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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十三章 暗黒の大陸
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呪い撒く車輪 その二

 さて、死骨古戦車デスボーンチャリオットの攻略にカル以外の二人を選んだのには勿論理由がある。それは二人とも不死(アンデッド)に効果的な攻撃が可能であるからだ。


「ほれほれ、突っ込め!そんでもって、自爆じゃぁ!」


 天霊島でとあるアイテムを貰った七甲は、三日前にようやく白烏天狗(シラガラステング)という天狗の一種へと進化した。条件を満たすのが難しかったようだが、どうにかなったらしい。


 その条件とは『魔術系能力(スキル)のレベル合計値が50以上かつ武器系能力(スキル)のどれか一つをレベル20以上にすること』だ。近付かれた時の保険に近接系の能力(スキル)を用意していれば簡単そうに思えるし、七甲もその時に備えて【格闘術】を覚えている。だが、問題は『()()系』ではなく『()()系』の能力(スキル)を要求された点だった。


 元々はカラスのアバターだった彼にとって、武器を操るのは至難の技である。足で持って振り回すことは可能だが、空中での姿勢制御が難しくなるようで最初は振るう度に墜落していた。私の召喚した弱い魔物を相手に地道に【剣術】を練習し、ようやく条件を満たしたのである。


 身体の小ささを活かす戦法はもう使えないが、人型ゆえに道具を用いるようになった。翼は背中に残っているので、小回りが利かなくなったが飛行能力はそのままである。


 ちなみに、彼の武装はアイリスに作って貰った山伏風の防具と仕込み杖である錫杖、そして己の羽根を使った団扇だ。仕込み杖にする必要はあったのかと問いたところ、『錫杖を持ってない天狗なんておらんやろ』と真顔で言われた。天霊島でもそうだったようだが、それは偏見なのでは…?


「【浄滅の魔眼】が輝きますねぇ」


 一方のミケロだが、複数の瞳孔がある瞳から白い光線が何本も放たれる。それを束ねたものが乗車している兵士を貫いた。この【浄滅の魔眼】は光属性の光線を照射する魔眼…ではない。不死(アンデッド)悪魔(デーモン)にも特別に効く、無属性の魔術攻撃らしい。


 最も不気味な瞳から美しい光が出るのは違和感が凄い。それに外見の邪悪さで言えば、ミケロの方が不死(アンデッド)悪魔(デーモン)よりも遥かに上なのだが…強力だしいいか。


「カル、死骨古戦車デスボーンチャリオットを後ろから攻めてくれ。私は馬の方を狙う」

「グオゥ!」


 私とカルは空中で分かれると、それぞれの獲物を挟むように陣取った。これは戦場を自由に駆け回られては困るからだ。それに魔術が効く邪霊戦馬(ゴーストウォーホース)は私が天敵と言えるはずだ。


 前方からは私が魔術で、後方からはカルが物理攻撃で攻め掛かる。上からは七甲の召喚獣とミケロの魔眼が降り注ぎ、搭乗している不死(アンデッド)はもう虫の息だ。このまま死骨古戦車デスボーンチャリオットは完封出来るかもしれない。そんな都合の良いことを考えていた。


バキン!


「ビヒィィィィン!」

「ブルルルルルル!」


 何かが外れるような金属音と共に、死骨古戦車デスボーンチャリオット邪霊戦馬(ゴーストウォーホース)を繋ぐ金具が突然外れてしまった。荒れ狂う二頭の邪霊戦馬(ゴーストウォーホース)は自由の身になって別方向へと駆け出し、死骨古戦車デスボーンチャリオットはその場で超信地旋回するではないか!


 私が失念していたのは、死骨古戦車デスボーンチャリオットがただの荷台ではなく魔物である点だ。牽引する馬がおらずとも、自力で走行可能だという想定をしていなかったのである。しかも左右の車輪が独自に動くだと?車軸で繋がっていないのか?どういう構造をしているんだ!?


 だが、驚いてばかりはいられない。強力な不死(アンデッド)がアイリス達の戦いに参戦すれば、前衛は支えきれずに乱戦になってしまいかねない。そうなれば必然的に後衛は蹂躙され、囲まれた前衛も敗北を喫するだろう。そうはさせない!


