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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十三章 暗黒の大陸
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不死主従の哀歌 その五

 明けましておめでとうございます。


 今年も拙作をよろしくお願い致します。

「ブゥオオオオオオオオッ!」


 カルは持ち上げていたエイジを投下する。盾を床に向けて落下する彼は、突撃するタイプの武技を使って自由落下よりも速く突っ込んだ。その姿はまるで小型の隕石である。


 盾は首無精鋭近衛騎士ヘッドレスエリートロイヤルガードからのドロップ品で、これは先程の戦闘で愛用の盾の耐久度を消費し過ぎた結果であった。かなり重いので弾くのに使うのは難しいらしいが、代わりにどっしりと防御を固めるのにはうってつけであった。


『その盾…あの二人から奪ったのか。倒した敵の身ぐるみを剥ぐとは、欲深なリヒテスブルクの手先というだけある』

「関係ないって言ってるでしょ?」

「人の話は聞いた方がいいこともあります、よ!」


 落下するエイジを背後へステップして回避しながら、クロードはハルバードを横薙ぎにする。それをエイジは盾でしっかりとガードして受け止め、その脇から現れた兎路とモッさんが襲い掛かった。


 兎路が燃える曲剣が鎧の隙間に滑りませようとし、モッさんは翼によって連続で殴り付ける。しかし兎路の斬撃は直剣で防がれ、モッさんは刺々しくなった鎧によって逆に傷を負う始末であった。


「グルオオオオオオン!」

『ぐっ…』


 三人によって両腕を塞がれたクロードの頭上から、カルが尻尾を思い切り叩き付ける。巨大な剣を彷彿とさせる尾を完全に防ぐことは出来なかったらしく、左の肩口に命中して鎧がミシミシと軋むような悲鳴を上げた。


 しかし、やはりダメージは微々たるもので大打撃を与えられてはいない。後衛である我々の魔術や矢弾など各種遠距離攻撃も効果が薄かった。


 このままだと倒すよりも此方が息切れして動けなくなる方が早そうだ。やはり本体だと思われるあの頭蓋骨を砕かなければ倒しきるのは難しいのかもしれない。そのためにはどうするべきか?


「出し惜しみしても意味はないか。ここは私の『秘術』を使う」


 その答えが『秘術』であった。切り札を一つ消費することになるが、このまま持久戦で敗北するのは馬鹿らしい。仲間たちもまだ『奥義』や『秘術』を温存しているので、もし相手にまだ何かあったとしても対応は可能だ。ここは思いきって『秘術』を使う時!


 そして使うのは棘殻蠍大王ソーンシェルスコーピオンハイロード戦とは異なる、レベル60で覚えた新たな『秘術』だ。


「さがれ、エイジ!『蝕壊凍嵐』!」


 巻き込ませないように私が叫ぶと、エイジ達は即座にバックステップで距離を取る。クロードは逃がさないとばかりに前に出ようとするが、空中にいるカルが牽制に放った魔術で足止めされて離脱に成功していた。


 それを確認するが早いか、私は『秘術』を発動する。その直後に紫色小さな竜巻が発生し、クロードを包み込んだ。ただ、人一人を包み込むことしか出来ない小規模な竜巻なので(ストーム)よりも頼りなく見えることだろう。


『ぐっ!?これは…!』


 しかし、この『秘術』は殺意に溢れた術となっていた。内側には極寒の吹雪が吹き荒れており、雪ではなく氷の礫で囚われた者を削り殺す。効果時間が終わるまでは逃れられず、無理に抜け出そうとすると内側で耐えるよりも多くのダメージを食らってしまう罠のような仕様となっていた。


 そして特筆するべきはこの氷の礫の効果である。水属性のダメージを与えると同時に、防御力低下の呪いと防具破壊の効果が加わるのだ。クロードは不死(アンデッド)なので、呪いの効果で状態異常にはならない。だが、この防具破壊は受けてもらうぞ!


