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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十三章 暗黒の大陸
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不死主従の哀歌 その二

「オ゛アアアアアアアアア!」


 ルビーがカトリーヌの首を刎ねた瞬間、クロードは悲痛な絶叫を上げた。耳の奥を掻き回すような叫びに、我々は思わず耳を塞ぐ。無いはずの鼓膜が破れそうだ!


 しかし、クロードはただ叫んだだけではなかったらしい。奴の肋骨の中から兜付きの生首が幾つか落ちて、空中で灰になっていく。その灰がカトリーヌの身体と頭部を包み込むと、まるで時間が巻き戻ったかのように泣き別れした首が繋がってしまった。


「嘘やろ!?そんなんズルちゃうか!?」

「イヤァァァ!来ないでぇぇ!」


 カトリーヌはパニックになったのか、絶叫しながら髪を振り乱す。ただそれだけなら良かったのだが、彼女を中心としてドーム状の空間が形成された。


 半径は十メートル前後、色は毒々しい紫色のドームからは危険な香りがプンプン漂ってくる。間違いなく能力(スキル)だ。【女王の威光】か【不死王の呪界】…恐らくは後者か?


「うぅっ!?」

「ルビー!?早く逃げろ!!」


 ドームの効果範囲に入っていたルビーが急に苦しみ出す。彼女を見ると、マーカーにこれでもかと様々な状態異常のアイコンが点っているではないか!


「う、動けない…お札も、使えない…!?」

「くっ!短距離転移(ショートテレポート)!」


 札が使えないだと!?まさか、アイテムが使えなくなるのか?状態異常になるだけでは無いとは、厄介極まりない!


 それよりも、今すぐに救出しなければならない。私は即座に短距離転移(ショートテレポート)によって彼女の下へと移動すると、彼女を抱えて範囲外へと飛んで逃げた。そして範囲外に出てから解呪(ディスペル)によって状態異常の解除を試みる。するとやはり呪いによる状態異常だったらしく、解除には成功した。


「ふはぁ、助かったよ!ありがとう!」

「いや、礼はいらない。私の判断ミスで危険にさらしてしまった」

「けど、どうするんすか?合流でもされたら前衛は蹂躙されると思うんすけど…」


 矢を放ちながら言うシオの意見には私も賛成だ。と言うのも、ルビーが様々な状態異常に一瞬で罹ったのが大問題であるからだ。


 不死(アンデッド)との戦闘に備えて、【状態異常無効】を持つ私と邯那以外の全員が【黒灯の御守り】を装備している。なので本来はレベル70未満の不死(アンデッド)による状態異常攻撃を警戒する必要はほぼ無かった。


 なのにレベル50代のカトリーヌが展開した空間は、その耐性を突き破ってしまった。どういう仕様なのかは不明だが、あの空間に踏み入れば誰もが弱体化してしまう事を意味する。今は蹲っているが、カトリーヌがクロードの背後にピッタリと寄り添うだけでジゴロウ達は雑魚同然になってしまうだろう。


「だろうな。誰かが、常に牽制し続けねばなるまい」

「でも、あの気色悪い空間に入るだけでもヤバいんとちゃうか?そこで牽制って…」

「ああ、出来る者は限られる。【状態異常無効】を持つ邯那と私くらいだろう」


 ルビーを救出するため、私はあの空間に突入した。だが、状態異常にはなっていない。これは流石に【状態異常無効】の耐性を突破することが出来なかったからだと思われる。ならば私と邯那であればいつも通りに戦闘が可能だろう。


 しかし、邯那は羅雅亜と共に最前線でクロードを抑えるのに必要不可欠な戦力だ。抜けさせる訳には行かない。そうなると消去法で選ばれるのはただ一人となる。


「アイリス、後衛組の指揮を任せる。私はカトリーヌをどうにかしてみよう」

「…わかりました。コテンパンにしちゃって下さい!」

「ああ、やってみるとしよう!」


 激励を背中に受けながら、私は呪いの空間へと突入する。私の接近を阻もうとクロードが動いたようだが、それを隙と捉えたジゴロウ達の猛攻に対処せざるを得ない。これなら妨害を受けることなくカトリーヌに襲い掛かる事が出来そうだ。


「オ゛オ゛オオオオオッ」

「何じゃ?」

「兜が零れて…?」


 その時、クロードが再び叫びを上げた。肋骨の隙間から兜付きの生首がポロポロと落下し、灰の上に落ちる。すると灰が首の無い人型に変化し、そこに落ちた頭部を乗せたではないか!


