つまり、今でもこの宮殿のどこかで製造されていると思われるのだ。
「拠点になる場所の足元に何かあるのは気味が悪い。どうにかして見つけ出すとしよう」
私はカルを連れて不完全人造人類が出現した場所の付近を隈無く調べてみる。しかし、探索用の能力を持たない私では、隠し通路の類いを見付けることは出来なかった。
「あ?」
「グル?」
「ギギッ?」
「ゲェェ?」
これはルビー達に来てもらうしか無いか?そう思いながら適当な部屋に入った時、部屋の壁が回転してその奥から二匹の不完全人造人類が出てくる所に遭遇したではないか!あ、あんな所から出てきているのか!
カルに蹂躙される不完全人造人類を尻目に、私は奴等が現れた壁をペタペタと触ってみる。奴等が出た回転ドアは、即座に壁と同化してしまって滑り込む余地すらなかったからだ。ドアノブは当然無いとして、こちら側から開けるためボタンか何かが無いかチェックしてみた。
だが、やはりと言うべきか私ではヒントすら見付けられない。自分の目で見たというのに、本当にここに隠し扉があるのすら疑わしく思ってしまう。
「こうなれば最後の手段だ。物品破壊」
私は【虚無魔術】によって壁の破壊を試みる。正攻法がダメならば、力づくで開けてしまえば良いのだ!
ガラガラと音を立てながら、隠し扉の部分だけが崩れて瓦礫となる。壁とは別の判定になっていたらしい。宮殿を無闇に傷物にしたくはなかったが、必要経費と割り切ろう。
「…ギリギリだが、カルも通れるか。行くぞ、カル」
「グオオオッ!」
隠し通路は高さも幅もそれなりにあって、カルには狭いものの通ることは可能である。私達は臆することなく隠し通路の先へと向かうのだった。
次回は1月26日に投稿予定です。




