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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十三章 暗黒の大陸
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首無しの番兵 その一

 一日遅れてすいません…

 進むに連れて、普通の視力しか持たない私達にも霧の向こうの様子が見えてくる。外界と『霧泣姫の秘都』を隔てる黒壁と同じ素材らしき城壁が、街の中央部にある巨大過ぎる霧吐き灰樫を囲んでいた。


 その霧吐き灰樫だが、何と西洋風の宮殿の内側から天井を突き破って延びている。城壁の内側に転がっている残骸は、埃を被っているが石そのものは白いらしい。きっと昔は真っ白で立派な宮殿が建っていたのだろうが、今では無惨な姿を晒すばかりである。


 そんな宮殿に続く城門は朽ちたのか存在せず、ただ自由に行き来出来る出入口と化している。だがその代わりにその出入口の両脇には番人のように控える者達がいた。それはエイジもかくやという体格で、頑丈そうな金属の鎧を身に纏った人型の魔物である。


 鎧の形状は昨日戦った怨念重甲冑リビングヘヴィアーマーとそっくりだ。大盾にハルバードという斧が先端にくっついた槍のような武器で武装している。武器の質は中々良さそうだ。


 武器もそうだが、此方の方が装飾が凝っている。鎧全体に彫金が施され、各パーツには金によって縁取られていた。所々金縁が剥がれているのが哀愁を誘うが、随分と立派な装備であるのは間違いない。


 それにしても、どうして全身に鎧を着込んでいるのに魔物だと断定出来たのか。それはね、顔が…いや、頭部が無いからさ!


―――――――――


種族(レイス)首無精鋭近衛騎士ヘッドレスエリートロイヤルガード Lv75

職業(ジョブ):精鋭近衛騎士 Lv5

能力(スキル):【守護斧槍術】

   【守護盾術】

   【守護鎧術】

   【体力超強化】

   【筋力強化】

   【防御力超強化】

   【器用強化】

   【呪血】

   【指揮】

   【状態異常無効】

   【急所無効:首】

   【斬撃脆弱】

   【光属性脆弱】


――――――――――


 首無精鋭近衛騎士ヘッドレスエリートロイヤルガード…こいつも不死(アンデッド)なのか。レベルは二体とも同じ75で、当然のように格上である。『首無』の名前の通り、頭部は存在せずに鎧の襟元からは黒い靄が盛れ出ていた。


 特殊な能力(スキル)は無いものの、その分進化した能力(スキル)が多い。進化しているのも武器系とステータス系なので、純粋な意味で強いのだろう。下手な策を弄したところで正面から打ち砕かれそうだ。


「斬撃と光属性に弱い不死(アンデッド)だ。見た目通りに防御力は高いぞ」

「ヘッ!強ェのはむしろ大歓迎だァ!」


 強敵を前にして早速ジゴロウが突撃する。そうなるだろうとは思っていたので、誰も動揺することは無い。奴なら一人でも勝てそうだし、邪魔をすると怒られるかもしれないので放っておこう。ただし、万が一ということもあるので何時でも援護出来るように心構えはしておこう。


 ジゴロウの突撃によって、二体の首無精鋭近衛騎士ヘッドレスエリートロイヤルガードはゆっくりと動き始める。これまではピクリとも動かなかったが、門に接近すると迎撃するようになっているのだろう。やはり門番と考えて問題ないらしい。


「「オオオオオオオオオッ!」」

「何だ!?」

「ぞっ、増援だよ!」


 首無精鋭近衛騎士ヘッドレスエリートロイヤルガードは我々を認識すると、ハルバードで大盾を叩いて姦しい音を立てる。すると、門の内側からゾロゾロと十体も似たような魔物が現れたではないか!