 そうして産み出されたクロードの分身は、私に向かって猛然と突撃してくる。自分が行けないなら、分身を護衛に付けようということか?過保護な奴め!


「魔法陣起動、呪文調整、風鎚(エアハンマー)!…ダメか!」


 私は空気を圧縮した鈍器によって分身をまとめて殴り付ける。それだけで灰で形作った仮初めの肉体は吹き飛んでしまった。だが、即座に灰が集まって新たな肉体となってしまう。やはりそう簡単に(キング)、いや女王(クイーン)は倒せないか!


 ただし、アイテムは使えないようだが魔術は使えるらしい。ならば武技はどうだろうか?丁度囲まれているし、試してみよう。


「回転斬り!よし、発動したな」


 周囲を纏めて凪ぎ払う武技は問題なく発動し、灰の身体を水平に両断する。直ぐに元通りになってしまうが、私の武技でも簡単に破壊可能だと証明された訳だ。ならば、戦い方は幾つもあるだろう。


 方針として、狙うべきは頭部である。灰の身体は直ぐに再生するし、どう見ても頭部が弱点だろう。しかし、奴等の兜が鎧や盾と同じ素材ならば魔術は効き難いと思われる。決定打となるのは物理攻撃になりそうだ。


「そっちは苦手なのだが…仕方がない。解呪(ディスペル)。からの筋力強化(ストレングスブースト)筋力強化(ストレングスブースト)敏捷強化(アジリティブースト)器用強化デクスタリティブースト器用強化デクスタリティブースト。さあ、行くぞ!」


 私は戦闘開始前に掛けていた付与を解除し、近接攻撃用のステータス強化を施す。防御力を上げないのは、ジゴロウに「食らった時ゃ、兄弟はお陀仏だろォ?みみっちく防御を上げるよりゃ、他を上げた方がいいぜェ」と言われたからだ。近接戦闘の師匠である兄弟(ジゴロウ)のありがたいアドバイスには素直に従うべきだろう。


 武器も持たず、ただ囲んで押し潰そうとするクロードの分身…灰の尖兵と仮称しようか。その灰の尖兵を私は鎌を大きく振って蹴散らしていく。武技を使わずとも灰の身体は脆く、一撃で崩れてくれるのは楽でいい。


「ここだ!咬尾!」


 私はカルのお陰で変化した(ドラゴン)めいた頭骨付きの尾で、兜付き頭部の一つを咬み潰そうとする。筋力が向上しているので兜が変形する手応えはあるものの、一撃で潰すには至らない。


 だが、このまま咬み続ければ何とかなりそうな気もする。ならば何度でも挑戦するまでよ!


「「ア゛アアアアァァ!」」

「鞭尾!回転斬り!」


 とは言え、一つの頭部に集中し過ぎれば他の灰の尖兵に集られてしまう。鞭のように尾を振るい、鎌で薙ぎ払ってそれを防ぐ。同時に尾の先端で咬み続けるのも忘れない。


ビキッ!


 何時までもガジガジと齧っていると、ようやく兜に亀裂が入った。そうなれば後は脆いもので、武技を使う事もなく内側の頭部が粉砕する事が出来た。ボリボリと音をさせながら咀嚼するのは、自分の尻尾ながら凶悪である。


 同類の頭部が破壊されても、灰の尖兵の動きは全く変わらない。ただ只管に私を数で押し潰そうと突っ込んでくるだけである。クロードの一部ではあっても、精密なコントロールは出来ないのかもしれない。