「外から攻撃することは可能だ。畳み掛けろ!」

「えっぐい術やなぁ」

「効果時間はあまり長くないから急いでくれ」

「おっと、ほなそうしますわ」


 皆はこぞって攻撃を開始した。普段は武技を使わないジゴロウですら、遠距離系の武技を使っている。様々な武技や魔術を巻き込んだ凍える嵐はキラキラと輝くが、自分で始めたことながら内側で起こっていることを想像するのが少し怖い。


 効果が切れて嵐が止んだ時、その場に残っていたのはボロボロになった骨の鎧と灰の肉体に何本もの氷の結晶が突き刺さったクロードの姿であった。二本の武器と相変わらず背中に張り付くカトリーヌは健在だが、彼本人の体力は一気に一割以上削れていた。


 これは『蝕壊凍嵐』を発動するまでの戦闘で積み重ねたのよりも多い。鎧の破壊を狙うのは間違っていなかったようだ。ここからは今までよりはダメージが通りやすいはずだ。


「突撃~!」

「食らえっ!」

『ぐおおっ!?』


 片膝を付いていたクロードに、セイと邯那・羅雅亜コンビが前後に並んで突撃する。セイと夫婦コンビでは同じ騎乗によって戦うスタイルだが、狼であるフィルに乗るセイと馬である羅雅亜に乗る邯那では騎乗時の高さが異なる。これが重要であった。


 彼らが一列になってほぼ同時に攻撃すると、必然的に下段と上段の双方から襲われる形となるのだ。クロードは立ち上がる前に仕掛けられたこともあって、剣でセイの棍を、ハルバードで邯那の方天戟を受け止めることしか出来ない。すれ違い様に放ったテスと羅雅亜の魔術に至っては直撃していた。


「次は俺だァ!」

「あっ…もう止まらんか。ネナーシ、横からちょっかいをかけて援護してやってくれ」

「承ったで候!」


 何か言う前にジゴロウが突っ込んでしまったが、ああなったらもう止められない。それを知っている身としては無駄なことをするよりも援護が可能な者を送った方が良いだろう。なので最も邪魔にならずに連携出来るネナーシを送り込んだ。


 突撃によって体勢が崩されたクロードだったが、流石に守りの戦いが得意とあってジゴロウの攻めに対応している。魔術などの援護射撃だけは防ぎきれていないものの、灰の身体を崩すだけでダメージはやはり少ない。また長丁場に逆戻りか?


「失礼仕る!」

『何っ!?』


 そう思った矢先、ネナーシが脛の鎧が砕けている場所に蔓を巻き付けた。その瞬間、クロードの脛がその部分で切断され、彼は前のめりになって転びそうになる。


「ッシャァ!」

『ガッ…!』


 その隙を見逃すジゴロウではない。クロードの顔面に鋭い後ろ回し蹴りを叩き込んだ。ミシッという鈍い音が私の耳にまで聞こえてくる。鎧の次は顎でも砕けたんじゃないか?


 顔を構成する灰の一部が崩れ、クロードは下顎骨が剥き出しにしている。すぐに灰を増やして顔の造形を修復したが、あの一撃でさらにダメージを与えられていた。


「なるほど。身体そのものが脆いから、当たりさえすれば崩れてしまうのか。そして骨も頭部にしかないから、四肢や胴体は簡単に真っ二つになる。それを支えていたのが…」

「あの鎧ですね」

「まるで儂の外骨格のようじゃ」


 クロードの骨の鎧は、防具であり武器であり、そして骨格でもあったのだ。それを破壊したことで、露出した部分への攻撃で簡単にダメージを通すことが出来るようになったのである。


『この程度で、いい気になるな!戻れっ!』


 怒りに震えるクロードがそう言うと、砕けた鎧の部品が彼の周囲に集まって再生していく。ジゴロウと斬り結んでいる最中なのだが、鎧は自動で直ってくれるようだ。


 ってその鎧、直るんかい!折角『秘術』を使ってまで崩した鉄壁なる防御だったのに…


「おやおやぁ?随分とオンボロじゃなぁ~い?」

「あれだけ派手に壊れてたし、能力(スキル)だとしても簡単に修復出来ないのかもね」


 どうやら私が『秘術』を使った意味はあったようだ。直ったように見える鎧はひび割れだらけで、我々の魔術などが掠っただけでも剥がれてしまう。ダメージの軽減は出来ているようだが、すぐにまたバラバラになりそうだ。


 それでもネナーシの蔓を切断する機能は残っているらしく、あれ以降は転ぶことはなかった。対応が素早い敵はやりにくいことこの上ない。


「そんなに足元が気になるかァ!?余裕じゃねェかよォ!」

『グホッ!?』


 ただ、ジゴロウを前にしてネナーシによる足への拘束を警戒し過ぎるのは悪手であった。硬い防御の僅かな隙間を掻い潜って、ジゴロウの拳が腹部に突き刺さる。彼の鉄拳は脆くなった鎧を楽々と砕き、腹部を貫通してカトリーヌのいる背中側から飛び出した。


「なんだァ!?」


 クロードを貫いた瞬間、ジゴロウの体力が信じられないペースで減少していく。そして瞬く間に瀕死近くにまで持っていかれてしまう。一体、何が起こったというのだ!?