 その魔物だが、これらも当然のように首が無い。しかし、武器は片手剣と円盾という比較的オーソドックスなものだった。それに鎧も豪華ではあるが、装飾が門番の二体と比べて簡素のように見える。とりあえず【鑑定】をしてみよう。


――――――――――


種族(レイス)首無近衛騎士ヘッドレスロイヤルガード Lv61~64

職業(ジョブ):近衛騎士 Lv1~4

能力(スキル):【剣術】

   【盾術】

   【守護鎧術】

   【体力強化】

   【筋力強化】

   【防御力超強化】

   【器用強化】

   【呪血】

   【状態異常無効】

   【急所無効:首】

   【斬撃脆弱】

   【光属性脆弱】


――――――――――


 精鋭(エリート)ではない近衛騎士(ロイヤルガード)ということらしい。部下ということだろうか。能力(スキル)の面では劣るものの、やはり此方も純粋に強いらしい。これは力と力のぶつかり合いになりそうだ。


「仕方がない。源十郎、もう一体の強い方を任せて良いか?」

「うむ」

「残り全員で群れの方を叩く!行くぞ!」


 強敵には強者をぶつけるまでのこと。我々の中で最強は、ジゴロウと源十郎の二人から揺らいだ事は無い。前衛職の者達も彼らに鍛えられて腕を上げているが、試合形式であっても勝つのは難しい。ガチ戦闘なら尚更無理だ。後衛組だと一瞬で距離を詰められて叩きのめされるだろう。


「エイジ、ミケロ、カルは敵を引き付けろ!セイ達は右、邯那と羅雅亜は左から回り込め!」

「残った前衛組は私に任せてもらうわよ」

「頼む。後衛組は戦況に応じて援護するぞ」


 敵の存在を感知した時、既に全員への付与は終わらせている。なので今回は最初から私も魔術で援護することが可能だ。


 決して楽に勝てる相手だとは思えないが、ここで全てのリソースを割いて良い訳ではない。苦戦はするかもしれないが、余力を残して勝たなければこれは宮殿にいるであろうボス戦を突破出来なくなるからだ。何とも厳しい条件下での戦いになるが、やってやろうじゃないか!



◆◇◆◇◆◇



 イザーム達が首無近衛騎士ヘッドレスロイヤルガードと多対多の戦いを繰り広げている間、ジゴロウは首無精鋭近衛騎士ヘッドレスエリートロイヤルガードと一対一の死闘を繰り広げていた。ただ、常に攻めているのはジゴロウで、首無精鋭近衛騎士ヘッドレスエリートロイヤルガードは守りに徹しているのは最初から変わらなかった。


「オラァ!守ってばっかだなァ、オイ!」


 ジゴロウは流れるように連続で拳や蹴りを繰り出すが、その全てを盾で受け止められていた。曲芸めいた動きで意表を突くような攻撃も試したが、その尽くを防御されてしまう。まさに鉄壁の守りであった。


 挑発めいたことを口にするジゴロウだったが、頭の中では冷静に敵について分析している。そして攻略するための戦術を組み立てていた。


(全部が重てェから全然揺らがねェ。盾がデカ過ぎて足払いなんかも当たりゃしねェ。エイジに似てッけど丸っきり違うタイプだな、こりゃ。鈍い癖に隙が少ねェぜ)


 ジゴロウと同じく源十郎も手を拱いていた。槍と大太刀を振るっているのだが、彼もまたダメージを与えられずにいたのだ。


(此奴、何よりも厄介なのはハルバードをも防御に使うことじゃの。武器というよりも特殊な盾と化しておる。形状の異なる盾を二つ持っておるようなものか…儂の好みでは無いのぅ)


 首無精鋭近衛騎士ヘッドレスエリートロイヤルガードの【守護斧槍術】は、その名の通り武器を用いた防御に重点を置いた能力(スキル)である。防御専用の武技もあれば、本来は盾でしか使えない武技を一部使うことが可能なのだ。


 源十郎の好みはともかく、二人の実力を以てしても容易に崩せる相手では無い。それでも、幾度かは大盾とハルバードを潜り抜けて攻撃が届きかけたこともある。しかし、彼らの拳と刃が届く事はなかった。


(大体…なんだァ、さっきの動きは?あり得ねェ動きで盾を滑り込ませてきやがってよォ)

(完全に崩したはずじゃった。彼処から立て直すのは無理…となれば、あれは武技かの?厄介なことじゃて)