「七甲とミケロは邪霊戦馬(ゴーストウォーホース)を追って仕留めろ!こっちは私とカルでどうにかする!」

「任せてや!」

「承知しました」


 私とカルよりも、ミケロを抱えた七甲の方が今では速度が出る。これも七甲の身体が大きくなって馬力が増したからだ。浮かぶけれども速度を出せないミケロを運搬可能な者が増えたお陰で戦術の幅が広がったのは行幸である。


 二人を見送った私とカルは、即座に死骨古戦車デスボーンチャリオットへと攻撃を仕掛ける。私が魔術で牽制し、その隙にカルが尻尾を叩き付ける。いつも使う鉄板の流れであった。


 七甲とミケロの攻勢により、死骨古戦車デスボーンチャリオットに搭乗している不死(アンデッド)達は既にボロボロだ。カルの尻尾を受け止めることは不可能であろう。


「グルル…!」

「変形しただと!?」


 だが、まだまだ元気な死骨古戦車デスボーンチャリオットは違う。奴は車体に生えている骨のスパイクを束ねて壁のようにして、尻尾を受け止めてしまった。恐らくは【自在骨】という能力(スキル)を用いたのだろう。その場で骨を伸ばすとは、進化前に骨を増やそうと試行錯誤している私に申し訳ないとか思わないのか!


 いや、私のことはどうでもいい。カルの剛力から繰り出される尻尾でも断てないとは、かなり高い防御力を有しているのは確実だ。【防御力超強化】の能力(スキル)は伊達ではないということらしい。ええい、面倒な!


「グ、グオオォ?」

「カル!?解呪(ディスペル)!」


 さらに、奴の力は骨を伸ばすだけでは無い。尻尾を防がれた直後に、カルのマーカーに『筋力低下』を表すアイコンが表示されたのだ。私は即座に解呪(ディスペル)で治したが、これは奴が【呪術】を使えることを意味していた。


 【鑑定】した時にはなかったが、代わりに【呪骨】という能力(スキル)があった。きっと骨と触れた相手に呪いを付与する効果があるのだろう。防御力が高く、さらに物理攻撃を加えた相手に呪いを掛ける…ガチガチの防御特化らしい。


「物理攻撃は避けたいが、抑える者がいなければ当てられない機動力があるか…。カル、辛いとは思うが頼めるか?」

「グルルゥ!」


 当然だと言わんばかりにカルは再び突撃していく。四枚の翼を羽ばたかせ、一気に距離を詰めると躊躇せずに今度は両前足の爪で引っ掻いた。今度は状態異常にならなかったが、骨の防壁によって防がれてしまうのは同じであった。


 尻尾よりも威力の劣る前足で、しかも解呪(ディスペル)によって事前に掛けた付与が剥がれてしまっているから防御を貫くことが出来なくても仕方がない。ここは私が気張る場面だ!


「星魔陣、呪文調整、聖光(ホーリーレイ)


 私は先ず荷台に残っている不死(アンデッド)の兵士を一掃する。五本の光線が兵士ごと死骨古戦車デスボーンチャリオットを焼き、間違いなくダメージを与えた。しかし膨大な体力があるようで、想像よりも少ないダメージしか与えられない。


 だが、当初の目的である兵士に止めを刺すことには成功した。カルの鱗を傷付ける程度には強い槍兵と弓兵が搭乗していたが、七甲達が削っていたお陰で荷台の上で砕け散ってしまう。アイテム回収は絶望的だが、今は気にしている場合ではない!


解呪(ディスペル)。これが長丁場になりそうだ」


 カルに掛けられた呪いを解除しつつ、私は独り言を呟いた。倒して合流するどころか、ジゴロウ達が殲滅を終えるまで削り続けるだけになるかもしれない。時間稼ぎしか出来ない自分を不甲斐なく思うが、出来ることをやるしかないだろう!



◆◇◆◇◆◇



 邪霊戦馬(ゴーストウォーホース)を追い掛けた七甲とミケロだったが、途中で二頭が別方向に駆け出したので一人が一頭ずつ倒すことにした。七甲は【神聖魔術】と【剣術】を巧みに使い分け、さらに立体的な動きで翻弄して立ち回っていた。


 彼が団扇を振るえば魔術が放たれ、仕込み杖からはシャラシャラと澄んだ音を立てられる。本人の羽根が白いこともあって、戦う彼は幻想的ですらあった。


「ガハハ!やっぱり武器があるとちゃうな!」


 ただし、本人の話し方や言葉が優雅とは言い難い。彼は終始上機嫌で戦っていた。これまでに培った空中戦の経験に手足が加わっただけでこれ程に戦いやすくなるとは思わなかったからだ。


