表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十三章 暗黒の大陸
219/688

秘都とイベント情報

 『霧泣姫の秘都』というのがこの黒壁を含めた街の名であるようだ。どう考えても物悲しいバックストーリーがありそうな名前である。『霧泣姫』という人物が関わっており、霧を意図的に発生させて隠匿していたことだけは察しが付く。隠していた理由は何も分からないが。


 さて、新たなエリアを発見して久々にSPも得たわけだが、今は壁登りに四苦八苦しているしいたけ達の手助けに向かうとしよう。カルや私達飛行可能組みが代わる代わる運搬すれば良かったのだが、ウキウキした様子で登山器具を取り出したアイリスの前で言い出す勇気はなかったよ。きっと他の皆もそうだと思う。


「一番乗り…って、不気味だけど街だ!」

「クッソー!負けたぜェ!」


 そうこうしている内に最速で紫舟が、そしてタッチの差で二番目だったジゴロウが黒壁の上まで登って来た。蜘蛛の姿をしている紫舟にとって、垂直の壁を登るどころか天井を歩くことすら朝飯前なのだ。


 ちなみに同じく垂直な壁を素早く登れる仲間にはルビーとセイがいるのだが、二人はそれぞれに事情があってゆっくり登っている。ルビーは祖父である源十郎を見守る為、セイは自分の従魔の面倒を見る為に共だ。二組とも仲の良いことで何よりだ。


「いや、蜘蛛相手にほぼ同じ速度で壁を素手で登っとるんやで?自分、速すぎへんか?」

「その辺りの常識をジゴロウに当て嵌めるのは止めておこう。それよりも、しいたけ達の補助に向かうぞ。ウールと羅雅亜は器具がそもそも無いからな」


 街並みを眺めている紫舟と悔しがるジゴロウを尻目に、四足歩行しか出来ない二人の為に一度黒壁から降りる。私と七甲でウールを抱え、カルには羅雅亜の運送を頼んだ。シオやモッさん、ミケロは万が一の場合に備えて登っている最中の仲間達の補助をしている。


「ひぃ…ひぃ…」

「ゲームなのに息切れって…」

「身体を動かしてるって意識するだけで疲れるんだよぉ~」


 アイリス製の器具は頑丈で、エイジの巨体を支えてもびくともしない。なので登るペースに差こそあれ、破損や事故など起こらずに全員が登りきることに成功した。我々の保険は役に立たなかったが、その方が良いに決まっている。安全第一だ。


 若干一名だけ泣き言を言っているが、気にしないようにしよう。全員で黒壁を乗り越え、さらに街中へと降りるのに十数分を要したがどうにか侵入に成功した。ただ、上から眺めた時と実際に降り立った時の感想は異なっていた。


「家が、家として機能してませんね」

「控え目に言って廃墟、厳しく言うならハリボテだな」


 霧のせいでよく見えていなかったが、どの建物もそれらしく石を積み上げただけであった。黒壁も隙間だらけだったが、こちらはもっと酷い。人が暮らす場所ではなく、これではまるで大きな石窯だ。


 扉も付いていない家に入ってみると、案の定誰かが生活していた形跡は見受けられ無い。材木どころか石すら敷かれていない床は全面が土間で、家具一つ無く埃が舞うばかりの暗い空間である。黒壁近くの建物だけがそうなのかもしれないが、そうだとしても衝撃的であった。


「あっ、ここにテントを置けるみたい。ログアウトとかも安全に出来そう」

「敵が近付いてくる様子も無いね。魔物の痕跡も全く無いから、ここは魔物が近寄らないエリアっぽいかな」

「ならばここ…カルも入れる大きさの建物を拠点にして活動するか。今日はもう遅いから、本格的な探索は明日にしよう」

「さんせ~…あたしゃ疲れたよ…」


 ルビーに安全を保証されたので、私達はここで今日の探索を終えることにした。大規模で長時間の戦闘もあったので、しいたけ以外の皆も疲れはあるだろう。それに明日は休日で誰にも用事は無かったので、続けて探索する予定でもあった。切りが良いこのタイミングで今日は終わりにするべきだ。


 それからは大きめの建物の中でテントを広げて安全を確保してから、我々はログアウトするのだった。結局、今日は移動だけだったな。しかし、明日にでも攻略してやろうじゃないか!