 鉄壁の守りを誇る【守護盾術】、武器による防御を可能にする【守護斧槍術】、そして最後の【守護鎧術】が彼らの言う『あり得ない動き』を可能としていた。【鎧術】の武技に『見切り』という敵の攻撃の軌道を認識出来るようになるものがあり、その発展として【守護鎧術】には攻撃に対して防御可能な姿勢になる武技があったのだ。


 なのでジゴロウがアクロバティックな動きで背後に回っても、源十郎が盾とハルバードを弾いて体勢を崩しても、盾か武器による防御が間に合うのである。突破するには防御が間に合わないほどに連続で攻撃するか、盾を貫いてダメージを与える手段が必要になってくる。複数人で囲めば楽なのだが、一対一だと非常に難しい条件であった。


「ヘヘッ、面白ェ!絶対にブチのめしてやらァ!」

「現実ではあり得ぬ防御…血が滾るのぅ」


 ただ、今戦っているのは強敵との戦いに心踊らせる戦闘狂(バトルジャンキー)達だ。怯んだり怖じ気づいたりするどころか、これまで戦ったことが無い類いの相手を前に戦意を昂らせていた。


 二人はそれぞれに戦い方を変えることにした。ジゴロウは素早く動き回るのではなく、盾に防がれることを前提として全力で拳と蹴りを叩き込んでいく。源十郎は常に敵の右側、即ち武器を持っている方へと攻撃を集中させていく。


 金属同士がぶつかり合う鈍い音はイザーム達の耳にまで響き渡るが、最も近くで聞いている二人は一切動じてはいない。無心に、集中して拳と刃を振るうのみであった。


「オオッラアァ!!!」

「セイヤァァァ!!!」


 ジゴロウの拳が盾にヒビを入れ、源十郎の大太刀がハルバードの斧頭を斬り落としたのは全くの同時であった。これこそ、二人の作戦の成果である。ジゴロウは盾の中央に打撃を集中させ、源十郎は斧頭の根元を斬り続けてそれぞれの結果を生み出したのだ。


 二人の狙いは防御の手段を一つでも奪い取ること。破壊したものこそ異なるが、目的は同一だったのだ。作戦自体は単純だが、実現出来たのは二人の腕前があってのことだろう。


「流石だなァ、爺さん」

「お主もな、ジゴロウよ。しかし、ここからは儂等二人で戦うべきじゃの」


 武装を破壊された二体の首無精鋭近衛騎士ヘッドレスエリートロイヤルガードは、素早く判断して迅速に行動していた。盾を破壊された個体は両手でハルバードの握り、ハルバードを破壊された個体は両手で盾を持って前に出たのである。互いに薄くなった防御を補うようだった。


「盾は任せなァ!」

「ならばハルバードは儂が斬ろうかの」


 二人はもう一度盾とハルバードを破壊するべく突撃する。それぞれ先ほどと同じモノを破壊するつもりだった。


 しかし、敵もただやられてばかりではない。それぞれが両手で盾とハルバードを使うようになると、受け流したり弾いたりすることで武器にかかる負担を軽減し始めたのだ。更に盾で打撃を加えようとしたり、ハルバードで素早く突くことも増えて来た。


「ハッハァ!案外器用じゃねェかよ!」

「ふぅむ、両手で扱えば儂等に技量で迫るか。悔しいが、同時に楽しくなって来たのぅ!」


 武器が一つになることで弱体化するどころかある意味強化された首無精鋭近衛騎士ヘッドレスエリートロイヤルガード達に、二人は笑みを浮かべる。まだまだ強者との戦いを楽しめるからだ。二人はより強固になった守りを打ち砕くべき、拳と刃をこれまで以上の力と鋭さで振るうのだった。

 次回は12月8日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告です。ctrl+fでどうぞ↓ >盾を破壊された個体は両手でハルバードの握り、 ハルバード「を」握り、かな? >二人はより強固になった守りを打ち砕くべき、拳と刃をこれまで以上…
[一言] 書籍化まだなら、是非してほしい。
[一言] ロイヤルガードからエリートロイヤルガードに進化するとき守護○○にスキルが進化するんだろうけど、エリートロイヤルガードの部下のスキルが剣術って変じゃない?
2019/12/04 10:15 退会済み
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