接触
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種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【尾撃】レベルが上昇しました。
【尾撃】の武技、咬尾と斬尾を修得しました。
【杖】レベルが上昇しました。
【鎌術】レベルが上昇しました。
【鎌術】の武技、稲穂刈りを修得しました。
【知力強化】レベルが上昇しました。
【精神強化】レベルが上昇しました。
【魔力精密制御】レベルが上昇しました。
【邪術】レベルが上昇しました。
新たに真死の呪文を習得しました。
【言語学】レベルが上昇しました。
従魔の種族レベルが上昇しました。
従魔の職業レベルが上昇しました。
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それから数日の間、我々は河原を中心に周辺の探索を進めていた。魚を釣り上げたり、河原に出没する蟹や海老を討伐したり、土手を越えた先にある草原で獣を狩ったりと様々な敵と戦っている。
その最低レベルはなんと70であった。どうやらこの大陸では、レベル70の魔物は雑魚の扱いになるらしい。まさしく修羅の大陸である。
ただ、敵のレベルの高さもあってこちらのレベルもガンガン上がってくれる。私どころか、カルのレベルも上昇したのは驚きであった。龍であるカルがレベルを上げるのに大量の経験値が必要となるのは、これまでの経験上よく知っている。どうやらここは良い狩り場であるようだ。
ただし、魔物が弱い訳ではない。各種川魚の古代賢魔魚に加えて古代戦魔魚という物理一辺倒の魔物がいたし、河原の大岩塊沢蟹や水晶鎧海老は防御力に特化していて倒すのに只管時間が掛かった。
草原は別の意味で厄介である。主な魔物は恐るべき速度で走って逃げてしまう疾走逃兎とそれを狙う刃物のような長い尻尾が特徴的な空刃尾鼬などのとにかく素早い獣ばかりで、追い詰めたと思ったら逃げられた事も多々あったのである。
戦闘で得た様々なドロップアイテムに加え、他にもポーションの原料となる薬草や使い道は不明な鉱石も収集している。これらはアイリスとしいたけの二人が試行錯誤を繰り返して良質なアイテムを作製してくれることだろう。
能力のレベルアップに伴って、使える武技と魔術が増えている。【尾撃】の咬尾と斬尾は、それぞれ変形した尻尾で咬み付く武技と切り裂く武技だ。後者はともかく、前者の咬尾は形状が変化していなければ覚えられなかったと思われる。これからも想像力の限り改造してみよう。
【鎌術】の稲穂刈りは、前方百二十度程を薙ぎ払う範囲攻撃だ。以前に覚えた回転斬りよりも範囲が狭い代わりに発動後の硬直が短く、威力も高いのでとても使いやすい。また、広範囲に繁茂する植物の品質を落とさずに収集可能という機能もある。まさかの鎌本来の使い方が登場した。…拠点を作ったら農園でもやってみるか?
【邪術】の真死は、強力な即死魔術だ。消費魔力は多いものの、失敗する確率が非常に低くなったらしい。とは言え、この大陸にいるのは格上ばかりなのであまり成功しなかったが。
「誰かいるか?」
ログインした私は、何時ものようにシラツキのラウンジに入った。まずはここで誰かいないかを確認し、いればその仲間と外に行き、いなければカルと二人で行くのである。
「おお、イザーム様。ご苦労様です」
「むっ、上様がいらっしゃったか」
ラウンジにいたのはミケロとネナーシであった。二人は長い間コンビを組んでいたこともあって仲が良い。特に理由がなければ基本的に行動を共にしていた。
「…何度も言うが、様付けで呼ばないでくれ。同じプレイヤーなんだから」
「いえいえ、リスペクトしている御方に敬称を付けるのは当然のことですよ」
「殿の仰る通りで御座るよ、上様」
ただ、私はこの二人と会話すると少々疲れてしまう時がある。それがこの呼び方だ。ミケロは私をイザーム様と呼び、それに便乗しているのかネナーシも数日前から上様と呼ぶようになった。何のプレイだ?ロールプレイか?いや、勘弁してくれ。
なのに二人ともその妙な呼び方以外はまともなのが質が悪い。実害があるのは私だけで、ジゴロウなどは乗っかって様付けで呼んでからかう始末だ。諦めるしかないのか…
「ふぅ、この話はまた後にして…二人に予定が無いなら、一緒に行かないか?」
「当然、行きますよ」
「拙者もお供するで御座…」
「ミケロ、いる!?」
男三人とカルで探索に出発するかと思った矢先、ラウンジに駆け込んだのは兎路であった。普段はクールな彼女が、珍しく切羽詰まっているように見える。何か緊急事態が起こったのかもしれない。
「いるぞ。何があった?」
「イザームもいたの。良かったを。事情は後で話すから、今はとにかく早く来て」
私とミケロとネナーシは顔を見合わせ、確認するように頷くと急いで兎路に追従することにした。今日の予定はこれで決まりとなりそうだ。
◆◇◆◇◆◇
兎路が私達を連れて行ったのは、大河に浮かぶ小さな中洲の上だった。水深が深いこの大河だが、実は浅い場所も以外とある。そこを渡ることで中洲へと上陸することが可能なのだ。まあ、私達は飛べるから関係ないのだが。
「おいおい、どうしたエイジ!ボロボロじゃないか!」
「ハハハ…面目無いです…」
そこに居たのは左肩から先を失ったエイジであった。何故かアルヴィーが足元にすがり付いて泣いており、二人の側には七甲としいたけが心配そうに控えている。一体、どういう状況なのだろうか?