◆◇◆◇◆◇



 翌日、私がログインすると数人で集まって何やら話をしている。私も混ぜて貰うとしよう。


「あっ、イザームじゃん」

「こんばんは。何の話をしていたんだ?」

「イベントのことっす。ほら、明後日からじゃないっすか。最後の事前情報が来てるんすよ」

「おお、本当だ。気付かなかったよ。どれどれ…」


 シオに指摘されて、ようやく私はイベントの情報が来ていた事に気が付いた。戦闘中にインフォメーションが届いても邪魔でしかないので、戦闘中は通知をオフにしているのだがそれを戻し忘れていたらしい。


 『鮮緑の山、紺碧の海』というイベントは、前の情報通りに無人島での活動を主とするのは前に見た通りである。戦争イベントの時と同じくようにイベント専用のフィールドではないらしく、大陸から行こうと思えば再び行くことは可能だ。


 ただし、イベント中だけのものもある。適正レベル毎に幾つか生成される固定の迷宮(ダンジョン)や、本来は島でも珍しい素材が多目に入手出来るように調整されているらしい。


 もちろん限度はあるようだが、古参プレイヤーも新規プレイヤーも楽しめるような配慮があるようだ。新規プレイヤーやフリーのプレイヤーを勧誘するクランや、このイベントを契機に発足するクランもあるだろう。


 加えて迷宮(ダンジョン)の攻略や島での行動によってイベント限定の称号(タイトル)も用意されている。迷宮(ダンジョン)の攻略やイベントでの採集回数で、継続的に効果を得られるものが用意されているらしい。


 イベント中しか効果が無かったり、効果そのものが無かったりするものもあるようだが、記念的なものとしてはいいかもしれない。また新規プレイヤーはドロップ率と取得経験値が若干高くなっているようで、参加しない理由は無さそうである。


 また、イベント中は迷宮(ダンジョン)の攻略をはじめとした様々な行動でポイントを得られる。イベント中と終了後にはポイントでアイテム等と交換出来るようだ。獲得ポイント量は個人とクラン毎にランキング形式でイベントのメニュー画面に掲載されるらしい。上位に入ると特別なアイテムが報酬として贈られるとも書かれている。


迷宮(ダンジョン)の攻略は面白そうだし、ポイントで交換出来るアイテムは使えそうなのが幾つかあるな。しかし、イベントエリアにずっと居座りはしないだろう」

「ランキングには興味ない感じ?」

「社会人で学生と廃人には勝てると思えないよ。クランのランキングなら尚更無理さ」

「あっ、なるほど」


 迷宮(ダンジョン)の内容にもよるが、そこで入手出来る素材には興味がある。一通り素材を集めてからウスバ達と久々に顔を合わせたら満足しそうな気がする。


 クランに関してであるが我々のクランは人数が多く無いものの、別にこれ以上増やそうとは思っていない。何故かって?ここまで来てもらうにしても連れてくるにしても、とんでもなく時間がかかるからだ。


 それに人数が増えすぎると人間関係でトラブルが起きることもある。仲裁するのは私の仕事になりそうだが、上手く治める自信は無い。なのでイベント中に魔物プレイヤーとフレンド登録することはあってもクランに誘うことは無いだろう。


 ポイントのランキングも同様だ。上位を狙うならノルマを設定しなければならないが、そういう堅苦しいやり方は我々には向かないだろう。少なくとも私は嫌だし、強要するなら抜ける者もいそうだ。それぞれが楽しみたいように楽しめば良いさ。


「ボクとしーちゃんは結構行くことになるかな?人類プレイヤーに友達がいるって今日分かっちゃったし」

「ほう?そうなのか。楽しんでくると良い」


 その後、皆が集まるまで適当に時間を潰した。カルを撫でたり鱗を磨いたりしていたのだが、途中からジゴロウのスパーリングにも付き合わされた。お陰様で尻尾と鎌の扱いが大分上達したが…出発する前から疲れたわ!