 いや、ジゴロウ達と戦っているせいでこちらに意識を割くことが難しいのか?どちらにせよ好都合だ。このまま一体ずつ確実に潰していくとしよう。


「オアアァ…」

「雑魚は引っ込んでろォ!」


 私が一体倒したことで危機感を覚えたのか、クロードは更にボトボトと肋骨の隙間から兜を落とす。それらは全て灰の尖兵となって私に向かって猛然と突き進んできた。


 前衛組の横を素通りしようとするが、それを煩わしいと思ったジゴロウが蹴りによって頭部を砕く。意識した訳では無さそうだが、私の負担を減らしてくれたのは嬉しい。


「その雑魚に負けないように努力するか…」


 ジゴロウが雑魚と読んだ相手に倒されてしまえば、後々何を言われるかわかったものではない。恥をかかないようにするためにも、最大限に努力してみるとしようか。


 それからはずっと不利な状態での持久戦が続くことになる。ジゴロウ達は一瞬の油断が致命傷となりかねないクロードを相手に防戦一方だし、私は私で無限に湧き出るように現れる灰の尖兵の群れを倒さなければならなかった。


「あァ?ナメてンのかァ!」

「一撃の重さが、一段と軽くなったのぅ?」


 私がやっとの思いで十体目の灰の尖兵の頭部を潰した時、ジゴロウと源十郎がクロードの変化に気が付いた。ジゴロウは怒りのままに腕を蹴り上げ、源十郎は脛を斬り付けて表面を削り取る。


 ちらりとクロードの方を見れば、体力はまだ九割方残っている。それだけだと辟易するが、一撃の威力が落ちたのは確かであるらしい。それまでは盾での受け流しを失敗すると吹き飛んでいたエイジが、押し返されはしても浮かぶことは無くなった。


「皆さん!クロードのレベルが下がっています!」

「今は90レベルになってるぜぃ!種族(レイス)は変わんないけど!」

「レベルが…下がった?」


 アイリスとしいたけは攻撃の合間に【鑑定】していたらしい。それによると、種族(レイス)はそのままにレベルが進化前まで戻っているようだ。


 その原因は何だ?だが、今の私に考察する余裕は無い。囲まれないように、それでいてカトリーヌから離れすぎないように意識しながら灰の尖兵を倒しているからだ。ついでに隙さえあればカトリーヌ本体も狙っている。全て灰の尖兵が身を呈して守っているせいで、一度も攻撃を当たられていないのだが。


「斬首!からの、尾突!」


 鎌によって首を斬り落とし、兜の隙間を狙って(ドラゴン)っぽい尾先の口から伸ばした槍のような棘で突く。おっと、上手く刺さってくれたらしい。確かな手応えが、私の尻尾から伝わってくる。


 そして偶然にもスムーズに一体倒せたことで、敵の包囲網に大きな穴が生じた。この絶好の機会を見逃す手は無い!


「星魔陣、呪文調整、風刃(ウインドブレイド)ッ!」

「キャアアアアア!?」


 五枚の風の刃が、カトリーヌを斬り裂いていく。魔術に対する防御は高いのか、思ったようなダメージは出ていない。灰の尖兵も来ているが、ここは退かずに攻めろ!


「五連斬!斬尾!」

「あぁっ…」


 鎌と尾による連続攻撃で、カトリーヌの細い身体に大きなダメージを与える。このまま倒し切れるか…?


「オ゛アアアアアアアアア!」


 カトリーヌのピンチに、クロードが再び絶叫を上げる。すると先程と同じ現象が起きてから、カトリーヌの傷が癒えてしまった。


 くっ、一撃で即死させろとでも言うつもりか?そこまでの火力を出すには相当な準備が必要になる。今の状況だと、実現するのは不可能に近い。


「あっ!またレベルが下がりました!」

「女王様を治すかポロポロ溢してる頭を壊せばレベルが下がるっぽいねぇ?」


 なるほど、そう言うことか。高速で治療する事に制約が無い訳がないのだろう。カトリーヌを癒すか守るために割いているリソースを削れば削るほど、クロードは弱体化するらしい。


 ならばジゴロウ達の勝敗は、私がどれだけカトリーヌを傷付けつつ、灰の尖兵達を迅速に倒せるかに掛かっているようだ。責任重大だが…やってやろうじゃないか!

 次回は12月24日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 戦闘描写が長くてストーリーが進まないから最近読むのがしんどい 俺がズボラなのもあるが…
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