しいたけがポーションを常備しているので、エイジの体力は既に回復している。ただし、マーカーには厄介な状態異常である部位欠損が点灯していた。普通に回復しただけでは治療出来ず、専用の魔術かポーションを用いなければ治癒しない。その手段が無ければリスポーンするしかないのだ。
「それで自分を探していたのですね。それでは…復元」
だからこそ、兎路はミケロを探していたのだ。彼の【治癒術】と【再生の魔眼】は部位欠損を治療出来るのである。暖かな光がエイジの肩に集まると、ゆっくりと、だが確実に彼の逞しい腕が再生していく。流石は回復のエキスパートだ。
「何がどうなってこの事態になったのか…説明してくれるか?」
「あ、アルヴィーが!アルヴィーが悪いの!」
私が事情を尋ねると、これまで泣いていたアルヴィーが顔を上げて説明してくれた。幼さ故に要領を得ないところがあったが、どうやら彼女を庇った結果として魚の魔物に腕を食われてしまったらしい。
その魔物は既に討伐済みで、剥ぎ取りも無事に済ませている。しかし壁役を熟すエイジをこのままにして帰るのも不安であったので、ミケロを呼びに兎路が一人で駆け戻ったそうな。
「なるほど…良く守ったな、エイジ」
「ハハハ、名誉の負傷ってヤツですよ」
基本的に一度死んだらお仕舞いのNPCとは違って、我々プレイヤーは何度でもリスポーン可能だ。なのでアルヴィーを庇ったのはファインプレーであろう。
そんなことを話している間に、エイジの左腕は綺麗に生え変わっていた。ただし、左腕と共に食い千切られた防具は戻らない。これは作り直しになるかもしれん。ちょうど新たな素材は集まっているし、アイリスにその腕前を披露してもらう機会か。
「お兄ちゃん、大丈夫なの?」
「平気さ!ほら、この通り!」
不安げに己を見上げるアルヴィーを元気付けるように、立ち上がったエイジは新しい左腕で彼女をヒョイと持ち上げて、そのまま肩に乗せた。エイジは巨体であるので、その肩はアルヴィーの小さなお尻には十分過ぎる座席となるのだ。
アルヴィーは急に持ち上げられて驚いたようだが、普段では味わえない高い視点に喜んでいた。よしよし、元気になったようだ。あのまま泣かれては、どうしていいのかわからずに困ってしまう。
「エイジ達はどうする?一度戻るのか?」
「アルヴィーを安全な場所まで送ったらそうしますよ」
「それまでは付き合うわ。その後は一緒に行ってもいい?」
「ワイもそうさせて貰いますわ」
「ん~、じゃあしいたけさんは工房に籠るとするぜ。アイテムは十分集まったしね~」
シラツキに全員で戻り、その後はエイジとしいたけが居残りで残りは探索を続けるということになる。最初に兎路が来た時は何事かと思ったが、一段落したと言っていいだろう。
「お兄ちゃん、どこに行くの?」
「ん?色々とあってアルヴィーも疲れてるだろう?今日はもう帰ろうね」
「…アルヴィーのこと、嫌いにならないで欲しいの」
「なるわけないじゃないか。このくらい平気さ!」
…うん、幼女をあやすのは私には不可能だ。とりあえず、今はエイジはアルヴィー係りとして扱っておくとしよう。戦闘になっても残りの五人と一頭で相手のすれば良いのだ。
それから幾度か魔物と戦った後、我々はシラツキの元へと帰ってきた。すると、シラツキの前に大勢の人影が集まっているではないか。ただ、その出で立ちに全く見覚えが無いという訳でも無い。
「ねぇさまなの!ねぇさま~!」
全員が羽織っている独特な毛織物とフェイスペイント、そして髪と肌の色がアルヴィーと同じだったのだ。その中にアルヴィーと顔立ちの似た、風に揺られるサラサラの長髪が美しい少女がいる。きっと彼女がアルヴィーの姉なのだろう。
彼らがシラツキを見る様子は人それぞれであった。物珍しそうに眺める者もいれば、明らかに警戒して武器を構えている者もいる。近くに怪しい金属の船が停泊していれば、そういう反応にもなるのは無理もなかろう。
アルヴィーが声を掛けたことで、それまでシラツキを見るのに夢中であった者達が一斉に此方を向いた。それと同時に相手の顔が恐怖に染まった。だが、アルヴィーの姉は顔面蒼白にしつつもエイジを射殺さんばかりに睨み付けている。
「…あれが普通の反応ですよね」
「そうなんやろうなぁ。普通の人の前に出るんは初めてやけど」
彼らが敵意を剥き出しにするのは、十中八九エイジがアルヴィーを肩に乗せているからだ。我々を普通の人が見れば、様々な魔物が武装して群れているようにしか見えないだろう。
私は人型だが三つ目の骸骨の仮面を被っていて怪しいし、凶悪そうなエイジや邪悪が浮いているようなミケロもいる。極め付きにカルという暴力の化身のような龍までいるのだ。むしろ恐れないとすれば、相手は理性が無いかボスクラスの強者だけだろう。
私は悪役ムーヴに憧れがあるが、今のところ原住民と敵対するつもりは無い。時間の無駄だし、交流した方が絶対に後からプラスに働くと予想しているからだ。ならば先ずは警戒を解くべく、交渉するところから始めるとしよう。
次回は10月4日に投稿予定です。