「兄弟よォ…お前、今からでも前衛に転向しねェか?」

「しない!絶対にしないぞ!」

「これこれ、無理強いはいかん。それに、イザームは後衛の方が向いておるのは間違いない」


 源十郎曰く、私二人に幾度と無く稽古を付けてもらったお陰で後衛職としては前衛でも戦える方ではある。しかし、前衛職と殴り合いで勝てる訳がないので過信は絶対にしない。それに、魔術を使い分けて援護する方が性に合うのも事実だ。


 大体、もし前衛に転向などすれば毎日のようにスパーリングに付き合わされるのは目に見えている。お前の拳やら蹴りやらを捌くのは辛いんだぞ!勘弁してくれ!


「勉強になるなぁ」

「尻尾はあんな感じで動かせばいいんだな!」

「よーやるわ。ワイも何時か相手させられるんやろか…?」

「ははは、その時は頑張ってね」

「おーえんはー、してあげるー」

「他人事ですねぇ…」

「上様は鎌捌きも見事に御座る」


 見物していた男性諸君は私の戦いぶりを一応感心してくれたらしい。出来ることなら代わって欲しいが、エイジとセイはしょっちゅうジゴロウの相手をしているから頼れない。七甲は剣を使うようになったばかりなので、源十郎からレクチャーを受けている最中だ。ジゴロウの相手など今はとてもさせられない。


 あとある程度戦えるのはモッさんとミケロとネナーシだが、三人とも今は都合が悪かった。ミケロは魔眼を使わなければ相手にならないし、逆に使うとスパーリングどころかガチ戦闘になってしまう。モッさんとネナーシは身体一つで戦うので、万が一深いダメージを負えば後々の攻略に響く。なので選ばれなかったのだ。


「あらあら、楽しそうね」

「イザームさんも大概付き合い良いっすよね。突っぱねたりしないんすか?」

「ボクもそう思うんだけど…結局は面倒見が良いってことじゃないの?押しが弱いってタイプじゃないし」

「そうじゃないとあの暴れん坊を制御は出来ないってことでしょ。さ、喋ってないでさっさと行きましょ」


 対する女性陣は生暖かい目で私達を眺めるだけであった。何か話しているようだが、遠いので聞き取れない。無様であると笑われていたら悲しいよ、私は。


 何はともあれ、我々は探索を開始した。黒一色の建物と道に漂う霧が、街全体に陰鬱な雰囲気を醸し出している。建物が余りに見劣りするが、シャーロック・ホームズのいたロンドンを彷彿とさせられる…のは私だけだろうか?


「人っ子一人居ねェな」

「街はそれなりに広そうじゃが、まさに幽霊都市(ゴーストタウン)じゃ」


 我々は街の中央にある巨大な霧吐き灰樫を目指して進んでいるのだが、誰とも会うことはなかった。きっとより激しい戦闘になるだろうと思っていた分、拍子抜けである。


 ただし、これは嵐の前の静けさという奴の可能性は十分にあるだろう。より強い敵が出現すると思って用心せねば…


「うーん…あっ、まだ距離があるけど前方に何かいるよ。注意してね!」

「わかった。数は?」

「二体だね。しーちゃんは見える?」

「霧のせいでボンヤリとしか見えないっすけど…奥に門っぽいのがあるっすよ」


 門か。その近くに二体、ということは恐らく門番と考えて良いだろう。一体、何と戦わされるのか。緊張と同じ位にワクワクしながら前進するのだった。

 次回は12月3日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  対する女性陣は生暖かい目で私達を眺めるだけであった。 ↑ どうやら腐女子は居ないようですね(´ω`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