「チッ、爺さん!交代だァ!」

「ほいほい、任せてもらうぞい」


 ジゴロウは胸を前蹴りにして胸甲部分の破壊を狙いつつ、腕を素早く引き抜く。前蹴りはハルバードで防がれてしまったが、彼はそのまま蹴り押して距離を取りつつ後ろに下がった。入れ替わりに源十郎のチームが前に出る。


「うーむ、やりおるわい!」

「敵に感心するより先に斬ってよ、お祖父ちゃん」

「今なら骨も斬れるね!」


 切断に特化した三人は、見事な連携でクロードを削っていた。源十郎がガンガン攻めることで、ルビーと紫舟の攻撃を防ぐ余裕を与えない。短剣と脚が鎧を傷付け、遂に胴体部分を完全に破壊した。


 再び露出した胴体に魔術と矢弾が突き刺さる。そこに急所である頭蓋骨は無いものの、確実にダメージは蓄積していた。これを繰り返せば今のところは良いだろう。


 それよりも気になるのがジゴロウの唐突なダメージである。最初と同じく、源十郎達三人も緩やかにではあるがダメージを負っている。それはジゴロウも同じだったが、身体を貫いた途端にそれまでとは比較にならない速度で減っていた。


 その理由は何か?心当たりがあるとすれば、それは二つ。クロードの灰に触れたことか、腹部を貫通した際にカトリーヌに触れたことのどちらかだろう。


「ジゴロウ、クロードを貫いた時に何か違和感を覚えたか?」

「いや、無ェな」

「なら、カトリーヌに触れた時は?」

「あん?触ってたのか、俺ァ?」

「ふむ、触れたことを感じることは出来ないのか。まるっきり幽霊のようだ」


 実際に被害にあったジゴロウからすれば、カトリーヌに触れていたことすら知らなかったらしい。生暖かいとか、ひんやりと冷たいとか、そういったことも無いようだ。本当に突然ダメージを食らう羽目になったのだろう。


 食らった本人も良くわかっていないのなら、原因を決め付けるのは早計だ。何時同じ状況に源十郎達が陥ってもいいように、常にチェックしておくとするか。


「ここじゃ!ふん!」

「今だよ!」

「やああっ!」


 源十郎が剣とハルバードを跳ね上げて防御を崩し、そこをルビーと紫舟の刃が深く斬り裂いた。更に後衛の射撃は再生しようとするのを妨げ、ダメージはどんどん積み重なっていく。


「もう一丁!」

「ぶちかますぜ!」


 だめ押しと言わんばかりに、セイと邯那・羅雅亜コンビが再び突撃する。今度は左右から同時に通り抜け様にそれぞれの武器を叩き付けた。


『ぐああっ…!』


 剣もハルバードも源十郎に弾かれているので防ぐことは出来ず、速度の乗った一撃をまともに受けたクロードは堪らず後ろに吹き飛ばされる。それでも決して床に倒れることはなく、よろめきながらも立ち続けていた。


 体力は残り六割弱。少しずつ、だが確実に追い詰めていると実感出来る。更に強化があるとすれば、今がその時だろうか?強化など無いに越したことは無いのだが…


『おのれぇ…斯くなる上は我が『奥義』を使わざるをえまい!『我が身を灼き尽くす忠義』、発動!』


 悲しいことに、私の読みが当たってしまった。クロードの身体の内側からゆっくりと青白い炎が滲み出てくる。向こうも『奥義』を使ったらしい。ここからがクライマックスということか!

 次回は1月10日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  久し振りに見たせいでちょっと忘れてたんですけど、『奥義』と『秘術』って何が違うんでしたっけ?  『奥義』の方がアイテム取得で、『秘術』の方がレベル取得?  他にはどんな違いがありまし…
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