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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十三章 暗黒の大陸
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不死主従の哀歌 その三

 やってやる、と意気込んでもやることは変わらない。堅実に、かつ一体一体を確実に仕留めるように立ち回るのだ。そう思っていた矢先に、灰の尖兵に変化が起きた。


「うおおぉ!?」


 なんと腕の部分をまるで刃物のように変形させたのである。これが金属と同じ硬度だと辛いのだが、大丈夫かこれ?


 しかし、諦めるという選択肢だけは存在しない。刃のようになった腕を振りかざす灰の尖兵達だが、相も変わらず連携も何も無い数で押す戦法のままである。普段のパーティーによる戦いならカモ扱いするのだが、単騎で戦う今はそれが只管に辛かった。


「ふん!むっ!?」


 低空飛行しつつ前方を鎌で、後方は尻尾で迎撃する。ただ、灰の尖兵の腕と尻尾がぶつかった時の感触に違和感を覚えた。ほんの少しだけだが、灰の圧縮度が増していたように思うのだ。


 幸い、劇的に固くなったわけではない。しかし、胴体は未だしも腕の部分は先程までのように容易く砕けはしないらしい。まさか強化されるとは思わなかったぞ!


 身を削ってでも主君を守りたいという姿勢は素晴らしいが、戦っている私からすれば鬱陶しいことこの上ない。それにしても困った。このまま物理攻撃だけで纏めて薙ぎ払う、というのは難しくなってしまったのだから。


「温存したかったが、仕方がない。風波(ウインドウェーブ)


 魔力の温存はもう無理だ。ここからは決して逃してはならないチャンス以外でも魔術を使って戦うしかあるまい。取り敢えずは簡単な呪文でも効果はあるので、余力を残すように戦おう。第二、第三形態が無いとも限らないのだ。


「オラオラオラァ!」

「うーむ、固い骨じゃのぅ」

「ハァ、ハァ…元気過ぎでしょ、あの二人…」

「地力の違い、ですかね…」


 クロードとの戦闘は、防戦一方の状態から拮抗状態にまで持ち直していた。クロードが弱体化しただけで随分と変わっている。あれを見ると、灰の尖兵の数を減らしつつカトリーヌにダメージを与えるのが急務であると良くわかる。


 魔術を使うと決めた以上、数の不利を覆す魔術も解禁だ。ただし、魔力をあまり消費せずになるべく多く数を用意するとなると…あれしかあるまい。


「好評ではないのだが…亡者召喚」

「「「オオアアアァァァァ…」」」


 【降霊術】の最も基本的な呪文、亡者召喚を使う。すると獄吏(ゴクリ)を召喚した時のような穴が床に開き、そこから地獄の亡者が溢れだした。亡者は近くにいた灰の尖兵に掴み掛かる。


 こちらの方が数では勝っているので、一見すると有利にも見える。しかし、刃のように変形した腕によって亡者はバターのように斬り裂かれ、瞬く間に数を減らしていった。


 所詮は基本的な呪文で召喚される魔物、私達と比べれば弱い灰の尖兵にも全く敵わない。これは順当な結果であり、私の想像通りでもある。私が求めたのは、ほんの短い時間でもいいから全ての灰の尖兵の動きを止めることだった。


短距離転移(ショートテレポート)!斬首!」


 敵が手強くなったからといって、相手をしなければならないという事にはならない。私は短距離転移(ショートテレポート)でカトリーヌの背後に回り込むと、器用強化デクスタリティブーストで正確性を増した【鎌術】の武技で首を狙う。


 全く反応出来なかったカトリーヌの首を刃が捉え、ルビーがそうしたように斬り飛ばす。断末魔の悲鳴すら上げられず、普通ならばこれだけで即死するのだが…今回もそうは行かないだろう。


「オオオオオオオオッ!」

「またまたレベルが下がってるぜぇ~!」


 クロードがレベルを消費して、再びカトリーヌを蘇生した。しいたけがレベルの低下を報告している。やはり灰の尖兵をチマチマ倒すよりも、カトリーヌに致命傷を加える方が効果的であるようだ。


 亡者を片付けた灰の尖兵達は、即座に私とカトリーヌの間へと割って入る。これ以上は手を出させない、とでも言いたげだ。まるでこちらが悪役のようである。いいじゃないか!