「カラスとの連携も楽やし…おっと、そろそろお札をお代わりや」


 七甲はイザームから支給されている【符術】のお札を仕込み杖に添える。すると、武器が白い輝きを表面に纏い始めた。


 この札の効果は光属性の付与である。七甲は【付与術】を使えないが、この札を用いれば属性を乗せた攻撃が可能だった。七甲だけではなく、前衛組を含めた全員が全属性の付与をする札を持っている。その一枚であった。


「こうすればスケスケのオバケも斬れるっちゅうこっちゃ。いやぁ、ワイも【付与術】覚えよかな?」


 召喚獣を盾にしてチクチク攻めるのが七甲のスタイルだが、これからは自分も召喚獣に紛れて斬り込むことも増えるだろう。ならば近接攻撃の火力を補う術を覚えるのは有効である。現に兎路は牽制の魔術と付与を施した剣術で舞うように戦う。同じことは出来ないが、参考にしたいと七甲は思っていた。


「ブルルルルルルゥ!」

「うおっと!」


 余計なことを考えていると、邪霊戦馬(ゴーストウォーホース)は狂ったように暴れながら嘶いた。すると、七甲の召喚したカラス達はビクリと痙攣してからボトボトと落下していくではないか。


 これは【怨叫】という能力(スキル)で、叫び声によって恐怖の状態異常を引き起こす効果がある。七甲の召喚獣が落ちたのは、恐怖で身体が強張ったからだった。


「何したんやろ?ま、ええわ。自爆や」

「ヒヒィイイイイン!?」


 しかし、効果を受けたのは召喚獣である。動けなくなったのなら、自爆させれば良いだけだ。周囲で一斉に光属性の爆弾と化した白いカラスによって、邪霊戦馬(ゴーストウォーホース)は一気に体力を削られてしまう。


 しかも、七甲は状態異常になっていない。それは運が良かったのではなく、不死(アンデッド)との戦闘を考慮して全員が『黒死の氷森』で作った『黒灯の御守り』を装備していたからだ。レベルが70に届かない邪霊戦馬(ゴーストウォーホース)では状態異常に掛けることは出来ないのである。


「もう一回召喚して…よっしゃ、第二ラウンドや!」


 再び白いカラスを召喚した七甲を相手に邪霊戦馬(ゴーストウォーホース)が絶望的な戦いを強いられる一方、もう一頭の邪霊戦馬(ゴーストウォーホース)は既に倒されていた。


「【治癒術】が効くのは知っていましたが、まさか【治癒の魔眼】まで不死(アンデッド)に効果があるとは思いませんでした」


 ミケロは【神聖魔術】、【治癒術】、【浄滅の魔眼】と三つも不死(アンデッド)を滅ぼす手段があった。加えて【治癒の魔眼】を試してみたところ、これも【治癒術】と同じだけの効果があったのだ。


 四つの攻撃手段を駆使して邪霊戦馬(ゴーストウォーホース)を瞬く間に葬ったミケロだったが、イザームとジゴロウ達のどちらの援護に向かうべきかを考える。だが、答えはすぐに導き出された。


「イザーム様が負けるハズがありません。ここは苦戦中の方に向かいましょう」


 実際はイザームも厳しい戦いを強いられているのだが、彼の信奉者とも言うべきミケロはそう決断した。あくまでも彼の視点からだが、イザームが負けるビジョンが全く見えないのだ。


 以前、ミケロは初心者狩りに遭遇した。その時、偶然通り掛かったイザームが【邪術】で即死させたのだが、救われたミケロからすればその姿は絶対者のように見えたのだ。


 もちろん、一人のプレイヤーであるイザームが本当に絶対者として君臨することは不可能に近いことは理解している。それでも抱いたイメージは鮮烈に残っており、必死に彼を探し出す原動力となった。


「いつか頂点に君臨するイザーム様を拝みたいものです」


 本人が聞けば間違いなく勘弁してくれと言うであろう野望を漏らしながら、ミケロはジゴロウ達を元へ向かう。そして神官としての回復に励むのだった。

 烏天狗に関しては、錫杖と同じく剣を持っている事が多いです。なので七甲は完全なる偏見で物を言っています。


 次回は11月25日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『錫杖を持ってない天狗なんておらんやろ』 武器は杖術でもよかったのでは
[一言] 不死支配使う機会がないな
[気になる点] 誤>戦術の幅が広がったのは行幸 正>戦術の幅が広がったのは僥倖
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