サアァァ…


 灰が流れる音と共に、灰の尖兵達が再び変化していく。次は私のように新しい腕でも生やすのか、と思いきや灰の尖兵が融合して一つの塊となってしまった。


 所々に兜が混ざった見上げるような灰の山からは、アイリスかネナーシのようにうねる灰の触手が延びている。その先端は先程と同じく刃物のようになっていた。


「図体ばかり大きくなっただけ…な訳がないか。大飛斬!」


 私は鎌によって斬撃を飛ばす武技を使ってみる。灰を多く削り取ったものの、両断することは出来なかった。飛び散った灰は即座に集合し、削られた部分は瞬く間に修復されてしまう。


 防御力は変わっていないようだが、それを灰の質量によって無理矢理防ぐつもりか?少々魔力を食うが、高威力の魔術を使って一撃で吹き飛ばせば…


「どぉおおあああぁ!?」


 危なっ!?灰の尖兵の集合体が、まるで散弾銃のように灰の弾丸を射出したのである!ローブの裾を掠ったぞ!?


 遂に遠距離攻撃が解禁されたと言うことか。ここからは遠くから一方的に殴れる訳ではないらしい。いいだろう、多数の格下よりも一体の格上と戦うのには悲しいことに慣れている。初見だろうが、構うものか!


「巴魔陣、遠隔起動、爆弾(マジックボム)!」


 私は【爆裂魔術】の爆弾(マジックボム)を灰の塊にぶつける。爆風によって塊の一部が弾け飛ぶが、完全にバラバラには出来なかった。弾けた部分もみるみる内に回復していく。


 別にそれでもかまわない。今回の私の目的は其方では無いのだから。


茨鞭(ソーンウィップ)。鞭尾、さらに咬尾」


 爆風で飛び散ったのは、灰だけではない。混ざっていた兜もまた、幾つか本体から離れている。その一つを茨鞭(ソーンウィップ)で捕獲し、それに武技を使用した尻尾を叩き付けた。例によって一撃では砕けないが、更に龍頭の顎で咥える。強化している筋力と武技の補正によって、打撃で歪んだ兜は中身ごと咬み潰した。


 灰の尖兵の頭部を壊すことも、クロードの弱体化に繋がることは忘れてはいけない。本人の一部とも言える兜の中身を破壊してもレベルダウンに繋がるのだ。効率は悪いが、庇っている壁を殴ることそのものに意味があるのならそっちでも良い!


 私に攻撃させまいと灰を飛ばしてくるので、常に動き回る必要があるが問題は無い。飛行可能な装備のお陰で、三次元的な軌道で回避出来るからだ。使えない状態だったなら、とっくに敗北していたことだろう。


 ただし、敵もさるもの。私の攻撃そのものを封じるべく灰の弾丸を乱射しつつ、刃付きの触手をメチャクチャに振り回し始めた。自分の触手同士がぶつかって半ばで千切れるが、触手も灰で出来ていて脆いので直ぐに元通りになってしまう。


 むしろ千切れた触手が空中でバラバラになるせいで、煙幕のようになって視界まで遮る。こんな状態で戦えるか!


「ちっ!もう対応してくるか!」


 自らが傷付くような動きであっても本体に問題はないので、動きの隙が驚くほど少ない。攻撃させないためなら形振り構わない姿勢、ということか?


 勝つためにあらゆる手段を講じる諦めの悪さには好感が持てるが、今はただただ鬱陶しい。遅延行為は止めろ!ジゴロウ達が疲弊するだろうが!


「一体になった事を後悔させてやる!魔法陣、呪文調整、溶散弾(ラーヴァショット)!」


 溶岩の礫を無数に発射させ、灰の塊ごとカトリーヌを焼き尽くしてやろうとする。しかし、灰の塊はドーム状に変形して彼女に覆い被さって守っていた。これではカトリーヌにダメージを与えることは出来ない。


 しかし、露出している兜の部分は溶岩の影響を受けているようだった。兜の魔術耐性はまだ残っているのかもしれないが、損傷の激しいものはかなり多い。損傷の具合が激しいものほど魔術の軽減率も下がっているらしく、そういう兜の内側はドロリとした溶岩によってジュウジュウと焼かれていった。


 兜が減る度にクロードから補充されてしまうが、チラリと其方を見ると肋骨の内側に詰まっていた兜は随分と少なくなっている。あと十個も無いんじゃないか?ゴールが見えてきたじゃないか!あともう一踏ん張りだ!


「そうだ。灰同士でぶつかったら千切れる程度の結合力しか無いのなら…魔法陣、遠隔起動、落岩(ロックフォール)


 灰で出来たドームの上から、私は魔術で作った岩を落とす。すると案の定、ドームを突き破って岩が床に激突する破砕音が聞こえてきた。


 その際、落下に兜が幾つか巻き込まれるように調整している。巻き込めたのは二つだけだったが、あれなら潰れてグチャグチャになったことだろう。


「イヤアアアアアァ!痛い痛い痛い!」


 どうやら落岩(ロックフォール)に巻き込まれたのは兜だけではなく、カトリーヌもだったらしい。私からすれば運の良い、彼女にとっては運の悪い話だ。


 ただし、その傷を治すためにもクロードは兜付き頭部のストックを消費する。その時、灰の塊の中にある頭部を私は見逃さなかった。つまり…


「一気に仕留める!星魔陣、遠隔起動、爆弾(マジックボム)!」

「~~~~!?」


 床に蹲って痛がるカトリーヌに、私は容赦なく追い討ちを仕掛ける。至近距離で五回の爆発が発生し、カトリーヌの細い肢体が宙を舞う。即座に頭部を消費して治癒されるが、傷は完治していなかった。ストックがようやく尽きたのだ!


 灰を操作するのに必要だったのか、兜付き頭部が全て消滅すると同時に灰の塊はただの灰の山となってしまった。これでもう、(プリンセス)を守る騎士(ナイト)はいなくなったのである。


「終わりだ。斬首」

「助けて!クロー…」


 最期の最期まで自ら抗おうともせず、クロードに守られ続ける姫の首を、私は大きく振り上げた鎌によって刈り取った。胴体と泣き別れした頭部は元通りにはならず、そのまま体力ゲージは無くなっていく。こうしてカトリーヌは倒れた。


「オ…オオオオオオオオオッ!」

「うわああああ!?」

「ちっ!」

「ビックリしたけど、ダメージは無いね?」


 その瞬間、クロードはこれまでとは比べ物にならない声で慟哭した。涙のようにその大きな頭蓋の眼窩から灰を垂れ流し、膝を付いて崩れ落ちる。そしてその姿勢のまま間接が外れていき、バラバラになってしまう。ものの十秒ほどでクロードは灰と骨の山となってしまった。


 これで終わりなのか?それなら良いのだが…戦闘終了のアナウンスは聞こえてこない。まるで私が勇者君達に仕掛けた罠のような展開だ。


 私が仕掛けた悪辣な罠について、仲間達は知っている。なのでこの場で油断している者は誰一人居ない。そして、その警戒は正しかった。


『…やってくれたな、強欲な男の手先共め』


 ガラガラと灰と骨の山を崩しながら現れたのは、全身が灰で出来たマネキンのような魔物だった。魔物の声は理知的だが、身震いするような憎悪が込められている。


 状況から考えて、きっとコイツはクロードなのだろう。ついさっきまで知性の欠片すら感じなかったのに、どうしたことだ?


『姫は必ずお守りする。貴様らの思い通りにはさせん!…さあ、姫様』

「「「!?」」」


 ユラリ、と半透明なカトリーヌが虚空から滲み出るように現れた。倒した敵の幽霊だとでも言うのか!?


 カトリーヌの霊体は負ぶさるようにクロードに背後から抱き付く。その顔はとても満足げであった。


『姫様、お身体は必ずや再生致します。それまで今暫しお待ちくだされ』


 クロードがそう言うと、巨体だった頃に使っていた剣とハルバードが弾けて中から何かが飛び出した。それはクロードにちょうど良いサイズの剣とハルバードである。薄汚れているものの、素人目にも業物っぽさが伝わってくる。あれが本来の得物なのだろう。


 更に転がっている骨も集合し、彼を守る鎧を成していく。そうしてクロードはあっという間に骨の甲冑に身を包んだ、不吉な雰囲気の騎士へと変貌した。何あれ、カッコいいんだけど?


『先ずは…』

「逃げろ、兄弟ィ!」

「げっ!?ちょっ、待っ!?」


 一人で戦っていたが故に孤立していたのが仇となり、一瞬で距離を詰めたクロードの刃が私に迫る。慌てて鎌で受け流そうと試みるが、全く間に合わない。至極あっさりと、カトリーヌと同様に私の首が宙を舞うのだった。

 次回は12月28日に投稿予定です。

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[一言] 浮遊する頭蓋骨がワンチャン身代わりに?
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